第二十四話 鬼ヶ島の表紙画像

第二十四話 鬼ヶ島

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 3,051文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

鬼ヶ島――。

島の中央に穿たれた巨大な洞窟。

その最深部。

鬼神族の旗が幾重にも掲げられた広間で、一人の男が静かに目を閉じていた。

漆黒の甲冑。

腰には妖しく輝く狂剣。

鬼神族を率いる、暁の化身――朱天。

その前に二人の鬼が跪いていた。

右臣。

そして左臣。

「朱天様。」

右臣が深く頭を下げる。

朱天は目を閉じたまま答えた。

「分かっている。」

ゆっくりと目を開く。

「聖剣の気配が近付いておるな。」

「はっ。」

左臣が顔を上げる。

「忌々しい天界の小娘め。」

朱天は小さく鼻を鳴らした。

右臣が尋ねる。

「いかがいたしましょう。」

「放っておけ。」

朱天は再び目を閉じる。

「ここまでは来られぬよ。

 だが、万が一の時は――」

右臣と左臣が同時に頭を垂れた。

「はっ。我ら二将が朱天様をお守りいたします。」

朱天は二人を一瞥する。

「頼もしいことだ。」

そして腰の狂剣へ手を添えた。

「しかし、奴らは勘違いしているな。」

「勘違い……でございますか?」

「聖剣は、邪の力を鎮め、屠るために鍛えられたもの。」

朱天は静かに立ち上がる。

「何故あの娘に託したのかは知らぬが――」

その口元に薄い笑みが浮かぶ。

「私は暁の化身。邪ではない。」

右臣と左臣が黙って朱天を見つめる。

「聖剣の力で、この私を止めることなど出来ぬというのに。」

朱天は腰の狂剣から手を離した。

そして、ふと思い出したように二人へ問いかける。

「……お前たち。

 我ら化身が、どうやって生まれるか知っているかね。」

突然の問いに、右臣と左臣は顔を見合わせた。

やがて右臣が頭を下げる。

「いえ。存じ上げませぬ。」

「そうか。」

朱天は静かに目を閉じた。

「そこに信仰を見出され、人々の祈りによって生まれるのが神。

 そして我ら化身は、長い年月の間、そのものに蓄えられた精気の中から生まれる。」

暁。桃。鋼。

森羅万象に宿り、積み重ねられた力が、いつしか意思を持つ。

それが化身。

朱天はゆっくりと目を開いた。

「ならば――」

その声には、怒りとも悲しみともつかぬ響きがあった。

「なぜ、我ら化身は神にはなれぬのだろうな?」

右臣と左臣は答えない。

いや。

答えられない。

朱天は自嘲するように笑った。

「ある意味では、我らの方が神よりも、そのものに近い存在であるはずなのに。」

暁の化身は暁そのものから生まれた。

桃の化身は桃そのものから生まれた。

それでも人々が祈りを捧げるのは、神。

化身ではない。

「…………」

長い沈黙が広間を支配した。

その時だった。

ゴロゴロゴロ……。

遠くから雷鳴が響いた。

朱天がわずかに眉を動かす。

次の瞬間――。

轟ッ!!

島全体が揺れた。

洞窟の天井から砂埃が落ちる。

続けざまに二発、三発。

轟音が鬼ヶ島を震わせる。

右臣が立ち上がった。

「何事だ!」

一匹の鬼が広間へ駆け込んでくる。

「申し上げます!

 敵襲! 敵が空より――!」

朱天は僅かに口元を緩めた。

「ほう、来たか。」

     ◇

雷撃によって大きく開いた鬼の群れ。

そこへ四つの影が降り立った。

白馬に跨る桃華。

金時。

蜜秋。

そして凰。

辺りには雷を受けた鬼たちが倒れている。

ある者は地面へ伏し、ある者はその身体を黒い霧へと変え、風の中へ消えていく。

しかし――。

「……多いですね。」

桃華が聖剣を抜く。

見渡す限り、鬼。

雷撃によって一時は崩れた隊列も、すぐに立て直されていた。

前から。

後ろから。

左右から。

次々と鬼たちが集まってくる。

金時は大斧を肩に担ぎ、辺りを見回した。

「すっかり囲まれておるのう。」

蜜秋が呆れたように答える。

「当たり前じゃん。」

棍をくるりと回す。

「鬼の群れのど真ん中に穴開けて、そこへ飛び込んだんだから。」

「それもそうじゃな。」

金時は豪快に笑った。

凰は扇で口元を隠す。

「まあ、有象無象がいくら集まったところで問題あるまい。」

「同感じゃ!」

金時が地面を蹴った。

巨体が宙を舞う。

「ぬおおおおおっ!」

振り上げられた大斧が、真正面の鬼へ叩き込まれる。

轟音。

鬼の巨体が地面へ叩き伏せられ、そのまま黒い霧となって消えていった。

「次じゃ!」

別の鬼が金棒を振り下ろす。

金時は大斧の柄で受け止めると、そのまま力任せに押し返す。

「その程度か!」

横薙ぎの一撃。

数匹の鬼がまとめて吹き飛んだ。

「相変わらず力任せだねぇ。」

蜜秋が笑う。

「じゃ、僕も。」

自らの髪を数本引き抜く。

ふっ――。

息を吹きかけた。

「身外身の術!」

白煙が弾ける。

次の瞬間。

数十匹の猿が桃華たちの周囲へ現れた。

棍を持つ猿。

石を持つ猿。

素手で飛び掛かる猿。

「行っといで!」

蜜秋が棍を前へ突き出す。

猿たちは一斉に鬼の群れへ飛び込んだ。

「キキィッ!」

一匹が鬼の頭へ飛び乗る。

別の猿が足を払う。

倒れたところへさらに数匹。

「こら! 髪を引っ張るな!

 鼻に指入れるのもなし!」

金時が戦いながら振り返る。

「お主が出した猿じゃろうが!」

「細かい命令までは聞かないんだよ!」

「難儀な術じゃのう!」

その頭上を幾つもの影が横切った。

雉衆だった。

天鳥船から次々と舞い降りてくる。

「桃華様をお守りしろ!」

雉牙の号令が響く。

翼を持つ者は槍を構え、そのまま急降下。

鬼の肩口を貫く。

後方からは弓兵が矢を放つ。

次々と鬼の身体へ矢が突き立った。

そして、人の姿を取れぬ鳥たちもいた。

一羽の大雉が鬼の顔面へ飛び掛かる。

「ぐわっ!」

鋭い嘴が鬼の目を突いた。

「目が! 目がぁ!」

羽ばたきながら離脱する大雉。

別の鳥が入れ替わるように襲い掛かる。

空と地上。

双方からの攻撃に、鬼の包囲が少しずつ崩れていった。

その中心で、桃華は聖剣を振るう。

襲い掛かる鬼の一撃をかわし、身体を沈める。

一閃。

聖剣が鬼の身体を斬り裂いた。

傷口から黒い霧が噴き出す。

「ぐおおおおっ!」

鬼は膝をつき、その姿を霧へ変えて消えていった。

桃華は聖剣を構え直す。

「まだ来ます!」

「次から次へと……!」

蜜秋が棍で鬼を殴り飛ばす。

「きりがないね!」

金時は楽しそうに笑った。

「鬼ヶ島なんじゃから、鬼ならいくらでもおるじゃろう!」

その一方。

凰は――。

「……暇じゃのう。」

戦場の真ん中で退屈そうに扇を仰いでいた。

桃華が思わず振り返る。

「凰様?」

「金時は暴れておる。

 蜜秋も遊んでおる。

 雉の者どもも張り切っておる。」

凰は頬を膨らませた。

「わらわの相手がおらぬではないか。」

その背後、一匹の巨大な鬼が忍び寄っていた。

両手に握られた金棒が、凰の頭上高く振り上げられる。

「凰様!」

桃華が叫ぶ。

鬼が金棒を振り下ろした。

だが、凰は振り返ろうともしない。

「やかましいのう。」

扇を――。

一振り。

ぼっ。

小さな炎が生まれた。

次の瞬間。

轟ッ!!

炎は巨大な火柱へ変わり、襲い掛かった鬼を一瞬で呑み込んだ。

「ぐあああああっ!」

悲鳴は一瞬だった。

炎が消えた時。

そこには、黒く焼け焦げた地面しか残っていなかった。

凰は何事もなかったかのように扇を閉じる。

「有象無象がいくら集まろうと無駄じゃ。」

その瞳が赤く輝く。

「わらわの炎で、まとめて消し炭にしてくれようぞ。」

周囲の鬼たちが一斉に後ずさった。

蜜秋がぽつりと呟く。

「……凰。」

「なんじゃ?」

「暇なら最初からそれやってよ。」

「嫌じゃ。」

凰は即答した。

「ヌシらの見せ場がなくなるではないか。」

「そういう問題?」

金時の豪快な笑い声が戦場に響いた。

だが――。

桃華だけは笑っていなかった。

聖剣を握ったまま、島の中央を見つめている。

その先。

黒い山肌にぽっかりと口を開けた巨大な洞窟。

そして、その奥から感じる、忘れるはずもない気配。

「……朱天。」

桃華は小さくその名を呼んだ。

聖剣が、微かに震えた。

鬼ヶ島の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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