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第二十七話 暁の化身

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📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 5,405文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

轟ッ――!

洞窟の奥で、二つの炎が激突した。

右臣の放った業火が壁を舐めるように広がり、凰の姿を呑み込む。

岩肌が赤く染まり、熱気に空気そのものが歪んだ。

「凰!」

金時の声が響く。

だが――。

「くくっ……。」

炎の中から笑い声が聞こえた。

右臣が眉をひそめる。

「何がおかしい。」

「いやなに。」

業火の中から、凰がゆっくりと歩いてくる。

その巫女装束には焦げ跡一つない。

凰は扇を広げたまま、自らを包む炎を興味深そうに眺めた。

「ようやく分かっただけじゃ。」

「何を。」

凰は右臣へ扇を向ける。

「うぬは先ほど、自らを何と申した?」

「業火の化身。」

「そうじゃ。」

凰は口元を緩める。

「ただの炎ではない。業火なのじゃろう?」

右臣の目がわずかに見開かれた。

凰は炎の中を悠然と歩く。

「業火とは、罪ある者が地獄に落ち、その身を焼かれる炎。」

一歩。

また一歩。

業火が凰へ襲い掛かる。

しかし、凰を焼くことはない。

「なれば――」

ぱちん。

凰は扇を閉じた。

「うぬの炎が業火なれば、妾を焼くことなど出来ようもない。」

「なに……。」

凰の背後に炎が集まっていく。

それはやがて巨大な翼となった。

「妾は鳳凰。神格を得た霊鳥ぞ。」

凰の瞳が赤く輝く。

「地獄へ落ちる咎など、持ち合わせてはおらぬわ!」

炎の翼が大きく広がった。

轟ッ!

凰の炎が右臣の業火を押し返す。

「ぐっ!」

右臣は炎の刀を地面へ突き立て、踏みとどまった。

「なるほど……。」

自らの炎を見つめる。

「我が業火が弱いのではない。」

顔を上げた。

「貴様が、我が炎の理から外れているということか。」

「ようやく気付いたか。」

凰は再び扇を広げる。

「うぬは強い。」

不敵に笑った。

「じゃが――相手が悪かったのう。」

右臣もまた、口元に笑みを浮かべた。

「面白い。」

再び炎の刀を構える。

「ならば業火に頼らず、我が刃で斬るまで。」

「ほう。」

凰の周囲に無数の火の粉が舞う。

「その意気や良し。」

二人は同時に地面を蹴った。

     ◇

一方――。

金時の周囲は、完全な闇に覆われていた。

「ちっ。」

大斧を構え、辺りを見回す。

何も見えない。

自らの手すら見えぬ暗闇。

「面倒な奴じゃのう。」

声が響いた。

「闇を恐れるか。」

「誰がじゃ。」

金時は大斧を振るう。

しかし、手応えはない。

「貴様は何を信じて戦う。」

左臣の声が、四方八方から聞こえてくる。

「何?」

「桃の化身に仕え、鬼を討つ。」

闇の中で、何かが動いた。

金時が振り返る。

遅い。

黒い刃が肩を掠めた。

「ぐっ!」

金時は大斧を横薙ぎに振るう。

だが、左臣の姿はすでにない。

「貴様は、自らが正しいと思っているのか。」

「…………。」

「我らが悪で、貴様らが正義。

 ゆえに我らを討つというのか。」

金時は答えなかった。

闇の中で、大斧を肩へ担ぎ直す。

「どうした。」

左臣の声が響く。

「答えられぬか。」

「いや。」

金時は頭を掻いた。

「難しいことを聞く奴じゃと思ってな。」

「……何?」

金時は笑った。

「正義だの悪だの、難しいことはわしには分からん。」

闇の中。

左臣の気配が止まった。

「であるから――」

金時は大斧の柄を握り締める。

「信じる主に仕え、主のために力を振るう。」

「…………。」

「わしは桃華殿を信じた。」

金時は暗闇を見つめる。

「おぬしは朱天を信じた。」

そして、ニッと笑った。

「そうではないのか?」

長い沈黙。

やがて――。

「……ふっ。」

闇の中から、小さな笑い声が聞こえた。

「何がおかしい。」

「いや。」

左臣の姿が、ゆっくりと闇から現れる。

「道理だの正義だのを説かれるより、よほど分かりやすい。」

二本の黒刃を構えた。

「いかにも。」

左臣は静かに頷く。

「我は朱天様を信じた。」

「ならば話は早い。」

金時が大斧を構える。

「互いに信じた主のため、力を尽くすだけじゃ。」

「そうだな。」

左臣の身体が再び闇へ沈む。

「気に入ったぞ、坂田金時。」

「わしもじゃ、左臣。」

パチッ。

金時の金色の髪から火花が散った。

「参る。」

「来い!」

轟ッ!

洞窟を雷光が埋め尽くした。

     ◇

白馬の蹄が岩を打つ。

カッ、カッ、カッ――。

桃華を背に乗せた小白龍が、洞窟の奥へと駆けていた。

その横を蜜秋が走る。

背後から、雷鳴と轟音が微かに聞こえてくる。

桃華は一度だけ振り返った。

「金時……凰様……。」

「大丈夫だよ。」

蜜秋が前を向いたまま言った。

「あの二人なら。」

「……はい。」

桃華も前を向く。

やがて、巨大な扉が見えてきた。

桃華の腰にある聖剣が微かに震える。

「この先です。」

小白龍が足を止めた。

桃華はその背から降りる。

「ここまで、ありがとうございました。」

小白龍は静かに頭を下げる。

『気をつけろ。』

「はい。」

桃華は扉へ手を掛けた。

蜜秋が如意棒を握る。

二人で力を込める。

ゴゴゴゴゴ……。

重い扉が開いていく。

その向こう、広大な空間。

鬼神族の旗が並ぶ最深部。

そして――。

玉座に、一人の男が座っていた。

漆黒の甲冑、腰には狂剣。

朱天。

「来たか。」

静かな声が響く。

桃華は聖剣を抜いた。

「朱天。」

朱天は桃華ではなく、その隣に立つ蜜秋を見ていた。

「なるほど。」

「なに?」

蜜秋が眉を上げる。

朱天は薄く笑う。

「まさか、お前が来るとはな。」

「ボクを知ってるの?」

「知らぬはずがあるまい。」

朱天は立ち上がった。

「長い年月をかけ、森羅万象の精気を蓄え続けた花果山の仙石より生まれた石の化身――」

蜜秋の表情から笑みが消える。

「石猿、孫悟空よ。」

桃華が蜜秋を見る。

「石の……化身。」

「天界に反旗を翻し、斉天大聖を名乗り、神々と戦い――」

朱天はゆっくりと二人へ歩み寄る。

「やがて天竺への旅を経て、仏の位にまで上り詰めた。」

朱天の笑みが深くなる。

「闘戦勝仏。」

蜜秋は黙って朱天を見つめていた。

「お前こそ証明ではないか。」

「何の?」

「我ら化身とて、神仏と同じ高みへ至ることができる。」

朱天は自らの胸へ手を当てる。

「私の考えが間違っていないことの証明だ。」

蜜秋はしばらく黙っていた。

そして――。

「うん。」

あっさり頷いた。

朱天の目が細くなる。

「分かるよ。」

「そうであろう。」

「ボクも昔、同じようなことしたから。」

朱天が笑う。

「ならば――」

「だからさ。」

蜜秋は如意棒を肩へ担いだ。

「やめときなって。」

朱天の笑みが消えた。

「……何?」

「天界が気に入らない。」

指を一本立てる。

「自分を認めない神様たちが気に入らない。」

二本目。

「だったら自分が神様より偉くなってやる。」

三本目。

「邪魔する奴はぶっ飛ばす。」

蜜秋は肩をすくめた。

「やった、やった。僕も。」

「…………。」

「で、山の下に五百年。」

「…………。」

「あれは暇だったなぁ。」

桃華が思わず蜜秋を見る。

「五百年……。」

「うん。」

蜜秋は苦笑した。

「だから経験者として言ってるの。」

朱天を見る。

「やめときな。」

朱天は蜜秋を睨む。

「では聞こう。」

「何?」

「神仏と同じ高みへ至った者から見える景色は、どのようなものだ。」

蜜秋は少し考えた。

そして答える。

「……窮屈だったよ。」

「何?」

「闘戦勝仏。」

蜜秋は自分を指差す。

「立派な名前だよね。」

そして笑った。

「でも僕には、ちょっと窮屈だった。」

「だから、その位を捨てたというのか。」

「捨ててないよ。」

蜜秋は首を振る。

「ただ、そんな肩書きがなくたって、僕は僕だって分かっただけ。」

如意棒を肩へ乗せる。

「斉天大聖でも。」

「闘戦勝仏でも。」

少し得意げに笑う。

「謎の美少女・蜜秋でも。」

朱天が黙る。

「僕が石から生まれたことは変わらない。」

蜜秋は朱天を見つめた。

「それでいいじゃん。」

「…………。」

桃華は二人のやり取りを黙って聞いていた。

そして――。

「朱天。」

聖剣を下ろした。

「一つ、聞かせてください。」

朱天が桃華を見る。

「何かな。」

「なぜ……天界を裏切ったのです。」

「裏切った?」

朱天は、その言葉を確かめるように繰り返した。

やがて小さく笑う。

「違うな。」

「では――」

「私は裏切ったのではない。」

朱天の眼差しが鋭くなる。

「――悟ったのだ。」

「悟った……?」

「そうだ。」

朱天は桃華を真っ直ぐ見つめた。

「それに、裏切ったのは我ではない。」

一拍。

「天界の方よ。」

桃華の表情が強張る。

「どういう意味です。」

朱天は歩き始める。

「昼。」

洞窟の天井を見上げる。

「天の玉座を守るのは太陽神。」

そして視線を落とす。

「夜。」

「天の玉座を守るのは月神。」

「…………。」

「ならば、その狭間は?」

朱天は自分の胸へ手を当てた。

「昼が終わり、夜が訪れるまで。

 夜が終わり、朝が訪れるまで。

 天の玉座を守ってきたのは――私だ。」

桃華は黙って聞いている。

「昼を守る者は神。

 夜を守る者も神。」

朱天は自嘲するように笑った。

「ならば問おう、桃華。

 昼でも夜でもない、その境界を守り続けてきた私は何だ?」

「…………。」

「化身だ。」

朱天は吐き捨てるように言った。

「ただ、それだけだ。」

桃華は何も言えなかった。

「我ら化身は、神々より劣っているのか。」

朱天の声が洞窟へ響く。

「暁より生まれた私。

 桃より生まれたお前。

 鋼より生まれたキクニ。」

桃華の手に力が入った。

「そして、石より生まれた孫悟空。」

朱天は蜜秋を指差す。

「そこにいる石猿は神仏と並ぶところまで至った!

 ならば我らと神々を隔てるものは何だ!」

誰も答えない。

朱天の声だけが響く。

「私は知りたかった。

 なぜ我らは神になれぬのか。

 なぜ神に仕えることだけを求められるのか。

 だから――」

「朱天。」

桃華が遮った。

朱天が止まる。

「出立の間際、素戔嗚様から言われました。」

「……素戔嗚が?」

「はい。」

桃華は聖剣を鞘へ納めた。

その行動に、朱天がわずかに目を見開く。

「あなたに会ったら、まず話を聞いてやってくれ、と。」

「…………。」

「あなたが起こしたこの騒動。」

桃華は静かに続ける。

「かつて自分が天界を追放された時の自分と、どこか重なるのだそうです。」

朱天は何も答えない。

「そして、伝言を預かっています。」

桃華は朱天を真っ直ぐ見つめた。

「――天界を追放された身なれども、三つ柱の一柱として、話くらい聞いてやる。」

沈黙。

長い、長い沈黙。

やがて――。

「……ふっ。」

朱天が笑った。

それまでの嘲るような笑みではない。

ほんの少しだけ、懐かしそうな笑みだった。

「あの男らしい。」

桃華の表情が明るくなる。

「でしたら――」

「だが。」

朱天の笑みが消えた。

「もう手遅れなのだ。」

「……え?」

朱天は桃華を見つめる。

「桃華。」

「なぜ私が、この島を選んだのだと思う?」

「鬼たちを集めるため……ではないのですか?」

「それだけなら、場所などどこでもよい。」

朱天は玉座へ戻る。

そして――。

その横へ退いた。

「――!」

桃華の目が見開かれる。

玉座の背後。

巨大な岩が鎮座していた。

古びた注連縄。

岩肌には幾重もの亀裂。

そして、その隙間から滲み出す黒い靄。

桃華は、その姿を知っていた。

「……要石。」

蜜秋の表情が変わる。

「これが?」

「どうして地上に……。」

朱天は笑う。

「天界にのみ要石があると、誰が言った?」

桃華が息を呑む。

「まさか……。」

「天界と黄泉を隔てる楔があるのならば――」

朱天は足元を指差す。

「地上と黄泉を隔てる楔もまた、存在する。」

ゴゴゴゴゴ……。

大地が揺れた。

要石の亀裂が広がる。

黒い靄が溢れ出す。

蜜秋が如意棒を構えた。

「朱天……まさか。」

「天界はすでに黄泉へと繋がった。」

朱天は両腕を広げる。

「そして地上も――」

要石から、黒い瘴気が噴き出した。

「間もなく黄泉へと繋がる。」

桃華の顔から血の気が引く。

「そんなことをすれば……!」

「太陽は沈む。」

朱天の身体から淡い朱色の光が漏れ始める。

「月も消える。」

朱色の光が闇を照らす。

「天も地も、黄泉の闇に覆われる。」

蜜秋が朱天を睨む。

「それが目的?」

「ああ。」

「なぜ……。」

桃華の声が震える。

朱天は答えた。

「神は、人々の信仰によって生まれる。」

桃華が目を見開く。

「ならば――」

朱天は笑った。

「太陽も月も失われた世界で、人々は何を求める?」

「…………!」

桃華はようやく理解した。

「まさか……。」

「光だ。」

朱天の身体が、暁色の輝きに包まれる。

「永遠の闇に閉ざされた世界で、人々は光を求める。

 そして――」

朱天は両腕を広げた。

「その世界で唯一、光をもたらす者を崇める。」

「そのために……。」

桃華は震える声で言った。

「そのために世界を黄泉へ沈めるというのですか。」

朱天は答えない。

「人々に、あなたを求めさせるために。」

桃華は朱天を見つめる。

「信仰を……集めるために。」

朱天の身体から放たれる朱色の光が、さらに強くなる。

闇の中。

ただ一つ輝く――暁。

「昼も夜もない。」

「ただ永遠の闇だけが続く世界。」

朱天は天を仰いだ。

「その世界で私は唯一――」

要石に大きな亀裂が走った。

轟ッ――!

黄泉の闇が噴き上がる。

朱天はその中心で、高らかに告げた。

「世界を照らす――暁の一輝となろう。」

桃華は聖剣の柄を握った。

蜜秋も如意棒を構える。

もはや言葉だけでは止められない。

朱天もまた、狂剣へ手を掛ける。

暁の光と黄泉の闇。

相反する二つの色が、洞窟の中で渦を巻く。

桃華はゆっくりと聖剣を抜いた。

「……ならば。」

その切っ先を朱天へ向ける。

「止めます。」

朱天が笑う。

「やってみるがいい。」

狂剣が鞘から抜き放たれた。

「桃の化身――桃華。」

蜜秋が桃華の隣へ並ぶ。

「僕もいるけど?」

朱天は二人を見据える。

暁。

桃。

そして石。

三人の化身が、ついに相対した。

崩れゆく要石を背に――。

最後の戦いが、始まろうとしていた。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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