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第二十八話 暁の一輝

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📅 公開日: 2026/8/29 📚 シリーズ: 桃華伝 〜真伝・桃太郎〜 📝 6,672文字 ✅ 全年齢

あらすじ

天界と人界、黄泉の狭間にある神々の国。 《桃》の化身・桃華は、鬼神族の侵攻によって滅びかけた天界から、破邪の聖剣《桃光》を託され地上へ逃れた。 しかし追っ手に深手を負わされ、川へ落ちた桃華は記憶を失ってしまう。 彼女を救ったのは、山里で暮らす老夫婦だった。 桃の香りをまとい、名も思い出せない少女に、二人は「桃太郎」という新たな名を与える。 穏やかな日々の中で、桃太郎は初めて家族の温かさを知る。 だが、鬼神族の襲来によって失われた記憶と使命を取り戻した彼女は、大切な人々を守るため、再び剣を取る。 旅立つ桃華へ、謎の老人は告げた。 「お前には三つの力が必要となる」 犬――すなわち忠義。 猿――すなわち知恵。 鳥――すなわち天を翔ける導き。 桃華は聖剣と、老夫婦から託されたきびだんごを携え、三人の仲間を求めて旅に出る。 その先で待つのは、雷神の血を引く武人、異国より渡った猿妖、そして最古の霊鳥。 これは、鬼を完全な悪とは断じない、新たな桃太郎の物語。 正義と悪が入れ替わる世界で、桃の娘は何を守り、何を討つのか――。

本文

朱天が地を蹴った。

速い。

桃華が聖剣を構えた時には、狂剣の刃が眼前まで迫っていた。

「――っ!」

甲高い音が響く。

聖剣と狂剣が噛み合った。

「くっ……!」

桃華の足が岩床を滑る。

朱天はそのまま力を込めた。

「どうした、桃華。」

「まだ……!」

桃華は聖剣を押し返す。

刃と刃の間から火花が散った。

「始まったばかりです!」

身体を捻り、狂剣を受け流す。

そのまま横薙ぎ。

朱天が身を反らした。

聖剣の切っ先が、漆黒の甲冑を掠める。

「ほう。」

朱天は一歩下がり、自らの胸元を見る。

浅い傷。

しかし――。

「やはりな。」

朱天は笑った。

桃華が眉をひそめる。

「何がです。」

「その程度だということだ。」

朱天は狂剣を構え直した。

「聖剣は邪を鎮め、屠るためのもの。

「私は暁の化身、邪ではない。」

朱天が消えた。

「桃華!」

蜜秋が叫ぶ。

右。

桃華が振り返る。

狂剣。

ガンッ!

如意棒が割って入った。

「危ないなぁ!」

蜜秋が如意棒を押し込む。

朱天は狂剣で受け止める。

「斉天大聖。」

「今は蜜秋!」

「どちらでもよい。」

「僕には大事なの!」

蜜秋は如意棒を軸に身体を浮かせ、そのまま朱天の顔面へ蹴りを放った。

朱天が腕で受ける。

その隙に桃華が踏み込んだ。

一閃。

朱天の肩口を聖剣が斬り裂く。

だが――。

血は流れない。

傷口から朱色の光が漏れ、瞬く間に塞がっていく。

桃華が目を見開く。

「傷が……。」

「言ったであろう。」

朱天が狂剣を振るう。

桃華と蜜秋が左右へ飛んだ。

「その剣で私は倒せぬ。」

     ◇

洞窟の別の場所。

雷光が闇を切り裂いた。

「ぬおおおおっ!」

金時の大斧が振り下ろされる。

左臣は二本の黒刃を交差させ、それを受け止めた。

轟ッ!

足元の岩が砕ける。

「ぐっ……!」

「どうした!」

金時がさらに力を込める。

「おぬしの主のところへ行かねばならんのでな!」

「行かせぬ!」

左臣の身体から闇が噴き出す。

金時の視界が再び黒く染まった。

「またこれか!」

「闇の中で、我を捉えられるか!」

声が四方から響く。

金時は大斧を構えたまま、目を閉じた。

「ならば――」

金色の髪が逆立つ。

パチッ。

パチパチッ。

「闇ごと吹き飛ばせばよかろう!」

大斧を地面へ叩きつけた。

轟ッ!!

雷光が洞窟を埋め尽くした。

闇が一瞬にして消し飛ぶ。

「なっ――!」

姿を現した左臣。

「そこじゃ!」

金時が踏み込む。

左臣も逃げなかった。

二本の黒刃を構える。

「来い!」

大斧と黒刃が激突した。

一瞬。

左臣の口元に、微かな笑みが浮かぶ。

「見事。」

次の瞬間――。

金時の大斧が黒刃を砕いた。

その勢いのまま、左臣の身体を薙ぎ払う。

「……朱天様。」

左臣の身体が、ゆっくりと黒い霧へ変わっていく。

金時は大斧を下ろした。

「最後まで主を想うか。」

左臣は答えない。

ただ、消えゆくその顔はどこか穏やかだった。

「……見事な忠義じゃ。」

金時は一度だけ頭を下げた。

そして走り出した。

     ◇

その頃――。

右臣の炎と凰の炎が洞窟を赤く染めていた。

「はあああっ!」

右臣が炎の刀を振るう。

凰は扇で受け流す。

一撃。

二撃。

三撃。

火花が舞う。

「なるほど。」

凰が笑う。

「業火が効かぬと分かれば、剣技で挑むか。」

「我は朱天様の右臣!」

炎の刀が凰の頬を掠める。

「化身の力だけに頼ってきたわけではない!」

「気に入った!」

凰は大きく後ろへ跳んだ。

扇を広げる。

「ならば妾も、敬意をもって応えようぞ!」

背後に巨大な炎の翼が現れる。

右臣はそれを見上げた。

「……鳳凰。」

「凰じゃ。」

炎の翼が羽ばたいた。

無数の火の粉が、鳥の形へ変わる。

右臣も炎の刀を構える。

「参る!」

「来い!」

右臣が突進した。

凰も扇を振り下ろす。

炎と炎。

二つの力が激突した。

轟――ッ!!

洞窟が揺れた。

炎が消えた時。

右臣は凰の前に立っていた。

その手から、炎の刀が消える。

「……美しい炎だ。」

凰は黙って右臣を見る。

右臣の身体が炎へと変わり始めた。

「朱天様……。」

「…………。」

「どうか……。」

最後まで言葉にはならなかった。

炎が舞い上がり、消えていく。

凰は扇を閉じた。

「うぬも見事であったぞ。」

そして、最深部を見た。

「さて、急ぐかの。」

     ◇

轟音。

桃華の身体が地面を転がった。

「桃華!」

「大丈夫です!」

聖剣を地面へ突き立て、立ち上がる。

朱天はまだ息一つ乱していない。

蜜秋が如意棒を伸ばす。

「伸びろ!」

如意棒が朱天へ迫る。

朱天は狂剣を横に構えた。

激突。

その身体が後方へ押される。

「今!」

桃華が駆ける。

聖剣を両手で握り――。

振り下ろす。

朱天は狂剣で受け止めた。

「無駄だ!」

「無駄ではありません!」

桃華は叫ぶ。

「あなたを倒すことだけが、戦いではありません!」

朱天の表情が変わる。

「まだ、そのような甘いことを!」

「甘くて結構です!」

桃華は力を込める。

「私はあなたの話を聞きました!

 あなたが何に苦しみ、何を求めていたのかも!」

「ならば分かるであろう!」

朱天が聖剣を弾いた。

「私が正しいと!」

「いいえ!」

桃華は後退しながら叫ぶ。

「あなたが抱いた疑問が間違っているとは思いません!」

朱天の動きが止まった。

「……何?」

「神と化身は何が違うのか。

 なぜ化身は神々に仕えるものとされるのか。」

桃華は聖剣を構え直す。

「私には、その答えは分かりません。」

「桃華……。」

「だから、天界へ帰って問いましょう!」

桃華は一歩踏み出す。

「太陽神様にも!

 月神様にも!

 素戔嗚様にも!

 みんなで答えを探せばよいではありませんか!」

朱天の顔が歪んだ。

「今さら――!」

狂剣が振り下ろされる。

桃華が受け止める。

「今さら何を話せというのだ!」

「何度でも!」

「黙れ!」

「何度でも話せばいい!」

「黙れ!」

朱天の身体から朱色の光が爆発した。

桃華が吹き飛ばされる。

「きゃっ!」

「桃華!」

蜜秋が受け止めた。

二人は地面を滑る。

朱天の呼吸が初めて乱れていた。

「……今さら。」

狂剣を握る手が震えている。

「もう、戻れぬ。」

背後の要石から黒い瘴気が噴き出す。

「私は天界を黄泉へ繋いだ。」

亀裂が広がる。

「地上も間もなく黄泉へ沈む。」

朱天は桃華を見る。

「どれほど言葉を重ねようと、もう遅い!」

蜜秋が桃華を立たせる。

「そうかな。」

朱天が睨む。

「何?」

蜜秋は如意棒を肩へ担いだ。

「五百年、山の下にいた僕からすればさ。」

ニッと笑う。

「やり直すのに遅すぎるなんてこと、ないと思うけど。」

「貴様に何が分かる!」

「分かるよ!」

蜜秋の声が洞窟に響いた。

朱天が息を呑む。

「天界が憎かった!」

如意棒を握る手に力が入る。

「偉そうに命令する神様も!

 僕を猿だって馬鹿にする連中も!

 全部ぶっ飛ばして、自分が一番偉いって認めさせたかった!」

「…………。」

「だから分かるんだよ!」

蜜秋は朱天を真っ直ぐ見つめる。

「お前が今、どこにいるのか!」

朱天は答えない。

「その先に何があるのかも!」

「ならばなぜ!」

朱天が叫ぶ。

「なぜお前は、私の側に立たぬ!」

蜜秋は少し寂しそうに笑った。

「その先まで行っちゃったからだよ。」

「…………。」

「僕には三蔵様がいた。」

蜜秋は遠い昔を見るように目を細める。

「ブタも、カッパも、白龍もいた。

 五百年動かなかった景色が、毎日変わった。

 腹減ったり、喧嘩したり、妖怪に襲われたり。」

小さく笑う。

「大変だったけどさ。

 旅って楽しかったんだ。」

朱天は黙っている。

「世界は、自分が思ってたよりずっと広かった。」

蜜秋は如意棒を構え直す。

「だから僕は今、また旅をしてる。」

桃華を見る。

「この子たちと。」

「…………。」

「お前も来ればいいじゃん。」

朱天の目が見開かれた。

「何……?」

「神様になれるかどうかなんて、一回置いといてさ。」

蜜秋は笑った。

「世界、見てみなよ。」

朱天の狂剣が僅かに下がる。

その時だった。

バキッ。

大きな音。

三人が要石を見る。

亀裂。

要石の中央に、巨大な亀裂が走っていた。

黒い瘴気が噴き上がる。

朱天の表情が変わる。

「……遅い。」

蜜秋の笑みが消える。

「何?」

「言ったであろう。」

朱天は再び狂剣を構えた。

「もう手遅れだと。」

ゴゴゴゴゴゴ――!

洞窟全体が激しく揺れ始める。

黄泉の闇が床を這う。

桃華が聖剣を見る。

その刀身が激しく震えていた。

「聖剣が……。」

「桃華!」

朱天が地を蹴った。

「――っ!」

桃華は聖剣を構える。

朱天の狂剣。

一撃。

二撃。

三撃。

桃華は必死に受ける。

「くっ……!」

朱天の攻撃が速くなる。

蜜秋が横から如意棒を振るう。

「させない!」

朱天は身を沈めてかわす。

狂剣を返す。

蜜秋が如意棒で受けた。

ガンッ!

「重っ!」

「斉天大聖!」

「だから蜜秋だって!」

如意棒と狂剣が激しく打ち合う。

桃華も加わる。

三つの武器が火花を散らす。

だが――。

朱天の身体から放たれる光が、さらに強くなっていく。

要石から溢れ出す黄泉の力。

それを吸い上げるように、朱天の暁の光が増していた。

「まずい。」

蜜秋が呟く。

「こいつ、強くなってる。」

朱天が狂剣を薙ぐ。

衝撃。

蜜秋が吹き飛ぶ。

「蜜秋!」

桃華が振り返った。

その一瞬。

「戦いの最中に――」

朱天が桃華の眼前に立っていた。

「よそ見をするな。」

狂剣が桃華の聖剣を弾き飛ばした。

聖剣が宙を舞う。

カラン――。

遠くの岩床へ落ちた。

「――!」

桃華が息を呑む。

朱天は狂剣を両手で握る。

振り上げた。

「終わりだ。」

蜜秋が顔を上げる。

「桃華!」

如意棒を伸ばす。

だが――。

間に合わない。

朱天の狂剣が振り下ろされた。

その瞬間。

――斬ッ。

「……?」

朱天の動きが止まった。

狂剣の切っ先は、桃華の目前。

あと僅か。

しかし、それ以上動かない。

朱天が自分の胸を見る。

漆黒の甲冑に、一筋の亀裂。

次の瞬間。

甲冑が斜めに裂けた。

朱天の身体から鮮血が噴き出す。

「ぐっ……!」

桃華が目を見開く。

蜜秋も言葉を失う。

「誰……?」

朱天の背後。

いつの間にか――。

一人の鬼が立っていた。

美しい黒髪。

額から突き出す二本の角。

その手には、一振りの刀。

刃には朱天の血が滴っている。

女は静かに刀を振り、血を払った。

「……大通連。」

朱天が掠れた声で呟く。

女は薄く笑った。

「久しいのう、朱天。」

「鈴鹿……御前。」

鈴鹿御前。

天女とも称される、鬼を裏切り、鬼に仇なす鬼姫。

朱天は胸を押さえながら振り返る。

「なぜ……。」

鈴鹿御前は大通連を肩へ担いだ。

「なぜ、じゃと?」

その目が鋭くなる。

「鬼がすべて、世が闇へ堕ちることを望んでおるとでも思ったか。」

朱天は何も答えない。

「我ら鬼とて、日の光を愛で、月の下で風流に酒をあおるものよ。」

鈴鹿御前は静かに言った。

「⋯⋯鬼は人の敵じゃ。

 それは否定はせぬ。」

大通連を下ろす。

「人を襲い、人を喰らい、人に災いをなす。

 それが鬼じゃ。」

一歩、朱天へ近付く。

「じゃがな――

 妾のように人の中へ紛れ、人と共に生きることを選んだ鬼もおる。」

朱天が鈴鹿御前を見る。

「そもそも鬼とは何じゃ。」

鈴鹿御前は自嘲するように笑う。

「鬼は人の恐れより生まれ、憎しみより生まれ、邪な想いより生まれる。」

桃華は黙って聞いていた。

「ならば――」

鈴鹿御前は朱天を見据える。

「人こそ鬼とは言えまいか。」

「…………。」

「じゃが、人がすべて悪人ではあるまい。」

鈴鹿御前は大通連を鞘へ納めた。

「人とて悪人がおるのなら――」

静かな声が響く。

「鬼とて、善に生きるものもあろうて。」

朱天が俯く。

鈴鹿御前は続けた。

「生まれが鬼か、人か、神か、化身か。」

「そんなものが、その者の善悪を決めるのではない。

 何を選び、どう生きたかじゃ。」

朱天は自分の手を見る。

「朱天。」

鈴鹿御前の声が低くなる。

「きさまは先ほど、自分は暁の化身であり、邪ではないと申したそうじゃな。」

朱天の目が見開かれる。

「……なぜ、それを。」

「そんなことはどうでもよい。」

鈴鹿御前は朱天を指差した。

「邪とは、牙を持ちた巨獣を恐れ、その前に跪く人々を表すともいう。

 力によって人を屈服させ、恐れさせ、己を崇めさせる。きさまが今やろうとしておることは何じゃ。」

朱天は答えない。

「世界を闇へ沈め、人々から太陽を奪い、

 月を奪い、

 光を求める者たちに、己を崇めさせる。」

鈴鹿御前の瞳が細くなる。

「きさまの想いは、すでに邪。」

「…………。」

「気付かぬうちに――」

鈴鹿御前は静かに告げた。

「きさま自身も、鬼へ堕ちておったのよ。」

長い沈黙。

朱天は、自分の胸から流れる血を見つめた。

「……鬼。」

その言葉を確かめるように呟く。

やがて――。

小さく笑った。

「そうか。」

朱天の身体から力が抜ける。

「オレは……鬼になっていたのか。」

膝をつく。

その時だった。

一筋の光が、洞窟へ差し込んだ。

「……?」

桃華が振り返る。

洞窟の遥か向こう。

入口から射し込む光。

長い戦いの間に、夜の帷が近づこうとしていた。

青から白へ移り行く水平を切り裂くような――。

淡い朱色。

沈みゆく太陽が空を朱色に染め、その光が洞窟の奥深くまで差し込んでいる。

朱天は呆然と、その光を見つめた。

「……まるで、暁のようだ。」

自らの名の源。

自らが生まれた、夜明けの光。

桃華は地面に落ちた聖剣を拾う。

だが――鞘へ納めた。

そして朱天の傍らへ歩み寄る。

「朱天。」

朱天は答えない。

ただ、夕空を見つめている。

桃華も、その隣で空を見た。

「不思議ですね。」

「……何がだ。」

「朝と夕。時はまるで違うというのに、こうして見ればよく似ています。」

桃華は朱色に染まった空を見つめた。

「暁の化身とは、明星のようではありませんか?」

「明星……。」

「明け方には、夜から朝へ。夕暮れには、昼から夜へ。」

「同じ星が、二つの境界に輝くと聞きました。」

朱天の瞳に、夕映えが映る。

「あなたも同じなのではありませんか。」

桃華は静かに微笑んだ。

「太陽になる必要などなかった。

 太陽と月。その二つの光の狭間にあって、僅かな時だけ見せる輝きだからこそ――」

桃華は朱天を見る。

「暁は美しい。

 なぜ、その化身であるあなたが、その美しさを忘れてしまわれたのですか。」

朱天は何も言わなかった。

ただ、長い間忘れていたものを見るように、夕空を見つめ続けた。

やがて――。

「……そうだな。」

朱天の口元に、小さな笑みが浮かぶ。

「こんなにも……。」

目を細める。

「美しかったのだな。」

桃華は黙って、その横顔を見つめた。

だが。

バキッ。

乾いた音が響いた。

蜜秋が振り返る。

「……まずい!」

要石。

巨大な亀裂が、その中心を貫いていた。

バキバキバキ――!

「桃華!」

鈴鹿御前も振り返る。

要石が崩れ始める。

亀裂の向こうから――。

光すら呑み込むような漆黒が覗いた。

ゴオオオオオオッ――!!

黄泉の瘴気が噴き上がる。

洞窟全体が激しく揺れた。

朱天は暁を見つめたまま、静かに言った。

「……もう、止まらぬ。」

桃華が振り返る。

「何を――

 地上と黄泉を隔てる楔は、すでに砕け始めている。」

朱天は目を閉じた。

「私を倒したところで……黄泉への道は閉じぬ。」

桃華は要石を見る。

黒い闇が、さらに広がっていく。

その時。

桃華の腰で――。

聖剣が震えた。

「……え?」

鞘の中から、淡い桃色の光が漏れ出している。

桃華は聖剣を抜いた。

刀身が眩く輝いていた。

黄泉の瘴気へ反応するように。

強く。

強く。

蜜秋がそれを見つめる。

「桃華……その剣。」

桃華も聖剣を見つめた。

脳裏に、一人の姿が浮かぶ。

鋼の化身。

この剣を鍛え――。

最後に自分へ託した者。

「……キクニ。」

聖剣が応えるように震えた。

朱天もまた、その光を見る。

「そうか……。」

「朱天?」

朱天は自嘲するように笑った。

「私を斬るためでは……なかったのか。」

桃華が目を見開く。

「聖剣は――」

朱天は崩れゆく要石を見る。

「邪を鎮め、屠る剣。」

黄泉の闇が噴き出す。

「ならば、その剣が斬るべきものは――」

桃華は聖剣を握り締めた。

その先。

地上へ溢れ出そうとする、黄泉の闇。

「……はい。」

桃華の表情が変わる。

「ようやく分かりました。」

聖剣を構える。

「キクニが――」

桃色の光が、闇の中で輝く。

「私に、この剣を託した理由が。」

ゴオオオオオオッ――!!

黄泉の闇が、ついに要石を突き破った。

桃華はその前へ立つ。

桃の化身。

その手には、桃の破邪を宿した聖剣。

蜜秋が如意棒を構え、その隣へ立つ。

鈴鹿御前も大通連へ手を掛けた。

遠くから――。

「桃華殿!」

金時の声。

「間に合ったか!」

「妾を置いていくでない!」

凰も続く。

桃華は振り返った。

金時。

蜜秋。

凰。

ここまで共に戦ってきた者たち。

「万が一の時には、この身を楔の礎にするつもりで来たが――」

鈴鹿御前は四人を見渡した。

「どうやら、その必要はなさそうじゃの。」

桃華は再び前を向いた。

眼前には、世界を呑み込もうとする黄泉の闇。

その手の聖剣が、眩い光を放つ。

「参ります。」

――桃太郎の最後の戦いが、始まった。

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作者について

鳳 翔平

「小説家になろう」で連載中の物を、一部修正してこちらにも投稿させてもらってます。 文章作成で、AI利用してますが、プロット、シナリオは完全作者の物。そこにAIには一切介入させません。

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