第25話 追い詰められた二人
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう! 発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!? コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」 オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。
本文
新宿駅地下の変電魔力転換プラントに、耳をつんざくような金属音が鳴り響いていた。
目の前に鎮座するサイボーグ魔王。その有機的な巨体とレイノス社製のサイバネティクスパーツが、不気味な紫色の魔力と火花を散らしながら駆動している。
「ガ、ギギ……オオオオオオオッ!!」
咆哮と共に、サイボーグ魔王の背中に取り付けられた重機関銃の砲身が、ガタガタと音を立てて僕たちへと照準を合わせた。 魔力によって物理的な弾丸の威力を数倍に跳ね上げる、レイノス社製の魔導複合機関砲。まともに喰らえば、防弾ベストもエルフの防壁魔法も紙切れ同然に引き裂かれる。
「アイリス、下がれ!」
「くっ……!」
サイボーグ魔王から放たれた大口径の弾丸の嵐が、僕たちの目の前で虚空へと吸い込まれていく。
弾丸は、僕の後方ではなく、プラントの天井に向けて転送され、鉄骨を派手に火花とともに粉砕した。
僕はディバイド・ルーラーで弾丸をプラントの天井にリンクさせたのだった。
「ふう……。やっぱり、この密度は胃に悪い。こっちのHPがゴリゴリ削られていく感覚だよ」
「アマノ殿、ゲーマーみたいなことを言っている場合か! 敵はそれだけではないぞ!」
アイリスの鋭い声に視線を戻すと、サイボーグ魔王の背後から、無機質な足音が幾重にも重なって近づいてくるのが見えた。
現れたのは、全身を最新鋭のタクティカルギアで固めた数十人の兵士たち。しかし、そのヘルメットの隙間から覗く耳は、アイリスと同じように長く尖っていた。
「レイノス社の私兵部隊。それにあの耳、またベルモント伯爵か……」
彼らが構えているのは、最新鋭アサルトライフルに、黒い魔石を組み込んだ規格外兵器だ。グラハム社長とベルモント伯爵が、この新宿ゲートの暴走を何としても成功させようとしている証拠だった。
「あんなの所持してると銃刀法違反で即逮捕なんだけどね」
「天野殿、軽口はそのくらいで。彼らから放たれる殺気、ただの兵卒ではないぞ!」
アイリスが精霊剣を引き抜き、ブルーの瞳を鋭く光らせて身構える。 確かにその通りだ。私兵たちの動きには、一糸乱れぬ統率力と、特殊部隊特有の訓練された戦闘フォーメーションが見て取れた。
彼らは僕の空間能力を警戒しているのか、一箇所に固まらず、絶妙な距離を保って僕たちを半包囲するように展開していく。
「侵入者を排除する。ターゲットはハズレ勇者と、本国からの裏切り者の聖騎士だ」
隊長格と思われる男が、冷酷な声で無線に指示を出す。次の瞬間、統制された銃撃が一斉に僕たちを襲った。
「ダダダダダダダダッ!!」
「しまっ……!?」
弾道が多方向から交差する。僕の空間接続は、万能に見えて僕が視認で計算できる範囲という脳の処理速度の限界がある。
正面からの弾幕は完全に逸らせても、十字砲火を同時に仕掛けられると、全部を捌ききるのは無理ゲーに近い。
「風の精霊よ、我が盾となれ!」
アイリスが叫び、剣を振るって緑色の魔力の防壁を展開する。しかし、敵が撃ち出してくる火薬の推進力と、異世界の魔導貫通力が合わさったハイブリッド弾だ。
精霊の盾は激しい火花を散らし、ガラスのように悲鳴を上げてひび割れていく。
「くっ、この弾丸、魔力の盾を喰い破ってくる……!」
「アイリス、後ろに飛び込め!」
僕は叫びながら、彼女の背後の空間と、頑丈なコンクリート柱の裏の空間を繋げた。アイリスはつなげた空間に飛び込み激しい銃撃の射線から外れる。
僕もまた、つなげた空間に飛び込み、滑り込むようにアイリスと合流した。
コンクリートの破片が頭上からバラバラと降り注ぐ。
「……はは、笑えないな。さすがに大企業と貴族がこしらえた私兵なだけはある。装備が僕たちの防衛室の備品とは桁違いだ」
「アマノ殿、弱音を吐くのは珍しいな。だが、確かにこのままでは中枢のコンソールに近づくことすらできん!」
柱の陰からアイリスが精霊剣を構え直しながら叫ぶ。僕の脳は、すでにフル回転で敵の配置を計算していた。
だけど、弾薬の残数、敵の数、退路の状況、そして背後に控えるサイボーグ魔王の脅威を考えると、どうしても勝率の計算が10%を割り込んでしまう。
僕とアイリス、二人だけの戦力では、この物量と最新兵器の壁を突破するのは不可能だ。
敵の私兵部隊が、じりじりと距離を詰めてくる。変電プラントの床に響く靴の音が、死へのカウントダウンのように聞こえた。
サイボーグ魔王の胸の魔石が、再び次の大規模攻撃のために禍々しい光を蓄え始めている。
「ここまで、なのか……。大見得を切って飛び出してきたのに」
僕が唇を噛み締めた、その時だった。プラントの入り口にあたる上層のハッチが、凄まじい爆音と共に内側に吹き飛んだ。
「――おいおい、現役の若造がそんな情けない顔をしてるんじゃないよ!」
変電所に響き渡ったのは、地鳴りのような、しかしどこか聞き覚えのある、ひどく野太いダミ声だった。
硝煙と粉塵の向こうから現れたのは、何人もの人影。 その先頭に立っていたのは――松葉杖を放り投げ、ごついチタン製の補強義足をきしませながら、骨董品のような大口径のマジックライフルを肩に担いだ僕の親父、天野 剛だった。
「親父……!? なんでここに……」
「バカ息子が勝てるかどうかも分からずに勝手に飛び出したって、千代田の嬢ちゃんから連絡があってな。お前たちだけに、美味しいところを持っていかせるわけにいくだろ」
剛の背後から、さらに数人の老人たちが姿を現す。白髪交じりのドワーフ、仕立ての良いスーツに袖を捲り上げた初老のエルフ、そして現役時代さながらの、煤けた重装甲の鎧を身にまとったかつての戦士たち。
彼らはみんな、大融合の混乱期、血と泥にまみれながらこの街を守り抜いた――引退したはずの勇者たちだった。
「グラハムの小童と、ベルモントのタコ助が、俺たちが守ったこの街でコソコソと悪巧みをしてるってなぁ」
剛の隣で、巨大なバトルアックスを軽々と肩に担いだドワーフの老兵が、不敵に髭を揺らして笑う。
「おいおい、自衛隊や聖騎士団は何故か分らんがにらみ合って動けないんだろ。なら、何のしがらみもない俺たちが動くしかねえだろ!」
その瞬間、プラント内の空気が一変した。かつて世界を破滅から救ったレジェンドたちの放つ、理不尽なまでの圧倒的な存在感と魔圧。
「チッ、ロートルどもが……! 構わん、迎撃しろ!」
私兵部隊の隊長が狼狽混じりに叫び、銃口を入り口へと向け直す。
「ハッ、若造が。俺たちの背中をよく見ておけ、勇!」
剛がニヤリと笑い、義足で床を爆発的に踏み鳴らした。
僕とアイリスの前を阻んでいた絶望的な静寂は、オヤジたちの乱入によって、一瞬にして熱い戦場へと塗り替えられていった。
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