第26話 世界最強のおっさんども
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう! 発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!? コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」 オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。
本文
――轟音。そして、空間を震わせるほどの圧倒的なプレッシャー。
ハッチを吹き飛ばして現れたオヤジたちの登場によって、さっきまで僕たちを絶望的に包囲していたレイノス社の私兵部隊の空気が、一瞬でガタガタに乱れたのが分かった。
「お、親父……本当に何しに来たんだよ。足が悪いんじゃなかったのか?」
僕は遮蔽物のコンクリート柱から半身を出して、思わず叫んでいた。
35年前のゲート防衛戦を最前線で駆け抜けた伝説の男――天野剛は、肩に担いだ大口径のマジックライフルを不敵に回しながら、僕を見てニヤリと笑った。
「バカ言え、勇。この状況を黙って見ていられるほど弱っちゃいないんでな」
親父がチタン製の補強義足を一歩進めると、その金属音がプラントの冷たい床に重々しく響いた。
その隣に立つのは、現役時代さながらの煤けた重装甲鎧をまとったドワーフの老戦士、そして仕立ての良いスーツの袖を豪快に捲り上げた初老のエルフの魔導士だ。彼らの瞳には、年齢を感じさせないギラギラとした戦意が宿っている。
「アマノ殿……これが、あの勇者たちなのか?」
アイリスが精霊剣を構えたまま、美しいブルーの瞳を限界まで見開いて硬直していた。セレステリア王国の厳格な騎士団で育った彼女にとって、隠居オヤジたちがこれほどの魔圧を放って武装している光景は、聖騎士として理解の範囲を超えているのだろう。
「そうだよ、アイリス。35年前のゲート防衛線で、圧倒的な力や膨大な魔力で世界を救った、世界最強のおっさんども」
そう言っている間にも、私兵部隊の隊長が我に返ったように鋭く無線に叫んだ。
「怯むな! 相手はとうに全盛期を過ぎた老人たちだ! 装備の性能はこちらが圧倒している、包囲を維持しつつ一斉射撃で消し飛ばせ!」
「ロートルどもが、舐めるなァ!」
兵士の一人が恐怖を打ち消すように叫び、科学と異世界の黒魔石が融合した規格外アサルトライフルの銃口を親父たちに向けた。
「ダダダダダダダダッ!!」
プラントの闇を切り裂く、激しいハイブリッド弾の掃射。
僕とアイリスを極限まで追い詰めた、魔力を喰い破る凶悪な弾幕が、今度はオヤジたちの集団へと殺到する。
「危ない――」
僕が空間を繋げようとした瞬間、親父の隣にいた初老のエルフが、フッと鼻で笑って前に出た。
「上位多重結界・グラディエイト・ウォール(城壁展開)」
エルフのオヤジが呪文を唱えた瞬間、空間に展開されたのは、魔導防衛シールドのような薄い光の膜ではなかった。
物理的な城の壁そのものが、何層もの半透明な巨大結晶となって地面から生えるように突き出したのだ。
「ドゴゴゴゴゴォン!!」
レイノス社の誇る最新鋭の貫通弾が結晶の壁に激突し、激しい火花を散らす。しかし、壁はビクともしない。魔力を喰い破る特性など関係ないと言わんばかりの、圧倒的な質量の暴力による防御だった。
「な、なんだあの魔法の規模は!? 詠唱のステップをいくつ省略している!?」
私兵の魔導兵が驚愕の声を上げる。エルフのオヤジは捲り上げた腕の高級腕時計をチラリと見ながら、ため息をついた。
「若者よ、洗練された魔法式も結構だがね、私らの時代はやらなきゃ死ぬ世界だったのだよ。上品などという言葉は、ワシの辞書には載っておらんよ!」
「次はワシの番じゃな! どきな、もやしっ子ども!」
結晶の壁の隙間から飛び出したのは、身の丈ほどの巨大なバトルアックスを担いだドワーフの老兵だった。彼は義足の親父に負けないほどの突進力で、戦闘フォーメーションを組んでいた私兵のど真ん中へと肉薄する。
「う、撃て! 近づけるな!」
私兵たちが慌てて銃口を動かすが、ドワーフの突撃速度は尋常ではなかった。彼が地面を蹴るたびに、コンクリートの床が爆発したように砕け散る。
「おおおおおっ! 剛力一閃・大地割り!!」
振り下ろされたバトルアックスが、空間そのものを切り裂くような風圧と共に床へ叩きつけられた。
「ズドォォォォォン!!」
凄まじい衝撃波がプラントの床を走り、十数メートルにわたってコンクリートが大きくめくれ上がる。戦闘フォーメーションを組んでいたはずの私兵たちは、その一瞬で瓦解し、数人が宙へ吹き飛ばされて壁に激突した。
「スマートな戦術? タクティクス? そんなものはなァ、上から叩き潰せば関係ねえんだよ!」
「信じられん……これが、英雄と語られた勇者たち……」
アイリスは驚きのあまり、ツッコミを入れることすら忘れて呆然としている。僕も同じ気持ちだ。僕たちが冷や汗をかきながら確率を計算していた戦況を、このオヤジたちは気合いと筋力だけで完全にひっくり返していく。
「おい、勇、アイリスの嬢ちゃん。見惚れてる暇があったら動きな」
いつの間にか僕たちの隣まで移動していた親父が、マジックライフルの銃身をサイボーグ魔王の方へと向けた。
私兵部隊がオヤジたちに圧倒される中、背後に控えていた巨大なサイボーグ魔王が、不気味な駆動音をさらに高めて動き出そうとしていたからだ。
その胸の巨大な黒魔石は、プラント全体を消し飛ばしかねないほどの紫色の雷光を周囲に放ち始めている。
「あのサイボーグのデカブツは、俺たちにとっても因縁の相手だからな」
親父の目が、一瞬だけ鋭く、そしてどこか悲しげに細められた。35年前に相棒たちと共に戦い、そして多くの仲間を失った元凶である魔王。その遺骸をサイバネティクスで弄んで復活させたグラハムたちの行為は、親父たちの誇りを踏みにじる何物でもなかったのだ。
「ここは俺たちが食い止める。雑魚の私兵も、あのデカブツも、全部俺たちが引き受けてやる」
「親父……」
「お前たちは、あの魔王の奥にあるゲートの中枢制御室に突入することだ。自分にしかできない事をやり遂げろ!」
親父はそう言うと、不敵な笑みを浮かべてマジックライフルのトリガーを引いた。
「ズガァァァン!!」
放たれたのは、どの銃器よりも巨大な魔力の光弾。それがサイボーグ魔王の正面装甲に直撃し、巨大な爆炎が巻き起こる。
「ガ、ギギィィィッ!?」
サイボーグ魔王が怒りの咆哮を上げ、その巨大な質量が親父たちの方へと方向転換した。
「アマノ殿! お父上の言う通り、今が突入の好機だ!」
アイリスがようやく正気を取り戻し、僕の腕を強く引いた。彼女の瞳には、伝説の勇者たちの背中を見たことによる、新たな闘志がみなぎっている。
「わかったよ。親父……」
僕は苦笑しながら、聖痕がある右手を強く握りしめた。親父たちが命がけで切り開いてくれた、サイボーグ魔王の側面のわずかな隙間。そこから奥へと続く、ゲート中枢へのルート。
「アイリス、僕のタイミング合わせて。最短ルートでショートカットするよ!」
「応とも! 私の剣は、いつでも天野殿と共に歩む」
僕たちは遮蔽物から飛び出し、硝煙と魔法の光が乱舞する戦場の中を、ゲート中枢に向かって一気に駆け抜けた。
背後からは、親父たちの豪快な笑い声と、理不尽なまでの爆音が出撃のファンファーレのように響き渡っていた。
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