【22番外】鍵穴攻略
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
営業を終えた時環遊技場は、昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていた。
最後の客を見送り、「蛍の光」が消える。従業員アンドロイドが店内の片付けを終えて振り返ると、まだ明かりのついている台が一台だけ残っていた。
CRパイナップル娘。その前に、店主が座っている。
閉店後に古い台を趣味で打つことは、店主にとって珍しいことではなかった。営業中には見せない、どこか子供のような楽しげな表情で液晶を眺めながら、玉を打ち出している。
やがて、店主の右手がハンドルから離れ、台の右側へ伸びていく。
台枠にある小さな鍵穴を、指先でそっと塞いだ。
アンドロイドは、片付けの手を止めた。何をしているのだろう。そんな疑問を抱きながら見ていると、ほんの数秒後、液晶の演出が変わった。
『リーチ!!』
店主は、すっと鍵穴から指を離した。図柄が走る。そして……大当たり。
あまりにも早い展開だった。
アンドロイドは、画面と店主の手元を交互に見た。店主は満足そうに目を細めている。
「ほら。当たるんですよ」
まるで、こうなることを知っていたかのような口ぶりだった。
もちろん、アンドロイドにも分かっている。鍵穴を塞いだからといって、台の抽選が変わるわけではない。たまたま、そうなっただけ。
そう考えるのが普通だ。それでも、あまりにも出来すぎたタイミングだった。
店主は大当たりの画面を楽しそうに眺めながら、ぽつりと言った。
「これが鍵穴攻略なんです」
アンドロイドは鍵穴を見つめた。
「なぜ鍵穴を塞ぐのですか?」
すると店主は、少し考えるように首を傾けた。
「うーん……気持ち、ですかねぇ」
「気持ち、ですか?」
「そうです。こういうのは、気持ちが大事なんですよ!」
あまりにも曖昧な答えだった。アンドロイドは、しばらく黙った。
数字でもない、理屈でもない。気持ち。その言葉だけが、妙に引っかかった。
その後も店主は、CRパイナップル娘を打ち続けた。
鍵穴を塞ぐ。リーチがかかれば指を離す。外れることもあれば、当たることもある。
最初の一回ほど鮮やかな結果は続かなかった。それでも店主は気にする様子もなく、同じ動作を繰り返していた。
そして、リーチがかかるたびに、店主の雰囲気が少しだけ変わる。
鍵穴に指を当てると、背筋が伸びる。液晶を見る目が鋭くなる。
まるで、その瞬間だけ何かの勝負に挑んでいるようだった。
リーチが終われば、いつもの店主に戻る。
アンドロイドは、そんな店主の姿をしばらく眺めていた。
半信半疑。それが一番近い。信じるには根拠がなく、笑い飛ばすには、目の前で起きた最初の大当たりが少し気になった。
*
数日後の閉店後。
アンドロイドは、一人でCRパイナップル娘の前に立っていた。
あの日以来、どうにも鍵穴が気になっていた。店主が楽しそうに打っていたことも、最初の一回があまりにも早く当たったことも、頭の片隅に残っている。
自分も少し遊んでみよう。そう思い、玉を借りた。
最初は、何もせず普通に打ち始めた。玉が盤面を転がっていく。
何度かリーチはかかるものの、なかなか図柄は揃わない。
アンドロイドは液晶を眺めながら、ふと台の右側へ視線を落とした。
小さな鍵穴。店主が指を当てていた場所だ。しばらく、そのまま見つめる。
もちろん、こんなことで当たりやすくなるとは思っていない。それでも、試してみるくらいなら構わない。アンドロイドは、ゆっくりと手を伸ばし、鍵穴を塞いだ。
そして、また玉を打ち出す。しばらくしてリーチが来たが、すぐに外れた。
アンドロイドは小さく首を傾げた。
それでも、もう一度。さらにもう一度。結果は同じだった。当たらない。
けれど、不思議とやめる気にはならなかった。店主は最初の一回を、あれほど鮮やかに当てた。
あれは本当に偶然だったのだろうか。そんな考えが頭をよぎった、そのときだった。
「まだ打ってたんですねぇ〜」
背後から店主の声がした。アンドロイドが振り返る。
店主は、いつもの穏やかな笑顔で立っていた。
アンドロイドは、少しだけ気まずそうに鍵穴を見る。
「少し気になりまして」
「そうでしょうねぇ」
店主はそれ以上何も言わず、隣に立った。
アンドロイドは再び台へ向き直る。しばらく打ってみるものの、やはり当たらない。
鍵穴を塞いでも外れる。普通に打っても外れる。何度目かのリーチも、あっさりと外れてしまった。アンドロイドは、とうとう鍵穴から指を離した。
「やっぱり、よく分かりません」
店主は、そんなアンドロイドの様子を見ながら、少しだけ笑った。
そして台の右側へ手を伸ばし、小さな鍵穴を、指先でそっと塞いだ。
「もう一回、やってみましょうか」
アンドロイドが玉を打ち出す。盤面を玉が転がっていき、スタートチャッカーに入る。
数秒後。液晶の演出が変わった。
『リーチ!!』
店主は、すっと鍵穴から指を離した。
アンドロイドも画面を見つめる。図柄が走る――そして――大当たり。
アンドロイドは、思わず画面を見直した。さっきまで何度やっても当たらなかった。
それなのに、店主が鍵穴を塞いだ途端に大当たりが出た。
偶然。きっと偶然だ。そう思う。けれど、最初の一回もそうだった。
店主は大当たり画面を眺めながら、満足そうに笑っている。
「ほら〜。当たるんですよ!」
アンドロイドは鍵穴を見た。昨日まではただの小さな穴だったが、今は少しだけ違って見える。
「これが鍵穴攻略なんです」
店主は、そう言って笑った。
閉店後の静かな店内に、玉の音が響いている。
アンドロイドは、まだ半信半疑だった。
それでも、鍵穴を見つめる目には、ほんの少しだけ変化があった。
もしかすると、次に打つときも――。
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