第27話 真の勝者とは
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう! 発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!? コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」 オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。
本文
背後で再び世界の終わりみたいな爆音と、ドワーフオヤジの豪快な笑い声が鼓膜を震わせた。
僕とアイリスは、親父たちが命がけでブチ開けてくれたサイボーグ魔王の側面の隙間を、脱兎の如き勢いで駆け抜けていた。
「アマノ殿、さっきは突入の好機と言い放って、お父上たちにあの魔王と私兵の相手を任せてしまったが……いくらレジェンドとはいえ、あまりに無茶だったろうか」
並走するアイリスが、長い銀色の髪を散らしながら、僕に視線を投げてくる。 その心配はもっともだ。
相手はサイバネティクス技術で再生された魔王の遺骸と、最新鋭の重武装で固めたレイノス社の私兵部隊だ。普通に考えれば、定年をとうに過ぎた老人たちが太刀打ちできる相手じゃない。
「心配なのは山々だけどさ、アイリス。あの人たちに『無理だから下がれ』って言って大人しく従うと思うかい?」
「う……それは、あの頑固そうな目を見るに、絶対にあり得ないな」
「でしょ。それに大融合の時を気合と腕力だけで乗り切った人たちだよ。現代の戦術理論の枠に当てはめようとすること自体が間違ってるんだ」
僕は走りながら、右手の聖痕に力を通し、前方の瓦礫を空間ごとスライドさせて退路を確保する。
「彼らにとって、あのサイボーグ魔王は35年前の因縁そのものだ。僕たちがすべきなのは、親父たちの背中に感謝しつつ、世界が滅ぶのを止めるために中枢制御室へ突入すること」
「……ふっ、そうだな! ならば承知した。アマノ殿の言う通り、前へ進もう!」
アイリスの透き通るようなブルーの瞳に、再び迷いのない強い光が戻った。
だが、僕たちの前進を世界が歓迎してくれるわけではなかった。中枢へと続く巨大な地下回廊。
その奥から、親父たちの乱入をすり抜けたレイノス社の私兵部隊の残党数名が、僕たちの接近を察知して立ちはだかった。
「侵入者を確認! 撃て、ゲートの中枢には指一本触れさせるな!」
「ダダダダダダダダッ!!」
またしても、魔力を喰い破る黒魔石のハイブリッド弾が容赦なく回廊を満たす。遮蔽物の少ない直線通路での銃撃。普通ならここで蜂の巣にされて終わりだ。
「アイリス、そのまま突っ込んで! 2秒後に、敵の正面1メートルに空間を繋ぐ!」
「了解だ! 精霊よ、我が剣に集え!」
アイリスが叫ぶと同時に、彼女の持つ精霊剣が鋭い緑色の輝きを放ち始める。
僕は迫り来る弾幕を視認し、僕たちの直前の空間を、敵の射線の遥か上方へと一時的に接続した。
僕たちの目の前に現れた目に見えない空間の裂け目に、すべての弾丸が吸い込まれ、プラントの天井へと転送されていく。
「2、1――今だ!」
カウントがゼロになった瞬間、僕はアイリスの目の前の空間と、銃を構える私兵部隊の隊長の目の前の空間を直結させた。アイリスからすれば、ただ一歩前に踏み出しただけ。
しかし、次の瞬間には、彼女の身体は十数メートルの距離を一瞬で飛び越え、驚愕に目を見開く敵隊長の目の前に出現していた。
「なっ――空間転送!?」
「はぁぁぁぁっ!」
アイリスの精霊剣が、鮮やかな弧を描いて一閃された。
風の精霊が放つ衝撃波が、銃を構えていた私兵たちをまとめて弾き飛ばし、回廊の壁へと叩きつける。彼らが持っていた規格外兵器が、火花を散らしながら床を転がった。
「ふう……。やっぱり、このショートカット攻撃は心臓に悪いな。僕の脳の処理速度が追いつかなくなったら、今頃アイリスの胴体が壁に埋まってるところだったよ」
「さらりと恐ろしいことを言うな! 頼むから計算ミスだけはしないでくれよ、アマノ殿!」
「善処するよ。公務員は安全第一がモットーだからね」
軽い口調でボケつつも、僕の額からは冷や汗が流れていた。僕のディバイド・ルーラー(境界の支配者)は、何度も使用すると思考演算により脳にかかる負荷が想像以上でオーバーヒート寸前だ。
それでも、立ち止まるわけにはいかない。
回廊を抜けた先、そこは新宿駅地下のさらに最深部――新宿ゲートの心臓部『中枢制御室』だった。
視界に飛び込んできたのは、息を呑むような光景だった。
巨大な球体状の特異空間が、まるで生き物のように脈打ちながら、周囲の物理法則を歪めている。地面から浮き上がったコンクリートの破片や、切れた電線から漏れる火花が、重力を無視してゆっくりと宙を漂っていた。
その球体の真下には、無数のケーブルと魔導回路で接続された、巨大な制御コンソールが鎮座していた。そして、そのコンソールの前に、仕立ての良い高級スーツを着こなした一人の男が立っていた。
「……レイノス・インダストリーの社長、グラハム・レイノス」
僕がその名前を口にすると、男はゆっくりとこちらを振り返った。その顔の半分は、すでにサイバネティクスパーツで覆われており、冷徹な機械の光を放っていた。
「おや、ハズレ勇者と、セレステリア王国のお嬢さん騎士か。ここまで来るとは、自衛隊の特殊部隊よりも手際が良いな」
グラハムは、まるで商談でもするかのような落ち着いたトーンで拍手を送ってきた。
「グラハム! 今すぐゲートの暴走を止めろ! このままでは東京と我々の王都が衝突し、両世界とも消滅する! 世界を滅ぼすつもりか!」
アイリスが精霊剣をグラハムに向け、鋭い声で糾弾する。しかし、グラハムは嘲笑うかのように肩をすくめた。
「世界が滅ぶ? 誇大妄想だな、お嬢さん。私はただ、このゲートの出力を一時的に引き上げ、両世界の境界線を近づけているだけだ。小競り合いやちょっとした危機――それさえ演出できれば、世界は恐怖し、魔石資源の価値は跳ね上がり、我が社の軍事技術は両世界で飛躍的に売れる。破滅などしない。これはただの市場開拓なんだよ」
「そのために、魔王の遺骸まで引っ張り出して、街を恐怖に陥れたっていうのか……! 企業としても倫理的にも、完全にブラック企業の極みだね」
僕は冷ややかな視線でグラハムを睨みつける。
「ハズレ勇者君、君のような安定だけを求める平穏な公務員には理解できないだろう。この大融合時代において、真の勝者とは利益を得た者ではない。利益が生まれる仕組みを支配した者だ」
僕は一歩、前に踏み出す。
「親父たちが命がけで守って、みんなで育んできたこの日常を、あんたの一企業の私利私欲ために壊されるのは迷惑なんだよ。悪いけど、そのコンソール、今すぐ停止させてもらうよ」
「できると思うかね? ロートルどもは、まもなく外のサイボーグ魔王によってすり潰される。そして君たちも、ここで私の最新テクノロジーの前に屈することになる」
グラハムが不敵に笑った瞬間、彼の背後の壁が開き、さらなる戦闘用ドローンと、全身を重装甲で固めたサイボーグ兵士たちが姿を現した。
オヤジたちが外で戦ってくれている。 なら、ここで僕たちが引く理由は、どこにもない。
「アイリス、一気に片付けるよ!」
「了解だ、アマノ殿! 私たちの力を見せてやろう!」
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