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【26番外】 ハト・フィーバー

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/1 📚 シリーズ: 時環遊技場 📝 3,591文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。

本文

その店は、街の外れにひっそりと残っていた。

かつては大きな看板が掲げられていたのだろう。けれど今は文字のいくつかが剥がれ落ち、色褪せた外壁には、長い年月を感じさせる汚れが筋になって残っている。

入口のガラス戸には、もう営業案内も新台のポスターもない。ただ、古びた店名だけが、かろうじて読めた。

「ここが、例の店です」

隣で管理人が言った。

店主は建物を見上げた。

「ずいぶん古いですね」

「老朽化の影響で建物を取り壊すことになりまして、その前に中を片付けているんです」

管理人が鍵を取り出す。錆びた鍵が錠前の中で回る。ガチャリ、と重い音がした。

扉を開けると、少し湿った古い空気が流れてきた。

店主は一歩、中へ入る。

照明は落とされている。薄暗い店内には、撤去されたパチンコ台の跡が長く伸びていた。床には島を固定していた金具の跡が残り、ところどころに古い玉が転がっている。

壁には、日焼けしたポスターが何枚か残っていた。

景品カウンターのガラスケース。古い灰皿。壁掛け時計。営業していた頃の名残が、あちこちに取り残されている。

「ほとんど片付けたんですが、こういう細かい物だけは残ってまして」

「こういう店を見るのは久しぶりだ」

店主はゆっくりと店内を歩く。

パチンコ台はもうない。それでも、ここには確かに店があった。

たくさんの人が台に座り、笑ったり、悔しがったりしていたのだろう。

店主は、そういう古い場所が嫌いではなかった。むしろ、好きだった。

古い物には、それを使った人間の時間や記憶が染みついているから。

そして店主は、少し変わった能力があった。長い年月を経た物に触れると、その物が見てきた過去の記憶が、時折、頭の中に流れ込んでくる。

誰が使っていたのか。何があったのか。その物に刻まれた記憶の断片。

いつでも自由に見られるわけではない。ほんの一瞬だけ、過去の景色が浮かぶこともある。

だから店主は、古い物に触れるときには少しだけ慎重になる。

ここにも、いくつもの記憶が残っているはずだった。

店主は景品カウンターの前で足を止めた。

そこには、古びた景品棚が残されていた。ガラスは曇り、金属の縁には細かな傷がついている。店主はその縁に、そっと指を触れた。

――パチン。

何かが弾けたような感覚のあと、目の前の景色が一瞬で変わった。

薄暗かった店内に、明るい照明が戻る。

入口からは昼の光が差し込み、ガラス戸の向こうには青空が見えている。

玉の弾ける音。パチンコ台から流れる音楽。客の話し声。店員の呼び声。

景品カウンターには商品が並び、台と台の間には大勢の客が座っている。

店主は周囲を見回した。

「……ここは」

壁に掛けられたカレンダーが目に入った。大きく、平成五年と書かれている。

「平成五年……」

店主は呟いた。

どうやら、この店がまだ営業していた頃の記憶らしい。そのときだった。入口のほうから、突然、大きな羽音が響いた。

――バサバサバサッ!数羽の鳩が、入口から一気に店内へ侵入してきた。

「鳩だ!」

「うわっ、何羽いるんだ!」

客が一斉に立ち上がる。

「走らないでくださーい!」

店員が叫んだ。

しかし、その声が届くより早く、一人の客が足元のドル箱をつかんだ。

「これで捕まえろ!」

「ドル箱を網代わりに使わないでくださーい!」

店員の悲鳴が店内に響く。

「じゃあどうすんだよ!」

「今、網を持ってきますから!」

「早くしろ!」

「お客様が追いかけるから余計に逃げるんですよ!」

その横では、別の客が新聞を大きく広げていた。

「こっちだ! こっちに追い込め〜!」

「新聞で追い込まないでください!」

「じゃあ何ならいいんだ!」

「だから今、網を――!」

その間にも鳩たちは店内を縦横無尽に飛び回っていた。

一羽が島の上を飛び越える。もう一羽が台と台の間を抜ける。そして一羽が、あるパチンコ台の上にふわりと止まった。

そこを打っていたおじさんが顔をしかめる。

「おい! どけ!」

鳩はクルッポークルッポーと鳴いたままで、動かない。

「俺のリーチが見えねえ!」

隣の客が鳩を見上げた。

「いや、待て」

「何だよ」

「鳩が止まった台は出るんじゃないか…?」

「何でだよ」

「鳩だからだよ。縁起がいいだろ」

「そんなもんか?」

おじさんが半信半疑で鳩を見上げた、その直後。

台から、けたたましい電子音が鳴り響いた。

「……ん?」

図柄が回る。そして――揃った。

大当たり。

「うおおおおっ!」

さっきまで「俺のリーチが見えねえ!」と怒っていたおじさんが、椅子から飛び上がった。

「鳩! お前、最高だぁ!」

鳩は何事もなかったように、台の上で首を傾げている。

「ほら見ろ!」

隣の客が得意げに言った。

「鳩が止まった台は出るんだよ!」

「本当だったのかよ!」

おじさんは大喜びで鳩に向かって祈りのポーズをした。

「鳩様! ありがとう!もっとジャンジャン出してくれ〜!」

その横で、派手な格好のおばちゃんが腕を組んでうなずいていた。

紫色の柄ブラウスに、大きなイヤリング。髪はきれいにセットされ、厚い化粧に真っ赤な口紅。

おばちゃんは飛び回る鳩を見上げる。

「今日は鳩が三羽!」

「四羽いますよ!」

店員が即座に訂正する。

「細かいことはいいの!」

おばちゃんは胸を張った。

「三羽は大当たりよ!」

「何の確率ですか!」

「今日は出るってこと!」

「鳩で確率を決めないでくださーい!」

おばちゃんは聞いていない。

「ほら! あの台よ!」

指差した先には、さっき鳩が止まった台。

「鳩が選んだ台なんだから、打ちなさい!」

「おばちゃん、俺もう打ってるよ!」

「じゃあそのまま打ちなさい!」

「はい!」

なぜか客まで素直だった。

そのとき、景品カウンターのほうから羽音がした。

「今度はそっち!」

一羽が景品カウンターへ飛んでいく。

「追い込め!」

「待ってください! 景品カウンターには入らないでくださーい!」

別の一羽は休憩スペースへ。

「そっち行った!」

「いや、島の上!」

「違う! あっちだ!」

客たちは全員、てんでばらばらの方向を指差している。

「どっちなんだよ!」

「知らねえよ!」

「追いかけてくださーい!」

「だから追いかけるなって言ってるだろ!」

「追いかけないでくださーい!」

店員の声が店内を飛び交う。高く舞い上がっ鳩を客たちが見上げている。

店内は、異様な盛り上がりを見せていた。

「ほら! あの鳩、またあの台に戻ったわよ!」

おばちゃんが叫ぶ。

「本当だ!」

「やっぱり出るんじゃねえか?」

「だから鳩で確率を決めないでくださーい!」

店主は、その過去の光景を呆然と眺めていた。パチンコ店の記憶なのか。

鳩の記憶なのか。もはや分からない。

やがて鳩たちは開け放たれた入口へ向かい、一羽ずつ外へ飛んでいった。

最後の一羽が青空へ消える。ようやく店内に静けさが戻ったところで、記憶が途切れた。

気がつくと、店主は元の店内に戻っていた。景品棚に触れたまま、しばらく立っている。

「……何だったんだ、今のは」

管理人が不思議そうに見る。

「どうしました?」

「この店、昔……鳩が入ってきたことはありませんでしたか?」

管理人が目を丸くした。

「……!どうして知っているのですか!」

「え?」

「ちょっと待ってください」

管理人はポケットから薄型の情報端末を取り出した。画面を操作すると、古い店舗記録が表示される。

「ほら、これです」

店主が画面を覗き込む。

そこには、この店の営業記録と、過去に起きた出来事が簡潔にまとめられていた。

営業記録:平成五年

特記事項:店内に鳩数羽が侵入。客・従業員による捕獲騒動が発生。

「……本当にあったのか」

店主が呟く。

「ええ。この建物がまだ営業していた頃です」

管理人は画面をスクロールした。そこには、当時の店員が残した短い記録まで保存されていた。

『鳩、無事退店。ドル箱による捕獲は失敗。』

店主は思わず吹き出した。

「ドル箱……」

「これも記録に残ってますね」

管理人も笑う。

店主は画面を見ながら、さっき見た記憶を思い出していた。

あの騒ぎ。鳩を追いかける客たち。新聞を振り回す客。そして、鳩が止まった台で大当たりして大喜びしていたおじさん。

「……もう一つ、聞きたいことがあるのですが」

「何です?」

「派手な服を着て、化粧をしていた女性もいましたか?」

管理人は端末を操作する手を止めた。

「……いましたね」

「やっぱり」

「当時の常連さんです。鳩が入った日、『今日は出る』と言い張っていたとか」

店主は黙った。

「……それも記録に?」

「ええ」

管理人は端末を見せた。

『常連客の女性、鳩を吉兆と主張。根拠なし。』

店主はとうとう笑った。

「ずいぶん細かく残しているのですね」

「この店、昔から変なことが起きるたびに誰かが記録してたみたいですよ」

管理人はそう言って端末をしまった。

店主は、もう一度だけ店内を見回す。

誰もいない。鳩もいない。パチンコ台もない。

けれど、ここには確かに、そんな騒がしい一日が過去にあった。

店主は少し笑って、出口へ向かった。

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作者について

蘇轍

ぱちんこは、「遊ぶための機械」でありながら、「機械そのものを眺めるための機械」でもある。

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