【27番外】リクエストは時環遊技場で
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
午後の時環遊技場に、DJ-Spinがやってきた。
「店主、また来たよ」
カウンターから顔を上げた店主が、いつものように笑う。
「おや、Spinさん。今日はライブですか?」
「今日は違うんだ。新曲を作っててさ。ちょっと音を録らせてもらおうと思って」
「どうぞ。お客様の邪魔にならないようにしてくださいね」
「もちろん!」
Spinは店内を見回した。
古い遊技台が並び、玉が釘に弾かれる音、役物が動く音、台から流れる電子音、客たちの話し声が重なっている。
以前ここで録音したときも、そうだった。 未来都市では、欲しい音はデータとしてすぐに呼び出せる。けれど、この店には、その場にいなければ録れない音がいくつもある。
Spinが録音機材を取り出していると、一体のロボット客が近づいてきた。
「……あの、DJ-Spinさんですよね?」
「そうだけど?」
「私、知ってます。曲、よく聴いてます」
「おお、ありがとう!」
Spinが嬉しそうに笑う。
DJ-Spinは、この時代ではそれなりに名の知られたDJだった。新しいロボット客も、その名前を知っていたらしい。
「今日は新曲の音源録りですか?」
「そう。ここ、音が面白いからさ」
「分かります。いろんな音があるのに、まとまって聞こえますよね」
「そうなんだよ!」
Spinが頷いた。
「君、音楽やるの?」
「得意なほうです」
「へえ。じゃあ、今度一緒に――」
そのとき、入口の扉が開いた。
「こんにちは。お久しぶりです」
入ってきたのは、以前にもこの店を訪れた研究員だった。
「お久しぶりですね。今日は調査ですか?」
店主に迎えられ、研究員は端末を取り出した。遊技場で以前から確認されている現象について、今日は少し詳しく調べるらしい。
ところが、店内にいるSpinを見つけると、足を止めた。
「……DJ-Spin?」
「お、研究員〜! 久しぶり!」
二人が挨拶を交わす間にも、研究員は店内の音を測定し始める。時環遊技場では、ときどき通常では説明できない現象が起こる。そのため、音響データも調査対象の一つだった。
それを見ていたロボット客が、研究員の端末を覗き込む。
「音響測定用ですか?」
「そうです。この店は少し特殊ですから」
「私、音楽をやっているので、こういうものには興味があります」
研究員が顔を上げる。
「音楽を?」
「ええ」
「私も昔、少しかじったことがあります」
Spinが二人を見比べた。
「えっ、研究員も?」
「本当に少しですよ」
そう言いながら、研究員がデバイスを操作すると、何もない空間に小型の楽器が現れた。
「……少し?」
Spinが目を丸くする。
ロボット客も笑い、自分のデバイスから別の楽器と作曲用の機器を呼び出した。
「うわ、何それ!」
「作曲補助用です。家に置いてあるものを呼び出せます」
「便利だなあ」
「今は、こういうのが普通ですから」
研究員も頷いた。
三人がそれぞれの機材を眺めていると、店主がふと思い出したように言った。
「そういえば、昔のパチンコホールには、専属のディスクジョッキーがいた店もあったそうですよ」
Spinが振り返る。
「店員さんがDJを?」
「ええ。お客様からリクエストを聞いて、流行していた曲などを流していたそうです」
「へえ!」
Spinの顔が一気に明るくなった。
「それ、やってみようよ」
「ここでですか?」
研究員が少し驚く。
「そう! お客さんから昔聴いてた曲をリクエストしてもらって、俺たちでアレンジして流すの」
ロボット客も頷いた。
「面白そうですね」
「でしょ!」
すっかり乗り気になったSpinを見て、店主も笑った。
「それなら、まずは昔のものを見てみますか」
「昔のもの?」
店主が従業員アンドロイドに声をかけると、しばらくして店の奥から、何枚かのレコードが運ばれてきた。その後ろにはCDやカセットテープも並んでいる。
ロボット客が首を傾げた。
「……これは?」
研究員もレコードを覗き込む。
「円盤……ですか?」
「え、二人ともレコード知らないの?」
「知りません」
「僕もです」
「マジかあ」
Spinはレコードを一枚手に取った。
「これはレコード。昔の音楽を記録するものだよ」
「これに音楽が?」
「そう。俺、前に店主に見せてもらったんだ」
従業員アンドロイドがCDとカセットテープについても説明する。
研究員はカセットテープを手に取った。
「これも音楽を記録するんですか?」
「はい」
「ずいぶん物理的ですね」
「昔は、こういうものを持ち歩いて音楽を聴いてたんだって」
Spinが笑う。
店主がレコードプレーヤーにレコードを載せ、針を落とした。
ザッ……。
小さなノイズのあと、古い音楽が流れ始める。
三人は黙って聴いた。
曲が終わると、研究員がレコードを眺めながら呟く。
「今は、聴きたい曲ならその場ですぐ呼び出せますよね」
「そうそう」
Spinも頷いた。
「好きな曲を選べば、すぐ聴ける。音もきれいだし、便利だよね」
それから、レコードの溝を覗き込む。
「でも、こういうのもいいよね」
「どこがですか?」
Spinは少し考えた。
「うーん……なんていうか、音に味があるっていうか」
「このザッていう音とかさ。ちょっと古くて、ちょっと不完全で。でも、なんか良いんだよね」
ロボット客も、もう一度レコードを見る。
「……分かる気がします」
「でしょ?」
Spinが嬉しそうに笑う。
「だから、昔の音も未来の音も、どっちも使ってみたいんだよ」
研究員が作曲用の機器を起動した。
「それなら、両方合わせてみましょうか」
「それそれ!」
Spinが機器を操作すると、彼の周囲に淡い光が浮かび上がった。
腰のあたりから頭上まで、いくつもの細い光のバーが円を描くように並び、音に合わせて伸びたり縮んだりしている。
オーディオスペクトラムを立体化した、円形のホログラムだった。
どこかの台の玉が釘に弾かれる。
その瞬間、光の輪の一部が鋭く跳ね上がった。
続けて別の玉が落ちると、今度は反対側の光が細かく揺れる。
役モノが動けば別の帯域が大きく動き、台の電子音が鳴れば、その周囲に細かな光が走った。
「……おお」
Spin自身も思わず声を漏らした。
店内の音が、すべて光になっている。
玉の音。役物モノの音。古い電子音。
客たちの話し声。それぞれが違う動きをしながら、Spinの周囲を円になって回っていた。
「これ……」
Spinはホログラムを眺めながら笑った。
「パチンコが演奏してるじゃん!!」
研究員も、その光景を興味深そうに見つめていた。
「音を可視化しているだけなのに、まるで店全体が楽器みたいですね」
「そうだよ。だから面白いんだ」
Spinは笑った。
「この店の音、全部使おう」
こうして、即席のDJ企画が始まった。
従業員アンドロイドがマイクを手に取り、店内にリクエストを呼びかける。すると、ほどなくしてあちこちから声が上がった。
「昔よく聴いてた曲なんだけど、いいかい?」
「もちろん!」
最初のリクエストが入ると、研究員が曲を作曲用デバイスに読み込み、ロボット客が音の構成を確認する。その横でSpinは、時環遊技場の音を拾っていった。
玉の音。古い遊技台の電子音。レコードの小さなノイズ。
そこへ三人の作る音が重なる。Spinの周囲で、円形のホログラムが大きく揺れた。
曲のリズムに合わせて光の輪が回り、玉が弾かれるたび、その一部分だけが鋭く跳ねる。
知っているはずの曲が、少し違った姿になって店内へ流れ始めた。
リクエストした客は、しばらく黙って聴いていた。
「……いやぁ、凄く良かったよ、良いアレンジだね」
Spinが笑う。
「ありがとうございました!」
すぐに次のリクエストが入る。
今度は、少し軽快な曲だった。
「この曲、昔から好きなんです」
「じゃあ、ちょっと踊れる感じにしようか」
Spinがビートを刻むと、ロボット客が音を重ね、研究員が未来の機器で調整する。
そのたびに、Spinの周囲の光も形を変えた。
人間の客。アンドロイドの客。ロボットの客。世代も姿も違う客たちから、次々にリクエストが寄せられてくる。
そのたびに三人は、その曲の雰囲気を残しながら、自分たちなりの音を加えていった。
研究員は最初こそ調査用の端末を手元に置いていたが、いつの間にか作曲用の機器ばかり触っている。
「研究員〜?」
Spinが横から声をかける。
「はい?」
「調査は?」
研究員が自分の端末を見る。
「……しています」
「その機械、作曲用じゃない?」
「……そうですね」
ロボット客が笑い、研究員も苦笑した。
「少しだけ、こちらが気になってしまって」
「研究員、もう完全にこっち側じゃん」
「……否定できません」
三人は顔を見合わせて笑った。
やがて、最後のリクエストが終わった。
店内には、今日一日で集まったいくつもの音が残っている。Spinはしばらくそれを聴いてから、二人を振り返った。
「ねえ」
「何ですか?」
「これだけ音が集まったんだからさ」
Spinが笑う。
「俺たちの曲も作らない?」
ロボット客が頷いた。
「いいですね!」
研究員も少し考えてから、笑った。
「……やりましょう」
三人が、それぞれのデバイスを起動する。
研究員が旋律を組み、ロボット客が音を重ね、Spinがビートを作る。そこへ、今日この店で鳴った音を加えていく。
レコードの針が拾った小さなノイズ。
古い遊技台の電子音。客の笑い声。
店内のざわめき。そして、三人の音楽。
音が重なるたび、Spinを取り囲む光の輪も増えていった。
一重だったスペクトラムが二重になり、さらにその外側へもう一つの輪が浮かぶ。
それぞれの輪が違うリズムで動きながら、やがて一つの流れになっていく。
何度も聴き直し、少しずつ調整する。
最初はただの音の集まりだったものが、いつの間にか一つの曲になっていた。
最後の音が消える。
Spinの周囲に浮かんでいた光の輪も、ゆっくりと動きを止めた。
「……できた」
Spinが呟いた。
研究員が再生画面を眺める。
「本当に、ここで一曲完成しましたね」
「うん」
ロボット客が笑う。
「また、この三人で作りたいですね」
「もちろん!」
Spinが答えた。
研究員も頷く。
「次に来るときは、調査だけではなく、作曲の準備もしてきます」
「研究員、もう調査がついでになってない?」
「……それは、次回考えます」
三人の笑い声が、店内に残った。
店主はカウンターからその様子を眺めながら、静かに笑っている。
昔のホールでは、客のリクエストを受け、DJがレコードを流していた。今は、未来の機器で音を作り、古い遊技台の音まで曲になる。そして、その音は光になって、Spinの周囲を回っていた。
時代が変わっても、誰かの「この曲が聴きたい」という気持ちは、きっと変わらない。
その日、時環遊技場で生まれた一曲は、誰か一人のものではなかった。
昔の曲を聴いていた客。未来の音楽を作る三人。そして、古い遊技台が今も鳴らし続けている音。それぞれの時代の音が重なって、一本の曲になった。
未来都市では、聴きたい音楽をいつでも呼び出せる。けれど、あの日、あの店でしか生まれなかった音がある。
時環遊技場では今日も、誰かの記憶と音が、静かに重なっていた。
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