第28話 ゲートの暴走
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう! 発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!? コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」 オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。
本文
「さて、ハズレ勇者の君に、我が社の最新テクノロジーを前にして、一体何秒耐えられるかな?」
グラハムが優雅に手を振ると同時に、戦闘用ドローンの銃口が一斉に僕たちに向けられた。
だが、僕の隣に立つシルバーエルフの聖騎士は、怯むどころかむしろその長い銀髪を不敵に揺らし、透き通るようなブルーの瞳を爛々と輝かせていた。
「ここは私が前衛を引き受ける アマノ殿はあの傲慢な社長の顔面に怒りの鉄槌を!」
「まかしてくれ」
と言った瞬間、ドローンが一斉に火を噴いた。
「ズバババババババッ!!」
放たれたのは、先ほどの私兵たちが使っていたものと同等の、魔力を喰い破る特性を持った黒魔石の特殊弾頭だ。
通路を埋め尽くすほどの弾幕だが、数はさっきの戦闘より少なかった。僕の脳細胞は、飛んでくるすべての弾丸の軌道を一瞬でパパッと弾き出していた。
「出力固定――ディバイド(境界分離)!」
「バキッ」
空間がガラスのように軋む音が響く。
僕たちの前面には、目に見えない空間の壁だ。
グラハムの誇る最新鋭ドローンから放たれた弾丸は、僕たちのわずか数十センチ手前で、まるで目に見えない壁に衝突したかのようにその場で静止し、そのまま真下の床へとバラバラと垂直に落ちていった。
「な……ッ!? 弾道が完全に減衰しただと!?」
サイボーグ兵士の一人が驚愕の声を漏らす。グラハムもまた、その機械化された左目を細め、不快そうに眉をひそめた。
「なるほど、空間をつなげるだけのハズレ能力だと聞いていたが、空間を操作してそんなことも出来るのか」
「お褒めに預かり光栄だよ、社長。でもね、公務員の仕事っていうのは、こういう地味なリスク管理の積み重ねで成り立ってるんでね!」
僕は叫びながら、今度は左手を前方に突き出した。
「次はこっちの番だ! アイリス、突撃!」
「応ともさ! 精霊よ、我が剣に力を!」
アイリスが愛用の精霊剣を高く掲げると、周囲に漂っていた風のエネルギーが、一気にその刃へと収束していった。
僕はアイリスが踏み出す一歩の先と、サイボーグ兵士たちの防衛陣形のド真ん中を直接繋ぎ合わせる。
「リンク――最短ルートでショートカットだ!」
フッ、とアイリスの姿が僕の隣から消えた。
次の瞬間には、彼女は重装甲サイボーグ兵士たちの背後に音もなく出現していた。最新のサイバネティクスで反射速度を強化された兵士たちであっても、一瞬で目の前にワープしてくるという僕のハズレ能力の応用戦術には、反応が追いつかない。
「なっ、後ろ――」
「遅い! 『エアリアル・クルクシア』!!」
アイリスの精霊剣が、強烈な緑色の烈風を伴って十文字に駆け抜けた。
風の精霊が放つ衝撃波が、サイボーグ兵士たちの重装甲を叩き割り、その巨体をまとめてドローン群へと吹き飛ばす。
金属の擦れる嫌な音と、電子部品がショートする激しい火花が冷たい床に散らばった。
「見事だ、アイリス! そのまま制御コンソールへ!」
「うむ! このままグラハムを捕縛し、ゲートの暴走を停止させる!」
アイリスが床を蹴り、グラハムの立つ制御コンソールへと肉薄する。
しかし、グラハム・レイノスという男は、自社の私兵やサイボーグ兵士が瞬殺されてもなお、その冷徹な笑みを崩してはいなかった。
それどころか、彼の機械化された半面が、より一層深い紫色の光を放ち始めたのだ。
「素晴らしい。君の空間戦術は実に計算通りで無駄がない。だがね、計算通りすぎる行動というのは、パターンが読み取りやすく、それだけで簡単に崩壊するものだ」
グラハムが制御コンソールのレバーを引き下げた。その瞬間、僕たちの頭上で脈打っていた巨大な球体が、ドクン、と大きく脈打った。
「ズゥゥゥゥゥン……!!」
プラント全体を揺るがすような重低音。
そこから溢れ出してきたのは、これまでとは比較にならないほどの質量を持った漆黒の魔力だった。その魔力は、グラハムの背後にある制御コンソールを介して、中枢プラント全体へと急速に浸透していく。
「ガ、ギギィィィッ……!!」
外の通路から、あのサイボーグ魔王の地鳴りのような咆哮が響いてきた。それと同時に、僕たちの目の前にある制御コンソール自体が、その漆黒の魔力を吸い上げてドロドロとした有機的な機械へと変貌を始めていく。
物理法則の崩壊が、この制御室でも一段と加速していた。空間が歪み、僕の脳に直接、刺すような激痛が走る。
「う、ぐあッ……!?」
僕は思わず頭を抱えて、その場に膝をついた。
ゲートが暴走したせいで、周囲の空間そのものがグニャグニャにバグってしまっている。
部屋の縦・横・高さの基準がめちゃくちゃに乱れたせいで、僕がミリ単位で空間の隙間を計算しようとするたびに、バグった計算データが脳に逆流してオーバーヒートを起こしてしまうのだ。
「アマノ殿!? 大丈夫か!」
グラハムへ突撃していたアイリスが、慌てて僕の元へと引き返してくる。
「来ちゃダメだ、アイリス……! 周囲の空間の接続点が狂ってる! 下手に動くと体の一部が別の場所に転送されかねない!」
「な、何だと……!?」
グラハムはコンソールの前で、傲慢に腕を組んで僕たちを見下ろしていた。
「気づいたようだな。君の空間能力は便利だが、それは正常な空間という土台があってこそだ。この新宿ゲートの中枢は、今や両世界の物理法則が混ざり合い、崩壊しつつある特異点。計算なんて最初から成り立たないのさ」
グラハムの言葉通りだった。僕がどんなに脳をフル回転させて空間を繋ごうとしても、ノイズが混ざったように座標がブレてしまう。
これでは、敵の攻撃を転送することも、アイリスを敵の死角へ送り込むこともできない。
「大融合時代の勇者たちは、こういう状況を気合と腕力という理不尽で強引に突破したのだろうがね」
グラハムは、外で今も戦っているであろう親父たちの世代を嘲笑うように言った。
「だが、君みたいに頭脳戦気取りの能力者に、その泥臭い真似ができるかな? ルール無用の混沌の前では、君の自慢の空間計算もただのゴミクズだ。さあ、両世界の戦争を演出するための、最初の犠牲者になってもらおう!」
グラハムの合図とともに、さらに奥のハッチから、新型の重装甲ドローンが次々と這い出てくる。空間計算が封じられ、脳はオーバーヒート寸前。
アイリスの精霊剣の光も、暴走するゲートの圧倒的な漆黒の魔力に押されて、徐々に細くなっていた。
圧倒的なレイノスの火力と、崩壊していく物理法則。僕たちは、新宿ゲートの最深部で、真の絶望的な窮地へと追い詰められようとしていた。
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