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1-16 旅立ちの許可

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/6 📚 シリーズ: アストラリア大陸事変 📝 5,946文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王亡き世界で、再び魔の時代が動き出す。 魔王ゼルヴァディスが討たれてから、六百二十八年。 平和を取り戻したアストラリア大陸では、三つの主要勢力が微妙な均衡を保ちながら共存していた。 しかし、今なお人の立ち入れない旧魔王領では、魔物たちが静かに活動範囲を広げ始めていた。 各地では怪しい薬が出回り、魔王を崇める新興宗教も勢力を増していく。 そんな異変をまだ知らず、自由交易都市に暮らす青年レオン・ヴェスタは、見知らぬ世界を求めて旅立つ。 やがて彼は、森の外へ憧れる若きエルフの癒し手フィリアと、その護衛リュシアに出会う。 三人の小さな旅立ちは、やがて国家、宗教、人間、魔物――大陸に生きる者すべてを巻き込む事変へ繋がっていく。 善と悪の境界が揺らぐ世界で、彼らは何を知り、何を選ぶのか。 これは、魔王亡き世界で再び動き始めた、魔の時代を巡る物語。

本文

新暦628年4月8日、午後。

エルフの里の奥にある、アルヴァン・エルフェリアの家。

その来賓室には、五人の姿があった。

フィリアとレオンは、並ぶようにして柔らかなソファーに腰掛けている。

二人の背後には、リュシアが静かに控えていた。

対面には、アルヴァンとメリア。

部屋の中央には低い卓が置かれ、そこへアルヴァン付きの侍女が、

人数分の茶器を丁寧に並べていく。

香りの良い茶が注がれると、ふわりと淡い湯気が立ちのぼった。

侍女は一礼し、音もなく部屋を出ていく。

扉が閉まったのを確認すると、

フィリアが待ちきれないとばかりに身を乗り出した。

「それで、お話ってなに? おじいちゃん」

その声には、期待と不安が入り混じっている。

アルヴァンは穏やかに微笑み、まずは茶器を手に取った。

「そうだね。話を始める前に、軽く自己紹介をしておこうか。

初めて会う方もいるからね」

そう言って、アルヴァンはレオンへ視線を向ける。

「私はアルヴァン・エルフェリア。

この里で長老を務めている者だ。フィリアの祖父でもある」

「あなたが、あの有名なエルフの里の長老様なのですね」

レオンは少し背筋を正し、丁寧に頭を下げた。

「レオン・ヴェスタです。

ヴェントゥス自由交易都市から来ました。冒険者をしています」

「ふむ。レオン君だね。フィリアと仲良くしてもらっているみたいだね」

「レオンは私なんかよりずっと外の世界に詳しいし、

魔鉱石のことにも詳しかったり、色々物知りで、すごい人だよ!」

「フィリア様」

背後から、リュシアの落ち着いた声が飛ぶ。

「話が逸れます」

「あ、はい……」

フィリアは小さく肩をすくめ、素直に座り直した。

その様子に、アルヴァンとメリアが微かに笑う。

場の空気が少しだけ和らいだところで、

アルヴァンは改めてメリアへ視線を向けた。

「それで、メリア。改めて、レオン君を前にしてどうかな?」

その問いに、メリアはゆっくりと目を細めた。

彼女はレオンを見た。

ただ見る、というよりも、その奥にある何かを確かめるように。

レオンはその視線に、少しだけ背筋を伸ばす。

やがて、メリアは静かに頷いた。

「ああ。レオン君をこの眼で見た今、はっきりと分かるよ。

この子が、フィリアちゃんの運命の日に現れるはずだった子で間違いない」

その言葉に、最も大きく反応したのはフィリアだった。

「えっ」

ぱちぱちと瞬きをしたあと、フィリアは勢いよくメリアへ身を乗り出した。

「それってつまり、

この前言ってた占いの相手がレオンってこと!? おばさん!」

「そういうことになるねぇ」

メリアがのんびりと答える。

その瞬間、フィリアの頬がみるみる赤く染まっていった。

彼女はゆっくりとソファーに座り直すと、両手を頬に当てる。

そして隣に座るレオンをちらりと見た。

レオンは、何が起きているのか完全には掴めていない顔をしている。

「ということは……レオンが、私の運命の相手だったのね……」

ぽつりと呟いた声は、本人が思っているよりもはっきり部屋に響いた。

「落ち着いてください、フィリア様」

背後から、リュシアの冷静な声が差し込まれる。

「運命の日に現れる相手というだけで、

フィリア様の運命の人というわけではありません」

「そ、そうかな……」

フィリアはなおも顔を赤くしたまま、視線を泳がせる。

メリアは口元に手を当て、楽しそうに微笑んだ。

「ふふふ。どうかしらねぇ。確かに、

運命の相手かどうかは分からないけれど……もしかしたら、

そういう関係になることもあるかもしれないねぇ」

「わ、わわわぁ……!」

フィリアの顔が、さらに赤くなる。

レオンは困ったように頬をかいた。

「えっと……その、俺はどう反応すれば……」

「何も反応しなくて結構です」

リュシアが即答する。

「今のフィリア様は、少々浮かれているだけですので」

「浮かれてないもん!」

「浮かれています」

フィリアが頬を膨らませる。

そんな二人のやり取りを見て、アルヴァンは目を細めた。

けれど、その表情はすぐに穏やかなものから、

少しだけ真剣なものへと変わる。

リュシアもそれを察したのか、軽く咳払いをした。

「それで、アルヴァン様。本題はなんでしょうか」

「ああ。そうだったね」

アルヴァンは茶器を置き、フィリアへ向き直った。

「フィリア」

「なあに?」

「外の世界に出たいという気持ちは、まだ変わっていないかい?」

その問いに、フィリアは少し驚いた顔をした。

だが、次の瞬間には迷いなく頷く。

「うん! 変わってないよ! むしろ、前より強いくらいだよ!」

その答えは、あまりにも真っ直ぐだった。

アルヴァンは小さく息を吐く。

「そうかい……」

それから、ゆっくりと言葉を選ぶように続けた。

「でもね、フィリア。何度も言うようだけれど、

外の世界は確かに魅力あるもので溢れている。

お前が知らない景色も、文化も、人々も、きっとたくさんあるだろう」

フィリアは真剣な顔で聞いている。

「だけど、それと同じくらい、危険も溢れているんだ」

「その話は何回も聞いたわ」

フィリアは少しだけ唇を尖らせた。

「いくら危ないって言われても、私には分からないよ。

だって、外の世界を見たことがないもの」

その言葉に、部屋の空気が静かになる。

アルヴァンはフィリアを見つめた。

長い年月を生きてきた瞳。

その奥には、孫娘を守りたいという想いと、

守るだけでは届かない場所があることを知っている

諦めにも似た理解があった。

「そうだね。この話は何度もしてきた。

今さら同じことを言っても、何も変わらないのだろう」

フィリアは少しだけ目を伏せる。

けれど、アルヴァンの次の言葉に、顔を上げた。

「だけど、フィリア。今は少し事情が変わったんだ」

「事情?」

「ああ。もし外の世界に出たなら、

お前の身に試練が降りかかるかもしれない」

「試練……?」

フィリアの声が、小さく揺れる。

「どういうこと、おじいちゃん」

アルヴァンは一度、口を開いた。

「そのままの意味さ。いや、ともすると、この――」

そこで、メリアが静かに首を横に振った。

アルヴァンはその先を言いかけて、止める。

――確かに、これ以上は言う必要がないね。

そして、改めてフィリアを見つめた。

「フィリア。これ以上、言葉ではお前を引き留めることはできなさそうだ」

「おじいちゃん……?」

「だから」

アルヴァンは、静かに告げた。

「外の世界を、見てくるかい?」

一瞬、フィリアは言葉を失った。

「え……?」

目を丸くし、アルヴァンを見つめる。

「それって……外に出てもいいってこと……?」

アルヴァンは、ゆっくりと頷いた。

その瞬間。

「……」

フィリアの表情が、ぱっと花開いた。

「……やった」

小さな声が漏れる。

次の瞬間、彼女はソファーから飛び上がった。

「やったああああ!!」

両手を大きく上げて、その場でぴょんぴょんと跳ねる。

「本当に!? 本当に外に出てもいいの!?

 夢じゃないよね!? リュシア、ほっぺつねって!」

「嫌です」

「なんで!?」

「痛いからです」

「私のほっぺだよ!?」

「なおさらです」

いつもの調子で返すリュシアの声にも、どこか柔らかさがあった。

フィリアは満面の笑みでアルヴァンへ駆け寄る。

「ありがとう!! おじいちゃん!」

アルヴァンは目を細め、頷いた。

「ただし、条件がある」

「条件?」

「リュシアと一緒に行くこと。そして、無茶はしないこと」

「分かった!」

即答だった。

その速さに、リュシアがわずかに眉を動かす。

「今の返事、絶対に深く考えていませんね」

「考えたもん!」

「では、無茶とは何か説明してください」

「えっと……すごく危ないこと?」

「雑です」

レオンは思わず苦笑した。

アルヴァンもまた、小さく笑う。

それから、彼はリュシアへ視線を向けた。

「リュシアや」

「はい」

「フィリアを頼めるかい?」

リュシアは迷わなかった。

「もちろんです。

このお嬢様一人では危なっかしくて放っておけませんので」

「リュシア!」

「事実です」

そう言いながらも、リュシアの表情は真剣だった。

「ですが、アルヴァン様」

彼女は一度言葉を切る。

「何故、急に……いえ。これは後ほど聞かせていただきます」

「そうだね。その方がいい」

アルヴァンは静かに頷いた。

そして今度は、レオンへ向き直る。

「レオン君」

「はい」

「君は旅をしていると言っていたね」

「はい。エルフの里への届け物を終えた後も、

しばらくは大陸を回るつもりです」

「もしよければ、この二人も一緒に同行させてくれないかね。

もちろん、無理にとは言わない」

レオンはすぐには答えなかった。

顎に手を当て、考え込む。

アルヴァンが言っていた、フィリアに降りかかる試練。

ノクティス教団。宿場町で見た謎の薬。

胸騒ぎの種は、旅立った時より明らかに増えている。

けれど。

レオンは、不思議と目を背けてはいけない気がした。

ここで断れば、楽なのかもしれない。

一人旅なら、責任は自分一人で済む。

だが、目の前の少女は外の世界を見たがっている。

その目は、あまりにも真っ直ぐだった。

そしてリュシアは、彼女を守る覚悟をすでに決めている。

ならば、自分はどうするのか。

レオンは顔を上げた。

「はい。いいですよ」

フィリアの顔が、ぱっと明るくなる。

レオンは続けた。

「むしろ、俺の方こそお供させていただきます、という感じです。

フィリアさんもリュシアさんも、俺よりずっと特別な方たちでしょうし」

レオンが笑うと、フィリアは勢いよく彼の手を握った。

「やったぁ! レオン、ありがとう!」

「わっ」

フィリアはそのまま、レオンの手をぶんぶんと上下に振る。

「これから一緒に旅だね! 外の世界だね!

 森の外だね! 王国とか、街とか、宿屋とか、

屋台とか、あと、えっと、すごく大きい橋とか見られるかな!?」

「見られるかもしれませんね」

「本当に!?」

「たぶん」

「たぶんでも嬉しい!」

「フィリア様、少し落ち着いてください。レオンさんの腕が外れます」

「あっ、ごめんね!」

フィリアは慌てて手を離した。

「ははは。よろしくお願いします」

「うん! よろしくね、レオン!」

アルヴァンはその様子を見て、深く頷いた。

「ふむ。感謝するよ、レオン君」

「いえ」

「旅立ちはいつにする予定かな?」

レオンは少し考える。

「そうですね。俺は明日には出ようと思っていましたが、

フィリアさんたちの準備もあると思います

し……四月十日か十一日ですかね?」

「四月十日で十分間に合いますよ」

即座に答えたのはリュシアだった。

「フィリア様の旅支度はこちらで整えます。

必要なものは私が把握していますので」

「さすがリュシア!」

「フィリア様が把握していなさすぎるだけです」

「ひどい!」

レオンはまた苦笑しながら頷いた。

「そうですか。では、四月十日にしましょうか」

「四月十日だね。分かった」

アルヴァンはそう言うと、少しだけ表情を改めた。

「こちらも、旅立つ前に少し渡したいものがある。

出発前に、もう一度ここへ寄ってくれるかい?」

「承知しました」

レオンは丁寧に頭を下げる。

こうして、話し合いは終わった。

フィリアは完全に浮かれた様子で、部屋を出ていく。

「外の世界〜、外の世界〜」

小さく歌うように呟きながら、扉の向こうへ消えていった。

レオンもその後を追う。

「フィリアさん、廊下で走ると危ないですよ」

「大丈夫! 今の私は転んでも楽しい気がする!」

「それは大丈夫じゃないと思います」

二人の声が、遠ざかっていく。

やがて、来賓室にはアルヴァン、メリア、リュシアの三人だけが残った。

リュシアはしばらく扉を見つめていたが、

やがて静かにアルヴァンへ向き直る。

「それで、アルヴァン様」

その声は、先ほどまでとは違っていた。

侍女としての礼儀は保っている。

しかしそこには、フィリアを守る者としての強い意志があった。

「何故、急に気が変わられたのですか?」

アルヴァンは答えない。

リュシアは続ける。

「もしかして、先ほどフィリア様に降りかかるとおっしゃられていた

試練というものと、何か関係があるのでしょうか」

アルヴァンは少しの間、考えるように目を伏せた。

やがて、メリアへ視線を向ける。

メリアは静かに頷いた。

それを確認してから、アルヴァンは口を開く。

「メリアの占いだよ」

「占い、ですか」

「ああ」

アルヴァンは、言葉を選びながら語り始めた。

フィリアをこのまま里に留めた場合の未来。

そして、外の世界へ旅立たせた場合の未来。

その詳細をすべて語ったわけではない。

メリアの力についても、ただの占いとして伏せたままだった。

それでもリュシアには十分だった。

彼女は俯き、しばらく考え込む。

「なるほど……」

小さく呟く。

「何か、我々の知らないところで、

とてつもないことが起きようとしているのかもしれませんね」

アルヴァンも、メリアも答えない。

リュシアはさらに続けた。

「そして、それを止める鍵はフィリア様。

いえ、もしかすると、レオンさんも……」

「ええ。まあ、あくまでも占いでしかないのだけれどねぇ」

メリアは柔らかくそう言った。

だが、その声音は軽くない。

リュシアはもう一度深く考えたあと、顔を上げた。

そして、アルヴァンとメリアを真っ直ぐに見つめる。

「改めて、承りました」

彼女は静かに、しかし確かに言った。

「フィリア様のことはお任せください。

何があっても、私が必ずフィリア様をお守りします」

その言葉には、迷いがなかった。

アルヴァンはゆっくりと頷く。

「ああ。頼むよ」

「はい」

「でもね、リュシア」

「はい?」

アルヴァンの声が、少しだけ柔らかくなる。

「君も、せっかくだから楽しんできなさい」

リュシアが目を瞬かせる。

「私も、ですか」

「ああ。君も外の世界が気になっていたんだろう?」

その問いに、リュシアは珍しく言葉を詰まらせた。

そして、ほんの少しだけ頬を赤らめる。

「……はい。気には、なっていました」

「なら、見てくるといい。フィリアを守ることは大切だ。

けれど、君自身の目で世界を見ることも、きっと無駄にはならない」

リュシアはしばらく黙っていた。

やがて、静かに頭を下げる。

「それでは、私もできるだけ外の世界を見て回ろうと思います」

「ああ。楽しんできなさい」

「はい」

リュシアはもう一度深く礼をすると、来賓室を出ていった。

扉が閉まる。

部屋には、アルヴァンとメリアだけが残された。

しばしの沈黙。

メリアは湯気の薄くなった茶を見下ろし、ふぅ、と息をついた。

「さて、どうなるかねぇ」

アルヴァンは窓の外へ目を向けた。

森の向こう。

まだ見ぬ外の世界へ。

「どうなるかは分からない」

彼は静かに言った。

「決まった未来など、ないのだからね」

メリアが目を細める。

「そうだねぇ」

アルヴァンは続けた。

「だから、若者たちに任せようじゃないか」

「私たちは裏方に徹するとしようかね」

メリアはそう言って、茶器を手に取った。

アルヴァンも同じように茶を口へ運ぶ。

二人は黙って茶をすすった。

外の世界へ踏み出す若者たちの、明るい未来を願いながら。

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