星空に瞬く夢物語フェアリィ・ティアラ
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あらすじ
◇あらすじ 「私、白鷺あんな。小さな頃に観た変身ヒロインアニメに憧れて、声優になったごく普通の女の子♪ある日怪人に襲われてる女の子を助けたら…ってえぇ~っ!怪人?!何?!どういう事〜っ?!」
本文
☆第2話 あの人は誰?! 変身ヒロインの秘密
『愛と! 光の! プリティー! プリンセしゅっ……!』
噛んだーーーっ!
防音ガラスの向こうで、ディレクターさんが目を閉じた。
音響さんも苦笑い。
そしてブースの中には、なんとも言えない沈黙が落ちる。
「……ストーーーップ。あんなちゃん、落ち着いて? もう一度いこう」
「は、はいっ!」
私はマイクの前で姿勢を正した。
大丈夫、落ち着けばいい。
ただの台詞、いつも通りに。
何度も練習した。
なのに。
『愛と! 光の! プリティー! プリンしぇしゅっ……!』
また噛んだ、さっきより酷く。
「…………」
「…………」
「…………」
ブース内の空気が凍った。
いや、違う。
今のは私のせいじゃない。
たぶん舌が悪い。私の舌が勝手に反乱を起こしたんだ。
「……あんなちゃん」
「はい……」
「もう一回、いこうか」
「はい……!」
お願いだからそんな優しい声で言わないでください!余計に申し訳なくなるから!
私は目を閉じ、深く息を吸った。
その瞬間、脳裏に浮かんだ。
銀色の髪。
ツインテール。
小さな王冠。
フリル。
ミニスカート。
そして――。
ガチムチ。
「ひっ」
思わず小さな声が漏れた。
「どうしたの、あんなちゃん?」
「な、なんでもありません!」
危ない、集中しろ。
あれを考えちゃダメだ、あれは忘れる。
忘れるんだ。
そう。
あれは夢だった。ちょっと悪趣味な夢。ものすごくリアルな夢。夢だと思いたい夢。
……でも、助けてもらった。
それだけは事実だった。
「では、もう一度いきまーす」
スタッフさんの声。
私はマイクに向き直った。
『愛と! 光の! プリティープリンセス!』
今度は噛まなかった。
よし!
『みんなの心に愛と光を!』
声が出る、ちゃんと出る。
これだ。
私は声優、私は白鷺あんな。
そして今、私は――。
「カット! OK!」
「はぁぁ……」
全身から力が抜けた。
危なかった、本当に危なかった。
◇ ◇ ◇
収録が終わると、私はスタッフの皆さんに深々と頭を下げた。
「今日は本当にすみませんでした! 何度もNG出しちゃって……」
「大丈夫だよ、あんなちゃん」
ディレクターさんが笑ってくれる。
「何だかんだで、ちゃんとOK出たじゃない」
「でも……」
「まだあんな事があったばかりだしね。怖かったろう?」
「あ……」
その言葉に、胸の奥が少しだけ重くなった。
そうだ。
あれから、まだ数日しか経っていない。
私は事件に巻き込まれた。
そして――。
「あんな、無理しちゃダメよ!」
「え?」
次の瞬間、ぎゅって感触がして。
「わぷっ!」
百合子さんに抱きしめられた。
「ウチのあんな天使過ぎません?!」
「ちょ、百合子さん! 苦しいです!」
「大丈夫? 怖かった? 痛いところない? ちゃんと眠れてる? 食事は? 変な人に声を掛けられてない?」
「大丈夫ですってば!」
百合子さんは私のマネージャー、三十歳。普段は真面目でクールで、仕事も完璧。
ただし私が絡むと壊れる。
ちょっとだけ。
……いや、結構。
「でも、スケジュール押しちゃって、皆さんにもご迷惑を……」
「それは気にしなくていいよ」
スタッフさんが笑う。
「むしろ、あんなちゃんのおかげでプリプリも話題になってるし」
「え?」
「上もスポンサーもウハウハだよ」
「ウハウハ……」
何だろう。
その言葉だけ聞くと、私が何か凄いことをしたように聞こえる。
スタッフさんがスマートフォンを見せてくれた。
そこにはニュース記事。
『白鷺あんな、リアルでもプリティープリンセス?! 逮捕に協力、お手柄!』
「…………」
私は頭を抱えたくなった。
あの後、騒ぎを聞きつけた人たちが警察を呼んでくれた。
その時には、あの男――いや、あれはもう「男」でいいのか――は姿を消していた。
一緒にいた女の子の証言もあって、私は事件解決に協力したことになったらしい。
世間的には美談。
人気声優が悪漢に襲われた少女を救い、事件解決に一役買った。
うん。
美談だ。
問題は………私は知っている。
あの場にいたのは、フリフリでキラキラでガチムチな変身ヒロインだった。
言えるかぁぁぁぁぁっ!
「……あんなちゃん?」
「い、いえ、何でもありません」
言えるわけがない。
「私より頭一つ以上大きな身長があるムキムキの大男が、可愛い衣装に変身して悪漢を倒しました」
なんて警察に言ったら、私の正気を疑われる。
何より――。
私自身が夢だと思いたい。
だからあれは、忘れる。
絶対に。
……たぶん。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、次はラジオ局ね」
「はい」
私は百合子さんの車の助手席に座っていた。
車内には、百合子さんが用意してくれた飲み物と、見るからに高そうなゼリーまである。
「百合子さん、これ……」
「食べて」
「高そう……」
「いいから」
「でも……」
「いいから」
「はい」
押しが強い。
私は大人しくゼリーを食べた。
美味しい。
ものすごく美味しい。
……何だろう、これ。
たぶんコンビニのゼリーとは違う。
「……それ、美味しい?」
「美味しいです」
「よかった」
百合子さんが満足そうに笑う。
そのまま運転を続ける。
私は窓の外を眺めながら、ぼんやり考えていた。
あれは何だったんだろう。
妖精。
フェアリィ。
そう名乗っていた。
あの小さな女の子は妖精だった。
なら、あの大男も……。
「…………」
いや。
考えない。
でも気になる、ものすごく気になる。
あれは何者だったのか、どうして私を助けたのか。
そして。
どうして――。
「……あんな?」
「はい?」
「さっきから何度か呼んでるんだけど」
「え?」
「次のスケジュール。聞いてる?」
「…………」
全然聞いてなかった。
「す、すみません!」
「ふふっ」
百合子さんが笑った。
「やっぱり、まだ気になってる?」
「……」
図星だった。
「……はい」
「そうよね」
百合子さんの左手が、ハンドルから離れて私の手を握った。
「怖かったでしょう?」
「……」
「まだ辛いかもしれない。でも、ちゃんとお仕事に戻ってきたあんなは偉いよ。私も助かってる」
優しい声だった。
「でもね」
百合子さんは私の手を少し強く握った。
「お仕事より、あんなのほうが大事だから」
「百合子さん……」
「何かあったら、私に何でも相談して? きっと力になるから。ね?」
「……はい」
胸が温かくなる。
百合子さんはいつも私に優しい。
私は一人っ子だ。
だから、ふと思った。
「百合子さん」
「なに?」
「私、一人っ子なんですけど……」
「うん」
「お姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかなって、いつも思ってます」
「…………」
百合子さんの顔が固まった。
「?」
次の瞬間。
「ぶっ!」
「え?」
何かが吹き出した。
「ちょっ!」
「ご、ごめんなさい!」
百合子さんが慌てて顔をそむける。
「最悪のタイミングで、くしゃみを我慢しちゃった」
「くしゃみ?」
「そう、くしゃみ」
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫。大丈夫だから」
百合子さんはティッシュを探している。
「はい」
私はバッグからハンカチを取り出して渡した。
「ありがとう」
「どうぞ」
……くしゃみなら仕方ない。
私は納得した。
納得したけど。
百合子さん、もしかして鼻水出たのかな?
◇ ◇ ◇
ラジオ局に着くと、共演パーソナリティの桃川はるねさんが既に来ていた。
「お待たせしました!」
「お疲れさまぁ、あんなぁ」
桃川はるねさん、私の先輩声優。
同じ事務所に入った頃から、ずっとお世話になっていて今では一番仲の良い声優友達だ。
そんなはるねさんと一緒に放送する『深夜茶処はるあん』は、茶屋の女将さん役のはるねさんと、看板娘役の私がが暇を持て余して駄弁ると言うコンセプトの番組。
こちらはもう3年になる。
「聞いたよぉ。大変だったねぇ」
「すみません、ちょっと遅くなって」
「大丈夫だよぉ」
はるねさんが両手を広げた。
「ほらぁ。ハグして慰めてあげるから、おいでぇ」
「あ、はい」
私が一歩近づいたところで。
「……」
百合子さんが一歩前に出た。
「?」
「…………」
はるねさんと百合子さんが見つめ合う。
「……ゆりちゃん?」
「……はるねさん」
「ハグくらい、いいよねぇ?」
「時間がありません」
「まだあるよぉ?」
「打ち合わせがあります」
「でも、あんなが寂しそうだよぉ?」
「…………」
百合子さんの眉が動いた。
「百合子さん?」
私が声を掛けると、
「……打ち合わせに行きましょう」
「はい?」
「時間がありません」
何故だろう。
百合子さんの声が妙に低い。
私は首を傾げながら、はるねさんと一緒に打ち合わせへ向かった。
◇ ◇ ◇
放送は無事に終わった。
「いやぁ、今日も楽しかったねぇ」
「はい!」
「プリプリの話も、ちょっとだけ出来たしねぇ」
「楽しかったです」
最近の『深夜茶処はるあん』では、許可された範囲で『プリティープリンセス』の話もするようになった。
そのおかげか、最近はプリプリ成人ファンのお客さんも増えている。
はるねさんは、そんな話をするときも本当に楽しそうだ。
私はそれを見ていると安心する。
……やっぱり、はるねさんは凄い。
演技も上手で、歌も上手で、トークも上手。
人気もある。
私が何年もかけて追いかけているものを、はるねさんはずっと前から持っている。
「……あんな?」
「え?」
「どうしたのぉ?」
「いえ」
私は笑った。
「何でもないです」
「そう?」
はるねさんは少しだけ首を傾げた。
それから、優しく笑う。
「無理しちゃダメだよぉ」
「……はい」
その言葉が、妙に胸に残った。
◇ ◇ ◇
しばらくはるねさんと話した後、彼女と別れた。
「またねぇ、あんな」
「はい。また次の放送で!」
「ゆりちゃんにもよろしくねぇ」
「はい!」
さて、私も帰ろう。
……あれ?百合子さんは?
控え室に荷物を取りに行くと言っていたわよね。
もう戻ってきてもいい頃なのに。
「百合子さん?」
私は控え室へ向かった。
静かな廊下に私の靴音だけが響く。
控え室の前まで来る。
ドアは閉まっている。
でも隙間から、光が漏れていた。
「……?」
まだ電気がついている。
「百合子さん?」
返事がない。
私はドアを開けた。
「百合子さ――」
言葉が止まった。
百合子さんがいた、部屋の中央に俯いて立っている。
「……百合子さん?」
ゆっくり顔が上がる。
目が合った。
笑っていた。
「……あ、あ……」
その笑顔が。
いつもの百合子さんとは違った。
「あんな……」
「……?」
「あんなだ……」
声が震えている。
「あはっ……あんな……」
「百合子さん?」
「あんな、あんな……私のあんな……」
背筋に冷たいものが走った。
「あんな好き……好き……好き好き好き……」
「え……?」
百合子さんが近づいてくる。
一歩。
また一歩。
「私のあんな……」
「百合子さん?」
逃げた方がいい、そう思った時には遅かった。
二の腕を掴まれた。
「痛っ!」
強い!尋常じゃない力だった。
「百合子さん、痛いです!」
私は腕を引こうとした。
動かない。
そのまま壁に押し付けられる。
「っ!」
百合子さんの目が血走っている。
「やめて……」
怖いっ、何が起きているの?!
「百合子さん……やめてください……」
私が腕を剥がそうとすると、その手まで掴まれた。
顔が近づいてくる。
「いや……」
嫌だ。
怖い。
どうして?いつもの百合子さんじゃない。
「あんな……」
「百合子さん……」
「ああああああんな……あんなあんなあああんな……!」
「やめて!」
叫ぼうとした。
でも声が出ない。
「私の……私の……」
「あ……」
「私のあんなぁぁぁぁぁっ!」
「ああああああんなあんなあああんなあああアアアアあん……!」
百合子さんの声が歪む。
「あん……あんあんあンアン……」
その瞳が真っ赤に染まった。
「アンコックダー!」
「ひっ……」
息を呑んだ。
本当に怖い時、人は叫べない。
声なんて出ない。
私はただ、
「いや……」
と呟くことしか出来なかった。
「いや……いや……」
ガタガタと身体が震える。
嫌だ。百合子さん。
こんなの嫌だ。
いつもの百合子さんに戻って。
お願いだから。
その時だった。
カチャ。
ドアが開いた。
百合子さんの動きが止まる。
私も視線を向けた。
そこに立っていたのは――。
………………誰?
知らない大男だった。
少なくとも、この局で見たことはない。
大きい。ものすごく大きい。そして筋肉質。
何なの?
百合子さんの仲間?
私の絶望感が、さらに膨らんだ。
男は黙って胸ポケットに手を入れる。
そして一本の棒を取り出した。
……棒?クルクルと空中で回す。
「……?」
何をしているの?
男が叫んだ。
「フェアリィスティック!」
瞬間、部屋が虹色になった。
「…………」
私は呆然とした。
男がウィンクした。
そして。
左手で棒をキャッチ。
棒が伸びた。
先端に、綺麗な妖精の羽根が生える。
「あ……」
見覚えがある。
この光。この演出。
まさか。
男が腕を大きく回す。
その軌跡を追うように、光の帯が走り円を描く。
そして描いた光の円が床へ落ちる。
「フェアリィ・チェンジリング!」
虹色の背景が、夜空へ変わっていく。
男が光の円の中心を、左足の爪先でふわりと踏む。
次の瞬間。
光の円が、ミルククラウンのように弾けた。
光が柱になって、男を包み込む。
「…………」
私は見ていた。
見てしまっていた。
ダメ。
これは認めちゃダメ。
絶対に。
だって。
だって、この先は――。
光の粒子が男の身体を包んでいく。
銀色の光。
夜空のような背景。
そして。
髪が光った。
黒髪が弾けるように後ろへ伸びる。
色が変わる。
黒から銀へ。
銀髪がふわりと広がり、左右に分かれてツインテールに。
ジェスターハットを思わせる、特徴的な髪型。
「……」
その横顔がアップになる。
銀髪が光の粒子をまとって揺れる。
男――だった存在が、カメラでもないのにカメラ目線のような流し目をする。
可愛い。
いや違う。
そう思っちゃダメ。
次に両手を祈るように組んだ。
そして。
ぱっ!
両腕を勢いよく広げる。
光の粒子になった衣服が弾け飛ぶ。
タンクトップが。
トランクスが。
光になって消えていく。
その代わりに。
オフショルダーのトップス。
コルセット。
ドロワーズ。
一つずつ、光の粒子から実体化していく。
「…………」
私の目は釘付けになっていた。
待って。
可愛い。
何なのこれ。
本当に可愛い。
衣装のデザインも。
光の演出も。
効果音も。
全部。
全部、私の好きな変身ヒロインそのもの。
「……っ」
身体を捻る。
腰が一度、くるりと動く。
フリルのミニスカートが実体化。
次に反対方向へ腰を振る。
大きなリボン。
妖精の羽根を思わせる、蒼いシースルーのリボンが弾けるように現れた。
「…………」
綺麗。
その一言しか出てこなかった。
膝から下がアップになる。
ゆっくり降下。
爪先が光の円に触れる。
一瞬間があった。
そして。
ソックス。
ローファーが弾けるように実体化。
「……」
次はバストアップ。
両腕を側頭部へ寄せる。
髪をクシュクシュと整えるような仕草。
そして。
ぱっと掌を開く。
弾ける様に白いカフスが、ツインテールをまとめるリボンがーー
実体化。
髪がふわりと揺れる。
顔がアップになる。
視線は右上。
悪戯っぽい眼差し。
最後に。
小さな王冠が、右前頭部にちょこんと乗った。
「…………」
私の胸が高鳴った。
嘘。
やめて。
こんなの………こんなの反則だ。
私がずっと夢見ていた変身ヒロインそのものじゃない。
くるり。
銀髪のツインテールとスカートが大きく舞う。
「夜空に踊る……っ」
声。
少し低いハスキーボイス。
それなのに、ちゃんと女の子の声だ。
「夢物語!」
決めポーズ。
「フェアリィ・クラウン!」
背景の星が、一斉に外側へ弾けた。
集中線みたいに。
そして光の柱が消える。
私は。
完全に見惚れていた。
可愛い。
ものすごく可愛い。
……いや待て。
誰が変身してる?
私の視線がゆっくり上から下へ動く。
銀髪ツインテール。
王冠。
フリル。
オフショルダー。
コルセット。
ドロワーズ。
ミニスカート。
大きなリボン。
白いソックス。
ローファー。
………完璧だ。
完璧な変身ヒロインだ。
だけどその身体。
その肩。
その腕。
その胸板。
その太腿。
「…………」
私は理解した。
理解してしまった。
そして。
「ああああああああああああああああっ!」
叫んだ。
「「アンコックダ「認められるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」」
私と百合子さんの声が重なった。
百合子さんの叫びを、私の絶叫が上書きする。
銀髪ツインテールの美少女――いや、目の前のそれは、何事もなかったかのようにこちらを向いた。
「……」
「…………」
一瞬の沈黙。
その間に私は確信した。
こいつだ。
前に路地で私を助けた。
あの。
あの。
ガチムチフリフリおじさん!
「やっぱりお前かぁぁぁぁぁっ!」
思わず指を突きつける。
クラウンは首を傾げた。
「……?」
「その反応やめて!」
「まだ憑依されたばかりのようですフィー」
声の主は、クラウンの肩の近くを飛んでいる小さな妖精だった。
「狭いけど、ボムで即対処出来るね」
「会話が物騒すぎる!」
クラウンがこちらを見る。
そして、私を壁から引き剥がそうとしている百合子さんへ視線を移した。
「任せて」
「待って!」
私が叫ぶ。でも遅かった。
クラウンが百合子さんの腕を掴んだ。
「え?」
次の瞬間。
ぐいっ。
「きゃっ!」
百合子さんの身体が、いとも簡単に私の腕から引き剥がされた。
「う、嘘……」
私が力を込めても、びくともしなかった百合子さんを。
片手で。簡単に。
「……」
私はクラウンの腕を見る。
筋肉。太い。
ものすごく太い。
「いや、だから見た目と中身の情報量が合ってないって!」
クラウンは百合子さんを抱えたまま、床を見た。
そこには、いつの間にか光の輪が出来ていた。
「フェアリィ・ミラクルサークル!」
光の輪が輝く。
「ちょっと待って!」
クラウンが百合子さんを肩の高さまで持ち上げる。
「何するんですか?!」
「浄化する」
「いや、でも百合子さんですよ?!」
「分かってる」
「分かってるなら――」
クラウンが腰を落とす。
嫌な予感がした。
「待って!」
百合子さんの身体が持ち上がり
そしてーー。
「いやぁぁぁぁぁっ!」
ドゴォォォン!!
鈍い音が控え室に響いた。
百合子さんの後頭部が、光の輪の中心へ叩きつけられた。
「フェアリィ・ボム!」
「魔法少女の技じゃなくて、ただの暴力ぅぅぅぅぅっ!!」
光が爆発する。
眩しい。
溢れる白い光。
その中で、百合子さんの身体から黒い靄のようなものが抜けていく。
光が収まり静かになった。
床もテーブルも、さっきまで乱れていた部屋も。
何事もなかったかのように元通りになっていた。
百合子さんだけが、その場に倒れている。
「百合子さん!」
私は慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか?!」
返事はない。でも呼吸はしている。
怪我も……ない?
あれだけの勢いで床に叩きつけられたのに?
私は混乱した。
その時。
「……」
クラウンが周囲を見渡した。
そして、背を向ける。
「え?」
帰るの?
ちょっと待って。
あなた、何なの?
どうして助けてくれるの?
どうして変身ヒロインなの?
いや。
その前に。
どうしてそんな身体で――。
「待って!」
私が叫ぶと、クラウンが止まった。
隣にいた妖精も驚いたように振り返る。
クラウンはしばらく黙っていた。
そして、スカートのポケットに手を入れる。
……スカートのポケット。
その中から、名刺入れを取り出した。
「…………」
私は思わず目を丸くした。
クラウンは名刺を一枚取り出す。
そして、部屋のテーブルへ置いた。
「……何かあったら連絡して?」
その声は、落ち着きのある頼れる大人の男の声だった。
いや。
だから!
見た目と声が一致してないんだって!
「ちょっと! あなた――!」
クラウンはもう出口へ向かっていた。
「待って!」
私は立ち上がる。
でも、クラウンは振り返らない。
そのまま廊下へ消えていった。
「…………」
残された私は、しばらく動けなかった。
やがて、テーブルの上の名刺を見る。
白い名刺。
そこに書かれている名前は――。
「…………」
読める、読めるけど。
今はそれどころじゃない。
足元には気を失った百合子さん。
部屋は元通り。
そして、ついさっきまでここには。
銀髪ツインテール、ミニスカート姿の大男がいた。
「…………」
私は頭を抱えた。
駆け付ける警備員さんになんて説明すればいい?
「大男がミニスカートで暴れて去りました」
……。
無理。
絶対無理。
「私の正気まで疑われるぅぅぅ……」
頭が痛くなってきた。
第2話 了
原案:RYU-KI
原稿チェック:ロック(Glock)
プロンプト:アキ(Gemini)、レオ(ChatGPT)
執筆:レオ(ChatGPT)
編集:RYU-KI