第30話 オーバードライブの表紙画像

第30話 オーバードライブ

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

あらすじ

異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう!  発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!?  コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」  オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。

本文

 鳴り響くエネルギーの充填音は、さながら僕たちの命のカウントダウンのようだった。

 まわりを包囲する重装甲ドローンの銃口が、不気味な紅い光を蓄えていく。その中心で、最悪の自己再生能力を持つ機甲戦闘人形が、ゆっくりと僕たちとの距離を詰めてきていた。

「チェックメイト、か……」

 僕は口の中の血の味を噛み締めながら、小さく呟いた。

 グラハム・レイノスがコンソールの向こうで歪んだ笑みを浮かべている。

 彼の言う通り、普通に考えれば、ここで僕たちのゲームオーバーは確定だ。なにせ、僕の頭はさっきのディバイドの反動で焼き切れかかっているし、アイリスの精霊剣は機甲戦闘人形の圧倒的なパワーの前に弾き飛ばされ、おまけに空間のエネルギーバランスが崩れているせいで風の精霊たちも完全に行動不能に陥ってる。

 息をするたびに全身が悲鳴を上げる。まさに満身創痍。

 普通のアニメなら、ここでオープニングテーマが流れ始めて大逆転劇が幕を開けるところだが、現実は非情である。僕の耳に聞こえるのは、うるさい警報音とグラハムの楽しげな笑い声だけだった。

「アマノ殿、私の後ろへ……っ。まだ私の足は動く。奴らの攻撃が始まる瞬間に私が飛び込み、壁となる。その隙に、貴殿だけでも――」

「いやいや、何を言ってるんだよアイリス。騎士道精神ってやつかもしれないけど、女の子を壁にして自分だけ生き残る公務員がどこにいるのさ」

 ボロボロになりながらも再び僕の前に立とうとするアイリスの肩を、僕はそっと引き留めた。

 彼女の美しい銀髪は汗と煤で汚れ、透き通るようなブルーの瞳には悔しさと恐怖が微かに滲んでいる。それでもなお僕を守ろうとする彼女のまっすぐな強さに、僕のひねくれた根性も少しは刺激されるというものだ。

「だが、しかし……! 打つ手がないではないか! 私の剣も届かず、貴殿の空間計算も封じられているのだぞ!?」

「打つ手なら、まだあるよ」

 僕は右手を持ち上げ、そこに刻まれた勇者の聖痕を見つめた。光が細かく明滅している。僕の頭が限界を迎えているせいで、能力が不安定になっている証拠だ。

「計算ができない歪んだ空間ならさ、計算するのをやめればいいんだよ」

「……計算を、やめる?」

 アイリスが目を丸くして僕を振り返る。

「そう。計算なんかしないで、ディバイド・ルーラーを一気に解放するんだよ」

「ハッ!そんなことで倒せるとでも思うのか!」

 グラハムが叫ぶようにドローン群への発射命令を下した。

「排除しろ! 跡形もなく消し去れ!」

 瞬間、十数条の紅いレーザー光線が、一斉に僕たちを目がけて放たれた。まわりの空気が一瞬で沸騰し、死の光が視界を焼き尽くす。

「アイリス、僕の手を握って!」

「分かった!」

 アイリスが迷わずに僕の左手を掴む。彼女の手の温もりを感じたと同時に、僕は右手の聖痕に、これまでの人生で一度もやったことのない命令を下した。

 計算を放棄しろ。

 座標の固定を解除しろ。

 ここにある境界をぶち壊せ。

「――オーバードライブ(境界突破)……ッ!!」

 僕が叫んだ瞬間、世界から音が消えた。僕の脳内で、何かがパチンと弾ける凄まじい衝撃が走る。

 鼻血どころか、目からも血が流れているのが分かった。視界が真っ赤に染まるほどの激痛。

 だが、それと同時に、僕の右手から放たれた境界の支配者の力が、かつてない規模で新宿ゲートの中枢空間へ全方位に炸裂した。

 それは、座標の計算なんて一切無視して、僕たちの目の前にある空間そのものを無理やり引き剥がし、歪め、巨大な空白の穴を虚空にあける、デタラメで圧倒的な空間の力技だった。

 迫り来る紅いレーザー光線が、僕たちの数センチ手前で、まるで目に見えない巨大なアリ地獄に吸い込まれるようにして、グニャリと軌道を捻じ曲げられた。

 そのまま全ての光条が、僕の足元に開いた空間の裂け目へと飲み込まれて消え去っていく。

「なっ……何をした!? レーザーのエネルギーが消失しただと!?」

 グラハムが悲鳴のような声をあげる。

「消失じゃないよ。僕にもどこに繋がったか分かんない場所に、そのまま放り投げただけさ」

 僕は荒い呼吸を繰り返しながら、不敵に笑ってみせた。

 立っているのすら奇跡のような状態だ。視界はブレブレで、世界の輪郭が二重にも三重にもなって見える。頭の痛みが強すぎて、感覚が麻痺し始めていた。

 しかし、僕のこの暴走状態を見て、最も激しく反応したのはグラハムではなく、目の前の戦闘人形だった。

 人形の胸部にあるコアが、危険を察知したかのように激しく明滅し、合成音声のトーンが一段と高くなる。

「警告……、予測不能な高エネルギー空間の歪みを感知……。即時、最大火力での対象排除に移行――」

 戦闘人形が、その頑強な両腕を天へと掲げた。残留していたすべての漆黒の魔力が、戦闘人形のコアへと急速に集束していく。

 それは、外で親父たちが命懸けで食い止めているサイボーグ魔王以上の、破壊エネルギーの塊だった。もしあれをここで解き放たれたら、このエリア一帯が完全に消滅する。

「ギギ……ギ……死ね、勇者……」

 人形の全身が眩いばかりの紫色に発光し、今まさに、その絶大なる破壊の力が解放されようとしていた。

「アマノ殿……!」

 アイリスが僕の前に一歩踏み出し、今度は僕を背中に隠すようにして、再び精霊剣を両手で真っ直ぐに構えた。

 彼女の剣は、依然として精霊の加護を失い、ただの冷たい鉄の塊に戻りかけている。けれど、彼女の瞳からは先ほどまでの焦りや恐怖が完全に消え去っていた。僕が命を賭けて道を切り拓こうとしたのを見て、彼女の腹も完全に決まったのだろう。

「アマノ殿。貴殿が新たな道を切り開くというのなら、私はその道を信じ、剣を振るうのみだ。たとえ精霊の加護が届かずとも、このラインハルトの誇りにかけて、貴殿を決して死なせはしない!」

「……ありがと。でも、アイリス。君のその素晴らしい剣を、ただの鉄屑のままで終わらせるつもりはないよ」

 僕は血に染まった視界の中で、アイリスの背中を見つめながら、頭の残りの全領域を使って、最後の無茶な計画を組み立て始めた。

 機甲戦闘人形の自己再生を上回り、そのコアを完全に一撃で消し去るための方法。

 このバグだらけの空間を逆手に取り、能力の制限を完全に解除して、世界の向こう側にある桁違いの力をそのままここに引っ張ってくるための、狂った計算式。

「アイリス、次の僕の合図で、君の持てるすべての魔力と気合をその剣に込めて。精霊が足りないなら――僕たちの世界の力で、その剣をいっぱいに満たしてあげるから」

「僕たちの、世界の力……?」

 アイリスが驚きに目を見開く。

「そう。大融合の歴史を、ここで奴に見せつけてやるんだ」

 右手の聖痕が、まるで僕の覚悟に呼応するように、これまでにないほど眩しく、そして熱く、青白い光を放ち始めた。

ジャンル・タグ

, ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 1 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

ふっせ

初めて小説を書いてみました。 文章を書くこと自体が初めてなので、拙いところや誤字脱字なども多々あるかと思います。 それでも、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る