第31話 光の聖剣
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう! 発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!? コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」 オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。
本文
脳みそが沸騰する、というのはこういう感覚を言うのだろう。
視界が真っ赤に染まり、耳の奥でキィィィンと高音の耳鳴りが鳴り響いている。
鼻から垂れる生温かい液体を拭う余裕すら僕にはない。右手の聖痕から放たれる青白い光は、暴走する出力に耐えかねてバチバチと激しい火花を散らせていた。
「アマノ殿……! 無茶だ、これ以上は貴殿の身体が持たぬ!」
アイリスの悲痛な叫びが、霞む意識の向こう側から聞こえる。彼女の細い手が、僕の腕を強く掴んでいた。エルフ特有の長い耳が、周囲のバグった空間の風圧に小さく震えている。
「大丈夫……。ちょっと、徹夜で新作アニメを一気見した翌朝のデスクワークくらいに頭が重いだけだよ」
「そんなわけがあるか! 目からも血が出ているぞ! 頼む、もうやめてくれ!」
いつもなら『お前の例えは分かりづらい!』とツッコミを入れてくるはずのアイリスが、本気で涙を浮かべて僕を止めようとしている。彼女にここまで心配されると、なんだか本当に自分が絶体絶命のヒーローになったみたいで、少しかっこいい。
でも、ここで僕が手を緩めたら、僕たちはあの化け物に消し飛ばされる。
「ギギ……ギギギ……最大出力、収束完了……。ターゲット、完全消滅シークエンスへ移行……」
僕たちの眼前で、大型の機甲戦闘人形がその醜悪な鋼鉄の腕をこちらへ突き出していた。胸部のコアに集まった紫色の魔力は、すでに直視できないほどの光量を放っている。
残留していた魔力をすべて吸い上げたそのエネルギーは、外で親父たちが命懸けで食い止めているサイボーグ魔王以上の破壊力だ。
周りを包囲するドローン群も、そのチャージを補佐するように配置を変え、僕たちの逃げ道を完全に塞いでいる。
「ハハハ、往生際が悪いぞ! 空間を少しばかり歪めてレーザーを逸らしたところで、その最大火力まで防げると思うな! 我が社のテクノロジーが誇る絶対的なスペックの前には無力なのだ!」
コンソールの奥から、グラハム・レイノスの勝ち誇った声が響く。
「アイリス、僕を信じて、その剣を構えて」
「アマノ殿……」
「僕一人じゃ世界は救えない。でも、僕たちの世界の力と、君の持つ異世界の力が合わされば、必ずあの化け物を倒せるよ」
僕の言葉に、アイリスは一瞬だけブルーの瞳を泳がせた。だが、すぐに僕の覚悟を悟ったように、ギュッと唇を噛み締めると、ボロボロになった精霊剣を両手で真っ直ぐに構え直した。
精霊の加護を失い、ただの冷たい鉄の塊に戻りかけている長剣。しかし、彼女がそれを構えた瞬間、周りの空気がピリリと引き締まった。
「……分かった。この命、そなたに預ける! ラインハルトの誇りにかけて、我が剣に一切の迷いなし!」
よし、と僕は心の中で頷いた。
アイリスの準備は整った。あとは僕の仕事だ。
脳細胞を極限まで加速させる。歪んだ空間のノイズを無視し、僕の意識は新宿ゲートの中枢から、さらに遠く、深くへと潜っていく。
狙う座標は、この近くの空間なんかじゃない。もっともっと膨大な、世界に誇るエネルギーの大動脈だ。
大融合から35年。僕たちの世界は、異世界の魔力を第4のエナジーとして取り入れる一方で、自分たちの科学技術も狂ったように進化させてきた。その象徴とも言える場所へと、僕は脳の神経を焼き切る覚悟で、強引に境界のピンを突き刺す。
――接続先、東京最新鋭臨海発電所、超高圧変電プラント。
そこは、東京都民1千万人分の生活を支えるための、電気エネルギーの心臓部。莫大な送電網の真ん中に、僕はディバイド・ルーラーのゲートを開く。
「な、何だ……!? 空間の歪みが、さらに拡大している……!? どこに繋いでいる、ハズレ勇者!」
グラハムがコンソールのモニターを見て、驚愕の声をあげた。計器の針がすべて振り切れ、警告音が一段と高くなる。
「ハズレ勇者で結構。最新鋭のテクノロジーを誇る企業トップの癖に、ちょっと勉強不足なんじゃない?」
僕は叫んだ。右手の聖痕から、これまでの比ではない青白い閃光が爆発する。
「繋がれぇぇぇッ!!」
「ドゴォォォンッ!! 」
空間そのものが悲鳴をあげるような爆音が響いた。
僕とアイリスの背後の空間が、縦に大きく引き裂かれる。その亀裂の向こうに見えたのは、青白い電弧がバチバチと狂ったように走る、巨大な変電プラントの光景。
そして次の瞬間、その開かれた空間の裂け目から、測定不能なほどの電気エネルギーが、凄まじい雷鳴と共にこちらへと流れ込んできた。
「が、あぁぁぁッ……!」
あまりの電圧に、僕の全身の産毛が逆立ち、皮膚がビリビリと焦げるような錯覚に襲われる。頭への負荷はすでに限界を突破し、意識が消し飛びそうになる。
だが、僕は必死に右手を突き出し、その流れ出た莫大な電力を、僕のすぐ隣に立つアイリスの精霊剣へと空間越しに直接流し込んだ。
電流のバイパスを繋ぐ。最新鋭発電所の電力を、異世界の聖騎士の剣へダイレクトチャージする。
「アイリス! 受け止めて、これが世界の力だ!!」
「う、おおおおおおおおおッ!!」
アイリスが咆哮した。
彼女の掲げる精霊剣に、東京中の電力が直接注ぎ込まれていく。ただの冷たい鉄の塊になりかけていたその長剣は、莫大な電気エネルギーという名の魔力を喰らい、凄まじい純白の光を放ち始めた。
バチバチと空間を焼き切るような電弧が剣の周囲を渦巻き、それはさながら、科学と魔法が融合して生まれた、新時代の光の聖剣へと変貌を遂げていく。
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