【40番外】メダカさん、盤面を泳ぐ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
開店前の時環遊技場。まだ店内に客の姿はない。パチンコ台も静かにしている。その片隅に置かれた透明な水槽の中で、五匹の銀色のホログラムメダカが泳いでいた。
水槽に水は入っていない。ホログラムのメダカなのだから、水は必要ない。以前は、何本かの草が置かれているだけだった。
それが、あれから少し変わった。店主が新しい草を増やし、流木をいくつか置き、小さな石も加えたのだ。今では、水槽の中は小さな森のようになっている。流木が枝を伸ばし、その周りを草が囲んでいる。五匹のメダカは、その間を楽しそうに泳いでいた。
一匹が流木の枝をくぐる。別の一匹がその後ろを追いかける。草の陰に隠れた一匹が、突然飛び出してくる。五匹が入り乱れて泳ぎ、また散っていく。どうやら、ずいぶん気に入ったらしい。水槽を少し豪華にしただけなのに、いつもより明らかにご機嫌だった。
やがて、開店時間が近づく。
店内に照明が入り、パチンコ台が次々と目を覚ましていく。
その気配を感じたのか、五匹が一斉に動き始めた。水槽の中をぐるりと一周する。
そして――。五匹が揃って水槽の外へ飛び出した。
営業開始だ。
ホログラムのメダカたちは、壁もガラスもすり抜けて店内へ散っていった。
それからしばらくして、常連客たちがやってくる。ロボットの常連客。アンドロイドの常連客。そして、人間の常連客。それぞれがいつもの台に座り、遊技を始める。
玉の打ち出される音が店内に広がった。
パチン、パチンと、玉が盤面を駆け抜ける。
役物が動く。電子音が鳴る。
その中を、五匹のメダカが泳ぎ始めた。
最初の一匹が向かったのは、ロボットの常連客が打っている台だった。
ガラスをすり抜け、そのまま盤面の中へ入っていく。ちょうど玉が一発、打ち出された。
メダカが玉を追いかけた。玉が釘に当たって跳ねる。メダカもくるりと向きを変える。
玉が右へ行けば、メダカも右へ。
左へ跳ねれば、メダカも左へ。
ただし、玉とは違う。メダカは釘に弾かれない。釘と釘の間を、すいっと泳いで抜けていく。
「おや?」
ロボットが盤面を見ながら笑った。
「今日は魚のほうが元気ですね」
隣で打っていた常連客が声をかける。
「水槽、変わったからじゃない?」
「なるほど」
メダカは二人の会話など気にせず、今度は別の玉を追いかけていった。
その横の台では、アンドロイドの常連客が遊技している。
そこにも一匹。こちらのメダカは、玉より役物のほうが気になるらしい。
役物が動く。メダカがすっと横へ逃げる。
また動く。今度は役物の周りを一周する。
「楽しそうですね」
アンドロイドが笑う。
メダカはその目の前をひらりと横切った。
「……やっぱり楽しんでますね」
別の台では、人間の常連客が遊技をしている。
そこへ三匹目がやってくる。
しばらく玉を追いかけていたが、突然進路を変えた。
向かった先は、V入賞口だった。
すうっと、メダカがV入賞口の中へ入っていった。
「あっ!」
常連客が声を上げる。近くの客も振り向いた。
「入った?」
「メダカが入った!」
メダカはそのままV入賞口の奥へ泳いでいく。盤面から姿が消えた。そして――。
しばらくすると、上皿の中から銀色のメダカがひょこっと顔を出した。
そのまま上皿の中をすいすい泳いでいる。
「……そこから出てくるのかよ!」
常連客が笑う。
「上皿の中で泳いでるぞ!」
「魚だからなぁ」
「魚だからで済むのか?」
周りから笑い声が上がった。もちろん、台は何も反応せず、大当たりにはならない。
メダカは上皿を一周すると、玉の間をすり抜け、また盤面へ戻っていった。
その様子を見ていた別の常連客が、「もう一回入ってみろ」と声をかける。メダカは聞こえたのか、聞こえていないのか、今度は打ち出された玉を追いかけていった。
「そっちかよ!」また笑い声が起こる。
いつもの時環遊技場に、今日はメダカの姿まで加わっている。五匹はそれぞれ別の台へ行ったり、同じ台に集まったりしながら、店内を自由に泳ぎ回っていた。
玉を追いかける。釘の間を抜ける。役物の動きを追いかける。V入賞口に入ってみる。上皿から出てくる。そして、また別の台へ。
「今度こっち来たぞ」
「そっちは三匹いる!」
「こっちにも来ないかな〜」
常連客たちも、メダカの行方を楽しそうに追っている。
パチンコ台の音と人の声。その合間を五匹の銀色の光が泳ぎ回る。店内はいつも以上に賑やかだった。
カウンターにいた店主のところにも、一匹のメダカがやってきた。
「おや、今度はこちらです?」
店主の目の前を、ひらり。今度は頭の上を、くるり。
「ずいぶんご機嫌ですねぇ」
メダカは店主の肩のあたりを一周すると、また目の前へ戻ってきた。
そこへ別の一匹もやってくる。
「はいはい。どうしましたか?」
五匹が次々と店主の周りに集まってくる。
カウンターの上を横切り、店主の腕の周りを泳ぎ、また店内へ飛び出していく。
「元気ですねぇ」
店主は笑いながら見送った。
その直後、「店主さん、またV入りましたよ!」と、奥から声が飛んできた。
「おや」
店主が振り返る。
「今度はどの子です?」
「さっきの子です!」
「頑張りますねぇ」
店主は楽しそうに笑った。
営業中、五匹のメダカは水槽には戻らない。店内のどこかを泳いでいる。台の中だったり、店主の周りだったり、ときには天井近くまで上がったり。五匹にとっては、店全体が大きな遊び場になっていた。そして、そのきっかけになったのは、あの小さな水槽だった。それがよほど嬉しかったのだろう。五匹は今日は、いつも以上に遊びたくなったらしい。
やがて、閉店時間が近づき、店内の音が少しずつ減っていく。
最後の遊技を終えた常連客たちが席を立つ。
その頃になって、五匹のメダカも店内をゆっくりと泳ぎ始めた。
最後に店主のところへ集まり、それぞれ一周する。
「はいはい。今日はもうおしまいですよ」
店主が笑う。
五匹は店主の周りをくるりと回ると、水槽へ向かった。一匹ずつ、すっと中へ入っていく。
水のない小さな森。流木の枝。茂った草。
その間を五匹が泳ぐ。
営業中は店じゅうを遊び場にしていたメダカたちが、今は自分たちの小さな森に戻っている。
最後の一匹が流木の枝をくぐった。五匹が並んで泳ぐ。今日も一日、よく遊んだ。
明日の開店まで。ここが、五匹の遊び場だ。