【41番外】ハードボイルド・キャット
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
その日は、時環遊技場の店休日だった。
店主と従業員アンドロイドは、特に目的を決めることもなく、未来都市のほうへ向かっていた。郊外から都市部へ近づくにつれて建物は少しずつ高くなり、空中を行き交う車やホログラム広告が増えていく。
それでも都市の中心から少し外れたこのあたりには、昔ながらの雰囲気を残した店がいくつも残っていた。
「この辺りも、いろんなお店がありますねぇ」
店主が周囲を眺めながら歩いていると、不意に足を止めた。通りに面した大きな窓。その向こうに、一匹の猫がいた。
窓際の椅子で丸くなり、気持ちよさそうに眠っている。
「……猫ちゃんですねぇ」
店主が窓のほうへ近づく。
猫は耳をぴくりと動かし、薄く目を開けた。店主を一度だけ眺めると、何事もなかったようにまた目を閉じる。
「かわいいですね」
「こちらのお店の猫のようです」
従業員アンドロイドが看板を確認する。
そこには、丸みのある文字で、『純喫茶 ひととき』 と書かれていた。
「喫茶店ですか」
店主はもう一度、窓の中を見る。猫が椅子から降り、カウンターのほうへ歩いていった。
「ちょっと、入ってみません?」
扉を開けると、小さなベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こうから、マダムが顔を上げる。店内には木製のテーブルと椅子が並び、暖色の照明が柔らかな光を落としていた。壁には昔ながらのポスターが飾られ、棚には古い食器や小物が並んでいる。
外を見れば、空中車やホログラム広告が行き交う未来都市。
けれど、この店の中だけは、時間の流れが少しゆっくりしているようだった。
「お好きな席へどうぞ」
「ありがとうございます」
二人は窓際の席についた。ほどなくして、マダムがお冷とおしぼりを席に持ってきた。
「ご注文は席にあるホログラムパンフレットからお願いしますね」
店主がパンフレットを空間に開く。サンドイッチやピラフ、ナポリタン、コーヒーなど喫茶店お馴染みのラインナップの他、食事を必要としないロボやアンドロイド向けのデータフードバージョンもある。
「いろいろあって悩みますねぇ」
「データフードもたくさんあります!」
注文を済ませた店主達は、店内を自由に歩く猫の様子が気になり、観察し始めた。
ほどなくして、マダムが猫の前に小さな皿を置く。猫が皿に近づく。
カリ……カリ……静かな店内に、小気味よい音が響いた。
「いい音ですねぇ」
「このご飯がお気に入りなんですよ」
店主が少し興味深そうに猫を見る。猫は夢中になって餌を食べている。やがて皿が空になると、猫は満足そうに顔を洗った。
「ニャー」
店主には、普通の猫の鳴き声にしか聞こえない。すると従業員アンドロイドが、猫と同じ低く渋い声を再現した。
「……いい飯だった。匠のまぐろ味はやっぱり旨いな」
「え?」
店主が猫を見る。猫は何事もなかったように前足を舐めている。
「今の……猫ちゃんですか?」
「はい」
「猫ちゃん、そんな喋り方なんですか?」
「本人は普通に話しているようです」
「そうなんですか……」
店主は少し不思議そうに猫を眺めた。猫は一度だけ店主を見る。
「ニャ」
従業員アンドロイドが再現する。
「……初めて見る顔だな、この店は初めてかい?」
「ずいぶん渋いですねぇ……」
猫は満足げに尻尾を揺らし、窓際の椅子へ戻っていった。
やがて、注文した料理が運ばれてきた。店主の前には、湯気の立つホットコーヒーと、昔ながらのピラフ。
従業員アンドロイドの前には、データフードとして再現されたクリームソーダとサンドイッチが並んだ。
「いただきます」
二人はゆっくりと食事を始めた。コーヒーの香りが漂う。店主はピラフをひと口食べ、満足そうに頷いた。
「うん。こういうピラフ、いいですねぇ」
「こちらのクリームソーダも、とてもよくできています」
従業員アンドロイドがクリームソーダを眺める。グラスの中では、緑色の飲み物と氷、白いクリームが昔ながらの姿を再現していた。
窓の外では、人間も、アンドロイドも、ロボットも行き交っている。
店内では、電子新聞を読む客がいて、カウンターではマダムが静かにカップを磨いている。
猫は窓際の椅子で丸くなっていた。しばらくして、猫がゆっくり目を開ける。
そして店主のところまで歩いてきた。足元で立ち止まり、ニャーと鳴いた。
店主がしゃがみ込む。
「どうしました?」
猫は店主の手に頭を寄せた。店主がそっと撫でる。
柔らかな毛並み。その下には、ほんのりとした温かさがある。
指先を胸元に添えると、トクン、と小さな鼓動が伝わってきた。
「……ちゃんと鼓動があるんですね」
店主の目が少し輝く。
「よくできてるなぁ」
猫はそんなことには構わず、店主の手に頭をすり寄せる。
「ニャ」
従業員アンドロイドが、低い声で再現した。
「……悪くない」
「今のは?」
「撫で方についてです」
「褒められました?」
「はい」
店主は笑いながら、もう一度猫の頭を撫でた。
猫は目を細める。
「ニャー」
「……もう少し背中側を頼む」
「ずいぶん気に入ったんですねぇ」
店主は笑った。
それからしばらく、二人は何をするでもなく店内で過ごした。
コーヒーを飲み、料理を味わい、窓の外を眺める。
猫は気が向けば店主の足元へやってきて、しばらくするとまた椅子へ戻っていく。
そんな穏やかな時間が流れていた。
やがて、帰る時間になった。
「今日はありがとうございました」
店主がマダムに頭を下げる。
「こちらこそ。またいつでもいらしてくださいね」
マダムは笑いながら、猫を抱き上げた。猫はマダムの腕の中から店主を見る。
「ニャー」
従業員アンドロイドが、低く渋い声で再現した。
「……またいつでも来いよ」
店主が振り返る。
猫はじっと店主を見つめている。
「ニャー」
「……待ってるからさ」
「いやあ……最後まで渋いですねぇ」
マダムは何も知らず、猫の背中を優しく撫でている。猫は目を細めた。
店主は扉を開ける。小さなベルが鳴った。
二人が店の外へ出ると、また背後から、ニャー、と猫の声が聞こえた。
従業員アンドロイドが立ち止まり、振り返る。
「……気をつけて帰れよ」
「最後まで言うんですねぇ」
店主は笑いながら、未来都市のほうへ歩き出した。
郊外と未来都市の境目。にぎやかな街のすぐそばに、昔ながらの純喫茶がある。
そこでは今日も、マダムと猫と、訪れる客たちが、それぞれの時間を過ごしている。