【42番外】手打ち台の尻尾
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
時環遊技場の片隅に、古い手打ち式のパチンコ台が数台置かれている。
今では珍しい、玉を一発ずつ自分の手で弾く台だ。
従業員アンドロイドは、その台の前でじっとハンドルを見つめていた。
「これが、手打ち式のハンドルですか」
「そうですよ。昔はこうやって、一発ずつ自分の手で玉を打っていたんです」
「構造は理解しています」
「では、実際に打ってみましょうか」
店主が台の前に立ち、慣れた手つきで玉を打つ。玉が盤面へ飛び出していく。
「こんな感じです」
「なるほど」
従業員アンドロイドも同じように玉をセットした。
右手をハンドルに添える。
そして――。パチン。
玉は飛び出したものの、店主が打ったものとは微妙に違う軌道を描いた。
「……難しいですね」
「最初はそんなものですよ」
もう一度打つ、が今度は少し強すぎた。
さらにもう一度。弱い。
従業員アンドロイドは首を傾げた。
「同じ動作をしているつもりなのですが」
「手打ち台は、その『つもり』の差がそのまま玉に出るんですよ」
店主は笑いながら、ハンドルの下あたりを指差した。
「では、まず基本の持ち方からやってみましょうか」
「はい」
「この細い棒があるでしょう?昔はこれを『テング』と呼んでいたんですよ」
「テング……」
従業員アンドロイドが、細い棒を覗き込む。
「ここを、右手の薬指と小指の間に挟みます」
言われた通りに指を添える。
「こうして手を安定させて、親指で大きなハンドルの先を弾きます」
「こうですか?」
先ほどよりも玉の飛び方が安定した。
「おお」
従業員アンドロイドの声が少し弾む。
「さっきより安定しています」
「でしょう?」
店主も嬉しそうに頷いた。
「手打ち台は、ただハンドルを弾けばいいというものでもありません。手の位置を決めて、毎回同じように弾く。それで少しずつストロークを合わせていくんです」
「なるほど」
従業員アンドロイドは、さらに何度か玉を打った。しかし、少しするとまた軌道がばらつき始める。
「……やはり難しいです」
「では、もう一つの持ち方も試してみましょうか」
「別の方法があるんですか?」
「ええ」
店主は従業員アンドロイドの手を見ながら説明した。
「今度は左手で、テングをしっかり持ってみてください」
「左手で?」
「はい。左手でテングを持って、右手は親指でハンドルを弾きます」
言われた通りにしてみる。
「この持ち方なら、右手の位置を固定しやすくなります。ストロークも一定にしやすいですよ」
今度は、玉が先ほどよりも揃った軌道で飛んでいった。
「確かに!」
もう一度打ってみる。
「こちらのほうが、調整しやすいです」
「そうでしょう」
店主は満足そうに頷いた。
しばらく練習しているとき、従業員アンドロイドがふとハンドルを見た。
「店主」
「はい?」
「これ、猫の尻尾に少し似ていませんか?」
店主も細い棒を見る。
「……言われてみると、少し似ていますね」
「先が細くて、少し曲がっていて」
「そうですね」
店主は少しだけ遠くを見るような顔をした。
「そういえば、前にも猫の尻尾を見たことがありましたね」
そう言いながら、店主は純喫茶「ひととき」で見かけた、あのロボット猫のことを思い出していた。
その横で、従業員アンドロイドは再びハンドルに手を添える。
今度は、かなり安定していた。
「上手くなりましたね」
「ありがとうございます。ですが、もう少し練習します」
店主は笑った。
「熱心ですねぇ」
その日は、遅くまで従業員アンドロイドの練習が続いた。
翌朝。
開店前の店内で、従業員アンドロイドが右手を眺めていた。
「店主」
「おはようございます。どうしました?」
「少し、ご相談があります」
「はい?」
「右手が、少し重いです」
店主が手元を覗き込む。
「故障でしょうか?」
「自己診断では、機械的な異常はありません」
「それなら、今日は少し休ませたほうがいいかもしれませんね」
「ですが、本日の練習は――」
「今日は控えましょう」
「……はい」
その会話を聞いていた常連のアンドロイドが、カウンターのほうから声をかけた。
「最初はそうなりますよ」
「そうなんですか?」
「ええ。私も昔、手打ち台を初めて打った翌日に、腕が重くなりました」
別の常連客も笑う。
「俺なんか、次の日は平気だったけど、その次の日に来たぞ」
「遅れてくるんですか?」
「人間の筋肉痛なんて、そんなもんだよ」
従業員アンドロイドは、少し考えた。
「……つまり、これは筋肉痛ですか?」
「たぶんね」
常連のアンドロイドが笑う。
従業員アンドロイドは少し考えてから、右手を見つめる。
「アンドロイドにも筋肉痛があるとは、私も知りませんでした」
「私も知りませんでしたよ」
常連のアンドロイドが笑う。
「でも、ちゃんと重くなるなら、昨日かなり頑張ったってことですよ」
「なるほど」
「まあ、今日は休んだほうがいいでしょうね」
「明日は、また練習できますか?」
「右手が元気になってからにしましょう」
「わかりました」
店主は手打ち台を眺めた。
「焦らなくても大丈夫ですよ。手打ち台は逃げませんから」
「それは、そうですね」
従業員アンドロイドは素直に頷いた。
その横で、常連のアンドロイドがぽつりと言った。
「しかし、筋肉痛になるアンドロイドって……ちょっと面白いですね」
「そうですね」
店主は笑った。
「時環遊技場ですから、そういうこともあるんでしょう」
開店時間が近づき、店内にいつもの音が戻ってくる。
店の隅には、手打ち式の台が並んでいる。
従業員アンドロイドは少し離れたところから、その台のハンドルを眺めた。
「……やっぱり、猫の尻尾に形が似ていますね」
店主は何も言わず、笑った。