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『天津守護』-I'll never lose my mind

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/16 📚 シリーズ: 『天津守護』-I'll never lose my mind 📝 4,450文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

​【あらすじ】 十三年前、紫黒い天蓋と異形の怪異に閉ざされた魔都・東京。時間の流れが狂った結界の中で13年間閉じ込められていた17歳の少年・大神護(おおがみ まもる)と、外界から彼を救うために戦い続けた27歳の特殊部隊元隊長・神崎志乃(かんざき しの)。 ​崩れかけた廃屋で分け合った不味いスープ、指先を傷だらけにして削られた手作りのオルゴール。世界を繋ぎ止める人柱「天津守護」となった護は、「生きろ」という言葉と手作りのオルゴールを志乃に遺し、光となって消え去ってしまう。 ​あの日から、志乃は生涯誰とも婚姻を結ばず、ただ一人「大神護」という少年だけを愛し続けた。甥や姪、その子どもたち(孫世代の葵)を我が子のように愛し、生涯の戦友・風間とともに復興の時代を泥を啜って生き抜いた志乃。 ​そして50年以上の歳月が流れたある夕暮れ。80歳を超え、愛する家族と仲間に囲まれて穏やかに人生を全うした志乃の前に、あの日と変わらぬ17歳の姿で護が手を差し伸べにやってくる――。 ​【こんな人におすすめ!】 ​一途で切ない「純愛・生涯愛」ストーリーで泣きたい方 ​歳の差・時間の歪み・運命に翻弄される重厚なドラマが好きな方 ​悲劇で終わらず、長年の想いが報われる美しいハッピーエンドを読みたい方 ​戦友としての絆や、復興を支える温かな家族愛に触れたい方          0話含め全57話(最終回56話)

本文

第24話:『可憐の死』

​人間とは、酷く脆く、あまりにも儚い生き物だ。

​一発の弾丸で命を落とし、わずかな毒で呼吸を止め、怪異の鋭い爪の一振りに耐えかねて、あっけなくその肉体を泥へと変えてしまう。

​けれど、その脆さゆえに、ひとは誰かを愛おしいと思い、傷ついた仲間のために涙を流し、届かぬ腕を伸ばして互いの温もりを確かめ合うのだ。

​神崎志乃(かんざき しの)は、その「人間の弱さ」を痛いほど理解していた。

そして今、眼前で繰り広げられる悪夢の中で、己の無力さに歯噛みしていた。

​「――神崎先輩、避けてっ!」

​甲高い叫び声とともに、小柄な身体が志乃の視界を遮った。

​第4区画、崩落した地下買い出しエリアの広場。

御門の部隊による襲撃の混乱も冷めやらぬまま、シェルターの外郭を破って侵入してきたのは、これまで目にしたこともない巨大な怪異だった。

いくつもの人間の頭部が腐肉の塊に埋もれ、無数の腕が奇怪な棘となって全身から生えた、おぞましい形態の巨獣。

​ズシャアッ!!

​濁った血の臭いと、骨が砕ける不吉な音が響き渡る。

​「……あ……っ」

​志乃の眼前で、可憐(かれん)の身体が宙に浮き、そのまま濡れた石畳の上へと激しく叩きつけられた。

​「可憐っ……! 可憐っ!!」

​志乃はなりふり構わず走り寄り、倒れた可憐を抱き起した。

防衛班の通信担当であり、志乃や護たちのささやかな「日常」をいつも明るく彩ってくれていた小さな少女。配給の薄い紅茶を淹れては「今日は当たりですね!」と笑い、志乃と護のぎこちない距離感をからかいながらも、誰よりも温かく二人を見守ってくれていた仲間。

​その可憐の小さな胸元は、怪異の巨大な棘によって深く抉られ、真っ赤な鮮血が止まることなく溢れ出していた。

​「あ……がっ……神崎、先輩……」

​可憐の口から、泡状の血がこぼれ落ちる。

彼女の指先が、助けを求めるように志乃の戦闘服の袖を掴んだ。その力は酷く弱く、刻一刻と体温が奪われていくのが手に取るように分かった。

​「喋っちゃダメ! すぐに応急処置を……誰か、医療班を!!」

​志乃は叫んだ。だが、自分の叫びがどれほど虚しいか、長年の戦場経験が冷徹に理解していた。

臓器は破壊され、大量出血によるショック状態。人間の生命維持システムは、すでに死へのカウントダウンを始めていた。

​「に……逃げて……先輩……あの化け物……強い……です……」

​可憐は死の激痛に顔を歪めながらも、最後まで志乃を気遣い、必死に言葉を紡ごうとしていた。

ボロボロと溢れ出る志乃の涙が、可憐の青白い頬を濡らす。

​人であるからこその、激痛。

人であるからこその、死への怯え。

そして、人であるからこその、最期まで仲間を想う優しさ。

​可憐は、間違いなく「弱くて愛おしい人間」として、その命を燃やし尽くそうとしていた。

​

​「――ガアアァァァァッ!!」

​可憐の肉体を散々に痛めつけた巨獣が、勝利を誇誇示するように無数の頭部から一斉に咆哮を上げた。

棘にまみれた巨大な腕が持ち上がり、抱き合う志乃と可憐の頭上へ投下されようとする。

​避けることはできない。志乃は可憐を庇うように抱きかかえ、死を覚悟して強く目を瞑った。

​(護くん……っ!)

​心の中で、愛しい少年の名を叫ぶ。

​だが――訪れたのは、破壊の衝撃ではなかった。

​異様な「沈黙」だった。

​悲鳴も、怪異の唸り声も、風の音すらも一切が消失したかのような、絶対的な静寂。

​志乃が恐る恐る目を開けると、そこには背中を向けた一人の少年が立っていた。

​大神護。

​黒い制服の裾を静かに揺らし、彼は怪異の巨大な爪を、ただ左手の一指だけで受け止めていた。

​「……え?」

​志乃の思考が停止した。

​怪異の放った一撃は、鉄線をも容易く引きちぎる質量を伴っていたはずだ。

なのに、護の脚は一ミリたりとも動いていない。アスファルトが沈み込むこともなく、ただそこに「存在している」という事実だけで、怪異の暴威を完璧に無効化していた。

​怪異が異変を察知し、狂ったように残る無数の腕を繰り出し、護へ襲いかかる。

空間を埋め尽くす殺意の嵐。

​けれど、護は回避行動すら取らなかった。

​ドス、ドス、ドスッ!

​何本もの凶悪な棘が、護の胸を、肩を、腹を深く貫いた。

大量の血が噴き出す。可憐が受けた以上の、即死して然るべき惨烈なダメージ。

​「護くんっ……!!」

​志乃が悲痛な悲鳴を上げた。

​しかし、護の表情は一切変わらなかった。

苦痛の呻き一つ上げず、眉根を寄せることもなく、ただ透明な瞳で巨獣を見つめている。

​貫かれた傷口から、紫白色の光を孕んだ細い糸が無数に吐き出された。

シュウゥゥ……という微かな音とともに、肉が絡み合い、骨が繋がり、貫いていた怪異の棘を内側から押し弾いていく。

​ほんの二秒。

貫かれたはずの傷口は跡形もなく消え去り、血に汚れた服の隙間から見えたのは、傷一つない白磁のような肌だった。

​「ガ……っ!?」

​怪異が、初めて「恐怖」を覚えたかのように退こうとした。

しかし、すでに遅かった。

​護が、右手に握った漆黒の刀を、静かに一振した。

​刀身が描いた軌跡に、音はなかった。

黒い波紋のような光が円状に広がり、次の瞬間、ビルのように巨大だった怪異の全身に、無数の亀裂が走った。

​ドォンっ!

​爆発音すら抑え込まれたかのように、巨獣は一瞬で細かな黒い粒子へと分解され、存在そのものが消滅した。

あとに残されたのは、静まり返った地下広場と、舞い散る紫黒い霧だけだった。

​圧勝。

あまりにも圧倒的で、あまりにも残酷な「神」の行使。

​

​怪異を塵へと変えた護は、ゆっくりと刀を鞘へと収めた。

​カチリ。

​無機質な金属音が響く。

護は静かな足取りで振り返り、血の海の中に横たわる志乃と可憐の方へと歩み寄ってきた。

​志乃の手の中で、可憐の呼吸はすでに絶えていた。

力なく垂れ下がった小さな手。途絶えた心音。冷たくなっていく可憐の頬を抱きかかえ、志乃はボロボロと涙を流し、慟哭していた。

​「可憐……嫌よ、可憐……! 目を開けて……お願いだから……っ!」

​二人の「日常」を守るために、笑って紅茶を淹れてくれていた少女の命が、いま目の前で失われたのだ。

胸が引き裂かれるような悲しみと、何もできなかった己への絶望。志乃の全身は、人間としての痛みに激しく震えていた。

​護が、二人のすぐ傍らで立ち止まった。

​護の足元には、可憐の体から流れた赤い血だまりが広がっている。

その血の中に、護は躊躇することなく足を踏み入れた。

​志乃は涙で霞む目を上げ、護を見上げた。

​「護……くん……可憐が……可憐が……っ」

​志乃は言葉にならない悲鳴を上げ、護に助けを求めた。

「悲しい」と、「悔しい」と、一緒に泣いてほしかった。仲間を失ったこの耐え難い痛みを、半分だけ分かち合ってほしかった。

​けれど。

​護は、血まみれの可憐の遺体を見下ろしていた。

​その瞳には。

涙の一滴すら、存在しなかった。

​哀しみの色も、悔恨の揺らぎも、激しい怒りすらもない。

ただ、道端に転がる壊れた瓦礫でも眺めているかのように、完璧な無表情と、底の透けて見える静かな透明感だけが、彼の瞳を支配していた。

​「……大神……くん?」

​志乃の声が、引きつった。

​護は、膝を折り、可憐の冷たくなった頬にそっと手を触れた。

その手つきは、恐ろしいほど丁寧で、そして恐怖を覚えるほど「感情」が欠落していた。

​「息が、止まっているな」

​護の口から出た言葉は、どこまでも平坦で、事実を正確に確認するだけのものだった。

​「……え?」

​「心拍もない。細胞の壊死が始まっている。……彼女は、死亡した」

​淡々と報告する声。

そこに、仲間を失った悲痛さは微塵も存在しなかった。

​志乃の全身の血が、一瞬で凍りついた。

​「な……何を……言ってるの……?」

​「可憐のバイタルは停止したと言ったんだ、神崎さん。これ以上、ここにいても意味はない。怪異の残党が来る前に、撤退しよう」

​護は静かに立ち上がり、志乃に向かって手を差し伸べた。

​その顔には、先ほど地下駐車場で作ってみせたような「嘘の笑顔」すら作られていなかった。

悲しむことすら忘れてしまった顔。

人が死んだという事実に対して、何の感情も抱けなくなってしまった者だけが持つ、絶対的な空洞。

​(あ……あぁ……っ)

​志乃の胸の中で、可憐の死以上の、狂気的な恐怖が爆発した。

​怪異が怖いのではない。

御門の兵器が怖いのではない。

​目の前にいる、自分が愛したはずの少年が――**「人が死んだのに、何も感じなくなっている」**という現実が、何よりも恐ろしかった。

​「来ないのか、神崎さん」

​護が首を傾げた。

その差し出された手。一瞬で傷が塞がる、冷たく綺麗な手。

志乃は、その手を握ることができなかった。

​がたがたと震える手で可憐の遺体を抱きしめ直すと、志乃は悲鳴のような声を漏らしながら、後ずさった。

​「来ないで……」

​「……え?」

​「近寄らないで……っ! 大神護……っ!!」

​志乃の口から飛び出したのは、彼の名前を叫ぶ拒絶の言葉だった。

​「距離」が、決定的なものとなった。

​昨日まで、一本の傘の下で肩を寄せ合い、同じ「帰る場所」を夢見ていた二人。

だが今、二人の間を隔てているのは、十三年の時間でも、外界と東京の壁でもない。

​「人間」と「神(怪物)」という、絶対的な断絶だった。

​

​護は、差し出した自分の手を静かに下ろした。

​志乃の瞳に浮かぶ、自分に対する激しい恐怖と拒絶。

可憐の血に濡れた地面。

息絶えた少女の冷たい肉体。

​(俺は……どうして涙が出ないんだろう)

​護は、己の胸に手を当てた。

​可憐は仲間だった。自分に優しくしてくれた。

悲しいはずだった。泣き叫ぶべきだった。志乃と一緒に可憐を抱きしめて、「ごめん」と謝るべきだった。

​なのに、胸の奥は静かだった。

まるで、他人事の劇でも観賞しているかのように、自分の心が凍りついている。

​『痛みを感じない身体。傷つかない肉体。そして……やがては、悲しみも、愛しさも、すべての感情を手放す』

​22話でリリスが志乃に告げた言葉。

それが、いま護の肉体の中で現実のものとなり果てていた。

​「……わかった」

​護は、選ばなかった慰めの言葉を飲み込み、低く呟いた。

​「俺は、先に行く」

​志乃を見つめることもせず、護は振り返った。

一人、血の海と化した地下広場を歩き出していく。

​その一歩一歩が、重い沈黙となって広場に響く。

志乃は可憐の遺体を抱きしめたまま、去っていく護の背中を、涙で歪む視界の中で見つめ続けることしかできなかった。

​彼の背中は、あまりにも遠く、そしてあまりにも孤独だった。

​崩壊したシェルターの片隅で、可憐の死という圧倒的な絶望とともに、ひとつの「日常」が完全に潰えた。

​そして――。

​人間としての感情を麻痺させ、完全なる無痛の領域へと足を踏み入れかけた大神護の前に、さらなる深い狂気の救済が忍び寄ろうとしていた。

​【第24話 『可憐の死』 終わり

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作者について

天霧 セナ

天霧 セナ

広島在住。AI生成を使用し小説とイラストをやってます。 ファンタジー・SF・恋愛など色々書いてますが、 一番大事にしてるのは感情の動き。AIで感情表現は何処までできるかをテーマにしてます。 今年...

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