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『天津守護』-I'll never lose my mind

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/24 📚 シリーズ: 『天津守護』-I'll never lose my mind 📝 4,000文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

​【あらすじ】 十三年前、紫黒い天蓋と異形の怪異に閉ざされた魔都・東京。時間の流れが狂った結界の中で13年間閉じ込められていた17歳の少年・大神護(おおがみ まもる)と、外界から彼を救うために戦い続けた27歳の特殊部隊元隊長・神崎志乃(かんざき しの)。 ​崩れかけた廃屋で分け合った不味いスープ、指先を傷だらけにして削られた手作りのオルゴール。世界を繋ぎ止める人柱「天津守護」となった護は、「生きろ」という言葉と手作りのオルゴールを志乃に遺し、光となって消え去ってしまう。 ​あの日から、志乃は生涯誰とも婚姻を結ばず、ただ一人「大神護」という少年だけを愛し続けた。甥や姪、その子どもたち(孫世代の葵)を我が子のように愛し、生涯の戦友・風間とともに復興の時代を泥を啜って生き抜いた志乃。 ​そして50年以上の歳月が流れたある夕暮れ。80歳を超え、愛する家族と仲間に囲まれて穏やかに人生を全うした志乃の前に、あの日と変わらぬ17歳の姿で護が手を差し伸べにやってくる――。 ​【こんな人におすすめ!】 ​一途で切ない「純愛・生涯愛」ストーリーで泣きたい方 ​歳の差・時間の歪み・運命に翻弄される重厚なドラマが好きな方 ​悲劇で終わらず、長年の想いが報われる美しいハッピーエンドを読みたい方 ​戦友としての絆や、復興を支える温かな家族愛に触れたい方          0話含め全57話(最終回56話)

本文

第32話:『人間の体温』

ひとの体温とは、あまりにもささやかで、そして狂おしいほどに強い。

冷え切った硝子を溶かすのは、一輪の炎ではなく、ただ肌と肌が触れ合う時に伝わる確かな熱だ。その熱があるからこそ、私たちは他者の存在を信じ、傷つくことを恐れながらも腕を伸ばす。

ドスッ、と重く不快な衝撃が、湿った石畳に響いた。

「……ぁ……っ」

崩壊した東京の最深部。紫黒い霧と不気味な微光が明滅する広大な空洞の中、二人分の身体が激しく転がった。

神崎志乃(かんざき しの)は、痛む腕の感覚すら完全に忘れていた。右腕の骨は折れ、肩からは溢れ出た血液が黒い防護服を濡らして重く沈んでいる。全身の筋肉が悲鳴を上げ、視界の端が血の赤と死の黒で明滅していた。

けれど、志乃の両腕は、寸分の隙間もなく一人の少年の身体を抱きしめ続けていた。

「離さない……絶対、離さないから……っ!」

抱きしめた腕の感触は、恐ろしいほどに頼りなかった。 腕の中に収まっているはずの大神護(おおがみ まもる)の身体は、いまだ光の粒子となって空気中に解け出し続けていた。黒い制服の生地は透け、志乃の指先は彼の背中をすり抜け、ただ空(くう)を掴みかける。

まるで、朝靄の残像を必死に抱きしめているかのような、途方もない恐怖。

「神……崎……さん……?」

頭上から聞こえた護の声は、世界そのものの鳴動に掻き消されそうなほど薄く、虚ろだった。 彼の茶色の瞳には、光がなかった。 自我の輪郭は引き裂かれ、心根の深層は「東京の核」という巨大な無の海へと同化しつつある。志乃の顔すら、もはや彼の視界には「背景に溶け込むひとつの模様」としてしか映っていなかった。

「無駄よ、神崎志乃」

空中に浮遊する黒いドレスの女性――リリスが、冷徹な哀れみを込めた眼差しで見下ろしていた。

「その子はもう、概念の領域へ至ったわ。人間の細い腕で手繰り寄せられるような存在ではないの。抱きしめれば抱きしめるほど、あなたの体温は虚無に奪われ、あなた自身が凍えて死ぬだけよ」

リリスの言葉通りだった。 護の身体に触れている志乃の皮膚から、猛烈な勢いで「熱」が奪われていく。指先が感覚を失い、唇が青紫に跳ね、吐く息が白く凍りついていく。

けれど、志乃は腕の力を緩めなかった。 緩めるどころか、折れた腕の骨が軋むのも構わず、己の胸板と彼の胸板が押し潰されるほど強く、強く、狂気的なまでの力で押し当てた。

「関係ない……っ! 凍えたっていい……死んだっていい……っ!」

志乃の叫びが、無の空洞を破裂させた。

「あなたがいなくなる世界なんて、私には何の価値もないのよ……っ!!」

志乃は、己の額を護の冷たい額へと強くぶつけた。

二人の距離が、完全にゼロになる。 目と目、鼻と鼻、息と息が混ざり合う至近距離。

護の瞳の中に、光の欠片すら残っていない「空洞」が見えた。 かつて喜怒哀楽を素直に露わにし、不味いスープに眉を顰め、一本の傘の下で『ただいま、って帰ってくるよ』と誓ってくれたあの17歳の少年の姿は、どこにもなかった。

志乃の胸を、痛烈な悲傷が引き裂く。

選ばなかった言葉たちの死骸が、志乃の喉を灼く。 『外界へ戻りましょう』とも、『世界を救って』とも言わなかった。 志乃が欲しかったのは、正しいヒーローでも、すべてを救う神様でもない。ただの、不器用で、愛おしい、自分の目の前で笑ってくれる「大神護」という一人の男の子だけだった。

「お願いだから……っ!」

志乃の眼から、熱い大粒の涙が溢れ出した。

その涙は、彼女の命そのものの熱を孕んでいた。 十三年間、忘れることのなかった想い。 雨の日に手を離してしまった後悔。 再会した時に感じた胸のときめき。 彼が「今の自分」として懸命に生きようとしていた三年間への、途方もない愛おしさ。

そのすべてが凝縮された熱い涙の滴が、ポタリと、少年の冷たい頬の上に落ちた。

「怪物にならないで……!! 神様にならないで……っ!!」

志乃の悲鳴のような叫びが、護の耳孔を穿つ。

「私を……私を置いていかないで、護くんっっ――――!!」

ポタリ。

二滴目の涙が、護の頬を伝い、彼の固く閉ざされていた唇へと滑り落ちた。

その瞬間。

世界が、急速に「逆流」を始めた。

ドックン―――――――――――――――ッ!!

雷鳴のような鼓動の音が、空洞全体を激しく揺らした。

護の体内に起きたのは、安らかな奇跡などではない。 それは、凍結していた生命の回路へ、高電圧の電流を直接叩き込まれたかのような、凄絶なまでの「蘇生」だった。

「―――が……ッ!?」

護の身体が、弓なりに跳ね上がった。

志乃の涙。 彼女の肌から伝わる、痛いほどの体温。 『私を置いていかないで』という、泥臭く、醜く、けれどこの世で何よりも切実な「人間の叫び」。

それらが、無の海へと溶けかけていた護の自我を、強引に「肉体」という狭く不完全な檻の中へと引きずり戻した。

一瞬で、世界に「色」が戻る。

同時に、神格化によって麻痺していたすべての「神経」が、爆発的な勢いで芽吹いた。

あ感覚の奔流。

「あ……がっ……あぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

護の口から出たのは、言葉ではなかった。 悲鳴だった。 獣が全身の肉を削ぎ落とされたかのような、絶望的な断末魔の叫び。

痛い。 痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛いっ――――――!!

怪異の爪に貫かれた左胸の痕が、熱鉄を押し当てられたように激しく疼く。 弾丸に穿たれた太ももの肉が、内側から引き裂かれるような苦痛を上げる。 そして何より――胸の奥、固く凍りついていた「心」が解け出していく激痛。

可憐が、血の海の中で息絶えた時の情景。 風間が、恐怖に怯えた目で自分を拒絶した瞬間の絶望。 避難民たちが、自分を怪物を見る目で見つめていた不気味な視線。 志乃が、自分の冷たい手に悲鳴を上げて後ざさったあの絶望。

「痛み」が、押し寄せてきた。

肉体の苦痛と、精神の地獄。 人間として生きる上で避けて通ることのできない、あらゆる悲しみと負の感情が、津波となって少年の胸を粉々に打ち砕いた。

「ああああぁぁぁぁっ! 志乃さん……っ! 志乃さんぁぁぁっっ!!」

護は、志乃の背中に自分の両腕を回した。

透けていた肉体が、一瞬で実体としての質量と熱を取り戻す。 不完全で、脆く、傷つきやすい「人間の手」。 その手で、護は志乃の防護服を破らんばかりに強く握りしめ、彼女の胸の中に顔を埋めて、子供のように号泣した。

ボロボロと、彼の瞳から大きな涙が溢れ出す。

「痛い……痛いよ……っ! 可憐が……可憐が死んだんだ……っ! 俺……俺、可憐を助けられなかった……っ! 風間に……嫌われた……っ! 俺……俺、怖かったんだ……っ! 志乃さん……っ! 志乃さんぁぁぁっっ!!」

涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにし、身体を激しく不規則に震わせながら、護は叫び続けた。

そこには、無敵の力を持つ神の姿など、どこにもなかった。 ただの、仲間を失って傷つき、自分が何者かに怯え、大好きな女性の胸の中で必死に助けを求める、哀れで、弱く、けれど愛おしい17歳の少年――「大神護」がそこにいた。

「……護くん……っ」

志乃の瞳から、再び温かな涙が溢れ出した。

その涙は、先ほどまでの絶望の涙ではなかった。 胸が引き裂かれるほど切なく、けれど心底からの安堵に満ちた、温かな涙。

護の身体は、再び血を流していた。 傷口からは紫白色の光など一切立たず、生々しい人間の赤い血が溢れ出し、志乃の服を濡らしている。 彼の身体は震え、熱を帯び、人間としての弱さを全身で露わにしていた。

「良かった……戻ってきた……戻ってきてくれたのね、護くん……っ!」

志乃は、号泣する護の頭をしっかりと抱きかかえ、自分の胸元へと強く引き寄せた。

「痛くていいの……っ! 悲しくていいのよ……! あなたは神様なんかじゃない……! 私の大切な、人間なの……っ!」

「志乃さん……っ! ごめんなさい……ごめんなさい……っ! 俺……俺……っ!」

「謝らないで……! 泣いていいのよ……ずっと我慢させて、ごめんなさいね……っ!」

二人は、血と涙と泥に塗れながら、崩壊する世界の中心で強く抱き合い続けた。

かつて、二人の間を隔てていたものは何だったのだろうか。 十三年の時間。外界と東京の壁。神と人間という絶対的な断絶。 それらすべてが、互いの体温と涙の交錯によって、綺麗に溶けて消え去っていた。

「……信じられないわ」

宙に浮遊していたリリスが、呆然とした呟きを漏らした。 その紫色の瞳には、冷徹な慈悲ではなく、人間という生物に対する本能的な「戦慄」が宿っていた。

「苦痛のない完全な平穏を捨て……わざわざ、その傷と悲しみに満ちた『泥の生』を選ぶというの……? 人間の執着とは……これほどまでに狂気的なものなの……?」

リリスの手が、静かに振り上げられる。

「いいでしょう。……ならば、その泥の中で、二人揃って永遠に眠りなさい」

絶大な異界の瘴気が、空洞の天井を砕き、巨大な黒い刃となって、抱き合う二人に向かって垂直に落と下された。

しかし――。

「……神崎さん」

志乃の胸の中で号泣していた護が、涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。

その瞳。 そこには、神の冷酷な光は微塵もなかった。 けれど、涙に濡れた茶色の瞳の奥には、大切な人を守るという、人間としての絶対的な「意志」の火が、赤々と燃え上がっていた。

護は、ボロボロになった右手で、傍らに転がっていた漆黒の刀の柄を、力強く握りしめた。

痛む。全身が割れるように痛む。 けれど、その痛みが、いまの彼に「生きている」ことの無限の強さを与えていた。

「俺は……もう逃げない」

少年の口から漏れたのは、力強い、人間の声だった。

人間としての体温を取り戻した護と、彼を抱きしめ抜いた志乃。 二人の本当の戦いが、ここから始まろうとしていた。

【第32話 『人間の体温』 終わり】

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作者について

天霧 セナ

天霧 セナ

広島在住。AI生成を使用し小説とイラストをやってます。 ファンタジー・SF・恋愛など色々書いてますが、 一番大事にしてるのは感情の動き。AIで感情表現は何処までできるかをテーマにしてます。 今年...

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