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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
私は、鬼の里へすてられた…。
本文
まさか鬼の里でのはじめての出会いが、こんな大男だなんて。
「笑ったな!? おい、今お前、俺のこと見て笑ったろ!」 厳牙は顔をさらに真っ赤にして、私の鼻先に人差し指を突きつけてきた。
「こっちは大真面目に困ってんだよ! あーもう、お前、名前は!? 名前くらいあんだろ!?」腰に手を当てて、ふんすと鼻息を荒くしながら私を見下ろしてくる。
周りの酒場からは 「早くお家に連れて帰れー!」 とさらにひどいヤジが飛んできて、厳牙の額の一本角が怒りでピキピキと震えだしていた。
「……名前……」 私はぽつりと呟いて、また地面に視線を落とした。
あの冷たい村では、いつからか誰も私の名前を呼ばなくなっていた。
みんな私を「災いの子」とか「生贄」としか呼ばなかったから、自分の名前の響きさえ、なんだか遠い昔の落とし物みたいに思えてしまう。
「あー……いや、その。言いたくねえなら、別に無理にとは言わねえけどよ……」 さっきまでトマトみたいに真っ赤になって怒鳴っていた厳牙が、急にバツの悪そうな顔をして声を落とした。
私のうつむいた様子を見て、また何か触れられたくない心の傷に触れてしまったと勘違いしたらしい。
「ほら、なんだ、その! 名前がないと呼ぶ時に不便だろ!?『おい、人間』とか呼ぶのも、なんか味気ねえっていうか、その……っ!」 厳牙は大きな身体をそわそわと揺らしながら、ごつごつした指先で自分の頬をポリポリと掻いた。
私をこれ以上傷つけまいと、必死に言葉を選ぼうとしているのが丸わかりで、その不器用な優しさが、なんだかむず痒くて、やっぱり少しだけ可笑しかった。
「じゃあ……あなたがつけてよ。私の新しい名前。あなたが決めて」
「……はぁあっ!?」 厳牙は素っ頓狂な声を上げて、文字通り一歩後ろに飛び退いた。
額の一本角が今度こそへし折れんばかりにのけぞっている。
「な、ななな、名前を俺がつける!? お前、正気かよ! 鬼に名をつけてもらうってのがどういう意味か分かって言ってんのか!?」
「知らないわよ、そんなの。だって私、人間だもの」 私が少し拗ねたように唇を尖らせると、厳牙は 「うぐっ」 と言葉を詰まらせて、大きな手を顔に当てて天を仰いだ。
周囲の酒場からは 「ひゅ~!」 「厳牙の旦那、ついに嫁入り前のお嬢ちゃんに名付けかよ!」 「責任とれよなー!」 と、もうお祭り騒ぎの大歓声が巻き起こっている。
「うるせえええ! お前ら酒の肴にしてんじゃねえ! ……あーもう、分かったよ! 分かればいいんだろ!」厳牙は自暴自棄気味に叫ぶと、ドカッと私の前にしゃがみ込んだ。目線が同じ高さになる。彼は腕を組み、ふんぬーと唸りながら、ものすごい形相で私の顔を睨みつけるように見つめて、必死に名前を考え始めた。