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小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
私は、鬼の里へすてられた…。
本文
🌸
必死な顔の彼を見て、
「いいよ。今はおまえで………」
「え……あ?」 ものすごい形相で唸っていた厳牙が、私の呟きを聞いてピキッとフリーズした。
組んでいた太い腕が、そのままの形で固まっている。 「い、今お前……なんて言った?」
「だから、いいよって。思いつかないなら、今は『お前』でいい」
私が少し呆れたように、でもクスッと笑いながら言うと、厳牙はまるで熱湯を浴びせられたみたいに、顔だけでなく耳の先まで一気に真っ赤に染め上げた。
「ば、馬鹿野郎! そんな呼び方、俺のプライドが許さねえよ! 俺がただの甲斐性なしの鬼みたいじゃねえか!」 厳牙はガバッと立ち上がると、恥ずかしさを誤魔化すように、また頭の後ろをバリバリと激しく掻きむしる。
その姿を見て、周りの鬼たちはもうお腹を抱えて床をドンドン叩きながら大爆笑していた。 「おい厳牙!『お前』ってなんだよお前!」 「初々しすぎてこっちが恥ずかしくなるわ!」 と、酒場は完全に彼の公開処刑場と化している。
「ちくしょう、笑うなっつうに! ……おい、お前! いや、お前じゃなくて、その……!」 厳牙はすっかりパニックになりながら、大きな身体をそわそわと動かして、どうしていいか分からず私と酒場の鬼たちを何度も見比べていた。
「あーもう、埒が明かねえ! お前ら、それ以上言ったら全員ぶっ飛ばすからな!」 厳牙は酒場の野次馬たちに向かって拳をぶんぶんと振り回すと、がしっと私の手首を掴み直した。
今度は痛くないように、でも絶対に逃がさないような絶妙な力加減だ。 「おい、こんなうるせえ所じゃまともな名前も浮かばねえ。場所変えるぞ!」大槌をひょいと肩に担ぎ直すと、厳牙は私を引っ張るようにして、賑やかな酒場から強引に連れ出した。
夜風が頬を撫で、篝火の熱気が少しずつ遠ざかっていく。
里の奥へと続く静かな一本道を歩きながら、厳牙はまだ耳の裏まで真っ赤にしたまま、ぶつぶつと独り言のように 「名前、名前なぁ……」 と呟いている。
人間の村ではゴミのように捨てられた私が、今はこうして、大きな鬼の背中を見上げながら夜道を歩いている。
その奇妙な状況に、私の胸の奥はさっきからずっと、小さな火が灯ったように温かかった。
「……おい」静かな夜道に、厳牙の低くて少し掠れた声が響いた。