【43番外】 パチンコを打つ玉
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
時環遊技場の店休日には、向かいにある小さなゲームセンターが、たまに開くことがある。普段はシャッターが下りている店だ。
十円ゲームやエレメカ、古いテレビゲーム。そして、店の奥には何台かのパチンコ台も置かれている。
その日も、店主がシャッターを上げていた。
ゲームセンターは、いつもより少し賑やかだった。十円ゲームの電子音に、エレメカの機械音。奥のパチンココーナーからは、玉が盤面を跳ねる音が絶え間なく聞こえてくる。
床には、遊技中の客が使っているドル箱がいくつも並んでいた。
突然、そのうちの一つから、玉がころりと転がった。
誰かが落としたのだろう。けれど、その玉は止まらなかった。ころころと床を進み、別のドル箱の前を通り過ぎる。
すると、そこからも一個の玉が転がり出した。
また一個。さらに一個。あちらのドル箱からも、こちらのドル箱からも、玉が少しずつこぼれ出してくる。
銀色の玉は、床の一点へ向かっていた。
「……あれ?」
気づいた客が足を止める。
玉は次々と集まり、やがて小さな山を作った。その山が、もぞりと動いた。
玉が寄り集まって、脚になる。胴ができ、腕が伸びる。最後に、丸い頭が乗った。
そこに立っていたのは、人の形をしたパチンコ玉だった。
玉人はしばらく店内を見回していた。そして、何事もなかったように歩き出した。
向かった先は、パチンココーナーだった。
一台の前で立ち止まり、玉人は椅子に腰を下ろす。
右手をハンドルへ。左手を上皿へ。
すると、その左手の手のひらから玉がザラザラと流れ出した。上皿に玉が溜まる。
玉人は右手をひねった。普通にパチンコを打っている。
周りにいた客たちが、なんとなく集まってきた。
そのうち、玉人が座った台を見て、何人かが顔を見合わせた。
よりによってその台は、朝から釘がかなり渋く、さっきまで打っていた客も、ほとんど入らないとぼやいていた台である。
「今日はやめておいたほうがいいですよ」
誰かが玉人に声をかけた。
もちろん、玉人は何も答えない。ただ、黙々と打ち続ける。玉が釘に弾かれる。また弾かれる。なかなか入らない。
そのたびに、玉人の身体から一個、また一個と玉が抜けていく。
少しずつ、身体が細くなっていった。それでもやめない。
店内の客たちも、いつの間にかゲームをする手を止めて、玉人の遊技を眺めていた。
まるで、誰かの勝負を見守るように。
そして、その瞬間。図柄が揃った。盤面が派手に動く。大当たりだ。
店内に歓声が上がった。玉人の前へ、一気に玉が吐き出される。
玉人は両手を広げ、その玉を身体へ取り込んでいった。
もりもり……。
身体が膨らむ。さらに玉が流れ込む。さっきまで細くなっていた身体が、みるみる元に戻っていく。
そして、もう一度大当たり。今度はさらに大量の玉が出てきた。玉人は嬉しそうに両腕を広げた。
玉が身体へ吸い込まれていく。身体はどんどん大きくなった。
どういうわけか、そこから三回連続で大当たりが続いた。大当たりのたびに玉が出て、そのたびに玉人が吸収する。
最初は普通の人間ほどだった玉人が、いつの間にか大人の背丈を超え、さらに大きくなっていた。
「すごいな……」
誰かが呟いた。
子どもたちはすっかり夢中になっている。常連客たちも、自分の台そっちのけで玉人を見ていた。
玉人は絶好調だった。右手でハンドルを回し、左手からザラザラと玉を送り出す。
そして、出てきた玉を身体へ取り込む。その姿は、もはや人というより、巨大な玉の塊に近かった。
少し離れたところで、店主が楽しそうに玉人の打つ台を眺めている。
玉人はその後も勝ち続けた。やがて、ふっと右手をハンドルから離した。
台を見つめる。
しばらくして、満足したように立ち上がった。
もう十分遊んだらしい。玉人はゆっくりと振り返り、そのまま歩き出した。
最初に向かったのは、自分が入っていたドル箱だった。
ところが、その前まで来ると、玉人は急に方向を変えた。
隣のドル箱へ向かう。そこで立ち止まり、中を覗き込むように身体を傾けた。
しばらく眺めている。
そして――そのまま箱に飛び込んだ。
ザバーンッ!
大量の玉が跳ね上がった。玉人はドル箱の中へ沈んでいく。かと思えば、すぐに身体を起こし、今度は別のドル箱へ向かった。
また飛び込む。
ジャララララッ!
そこからさらに別のドル箱へ。
あちらへ。こちらへ。まるで店内のドル箱を一つずつ訪ねて回るように、玉人は次々とダイブしていった。
飛び込むたびに玉が弾け、床へこぼれる。
「ずいぶん自由だな」
「次はどこ行くんだ?」
「俺の箱にも来てくれないかな」
そんな声まで聞こえてくる。
最後に向かったのは、店内の端に置かれた一つのドル箱だった。
玉人はその前で立ち止まった。そして、ゆっくりと身体を沈めていった。
頭だけが、玉の山の上に残った。それも、ゆっくりと沈んでいく。
最後に、右手だけが玉の中から伸びた。その手が、ぐっと上を向く。親指が立った。
ほんの一瞬だけ、その姿が見えた。そして――静かに沈んでいった。
玉人の姿が、完全に消える。店内はしばらく静かだった。
誰も何も言わない。ただ、床には大量の玉が残されている。
すると、一人の常連客が自分のドル箱を覗き込んだ。
「あれ?」
隣の客が振り返る。
「どうした?」
「……なんか、増えてないか?」
「え?」
隣の客も、自分のドル箱を覗き込む。
「……ほんとだ」
さっきまでより、明らかに玉が増えている。その声を聞いて、別の客も自分のドル箱を確認した。
「こっちもだぞ」
「俺のところも」
「え、なんで?」
次々とドル箱を覗き込む客たち。
どうやら、玉人が飛び込んでいったドル箱だけではない。店内のあちこちで、少しずつ玉が増えていた。
「もしかして……あいつのおかげか?」
誰かが、最後に玉人が沈んでいったドル箱を見る。
「玉人が来たから、今日はツイてるのかもな」
「じゃあ、また来てほしいな」
「俺も、もうちょっと打ってみるか」
「俺も」
常連客たちの顔に、自然と笑みが浮かんだ。
その横で、従業員アンドロイドは床に散らばった玉を眺めていた。
「……回収します」
そう言うと、背中の装甲が静かに開いた。
ウィーン……。
中から一本のアームが伸びる。続いて、もう一本。
さらに一本。一本、また一本。次々とアームが背中から伸びていく。
その先には、細長い磁石棒が取り付けられていた。
従業員アンドロイドの背中には、何本ものアームが大きく広がっていた。
まるで千手観音のようだった。
「…………」
客たちが、その姿を見つめる。
さっきまで玉人を見ていたはずなのに、今度は全員の視線が従業員アンドロイドへ集まっていた。
「……何それ?」
「そんな機能あったの?」
「俺、初めて見た」
従業員アンドロイドは、何も答えなかった。ただ、何事もなかったように磁石棒を床へ近づける。
ジャララララッ。
一斉に玉が吸い寄せられていく。
「おお……」
客たちから、小さな歓声が上がった。
何本ものアームが器用に動き、床に散らばった玉を次々と回収していく。
その横で、店主は満足そうに笑っていた。
「ずいぶん楽しんだようですねぇ」
従業員アンドロイドは黙々と玉を拾い続けている。
最後に、玉人が沈んだドル箱の中には、何事もなかったように大量の玉が残っていた。
そしてその中で、一個だけの玉が、ころりと動いた。
ゲームセンターには、いつもの機械音と玉の音が戻っていた。