『怪獣駆除企業ガッタトン〜施工写真を撮るまでは殴るな!〜』
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あらすじ
自衛隊から地方の中小企業「ゼニアル重工」へ出向させられた迫間拓海。彼に与えられた仕事は、自社製品の展示用置物ロボット『ガッタトン』に乗って……怪獣の足元で「施工前・施工中・施工後」の写真を撮影すること!? 災害救助予算(公共事業費)を引くために手書き黒板を持って怪獣へ突進する新人営業。 1本80万円の解体用ニッパーの刃こぼれに悲鳴を上げる血も涙もない経理。 国会での白鳥防衛大臣による伝説の迷答弁「撮れます!現に山田君は撮れました!」。 そして、ネット炎上と労基の指導を突っぱねて導入される「工事写真アプリ(評価点+15点)」——。 国家の縦割り行政と安全規定が自衛隊の最新鋭機を縛り付ける中、現場の意地と超法規的「全部盛り(違法改修)」で立ち上がるのは、不格好で愚直な民間企業と現場の公務員たちだった! 【全6話構成】 第1話: 初出撃とゼニアル重工の現実(プロトタイプ受領と黒板文化) 第2話: 『施工前写真を撮るまでは殴るな!』(超大型ニッパーと命がけの三点写真) 第3話: 『国会審議:撮れます!山田君は撮れました!』(大炎上と工事写真アプリ導入) 第4話: 『最強怪獣襲来と超法規的「全部盛り」』(自衛隊機大破と官民一体の暴走魔改造) 第5話: 『施工完了:天満市防衛戦』(決死の爆発背景シャッターと本工事完了) 第6話: 『会計検査官と始末書を抱えて』(一太郎書類バトルと平和な日常への帰還) 名前はダサいが仕様は超絶イケメンな12mロボ『ガッタトン』が、重工メーカーの現場のプライドと大量の請求書を背負って天満市を駆け抜ける!
本文
第2話:『施工前写真を撮るまでは殴るな!』
突進してくる怪獣の口腔から放たれた熱気が、ガラス越しにコックピットの空気を一瞬で灼熱へと変えた。
生臭い潮風と焦げたアスファルトの匂いが、エアコンの吸気口を通り抜けて迫間拓海の鼻腔を激しく突く。全高四〇メートルを超える巨躯——全身を漆黒の甲殻で覆ったその怪獣は、天満市第3工業団地の電柱をなぎ倒しながら、地鳴りとともに『ガッタトン』へと肉薄していた。
「くそっ、速い……! だが、まずは牽制——」
迫間が操縦桿を握り直し、レバーを倒してガッタトンの右腕を前に出そうとした、まさにその時である。
『待ちなさい迫間さん!! 殴るんじゃないわよ!!』
鼓膜を突き破らんばかりの怒号が、コックピットのスピーカーから鳴り響いた。あまりの音量に、迫間の手が思わず操縦桿から滑りかける。
「な、なんだ!? 華乃さん!? 今まさに怪獣が目の前に——」 『殴ったらダメだって言ってるの! 施工前写真を撮るのが先よ!』 「はあ!? 施工前写真!?」
混乱する迫間の視界の隅、フロントモニターの最下部に、奇妙な人影が映り込んでいた。
黄色のヘルメットに蛍光オレンジの安全ベストを着用した小柄な男が、怪獣の足元——踏み潰されれば即死必至のデッドゾーンへと、猛ダッシュで飛び込んでいくではないか。男の手には、工事現場でおなじみの小型の緑色黒板と、ホワイトマーカーが握られていた。
「あれは……営業部の山田君!?」 『そうよ!』 華乃のキーキー声がインカムを揺らす。 『防衛省や自治体から災害救助・復旧の緊急予算(公共事業費)を引くには、施工前、施工中、施工後の三点写真が絶対条件なの! 写真がなければ、ガッタトンの出撃経費は一円だって下りないわ! うちが全額かぶることになるのよ!』 「正気か!? 怪獣の足元だぞ!? 踏み潰されたら写真どころじゃないだろ!」
モニターの中で、山田太郎(二十三歳)は恐るべき度胸——というか、入社一年目の新人にありがちな異常な生真面目さで、怪獣の足元に黒板を掲げていた。黒板には乱れることのない美しい文字で『工事名:天満市第3地区 対怪獣砕石および撤去作業/施工前』と書かれている。
『隊長ーっ!』 無線から、現場にいる山田のハッキリとした声が飛び込んできた。 『黒板掲げました! 怪獣の全景と黒板が綺麗に収まる画角で3秒止まってください! フラッシュたきます!』 「止まれるわけねえだろ!! 怪獣が腕を振り上げてるんだぞ!!」
怪獣の巨大な爪が、容赦なくガッタトンの頭上へと振り下ろされる。
ドガァァァン!!
間一髪、迫間は足裏の油圧スラスターを逆噴射させ、バックステップを踏んだ。ガッタトンが15年前に設置された「本日全休」の看板を粉砕しながら後退すると同時に、怪獣の爪が先刻までガッタトンが立っていたアスファルトを深く削り取る。衝撃波で街路樹が吹き飛び、山田が黒板を抱えてゴロゴロと地面を転がった。
「山田君!!」 『大丈夫です! 無傷です! 施工前、撮れました!!』 起き上がった山田が親指を立て、液晶画面の確認ボタンを押している。 「バカ野郎、早く下がれ! 死ぬぞ!」
『よし、施工前写真は確保したわ!』 華乃の声が一変し、戦闘許可のトーンに切り替わる。 『迫間さん、攻撃許可を出すわ! でも言っておくけど、ガッタトンには武器なんて積んでないからね!』 「知ってますよ! だから相撲でも取れってんですか!?」 『そんなわけないでしょ! はい、柴田班長、例のやつ!』
ガッタトンの足元、追撃してきたゼニアル重工の4トントラックの荷台から、柴田整備班長が超大型の金属工具をクレーンで吊り上げていた。全高約六メートル。重構造物の解体現場で使われる、油圧式の『超大型ニッパー(構造物切断用)』だ。
『迫間! これを使え!』 柴田がメガホンで叫ぶ。 『工場用だから高圧油圧チューブをガッタトンの右肘に直接繋がなきゃ動かんが、鉄骨を一発で真っ二つにするパワーがある! 拾い上げろ!』 「巨大ニッパー!? 兵器じゃなくてただの工具じゃないですか!」
文句を言いながらも、迫間はガッタトンの操縦桿を器用に操作し、屈んでクレーンから超大型ニッパーを掴み取った。ガッタトンの右肘から太い油圧ホースが伸び、ニッパーの根元へとカチリと接続される。
ピッ。
『警告:油圧系統過負荷。許容値を20%超過』
「くっ、また警告か! だが、背に腹は代えられない!」
怪獣が再び咆哮を上げ、長い尾を鞭のようにしならせて襲いかかってきた。迫間はガッタトンを前傾姿勢にさせると、地響きを立てて前進。ニッパーの刃先を広げ、怪獣の振り下ろされた尾を挟み込むように受け止めた。
ガギィィィン!!
金属と甲殻が激突し、凄まじい火花が夜空に散る。怪獣の尾の硬度は凄まじく、ガッタトンの腕部に激しい振動が走った。シートに固定された迫間の体に、鈍い衝撃が襲いかかる。
「く……重い! さすがに自衛隊の最新プロトタイプとは装甲のバランスが違いすぎる!」
その時、再び華乃の通信が割り込んできた。
『ちょっと迫間さん! 何を無駄に力勝負してるのよ! その超大型ニッパー、超硬合金製で1本80万円もするのよ!? 刃こぼれさせたら来月の給料から天引きだからね!!』
「だーかーらー!!」 迫間はコックピットの中で血圧を上がり切らせながら、マイクに向かって絶叫した。 「俺の給料は自衛隊から出てんの! ゼニアル重工から出ないのはハナから仕様だってさっき言ったでしょーが!!」
『あ、そうだったわね! じゃあ破損させたら自衛隊のあなたの口座に直接請求書送るからね!』 「だから口座を凍結させるなって言ってるんだ!!」
「迫間さん、喧嘩しないで!」 天野ほのかの悲鳴のような声が、混線したインカムから届く。 『市役所の防災課から連絡です! 怪獣の体液には強い酸性が含まれている可能性があります! ニッパーの刃を傷つけないためには、甲殻の「継ぎ目」を狙ってください! それと……市境(ボーダーライン)まであと五十メートルです! 絶対に越えないでくださいね!?』
「注文が多すぎる!!」
迫間は歯を喰いしばり、視界を集中させた。モニターに映る怪獣の尾の根元。漆黒の甲殻と甲殻の間に、わずかな肉の隙間が見える。
「継ぎ目……ここか!」
迫間はガッタトンの右レバーを限界まで押し込み、高圧油圧バルブを全開にした。
ブシューッ!!
ガッタトンの右腕から白煙が噴き出し、油圧ポンプが悲鳴を上げる。超大型ニッパーの刃が、怪獣の尾の継ぎ目に深く噛み込んだ。
ギギギギギ……パチィィィン!!
異様な切断音とともに、怪獣の巨大な尾が根元から切り飛ばされた。緑色の体液が噴き出し、アスファルトを溶かしていく。怪獣は激痛に身を捩り、天を仰いで悲鳴を上げた。
「やった……!」 『今よ迫間さん! 施工中写真!!』 華乃の容赦ない指示が飛ぶ。
「山田君、また行くのか!?」 『行きます!!』
煙と体液が舞い散る中、山田太郎が再びダッシュで怪獣の足元へ滑り込んだ。黒板を素早く書き換えている。『工事名:対怪獣砕石作業/施工中(尾部切断完了)』。
カシャッ!
フラッシュが怪獣の痛がる顔を照らした。
『施工中、撮れました! 隊長、トドメをどうぞ!!』 「お前、本当に大物だな……!」
迫間は苦笑混じりに叫ぶと、ガッタトンを踏み込ませた。尾を失ってバランスを崩した怪獣に対し、両腕で超大型ニッパーを構え直す。怪獣が最後の悪あがきとばかりに巨大な口を開け、熱線を吐き出そうと胸部を赤く発光させた。
「吐かせ・るかぁぁぁっ!!」
迫間はガッタトンの全身の重量をかけ、ニッパーの尖端を怪獣の開放された下顎へと突き刺した。そのまま油圧レバーを全開!
バシィィィン!!
怪獣の下顎が砕け、口内で溜まっていた熱量が逆流して内部爆発を起こした。ドオン! という腹に響く重低音とともに、怪獣の巨躯がグラリと傾き、天満市第3工業団地の空き地へともつれ込むように倒れ伏した。
黒い煙が立ち上り、怪獣は二度と動かなくなった。
静寂が、現場を包み込む。
ガッタトンのコックピットで、迫間は深く息を吐き出し、操縦桿の上に突っ伏した。全身汗だくだ。
「ハァ……ハァ……勝った……のか?」
『迫間さぁぁぁん!!』
インカムから天野ほのかの歓声が響く。
『倒しました! 怪獣の完全沈黙を確認しました! 天満市境もギリギリ越えてません! 完璧です!』 『よしっ! 山田君、ラスト! 施工後写真よ!!』 華乃の弾んだ声が続く。
煙の中から、疲れ果てた山田がふらふらと現れた。彼は倒れた怪獣の頭部の横に立ち、三度目となる黒板を掲げた。『工事名:対怪獣砕石作業/施工後(作業完了)』。
カシャッ。
『施工後写真、完璧なアングルで確保しました! これで防衛省と自治体に経費請求できます!』 山田が満足げに黒板を抱えて倒れ込んだ。
「みんな……本当に無茶苦茶だよ……」
迫間は脱力しながらも、胸の奥に小さな達成感が湧き上がるのを感じていた。民間企業の置物ロボットと、書類にうるさい経理、そして暴走する市役所職員。こんな不格好なチームでも、街を一つ守り切ったのだ。
だが、感動の余韻は長くは続かなかった。
「迫間さん! 上を見てください!」
広報部の鞍馬翔太の声に引かれ、迫間はコックピットのモニターを見上げた。
夜空に、数台の小型ドローンがホバリングしている。それだけではない。現場の街灯の陰から、スマートフォンとセルカ棒を掲げた若い男——迷惑系動画配信者の鬼頭蓮(きとう・れん)が、怪獣とガッタトン、そして黒板を持った山田の姿をバッチリと生配信で追っていたのだ。
「【緊急神回】天満市に謎の巨大ロボ出現www怪獣を殴り倒すwww」
鬼頭はスマートフォンの画面に向かって、興奮気味に早口で叫び続けている。
『マジでヤバい! 謎の看板ロボが怪獣撃破! ……ってか、ちょっと待って!? あのロボの足元にいるスーツのヤツ何!? 木製の黒板持って怪獣の足元に突撃してんだけど!www』
鬼頭のスマホ画面には、リアルタイムで凄まじい速度のコメントが流れていく。
『黒板ワロタ』 『公共事業かよwww』 『命がけの施工写真www』
『いや待て待て待て!』 鬼頭が配信画面に向かって、画面を指差ししながら爆笑のツッコミを入れた。 『今どき工事写真なんて、スマホの「工事写真アプリ」で電子黒板使うだろ! 令和だぞ今! なんで怪獣の足元で、手書きの木製黒板を自力で掲げて自撮り風に写真撮ってんだよ! アナログすぎるだろゼニアル重工!!』
「ネット配信者に正論でツッコまれてる……!」 コックピットで迫間は顔を覆った。
『やばいです迫間さん!』 翔太が青ざめた声で叫ぶ。 『僕がTwitter(X)にあげた「#ガッタトン」のハッシュタグと、あの配信者の「令和に手書き黒板」の切り抜き動画が合体して、ネット上で大爆発してます! トレンド1位です!』
「なに……!?」 『「民間企業が謎の看板ロボで怪獣撃破」「工事写真アプリ使えwww」「行政の手続きどうなってんの?」って、動画の再生数が数百・数千万回ペースで伸びてます!』
迫間のポケットの中で、防衛省の緊急IP無線機が再び激しい警告音を鳴らし始めた。画面に表示されたのは『統合幕僚長:鞍馬』。
「と、統幕長……!」 『迫間! よくやった! ……と言いたいところだが、えらいことになったぞ』
鞍馬の声は笑いを噛み殺しつつも、深刻なものだった。
『ネットの炎上を見た野党とマスコミが黙っちゃいない。「自衛隊が動かないのに民間が兵器を使っている」「工事写真アプリも使えない不透明な経費処理だ」と大騒ぎだ。明日の朝一番で、国会の予算委員会で白鳥大臣が野党から集中砲火を浴びることが決まった』
「こ、国会審議!?」 『そうだ。大臣は激怒しておられる。「あの足元で黒板を掲げていたバカ者は誰だ! 工事写真アプリはどうした!」とな。お前たちゼニアル重工の出撃顛末書と、施工写真の写しを今すぐ本省に送れ。一太郎フォーマットでな』
「また一太郎かよぉぉぉ!!」
迫間の叫び声が、夜の天満市第3工業団地に空しく響き渡った。
怪獣との戦いには勝利した。だが、彼らを待ち受けているのは、永田町を巻き込む、さらに巨大で厄介な「行政とネットの怪物」たちとの泥沼の書類戦争だった。
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