『怪獣駆除企業ガッタトン〜施工写真を撮るまでは殴るな!〜』
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
自衛隊から地方の中小企業「ゼニアル重工」へ出向させられた迫間拓海。彼に与えられた仕事は、自社製品の展示用置物ロボット『ガッタトン』に乗って……怪獣の足元で「施工前・施工中・施工後」の写真を撮影すること!? 災害救助予算(公共事業費)を引くために手書き黒板を持って怪獣へ突進する新人営業。 1本80万円の解体用ニッパーの刃こぼれに悲鳴を上げる血も涙もない経理。 国会での白鳥防衛大臣による伝説の迷答弁「撮れます!現に山田君は撮れました!」。 そして、ネット炎上と労基の指導を突っぱねて導入される「工事写真アプリ(評価点+15点)」——。 国家の縦割り行政と安全規定が自衛隊の最新鋭機を縛り付ける中、現場の意地と超法規的「全部盛り(違法改修)」で立ち上がるのは、不格好で愚直な民間企業と現場の公務員たちだった! 【全6話構成】 第1話: 初出撃とゼニアル重工の現実(プロトタイプ受領と黒板文化) 第2話: 『施工前写真を撮るまでは殴るな!』(超大型ニッパーと命がけの三点写真) 第3話: 『国会審議:撮れます!山田君は撮れました!』(大炎上と工事写真アプリ導入) 第4話: 『最強怪獣襲来と超法規的「全部盛り」』(自衛隊機大破と官民一体の暴走魔改造) 第5話: 『施工完了:天満市防衛戦』(決死の爆発背景シャッターと本工事完了) 第6話: 『会計検査官と始末書を抱えて』(一太郎書類バトルと平和な日常への帰還) 名前はダサいが仕様は超絶イケメンな12mロボ『ガッタトン』が、重工メーカーの現場のプライドと大量の請求書を背負って天満市を駆け抜ける!
本文
第3話:『国会審議:撮れます!山田君は撮れました!』
国会議事堂、第一委員室のテレビ中継画面の向こうで、白熱灯の光を反射した白鳥防衛大臣の禿げ上がった頭頂部が、脂汗でギラギラと光っていた。
九月中旬の午前十時。ゼニアル重工の雑然とした社員食堂では、大型テレビの前に全社員が集結していた。パイプ椅子に深々と腰掛けた迫間拓海は、胃のあたりをぎゅっと押しつけながら、喉の奥に広がる酸っぱい胃液の味に耐えていた。
「迫間さん、はい。胃薬と温かいお茶」
隣からそっと出された湯飲みを受け取ると、緑茶の香ばしい湯気が鼻腔をくすぐる。声をかけてきたのは、経理部の銭有華乃だ。その手にはすでに、いつもの電卓と分厚いバインダーが握られている。
「……ありがとうございます、華乃さん。でも、テレビを見るだけで胃が破裂しそうです」 「しっかりしなさい。私たちの出撃経費と、ゼニアルの存続がこの中継にかかってるんだから」
テレビ画面の中では、野党の急先鋒である蓮池すみれ議員が、真っ赤なスーツの袖を捲り上げてマイクに飛びかからんばかりの勢いで咆哮していた。
『大臣! 先日の天満市における巨大未確認生物……いわゆる怪獣災害において、防衛省の自衛隊プロトタイプは出撃せず、民間の未完成作業機甲『ガッタトン』が対応しました! これは文民統制の観点からも大問題ですが、それ以上に恐ろしい事実が発覚したのです!』
蓮池議員がパネルをバシッと叩いた。そこには、SNSで何千万回も再生された、あの大炎上動画の静止画が引き伸ばされて映し出されていた。煙と火柱が上がる怪獣の足元で、ヘルメットを被った若手社員・山田太郎が、木製の黒板を掲げて棒立ちになっている、あの一枚である。
『ご覧ください! 怪獣が爪を振り上げ、一歩間違えれば即死する極限の現場です! それにもかかわらず、ゼニアル重工の若手社員は手書きの黒板を掲げ、写真を撮らされていた! 噂によれば、防衛省や自治体が「施工写真を添付しなければ公共事業費としての出撃経費を支払わない」と圧力をかけたからだと言われています! 大臣! 緊急時に施工写真がなければ金を払わないなど、何を考えているのですか!? 命より黒板なのですか!?』
委員会室が騒然となり、野党席から「そうだ!」「命をなんだと思っている!」「パワハラ企業と癒着省庁だ!」と怒号の嵐が巻き起こる。
ゼニアル重工の食堂でも、社員たちが一斉にざわついた。
「いや、俺たちは経理の華乃さんに怒鳴られたから撮っただけで……」 迫間がボソッと呟くと、華乃が「何か言った?」と氷のような視線を飛ばしてきた。
テレビの中では、防衛大臣の白鳥登が、汗をハンカチで拭いながらゆっくりと答弁台へと歩み出ていた。隣に控える統合幕僚長の鞍馬兼嗣は、心底どうでもよさそうな顔で手元の資料をパラパラとめくっている。
『えー……蓮池議員のご質問にお答えいたします』 白鳥大臣はマイクの前で咳払いをし、視線を泳がせながら口を開いた。 『我が省といたしましては……公共工事の適正な執行と、国民の皆様の貴重な税金の透明性を確保するため、いかなる緊急災害時でありましても、施工写真の添削……あー、添付は、規定上、必要不可欠であります!』
『何を言っているんだ!』 蓮池議員がデスクを両手で叩いて立ち上がった。 『怪獣の足元ですよ!? あんな場所で普通の人間が施工写真など撮れるわけがないでしょう! 現場に不可能な要求を押し付け、国民を危険に晒したことを認めなさい!』
委員室の空気が緊張で破裂しそうになった、その時だった。白鳥大臣が何を勘違いしたのか、急に胸を張り、ドヤ顔でカメラを真っ直ぐに見つめた。
『い、いえ! 撮れます! 現にゼニアル重工の山田君(二十三歳)は、怪獣の足元で素晴らしい画角の施工写真を三枚も撮影しております! 撮れます!!』
静寂。
一秒。二秒。
テレビの前のゼニアル重工社員一同、そして国会委員室の全員が凍りついた。
『「撮れました」じゃないでしょうがぁぁぁぁ全ッ然反省してない!!』
蓮池議員の金切り声がマイクを割らんばかりに響き渡り、議場は大混乱の渦に飲み込まれた。
「「「撮らせるなよ!!!!」」」
ゼニアル重工の食堂でも、迫間を含めた全社員が腹から声を張り上げてズッコケた。
「あの馬鹿大臣! 火に油を注ぎおった!」 銭有社長が頭を抱えて叫ぶ。 「『山田君は撮れました』じゃねえよ! うちの山田が命がけで撮った写真を自分の手柄みたいに言いやがって!」
その時、食堂のドアがガラリと開き、黄色のヘルメットを抱えた山田太郎本人が入ってきた。その顔はやつれ、目元には深いクマが刻まれている。
「あ、山田君……大丈夫?」 迫間が心配そうに声をかけると、山田はガクガクと膝を震わせながら呟いた。
「迫間さん……僕、今朝一番で『労働基準監督署』から呼び出されました……」 「労基!?」 「『怪獣の足元での手書き黒板撮影業務は、労働安全衛生法における著しい危険作業に該当する』って、厳重注意を受けました……。それと、配信者の動画を見た労働組合からも『ブラック企業』って突っ込まれて……」
山田の痛々しい報告に、社員たちから悲鳴が上がる。しかし、そこで立ち上がったのは経理の華乃だった。
「大丈夫よ、山田君!」 華乃はバインダーをパーンと叩いた。 「労働基準監督署には、天満市役所の天野さんと連名で『災害緊急時における特例業務報告書』を提出したわ! さらに! 今回の件を受けて、天満市から『防災DX推進補助金』が下りることが緊急決定したの!」
「補助金!?」 銭有社長の目がドルマークに変わる。
「そうよ! 天満市の天野さんが爆速で書類を通してくれたお陰で、ゼニアル重工は本日付で電子国土情報対応の『工事写真アプリ』を正式導入します!」
華乃は最新型の防水・耐衝撃タブレット端末を山田の手に押し付けた。
「これからはスマホやタブレットで撮影すれば、画面上に自動で『施工前・施工中・施工後』の電子黒板が合成されるわ! 手書きの木製黒板を持って走る必要もなし! しかも、工事写真アプリを使って作成した出来形管理書類は、公共事業の行政評価点数が『+十五点』加算されるの! これで防衛省への経費請求もあっさり通るわ!」
「アプリ導入で評価点アップ……!」 それまで「職人は木製黒板だ!」と突っぱねていた柴田整備班長も、点数アップと聞いて「まあ、便利ならええか……」と掌を返した。
「山田君には、危険作業への補填として『特別教育手当』と『危険作業手当』を労務から特別支給します! これで労基文句ないでしょ!」 「は、華乃さん……! ありがとうございます!」 山田が感涙にむせび泣き、タブレットを抱きしめた。
「よーし!」 銭有社長が拳を突き上げた。 「これで書類の件は解決だ! アプリも入った、給料も手当も出る! ガッタトンの整備を進めて——」
ドゴォォォォォン!!
社長の言葉を遮るように、大地を揺らす凄まじい地鳴りが天満市全体を襲った。
食堂の窓ガラスがバチバチと音を立てて震え、天井の蛍光灯が激しく揺れる。一瞬遅れて、工場全体にウーウーと赤色灯が点滅し、極めて危険度の高い警報サイレンが吹き荒れた。
「な、なんだ!? また地震か!?」 「ちがう! 地鳴りだ!」
迫間のポケットの中で、防衛省の緊急IP無線機がこれまでにない引きつった電子音を吐き出した。ディスプレイには赤文字で『特異事態:最優先警戒』。
『こちら陸自統合幕僚監部! 迫間二尉、聞こえるか!』 鞍馬統幕長の声が、ノイズの向こうで激しく乱れていた。 『天満沖五キロの海底から、過去最大級……全高六〇メートルを超える大型怪獣が出現した! 『タイプ・グランド』と命名! 現在、湾岸線を突破し、天満市中心部へ向かっている!』
「六〇メートル!?」 迫間は叫んだ。先日の怪獣の1.5倍以上の巨躯だ。
「統幕長! 本省の最新鋭プロトタイプを出撃させてください! ガッタトンでは到底太刀打ちできません!」 『それが……ダメだ!』 鞍馬の声に、珍しく悲壮感が混じる。 『あまりの緊急事態に、白鳥大臣の手続きをスキップして本省の『陸自一号機』を急遽現地に投入した! ……だが、ダメだ! 安全装置が多すぎて、現場の判断でリミッターを解除できん! 一号機は怪獣の熱線を正面から受け……大破した!!』
「そんな……自衛隊の最新鋭機が!?」
モニター映像が緊急ニュースに切り替わる。そこには、漆黒の甲殻と無数の刺を持つ超巨大怪獣が、街を蹂躙する姿が映し出されていた。その足元には、黒こげになって煙を上げる自衛隊の最新型ロボットの残骸が転がっている。
『自衛隊の主力は全滅だ。怪獣はあと三十分で天満市役所および工業団地に到達する』 鞍馬はハァと重い吐息をつき、静かに言った。 『迫間。防衛省の規定上、お前たちに撤退命令を出すのが筋だ。……だが、あの怪獣を止められるのは、もう現場の『無法者たち』しかいない』
「統幕長……」
『大破した自衛隊一号機の残骸には、最新型の「高出力プラズマキャノン」と「重装甲フェンダー」が無傷で残っている。……もし、誰かが“勝手に”それを回収し、ガッタトンに違法移植したとしても、俺の目には何も見えん。通信障害で報告も届いていないことにしてやる』
「残骸からパーツを……魔改造しろってことですか!?」
迫間が呆然としていると、背後からガシッと肩を掴まれた。振り返ると、そこには目を爛々と輝かせた銭有社長と、ニヤリと不敵に笑う柴田整備班長が立っていた。
「おいおい、自衛隊の最新パーツだって?」 柴田班長が油まみれの工具をジャキッと構えた。 「ガッタトンに本物のキャノン砲を積めるってのか? 腕が鳴るじゃねえか!」
「社長! 柴田さん! 自衛隊機のパーツを無許可で移植したら、違法改造どころか国家背任罪ですよ!?」 「知るかあ!!」 銭有社長が大音量で笑い飛ばした。 「九八パーセントのガッタトンに、自衛隊の残りの二パーセントをぶち込むんだよ! これで完成度一〇〇パーセント……いや、『全部盛りガッタトン』の完成だ!!」
事務所の電話が鳴る。天満市役所の天野ほのかからだ。
『迫間さん! 天満市および天満県知事の緊急判断で、怪獣の進行ルート上の道路を『永久工事区間』として全面封鎖しました! 国からの「待機指示書」ですか? ああ、通信障害で届いてません! 何も読んでません! 天満市は全力でガッタトンをバックアップします!』
「公務員が全員開き直ってる……!」
迫間は胃の痛みを忘れ、思わず吹き出した。 国会で大人たちがトンチンカンな答弁を繰り広げ、本省の最新機が安全規定に縛られて大破する中で、目の前にいるのは、法律と規定のギリギリを攻めて街を守ろうとする愚直な現場の人間たちだった。
「華乃さん! 工事写真アプリの準備はいいか!?」 迫間が叫ぶと、華乃がキリッとした笑顔で最新タブレットを掲げた。
「完璧よ! 電子黒板の入力も終わってるわ! こんどこそ『完璧な施工写真』を撮って、防衛省から修繕費も補助金も満額むしり取ってやるわ!!」
「山田君! 今度は命を張らなくていい! タブレットを持って安全圏から最高の一枚を撮れ!」 「はいっ!! アプリで+十五点、取ってみせます!!」
迫間はヘルメットを深くかぶり直し、ガッタトンの格納庫へと向かって疾走した。
「よし……行こうぜ、ガッタトン! 官民一体の暴走、見せてやる!!」
最強の怪獣を前に、型破りな「全部盛り」の改修作業と、天下の暴走劇が、今まさに始まろうとしていた。
(第四話へ続く)
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