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第二十五話「雷鳴のように」

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📅 公開日: 2026/9/14 📚 シリーズ: 魔王るこ討伐記 📝 15,015文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

『魔王るこ討伐記』あらすじ 剣士、魔法使い、弓使い、薬師―― 誰もがひとつの「スキル」を持って生きる世界。 冒険者たちは仲間とパーティを組み、ダンジョンを攻略し、魔物を討ち、日々さまざまな依頼をこなしていた。 そんな世界に君臨する、絶対的な敵。 魔王――るこ。 そして魔王に仕える、四人の強者――「四天」。 世界各地では、まだ互いの存在すら知らない者たちの物語が始まっていた。 一人で依頼をこなす剣士。 冒険者を夢見る弓使いの少女。 小さな薬草店で働く少女。 記憶を失った、異常なほど剣の強い謎の男。 そして――羊一匹にすら苦戦する、新米冒険者たち。 英雄だけが、この物語の主人公ではない。 冒険者も、商人も、ギルドの受付も、街で暮らす普通の人々も。 それぞれが出会い、別れ、時に敵となり、時に仲間となり―― やがて無関係だったはずの物語は、一つへと繋がっていく。 しかし彼らはまだ知らない。 なぜ魔王るこは世界を滅ぼそうとしているのか。 「魔王」とは、本当に世界の敵なのか。 そして―― この世界そのものに、誰も知らない秘密が眠っていることを。 これは、魔王を倒す英雄一人の物語ではない。 この世界に生きる、たくさんの人々の物語。 『魔王るこ討伐記』 ――魔王を倒したその先に、本当の答えがある。

本文

三日後。

 グラディア大闘技場は、朝からこれまで以上の熱気に包まれていた。

 六十四人から始まったグラディア大闘技祭。

 一回戦を終え、三十二人。

 二回戦を終え、十六人。

 そして三回戦を終えた今、残っているのは僅か八人。

 ハイドラグーン。

 けい。

 たたたつ。

 すーだまん。

 せきりゅう。

 まくらZ。

 あぶらメンタル。

 yuki。

 今日行われる四試合。

 勝てばベスト4。

 負ければ、そこで大会は終わる。

 選手用観覧席には、すでに多くの大会参加者たちが集まっていた。

 三日前まで舞台に立っていた者。

 一回戦で敗れた者。

 地方予選からここまで大会を見続けてきた者。

 それぞれ立場は違っていても、視線の先にあるのは同じ中央舞台だった。

カズキ「もうすぐ始まるねー」

ジェノス「なんでお前そんな楽しそうなんだよ」

カズキ「今日は見る側だから!」

ジェノス「三日前に負けた奴の発言とは思えねぇな」

カズキ「うっ」

ひっかるん「刺さった」

カズキ「刺さったよ!」

 少し離れた席から、包帯の巻かれた太い腕が勢いよく上がる。

サイタマタマ「惜しかったぞカズキ!!」

カズキ「声でかいって!」

サイタマタマ「次やったら勝てる!!」

カズキ「簡単に言うなぁ……。yukiさん、本当に強かったんだから」

ジェノス「でも、最後はかなり近かっただろ」

ひっかるん「最初は氷一本弾くだけでも大変そうだったのにね」

カズキ「……うん」

 三日前の光景が頭に浮かぶ。

 地面から次々と突き出す無数の氷刃。

 最初は避けることしかできなかった。

 一本を剣で弾けば、その次には対応できない。

 それが試合の途中から、少しずつ変わっていった。

 氷が出る直前の地面。

 冷気。

 小さな音。

 剣を置く位置。

 身体を動かすタイミング。

 それまで分からなかったものが、戦っているうちに少しずつ見えるようになった。

 そして最後には、何本もの氷刃を弾きながらyukiの目前まで辿り着いた。

 本当に、あと一歩だった。

カズキ「自分でもよく分かんないんだよなぁ」

ジェノス「何が?」

カズキ「最後の方。なんであそこまで動けたのか」

ひっかるん「慣れたんじゃない?」

カズキ「俺も最初はそう思ったんだけど……はにと戦った時も似た感じだったから」

 残像に翻弄され続けた、はにとの試合。

 あの時も、最初はほとんど何もできなかった。

 だが何度も攻撃を受けるうちに、足元や舞い上がる埃へ目を向け、本体を探せるようになっていった。

ジェノス「じゃあ、やっぱりお前の【???】じゃねぇの?」

カズキ「そうなのかなぁ」

ひっかるん「他に思い当たるものある?」

カズキ「ない」

ジェノス「じゃあ一番怪しいだろ」

カズキ「俺のスキルを怪しいものみたいに言うなよ!」

ひっかるん「名前からして怪しいけどね」

カズキ「名前が分かってないだけだから!」

サイタマタマ「強くなれるなら良いスキルじゃないか!!」

カズキ「サイタマタマは気楽でいいなぁ」

サイタマタマ「ハハハハ!!」

 カズキは苦笑しながら、自分の右手を見た。

 名前すら分からないスキル。

 以前はただ不気味だった。

 だが今は少しだけ違う。

 知りたいと思っている。

ひっかるん「それよりさ」

カズキ「ん?」

ひっかるん「誰が優勝すると思う?」

カズキ「いきなり難しいの来たなぁ」

サイタマタマ「すーだまん!!」

ジェノス「早ぇよ!」

サイタマタマ「強いだろ!」

ひっかるん「まあ、それは間違いないね」

カズキ「ハイドラグーンも相当強いよ」

ひっかるん「僕はハイドラグーンかな」

ジェノス「自分に勝ったから?」

ひっかるん「それもあるけど、実際強かったからね」

 三回戦。

 ひっかるんの【瞬間】へ、ハイドラグーンは最初から完全に対応できていたわけではなかった。

 それでも攻防を繰り返すたびに少しずつ近づき、最後にはその速度すら捉え始めた。

ひっかるん「途中から、どこに動いても槍が来るようになったんだよ」

カズキ「怖っ」

ひっかるん「怖かったよ」

ジェノス「笑って言うことじゃないな」

カズキ「ジェノスは?」

ジェノス「俺?」

カズキ「誰が優勝すると思う?」

ジェノス「……yuki」

カズキ「俺に勝ったから!?」

ジェノス「それだけじゃねぇよ!」

ひっかるん「結局みんな、自分たちに勝った人を選んでない?」

ジェノス「お前もだろ!」

ひっかるん「あ」

カズキ「今気づいたの!?」

 四人の笑い声が、周囲のざわめきへ混ざっていく。

 その少し離れた場所でも、似たような話が始まっていた。

るいひろ「誰が優勝すると思う?」

いれ「またその話?」

かつとし「大会見に来てたら考えるだろ」

るいひろ「俺はまくらZ」

いれ「即答だね」

かつとし「戦ったからか?」

るいひろ「そりゃそうだよ。俺、あの子に火何発撃ったと思ってんの?」

いれ「そんなに効かなかった?」

るいひろ「ほとんど。火を何発当てても平気そうだったし、風で崩そうとしても全然ダメだった」

かつとし「……それは嫌だな」

るいひろ「しかも俺、火の方が得意だからね? それであれだよ」

いれ「よく最後まで戦ったね」

るいひろ「最後は俺が降参したけど」

かつとし「そこは自慢するところじゃないな」

るいひろ「分かってるって!」

 るいひろが肩を落とす。

 そこへ横から静かな声がした。

ルーシー「私はyuki」

るいひろ「うおっ!?」

 振り向けば、ルーシーが立っている。

 その横には筋肉質な牛――ぎゅうたん。

いれ「いつからいたの?」

ルーシー「今」

るいひろ「びっくりした……」

かつとし「yukiだと思う理由は?」

ルーシー「強いから」

るいひろ「シンプル」

ルーシー「ぎゅうたんもそう思うよね?」

ぎゅうたん「モォ」

いれ「それで分かるんだ」

ルーシー「分かる」

るいひろ「すごいな……」

 ぎゅうたんがもう一度鳴いた。

ぎゅうたん「モォ」

ルーシー「……お腹空いたって」

いれ「試合始まるよ?」

ルーシー「だから困ってる」

かつとし「何か買ってくれば?」

ルーシー「そうする」

 ルーシーはあっさりと席を離れた。

るいひろ「試合見ないの!?」

ルーシー「戻ってくる」

ぎゅうたん「モォ」

いれ「自由だなぁ」

 さらに別の一角。

 ソルティモで共に戦った者たちも並んで座っていた。

 マリン。

 五月雨。

 耀平。

 はに。

 レックウザ。

 その近くには、さくらもちの姿もある。

マリン「誰が優勝すると思う!?」

五月雨「急だね」

はに「たたたつ!」

マリン「早っ!」

はに「強いもん!」

さくらもち「強かったよー!」

耀平「実際に戦った人から言われると説得力あるな」

さくらもち「すっごい速かった!」

はに「でしょ!?」

マリン「なんではにが嬉しそうなの?」

はに「仲良い人が褒められたら嬉しいじゃん」

さくらもち「分かる!」

五月雨「二人とも仲良いもんね」

はに「うん!」

 レックウザは掲示板を眺めながら少し考えた。

レックウザ「俺はすーだまんかな」

耀平「やっぱりか」

マリン「あー、分かる!」

五月雨「ソルティモの時もすごかったからね」

はに「途中から来た人だ!」

レックウザ「ああ」

 ソルティモ防衛戦。

 魔物の群れへ一人で斬り込み、戦場の流れそのものを変えた男。

 あの時も、結局どこまで強いのか分からなかった。

耀平「俺もすーだまんかな」

マリン「けいじゃないの?」

耀平「なんで俺がけいなんだよ」

マリン「戦ったじゃん」

耀平「戦っただけで優勝予想にするのか?」

はに「みんな結構そうみたいだよ」

耀平「……じゃあ、けいも強い」

マリン「結局!」

耀平「実際強かったからな」

 耀平は三回戦を思い返す。

 細身の剣。

 そして雷を中心にした魔法。

 剣と魔法を別々に扱うのではなく、一つの動きとして繋げてくる。

耀平「ただ、Zも相当だぞ」

五月雨「メイビスさんとたぬビスを倒した子だよね」

さくらもち「たぬビス止めてた!」

はに「ちっちゃいのにねー」

マリン「どっちが勝つんだろ」

耀平「それを今から見るんだろ」

 笑い声が上がる。

 勝った者。

 負けた者。

 一回戦で敗退した者。

 三回戦まで残った者。

 大会が進むにつれて、それぞれ応援したい相手も増えていた。

 そして――。

maro『皆さァァァァァん!!』

 闘技場中へ声が響いた瞬間、空気が変わった。

「うおおおおおおおおおお!!」

maro『三日間!! 待たせたなグラディアァァァァ!!』

maro『六十四人から始まったグラディア大闘技祭!! 残る選手は僅か八名!!』

maro『今日!! その八名から準決勝へ進む四名が決まるぞォォォォ!!』

「うおおおおおおおお!!」

 巨大な魔導掲示板が輝く。

 第一試合。

 ハイドラグーン。

     対

 せきりゅう。

 名前が表示された途端、女性客を中心に凄まじい歓声が上がった。

「ハイドラグーン様ぁぁぁぁ!!」

「頑張ってええええ!!」

「今日も勝ってええええ!!」

カズキ「相変わらずすご……」

ジェノス「三回戦より増えてないか?」

ひっかるん「多分増えてる」

 選手通路からハイドラグーンが姿を現し、観客へ軽く手を上げる。

「きゃああああああ!!」

ジェノス「手上げただけだぞ」

カズキ「前も言ってたね、それ」

 反対側。

 左腕に《共鳴盾》、右手にメイスを持ったせきりゅうが舞台へ上がる。

「盾の人ー!!」

「鳴らしてー!!」

せきりゅう「……盾の人で定着したな」

 小さく呟き、盾の中央をメイスで軽く叩く。

 ドンッ!!

「おおおおおお!!」

せきりゅう「なんでこれで盛り上がるんだ」

ハイドラグーン「人気あるじゃないか」

せきりゅう「お前に言われると嫌味みたいになるぞ」

ハイドラグーン「そんなつもりないんだけどな」

せきりゅう「分かってるよ」

 中央で向かい合う。

 長槍。

 盾とメイス。

maro『準々決勝第一試合!! 冒険者ランク、ダイヤモンド!! 戦島グラガスが誇る槍使い――ハイドラグゥゥゥゥン!!』

maro『対するは!! 打て!! 鳴らせ!! 響かせろ!! 特殊盾共鳴盾を操る――せきりゅうゥゥゥゥ!!』

 歓声の中、二人の表情から笑みが消える。

審判「両者――構え!」

 ハイドラグーンが槍先を下げる。

 せきりゅうは盾を身体の前へ。

審判「――始め!!」

 ダンッ!!

 先に動いたのはハイドラグーン。

せきりゅう「――っ!」

 一瞬で距離が消えた。

 ヒュッ!!

 胸へ一直線に伸びる穂先。

 せきりゅうは盾を差し込み、横へ弾く。

 ガァンッ!!

 防いだ。

 そう思った時には、すでに槍は引かれていた。

 ヒュッ!!

 二撃目。

 顔。

 盾を跳ね上げる。

 カンッ!!

 次。

 脇腹。

 ガンッ!!

 続いて肩。

 ガァンッ!!

せきりゅう(速すぎる……!)

 一撃を見てからでは間に合わない。

 槍を防いだ瞬間には、次がもう始まっている。

 それだけではない。

 盾が次にどこへ動くのかまで見られているような感覚。

 ヒュッ!!

 盾の外側を穂先が抜ける。

せきりゅう「っ!」

 首を引く。

 頬のほんの数センチ先。

せきりゅう「……あっぶねぇ」

 思わず笑った。

せきりゅう(なるほどな)

 ダイヤモンド。

 三回戦の戦いも見ていた。

 それでも実際に向かい合って初めて分かる。

せきりゅう(こいつは完全に格上だ)

 けれど。

 勝てない、とは思わなかった。

ハイドラグーン「どうした?」

せきりゅう「いや」

 盾を構え直す。

せきりゅう「とんでもねぇ奴と当たったなと思って!」

ハイドラグーン「今さら?」

せきりゅう「実際に戦うのと見るのは違うんだよ!」

 槍。

 ガンッ!!

 今度は下がらない。

せきりゅう「でもな――」

 メイスを振り抜く。

 ブォン!!

 ハイドラグーンが身体を反らす。

せきりゅう「格上だからって、勝てないとは限らないだろ!」

 踏み込む。

 盾。

 ドガァン!!

ハイドラグーン「っ!」

 槍の柄で受けたハイドラグーンが、一歩後ろへ滑った。

「おおおおおおお!!」

カズキ「押した!」

ジェノス「もう強化されてる?」

ひっかるん「さっきから盾が鳴ってる」

 ドン。

 カッ。

 ガン。

 カァン。

 ハイドラグーンの攻撃。

 それ自体が、せきりゅうの《共鳴盾》を鳴らしていた。

せきりゅう「いっぱい叩いてくれたからな!」

 自分でも盾を叩く。

 ドンッ!!

 身体を包む淡い光が強くなる。

ハイドラグーン「……なるほど」

せきりゅう「気づいたか?」

ハイドラグーン「ああ。俺の攻撃まで使ってるんだな」

せきりゅう「正解」

ハイドラグーン「失敗したな」

せきりゅう「もう遅い!」

 せきりゅうが走る。

 メイス。

 ガキィン!!

 続いて盾。

 ドガァン!!

 ハイドラグーンがさらに一歩下がる。

maro『押したァァァァ!! せきりゅう!! ハイドラグーンを真正面から押し返すゥゥゥ!!』

せきりゅう「どうした!」

ハイドラグーン「強いな」

せきりゅう「知ってる!」

ハイドラグーン「自分で言うんだ」

せきりゅう「今くらい言わせろ!」

 再び盾が迫る。

 ハイドラグーンは横へ逃れる。

 せきりゅうも追う。

 その時。

 ヒュッ!!

せきりゅう「――!」

 槍。

 盾を合わせる。

 しかし。

 当たらない。

 穂先は盾の外を抜け、肩を浅く掠めた。

せきりゅう「っ!」

 次は足。

 盾を下げようとする。

 槍が引かれる。

 反対側。

せきりゅう「なっ――」

 身体を捻る。

 ヒュンッ!!

 服が裂けた。

せきりゅう(こいつ……)

 また。

 盾へ来ない。

せきりゅう(もう分かったのかよ)

 攻撃を盾へ当てれば強化される。

 なら当てなければいい。

せきりゅう「性格悪いな、お前!」

ハイドラグーン「急に酷くないか?」

せきりゅう「褒めてる!」

ハイドラグーン「そうは聞こえないけど」

せきりゅう「俺もそう思う!」

 槍が伸びる。

 また盾を避ける。

 今度は石突。

 ドッ!!

せきりゅう「ぐっ!」

 脇腹。

 身体が揺れる。

 だが倒れない。

 ドンッ!!

 自ら盾を叩いた。

 カッ!!

 縁。

 ドン、カッ、ドドンッ!!

せきりゅう「お前が鳴らさないなら――」

 光が強くなる。

せきりゅう「自分で鳴らせばいい!!」

 踏み込む。

 ドガァン!!

 盾と槍が激突。

 ハイドラグーンが滑る。

 メイス。

 ガキィン!!

 盾。

 ドンッ!!

 ハイドラグーンが下がる。

 せきりゅうが追う。

maro『止まらなァァァい!! せきりゅう!! 共鳴の力を乗せて一気に攻めるゥゥゥ!!』

カズキ「これ、本当にいけるんじゃない!?」

ジェノス「分かんねぇ!」

ひっかるん「……」

 ひっかるんは、ハイドラグーンの目を見ていた。

ひっかるん「まだ見てる」

カズキ「え?」

ひっかるん「せきりゅうの動き」

 右足。

 盾。

 左。

 メイス。

 また右足。

 何度も繰り返す。

 ハイドラグーンの視線は、せきりゅうの盾だけを見ていない。

 足。

 腰。

 肩。

 踏み込む直前の僅かな動き。

せきりゅう「これで――!」

 右足を踏み込む。

 盾。

 その瞬間。

 ハイドラグーンが前へ出た。

せきりゅう「なっ!?」

 下がらない。

 逃げない。

 盾が十分な速度に乗る前に、その内側へ飛び込んできた。

 ガッ!!

 槍の柄が盾の側面へ当たる。

せきりゅう「っ!」

 向きが逸れる。

 身体の正面が開いた。

せきりゅう(まず――)

 メイスを動かす。

 だが。

 ピタッ。

 穂先が喉元で止まった。

せきりゅう「…………」

 あと数センチ。

 せきりゅうは槍先を見つめ、ゆっくり息を吐いた。

せきりゅう「……参った」

審判「そこまで!!」

 腕が上がる。

審判「勝者――ハイドラグーン!!」

「うおおおおおおおおおお!!」

maro『決着ゥゥゥゥ!! 共鳴の力で食らいついたせきりゅう!! しかし最後はその攻めまで見切ったァァァ!!』

maro『準決勝進出一人目――ハイドラグゥゥゥゥン!!』

「きゃあああああああ!!」

 ハイドラグーンが槍を引く。

 せきりゅうは肩の力を抜いた。

せきりゅう「……完全に格上だったな」

ハイドラグーン「そうは思わなかったけど」

せきりゅう「途中から俺の盾、全然叩かなくなっただろ」

ハイドラグーン「叩いたら強くなるからな」

せきりゅう「試合の途中であそこまで変えられる方がおかしいんだよ」

ハイドラグーン「でも二回押された」

せきりゅう「数えてたのか?」

ハイドラグーン「ああ」

せきりゅう「じゃあ次は三回押す」

ハイドラグーン「その時は一回までにする」

せきりゅう「減らすなよ!」

ハイドラグーン「勝負だからな」

せきりゅう「……そうだった」

 二人が笑う。

ハイドラグーン「いい試合だった」

せきりゅう「次は勝つ」

 差し出された手を握る。

 勝者にも。

 敗者にも。

 大きな拍手が降り注いだ。

 ベスト4。

 一人目――ハイドラグーン。

カズキ「やっぱり強い……」

ひっかるん「でしょ?」

ジェノス「なんでお前が誇らしげなんだよ」

ひっかるん「僕に勝った人だから」

カズキ「やっぱそれじゃん!」

サイタマタマ「俺も戦いてぇ!!」

ジェノス「怪我治せ!!」

 舞台の点検が終わる。

maro『さあァァァァ!! 一試合目から大激戦!! だが準々決勝はまだ始まったばかりだァァァ!!』

 掲示板が切り替わった。

 第二試合。

 けい。

     対

 まくらZ。

 その瞬間。

まくらC「Zちゃああああん!!」

まくらH「頑張ってええええ!!」

まくらM「怪我しないでねえええ!!」

まくらR「でも勝ってねえええ!!」

まくらW「終わったらご飯行こうねえええ!!」

ジェノス「うるせぇ!!」

カズキ「相変わらずすごいなぁ……」

ひっかるん「二十五人いるからね」

サイタマタマ「いい応援だ!!」

ジェノス「兄ちゃんは混ざるな!」

 姉たちの中心。

 まくらZが静かに立ち上がる。

まくらH「Zちゃん!」

まくらZ「なに」

まくらH「頑張って!」

まくらZ「うん」

まくらR「危なくなったら無理しなくていいからね!」

まくらZ「試合だから」

まくらW「終わったら何食べたい!?」

まくらZ「……肉」

まくらW「分かった!!」

まくらZ「なんで今聞いたの」

 姉たちの声を背に、Zが通路へ向かう。

 反対側。

 けいも細身の剣を手に立ち上がった。

耀平「けい」

けい「ん?」

耀平「頑張れよ。相手、相当力あるぞ」

けい「見てた」

耀平「ならいい」

けい「行ってくる」

 舞台へ向かう。

 るいひろが身を乗り出した。

るいひろ「……これ、どうなるんだろ」

いれ「Zに魔法効かなかったんだよね」

るいひろ「うん」

かつとし「けいも魔法使うんだろ?」

るいひろ「でも、俺とは全然戦い方違うからな」

 舞台中央。

 けい。

 まくらZ。

maro『準々決勝第二試合!! 細身の剣と魔法を組み合わせ、ここまで勝ち上がってきた――けい!!』

maro『対するは!! 小さな身体にとんでもない力!! 三回戦では巨大なたぬビスを真正面から止めた――まくらZ!!』

「うおおおおおお!!」

けい「よろしく」

まくらZ「よろしく」

 けいが剣を抜く。

 シャリン。

 まくらZは武器を持たず、僅かに腰を落とした。

審判「両者――構え!」

 静寂。

審判「始め!!」

 ドンッッッ!!!

けい「――っ!?」

 一瞬で距離が消えた。

 拳。

 けいが剣を横へ。

 ガァァァン!!

 轟音。

けい「っ……!」

 足が床を滑る。

 一メートル。

 二メートル。

「おおおおおおお!!」

カズキ「うわっ!?」

ジェノス「剣ごと押したぞ!」

耀平「……力は完全に向こうだな」

 けいが剣を見る。

 折れてはいない。

けい「……重い」

まくらZ「うん」

けい「自分で言うんだ」

まくらZ「重いと思う」

けい「そう」

 構え直す。

 再びまくらZが走る。

 拳。

 今度は受けない。

 半歩ずれる。

 ブォン!!

 頬の横。

 同時に細剣。

 シュッ!!

 腕へ。

 キンッ。

けい「……硬い」

 浅い傷すらほとんど残らない。

まくらZ「魔法も効きにくい」

けい「知ってる」

まくらZ「知ってた?」

けい「見てたから」

 次。

 蹴り。

 ガンッ!!

 けいが剣の腹で受け、衝撃を後ろへ逃がす。

 それでも重い。

けい「……っ」

 着地。

 剣。

 刀身の周囲で。

 バチッ。

 小さな雷が弾ける。

 まくらZが踏み込む。

 けいも前へ。

 拳と剣が交差した。

 まくらZの拳が顔の横を抜ける。

 細剣が肩を浅く掠める。

 その瞬間。

 バヂッ!!

まくらZ「――っ」

 身体が僅かに止まった。

けい「……?」

 ほんの一瞬。

 まくらZはすぐに動き、裏拳を振る。

けい「っ!」

 沈む。

 頭上を拳が通り過ぎた。

 そこから足払い。

 まくらZが跳ぶ。

 着地と同時にまた前へ。

 ガンッ!!

 キィン!!

 ガァン!!

 拳。

 剣。

 蹴り。

 力は、まくらZ。

 純粋な速度も、まくらZ。

 それでもけいは真正面から力をぶつけない。

 拳を剣の腹で斜めに受けて流し、蹴りには下がり、空いた場所だけを剣で狙う。

耀平「……あれだ」

マリン「なに?」

耀平「俺の時もそうだった」

 けいが地面を蹴る。

 バチッ。

 足元で小さな雷が弾け、身体が一瞬だけ加速する。

耀平「剣と魔法を別々に使ってないんだ」

五月雨「動きの中に混ぜてる?」

耀平「ああ」

 まくらZの拳を避ける。

 懐。

 細剣。

 シュッ!!

 脇腹。

 バヂッ!!

まくらZ「――っ!」

 また。

 身体が止まった。

 今度は誰の目にも分かった。

けい「……」

 まくらZも動きを止めた。

 細剣の周囲で、小さな雷が弾ける。

 バチッ。

けい「……雷、苦手?」

まくらZ「…………ちょっと」

るいひろ「え?」

いれ「どうした?」

るいひろ「俺の時、あんな止まり方しなかった」

かつとし「雷は使わなかったのか?」

るいひろ「俺は火がメインだし、風も使ったけど……雷は使えない」

いれ「じゃあ初めて分かった弱点か」

るいひろ「多分」

 舞台。

 まくらZが、けいの剣をじっと見る。

 そして。

 腰を落とした。

けい「……?」

 ドンッッッ!!!

 速い。

 さっきより。

けい「っ!」

 拳。

 剣で流す。

 ガァン!!

 次。

 蹴り。

 かわす。

 さらに拳。

 戻す暇がない。

 身体を反らす。

 鼻先を通る。

まくらZ「当たらなければいい」

けい「……なるほど」

 雷を食らう前に倒す。

けい「分かりやすい」

まくらZ「うん」

 まくらZが再び踏み込んだ。

 第二試合は――ここからさらに速くなった。

 まくらZの拳が、けいの顔へ迫る。

 けいは動かない。

 ギリギリまで引きつけ。

 バチッ!!

 足元で雷を弾けさせた。

 身体が横へ滑る。

 拳が空を切った。

まくらZ「!」

 けいは攻撃せず、そのまま距離を取る。

 まくらZが追う。

 もう一度。

 拳。

 避ける。

 蹴り。

 沈む。

 そこから剣を振る。

 キンッ!!

 まくらZの腕で弾かれた。

 雷は――ない。

まくらZ「……?」

 次も剣。

 普通の斬撃。

 その次も。

 雷はない。

カズキ「雷使わなくなった?」

耀平「いや」

ジェノス「使ってるぞ」

 足元。

 踏み込み。

 回避。

 小さな加速。

 剣へ纏わせるのではなく、自分の身体を動かすために雷を使っている。

耀平「当てるためだけに使うのをやめたんだ」

 まくらZの拳。

 けいが斜め前へ。

 バチッ。

 一瞬だけ速度を上げ、拳の内側へ。

 剣。

 まくらZが避ける。

 けいは追わず、離れる。

まくらZ「……」

 細剣を見る。

 雷が来る。

 警戒する。

 だが来ない。

 次。

 肩へ剣。

 かわす。

 雷なし。

 脇腹。

 腕で弾く。

 雷なし。

まくらZ「……使わないの?」

けい「何を?」

まくらZ「雷」

けい「使ってる」

まくらZ「……?」

 その瞬間。

 バヂッ!!

まくらZ「っ!」

 剣ではなかった。

 まくらZが細剣へ意識を向けた隙に、けいの左手が腕へ触れている。

 身体が一瞬固まる。

 すぐに剣。

 シュッ!!

 まくらZが大きく後ろへ跳んだ。

けい「避けた」

まくらZ「……危なかった」

けい「うん」

 まくらZが腕を見る。

 大きな傷はない。

 雷も、致命的な威力ではない。

 ただし。

 身体が止まる。

 ほんの一瞬。

 この速度の戦いでは、その一瞬が大きい。

まくらZ「雷、やっぱり嫌」

けい「私も殴られるの嫌」

まくらZ「じゃあ同じ」

けい「多分違う」

 ドンッ!!

 再び衝突。

 拳。

 剣。

 蹴り。

 ガキィン!!

 けいが踏み込む。

 剣。

 まくらZがかわす。

 左手。

 触れさせない。

 まくらZも対応し始めている。

けい「……速い」

まくらZ「当たりたくないから」

けい「さっきより速い」

まくらZ「頑張ってる」

 次の瞬間。

 まくらZの姿が消えた。

けい「――!」

 横。

 蹴り。

 剣を立てる。

 ガァァァン!!

 腕に強烈な衝撃。

 続けて反対。

 拳。

けい「っ!」

 避けきれず、肩を掠めた。

 ドッ!!

 それだけで身体が大きく揺れる。

 まくらZは追う。

 拳。

 けいが剣を両手で持つ。

 ガァァァン!!

 身体ごと吹き飛ばされた。

 ザザザッ!!

 舞台の端。

「おおおおおおおお!!」

maro『押しているのはまくらZ!! けい、場外まであと僅かァァァ!!』

まくらG「Zちゃんそのままー!!」

まくらL「頑張ってー!!」

まくらQ「でも無理しないでねー!!」

まくらV「勝ってほしいけど怪我しないでー!!」

まくらX「それ一番難しいよー!!」

ジェノス「姉たちが混乱してるぞ」

ひっかるん「毎回大変そうだね」

 けいが舞台の端を一度確認する。

 後ろへは下がれない。

 まくらZが来る。

 拳。

 正面。

 けいは――前へ出た。

まくらZ「!」

 逃げない。

 拳の下へ潜り込み、細剣を低く構えながら横を抜ける。

 シュッ!!

 舞台中央へ戻る。

まくらZ「……逃げた」

けい「危なかった」

まくらZ「もうちょっとだった」

けい「うん」

 けいの呼吸は、少しずつ荒くなっている。

 魔法を細かく使い続けていた。

 加速。

 踏み込み。

 回避。

 一つ一つは僅かでも、積み重なる。

 一方のまくらZ。

 呼吸はほとんど変わっていない。

けい(長くなると……きつい)

 力では勝てない。

 速さでも勝てない。

 魔法も通りにくい。

 だが。

 雷だけは違う。

 完全に止められるわけではない。

 それでも確実に動きを鈍らせられる。

けい「……」

 剣を正面へ。

 右手に細剣。

 左手を少し前へ。

 まくらZが動く。

 今度はけいも同時。

 バチッ!!

 加速。

 正面から剣。

 まくらZが横へ。

 追う。

 剣。

 かわす。

 もう一度。

 キンッ!!

 腕で弾かれる。

 そのままけいが身体を回した。

 蹴り。

まくらZ「!」

 腕で受ける。

 ドッ!!

 ほとんど効かない。

 だがけいは止まらない。

 剣。

 蹴り。

 左手。

 剣。

 攻撃を増やす。

 どこから雷が来るのかを絞らせない。

まくらZ「……っ」

 少しずつ後ろへ。

カズキ「押してる!」

耀平「いや」

 耀平は舞台を見つめる。

耀平「Zも全部見てる」

 剣。

 かわす。

 左手。

 触れさせない。

 蹴り。

 受ける。

 細剣。

 弾く。

 下がってはいる。

 だが、雷は一度も食らっていない。

まくらZ「分かってきた」

けい「……そう」

 次の瞬間。

 まくらZが踏み込む。

 けいの細剣が迫る。

 そして。

 掴んだ。

けい「!」

 素手で刃を。

 ギィン!!

 金属を握り潰すような音。

けい「離して」

まくらZ「嫌」

 けいが引く。

 動かない。

けい「……困った」

 まくらZの拳。

 けいは――剣から手を離した。

まくらZ「え」

 身体を沈める。

 拳をかわし。

 空いた右手を。

 バヂッ!!

 まくらZの脇腹へ。

まくらZ「――っ!!」

 硬直。

 けいはすぐに細剣を奪い返し、距離を取った。

まくらZ「……ずるい」

けい「剣を離しただけ」

まくらZ「大事そうだった」

けい「大事」

まくらZ「離した」

けい「勝ちたいから」

まくらZ「……なるほど」

 まくらZは脇腹へ触れる。

 先ほどより僅かに長く動きが止まった。

 雷を食らうたび。

 ほんの少しずつ。

 けれど。

けい(まだ倒れない)

 普通なら、もうかなり効いていてもおかしくない。

 それでも立っている。

 魔法への耐性は本物だ。

まくらZ「……次は離さない」

けい「剣?」

まくらZ「うん」

けい「困る」

まくらZ「だから離さない」

けい「なるほど」

 二人が構える。

 最初は、雷が弱点だと分かった時点でけいが有利になると思われた。

 しかし違う。

 弱点があっても、まくらZは強い。

 怪力。

 速度。

 耐久力。

 そして一度受けた攻撃への対応。

 けいも同じだった。

 力で負けても。

 速さで負けても。

 自分の剣と魔法で、食らいついている。

るいひろ「……俺の時と全然違うな」

いれ「Zが?」

るいひろ「両方」

 るいひろが苦笑する。

るいひろ「俺の時、Zほとんど攻撃してこなかったから」

かつとし「今はかなり本気だな」

るいひろ「うん」

いれ「それだけ、けいが強いってこと?」

るいひろ「多分ね」

 舞台。

 まくらZが深く腰を落とした。

けい「……」

 空気が変わる。

 来る。

 今までより速い。

 バキッ。

 まくらZの足元へ細い亀裂。

まくらJ「Zちゃん……?」

まくらN「ちょっと待って」

まくらS「あれ本気の踏み込みじゃない?」

まくらY「Zちゃーん! 無理しないでー!」

 まくらZの脚へ力が集まる。

けい「……速そう」

まくらZ「うん」

けい「嫌だな」

まくらZ「私も雷嫌」

 一瞬。

 静止。

 そして。

 ドンッッッッッ!!!

 床が爆ぜた。

けい「――っ!!」

 見えない。

 拳。

 剣を出す。

 ガァァァァン!!!

 腕が跳ね上がった。

 防ぎ切れない。

 次。

 蹴り。

けい「っ!」

 頭を下げる。

 風圧だけで髪が揺れる。

 剣を振る。

 まくらZはもういない。

けい「――」

 後ろ。

 振り向く。

 遅い。

 ドッ!!

けい「っ……!!」

 拳が肩へ。

 身体が吹き飛ぶ。

 ドサッ!!

「おおおおおおお!!」

 けいが床を転がる。

耀平「けい!」

 止まった。

 すぐには立たない。

 まくらZは追撃せず、見ている。

 審判が僅かに動く。

 その時。

けい「……まだ」

 けいが手をついた。

 立ち上がる。

 左肩を押さえる。

けい「痛い」

まくらZ「ごめん」

けい「試合だからいい」

まくらZ「……うん」

 剣を拾う。

 左腕。

 まだ動く。

けい「強いね」

まくらZ「けいも」

けい「ありがとう」

 剣を構える。

 もう余裕はない。

 けいは考える。

 今の速度。

 追えない。

 魔法を使っても、純粋な脚力では向こうが上。

 なら。

 追わない。

 速さで勝とうとしない。

 力でも勝とうとしない。

 まくらZは一度見せた。

 最大速度。

 直線。

 最短距離。

 拳。

けい「……」

 剣先が僅かに下がる。

まくらZ「やめる?」

けい「やめない」

まくらZ「そう」

 再び、腰を落とす。

 けいは動かない。

カズキ「けい、何してるんだろ」

ジェノス「分かんねぇ」

耀平「……待ってる」

マリン「何を?」

耀平「Zが来るのを」

 床が軋む。

 けいの右手には細剣。

 左手は空。

 雷も見えない。

 ただ立っている。

まくらZ「行く」

けい「うん」

 ドンッッッッ!!!

 まくらZが消えた。

 けいは動かない。

 まだ。

 近づく。

 拳。

 真っ直ぐ。

 顔へ。

 そこで。

 けいが一歩だけ前へ出た。

まくらZ「――!」

 逃げない。

 前。

 拳の軌道から身体を僅かにずらす。

 風圧が頬を切る。

 それでも。

 懐。

 まくらZの勢いは止まらない。

 けいは剣を振らなかった。

 左手。

 胸元。

 触れる。

けい「――今」

 バヂィィィィィィッ!!!

まくらZ「――――っ!!」

 雷鳴。

 白い光が舞台を覆う。

「うわっ!!」

「まぶしっ!」

 まくらZの身体が硬直する。

 だが。

けい「……!」

 止まらない。

 拳がまだ動く。

 ゆっくり。

 けいの顔へ。

けい「まだ……動けるの?」

まくらZ「……まだ」

 拳が迫る。

 けいは逃げない。

 もう一度。

 今度は右手。

 細剣を逆手へ持ち替え、空いた指先をまくらZの腕へ。

 触れる。

 バヂィィィィッ!!!

 再び雷。

まくらZ「――っ……!」

 拳が。

 止まった。

 けいの鼻先。

 あと数センチ。

 完全に。

 動かない。

まくらZ「…………」

 身体が僅かに揺れる。

 膝が落ちた。

 ガクッ。

 片膝。

 続いて両手。

 床につく。

審判「……!」

 けいはすぐに距離を取った。

 まくらZが立とうとする。

 腕へ力を。

 しかし。

まくらZ「……動かない」

 足。

 動かない。

 指先だけが僅かに震えている。

審判「まくらZ! 続行できるか!?」

まくらZ「…………」

 拳を握ろうとする。

 ゆっくり。

 だが、力が入らない。

まくらZ「……無理」

 審判の腕が上がる。

審判「そこまで!! 勝者――けい!!」

「うおおおおおおおおおおお!!」

maro『決まったァァァァァ!! 超怪力!! 超高速!! 驚異的な耐久力を持つまくらZを止めたァァァ!!』

maro『準決勝進出二人目――けいィィィィ!!』

 大歓声。

 その中でも、ひときわ大きな声が飛ぶ。

まくらF「Zちゃあああああん!!」

まくらK「大丈夫ー!?」

まくらP「手動く!?」

まくらU「医務室行こう!!」

まくらY「お肉食べられる!?」

ジェノス「最後の奴なんで肉なんだよ!」

 AからYまでの姉たちが一斉に通路へ向かおうとして、係員に止められている。

 舞台。

 けいが細剣を鞘へ戻し、まくらZの前へしゃがんだ。

けい「大丈夫?」

まくらZ「動かない」

けい「少ししたら戻ると思う」

まくらZ「ほんと?」

けい「多分」

まくらZ「多分……」

 僅かに不安そうになる。

けい「ごめん」

まくらZ「試合だからいい」

 つい先ほどまで。

 けい自身が何度も言っていた言葉。

けい「……そうだね」

 少しだけ笑う。

まくらZ「負けた」

けい「うん」

まくらZ「雷、嫌い」

けい「うん」

まくらZ「次は対策する」

けい「……やめて」

まくらZ「なんで?」

けい「勝てなくなる」

まくらZ「じゃあする」

けい「困る」

 まくらZの口元がほんの少しだけ緩んだ。

 そこへ。

まくらK「Zちゃあああああん!!」

まくらZ「……来た」

 係員に許可された姉たち数人が一気に近づいてくる。

まくらF「大丈夫!?」

まくらP「痛いところある!?」

まくらU「手は!?」

まくらY「お肉は!?」

まくらZ「一人ずつ喋って」

まくらF「ごめん!」

まくらP「ごめん!」

まくらU「ごめん!」

まくらY「お肉食べる?」

まくらZ「それは食べる」

まくらY「よし!!」

 姉たちに囲まれるZ。

 けいは立ち上がる。

耀平「けい!」

 観覧席から声。

 けいが顔を上げる。

耀平「ナイス!」

けい「うん」

 軽く手を上げる。

 その瞬間、左肩が痛んだのか少しだけ顔をしかめた。

けい「……痛い」

耀平「医務室行け!」

けい「そうする」

 観客席から笑いが起こる。

 るいひろは、運ばれていくまくらZを見ながら息を吐いた。

るいひろ「……勝つ人いるんだ」

いれ「そりゃいるでしょ」

るいひろ「分かってるけどさ!」

かつとし「お前どんだけ絶望してたんだよ」

るいひろ「俺の火、本当に全然効かなかったんだからな!?」

いれ「風も?」

るいひろ「崩すくらいには使ったけど、決定打にはならなかった」

かつとし「でも雷は効いた」

るいひろ「うん。でも……」

 るいひろが、医務室へ向かって歩くけいを見る。

るいひろ「あれ、雷が効いたから勝っただけじゃないよな」

かつとし「ああ」

 雷がまくらZに通りやすかった。

 それは確かだ。

 だが弱点が分かっただけでは、あの速さへ触れられない。

 あの怪力を凌げない。

 何度も戦い方を変え、最後には一番危険な正面から踏み込んで、一撃を通した。

 けいが強かった。

 そして。

 まくらZも強かった。

 巨大な魔導掲示板が輝く。

 ハイドラグーン。

 けい。

 二人の名前が準決勝側へ移動した。

 ベスト4。

 半分が決まった。

カズキ「……すごかった」

ジェノス「ああ」

ひっかるん「どっちもギリギリだったね」

サイタマタマ「次は誰だ!!」

 その声へ答えるように。

maro『さあァァァァ!!』

 実況が響く。

maro『準々決勝!! これで二試合終了!!』

maro『準決勝進出を決めたのは――ハイドラグーン!! そして、けい!!』

「うおおおおおおお!!」

maro『だが!! 残る席はあと二つ!!』

 魔導掲示板が切り替わる。

 カズキの表情が変わる。

 そこに映った名前。

 つい三日前。

 自分が敗れた相手。

 第三試合。

 yuki。

     対

 たたたつ。

「おおおおおおおおお!!」

はに「来た!!」

さくらもち「たたたつー!! 頑張ってー!!」

 たたたつが席から立ち上がる。

 腰には二本の短剣。

 はにが大きく手を振る。

はに「絶対勝ってねー!!」

たたたつ「聞こえてる!」

 振り返らず、片手だけを上げる。

 反対側。

 yukiも静かに席を立った。

カズキ「……yukiさん」

 自分があと一歩届かなかった相手。

 その次の相手は。

 【疾風】を纏い、さくらもちを破った高速剣士。

ひっかるん「これ、どっちだと思う?」

カズキ「……分かんない」

ジェノス「またそれかよ」

カズキ「本当に分かんないんだって!」

 yukiが選手通路へ向かう。

 途中。

 カズキの近くを通る。

カズキ「あ」

 yukiが止まる。

yuki「?」

カズキ「……頑張ってください」

yuki「うん」

 それだけ。

 yukiは再び歩き始めた。

 カズキはその背中を見る。

 悔しさは残っている。

 あと一歩。

 あそこまで行っても届かなかった。

 けれど今は。

 見たいと思った。

 自分が届かなかった相手が。

 次にどう戦うのか。

maro『準々決勝第三試合!!』

 歓声が一段大きくなる。

maro『氷か!! 風か!!』

maro『広大な舞台を凍てつかせるyuki!! 対するは【疾風】を纏う高速剣士――たたたつ!!』

 二人が舞台へ姿を現す。

 白い冷気が、yukiの足元を薄く這う。

 反対側。

 たたたつの周囲では、目には見えない風が髪と服を僅かに揺らしていた。

 氷。

 そして風。

 二人が中央へ歩いていく。

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ついてるこ

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