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第六十七話:七人の私

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/18 📚 シリーズ: 継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 📝 2,610文字 ✅ 全年齢

あらすじ

日常に潜む小さな違和感を記録し続けると、100個集めたとき、何かが起きるらしい。 逆行する時計、誰もいない部屋の足音、鏡の中の自分…… でも、最後に待っているのは「終わり」ではなく、君へのバトンだ。 7人の語り部が紡ぐ、永遠に終わらない百物語。 次はお前が観測者になるのか?

本文

これは私が記録した、六十七本目の違和感である。

今回も、語り部は、いない。

記録するのは、七という、数字についての疑いのことだ。

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机の前に、座っていた。

窓の外は、暗かった。六十六本目の夜から、二日、経っていた。

デスクライトの、光の輪の外に、部屋の残りが、沈んでいた。

美咲、凛、桐生、陸、由香、千尋。

名前を、順に、ノートの新しいページに、書き出した。字は、いつもの、自分の字だった。

六十三本目の夜、美咲との通話が、二つに、分かれていたことを、思い出した。かけた記憶と、受けた記憶。呼び出し音の数まで、両方の記憶で、一致していた。ノートには、違う筆跡の、二行が、並んでいた。

六十五本目の夜、記憶の、最初の一秒が、どれも、欠けていたことも、思い出した。由香の廊下も、凛の教室も、桐生の山道も、語られていない細部まで、一人称の映像として、覚えていた。「分ける」という言葉のほうが、先に、意味を失った。

二つとも、答えを、出さずに、終わっていた。棚上げにしたまま、次の記録へ、進んできた。

答えを、出す気になったのは、今夜が、初めてだった。

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七人の名前の下に、一行、加えた。

「そして、私」

書いてから、しばらく、字を、見ていた。

七つ、並んだ。縦に、等間隔で。

もし、この七人が、全て、自分の、人格の、断片だったとしたら。

考えとして、初めてでは、なかった。ノートを、めくれば、似た疑いは、何度も、出てきていた。六十一本目の、名前の起源。六十三本目の、二つの筆跡。そのたびに、疑いは、答えの手前で、止まっていた。

だが、今夜は、疑いのまま、留めておく気に、なれなかった。

ペンを、置いた。

「違う」

声に、出そうとした。

出なかった。

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喉の、奥が、動かなかった。

舌が、上顎に、ついたまま、離れなかった。

もう一度、試した。

息だけが、出た。かすれた、白い息のような、形のない音だった。言葉には、ならなかった。

喉の奥から耳の奥まで、鼓動だけが駆け上がっていく感覚が、諦めたあともしばらく、消えずに、続いた。

三度目、諦めた。

指で、喉に、触れた。震えては、いなかった。ただ、動かなかった。喉仏の、あたりを、なぞった。感覚は、あった。動かす、命令だけが、届いていなかった。

深く、息を、吸った。吐いた。

もう一度、口を、開けた。

言葉は、来なかった。

沈黙が、部屋を、満たした。エアコンの音さえ、止まっていた気が、した。

声が、駄目なら、字で、と、思った。

ペンを、取り直した。

「違う」

紙の上には、書けた。迷いなく、いつもの筆圧で、書けた。

だが、書いた文字を、見ても、何も、変わらなかった。声にならなかった一言と、紙の上の一言は、同じ形をしているのに、重さが、違った。

否定は、できた。否定した実感だけが、来なかった。

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顔を、上げた。

机の端に、蝋燭が、並んでいた。

六十六本、灯っている。芯の高さは、ばらばらで、蝋の垂れた跡が、それぞれ違う模様を、作っていた。

その中に、七本だけ、目で、追える蝋燭が、あった。

一本目。十本目。十五本目。二十本目。三十本目。四十本目。五十本目。

自分と、美咲と、凛と、桐生と、陸と、由香と、千尋。それぞれが、初めて、記録に、現れた夜の、蝋燭だった。

この並びを、意識して見たのは、初めてだった。今まで、七本は、ただの、六十六本の一部だった。

一本目から、五十本目まで、順に、見た。

一本目の炎は、小さく、まっすぐ、立っていた。十本目は、少し、揺れていた。十五本目、二十本目、三十本目、四十本目、五十本目——

見終えた、そのとき——

息を止めたまま、瞬きも忘れて、七つの光が、同じ角度のまま静止し続けるのを、数えられないほど長く、見ていた。

七本の炎が、同時に、同じ角度に、傾いた。

右でも、左でもなかった。

自分の方へ、傾いた。

他の、五十九本は、動いていなかった。

風は、なかった。窓は、閉まっていた。カーテンも、動いていなかった。

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しばらく、動けなかった。

七本の炎は、傾いたまま、揺れも、戻りも、しなかった。細い、七本の光の筋が、同じ方向を、指したまま、静止していた。

傾いた方向が、答えなのか、警告なのか、分からなかった。

分からないまま、それを、ノートに、書いた。

「七本、同じ方向。私の方へ」

字が、いつもより、小さかった。

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スマートフォンを、取った。

六人の名前を、同時に、選んだ。グループではなく、一人ずつ、同じ文面で。

一行だけ、打った。

「あなたは、私ですか」

送るべきかを、考える時間は、なかった。考えれば、送れなくなる気が、した。

指が、送信の上で、少し、止まった。

押した。

既読は、すぐに、ついた。六件とも、ほぼ同時だった。

返信を、待つ間、時計を、何度も、見た。針は、動いているのに、進んでいる感じが、しなかった。

返信は、来なかった。

画面を、伏せて、しばらく、待った。伏せた画面が、光るたびに、体が、先に、反応した。だが、光っていたのは、時刻の表示だけだった。それでも、来なかった。

送らなければよかった、とは、思わなかった。ただ、送ったことを、取り消せない事実として、意識し続けていた。

その夜は、それきりだった。

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翌朝、六件、届いていた。

同じ時刻に、届いていた。分の単位ではなく、秒の単位まで、揃っていた。

一件ずつ、開いた。

美咲も、凛も、桐生も、陸も、由香も、千尋も——

同じ、六文字だった。

「分かりません」

句読点の、位置まで、同じだった。

改行の、数まで、同じだった。

この言い回しを、どこかで、見た気が、した。

自分の、ノートの、どこかだった。

ページを、めくって、探したが、見つからなかった。どこだったかは、思い出せなかった。

六人の返信を、並べて、もう一度、読んだ。

六つの画面が、同じ、六文字を、映していた。

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六十七本目の蝋燭に、火を、灯した。

炎が、右に、揺れた。

三十話、連続だった。

七本の傾きは、消えていた。六十六本の列に、戻っていた。

ノートを、閉じる前に、もう一度、七つの名前を、見た。

「そして、私」

その一行だけ、他の六行より、少しだけ、字が、薄かった。

書いたときは、気づかなかった。

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残り、三十三本。

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作者について

闇工房

闇工房

"正常"と"異常"の境界を、一話ずつ削り取る。 心理ホラー小説・TRPGシナリオを制作するソロクリエイター。 代表作は連作怪談「継承される百の違和感」—— 読み進めるうちに、あなたの"普通"...

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