【44番外】レトロケーション・羽根モノ取材編
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
午後の時環遊技場に、前にも見た三人組がやってきた。
「こんにちは! 未来放送局の『レトロ・エンターテインメント・アーカイブス』です!」
先頭の女性が、いつものようににこやかに頭を下げる。
「また来ました!」
「お待ちしていました」
店主が穏やかに迎える。
「今回は、羽根モノを取材させてください」
「はい。もちろん」
店主は店内の羽根モノコーナーへ目を向けた。
「たくさんありますから、どれにするか迷うかもしれませんね」
「実は、もう決めてきました」
女性が端末を操作すると、空中に三台の遊技機が浮かび上がった。
「この三台です」
画面には、台番号と名前が表示されている。
『115 カエルの大冒険』
『116 がんばれ親方』
『117 ジャングル探検隊』
「ずいぶん個性的な名前ですね!」
店主が笑う。
「役物も、それぞれ面白いですよ」
三人はさっそく台の前へ向かった。
『カエルの大冒険』には、大きなカエルの役物が取り付けられている。
ぱっくりと開いた口が、盤面の中央でこちらを向いていた。
「この口に玉が入るんですか?」
「そうです。ただ、口に入っただけではまだですよ」
「まだ?」
「口の中にあるVに入れば、入賞です」
スタッフは、カエルの口をじっと見つめた。
その隣の『がんばれ親方』には、相撲の親方を模した役物がある。
そして、その横。『ジャングル探検隊』には、ジャングルを思わせる装飾と、ツタのような役物が組み込まれていた。
「これは……?」
「ツタに玉がくっついて、反対側まで届けばVに入ります」
「玉が、くっつく?」
「磁石です」
三人が顔を見合わせる。
未来の撮影技術を扱っている彼らにとっても、昔の遊技機の仕組みは、見れば見るほど不思議なものらしい。
やがて撮影の準備が整った。
今回も、玉の動きを記録する装置が盤面の前に設置される。
羽根が開く瞬間、玉がどの方向へ跳ねたのか。役物の中でどんな動きをしたのか。それらを空中に浮かぶ光の軌跡として残せるらしい。
「それでは、まず『カエルの大冒険』からお願いします!」
スタッフの一人が椅子に座った。
ハンドルを回す。玉が盤面へ送り出される。
釘に弾かれ、風車にぶつかり、何度か跳ね返った玉がチャッカーに吸い込まれ、羽根が開いた。
一個の玉が、羽根に拾われる。
「おっ」
玉は役物の中へ飛び込んだ。
カエルの口が開く。三人の視線が、玉を追った。
口の中で一度跳ねた玉は、中央のVへ向かって転がっていく。しかし玉はVの縁に弾かれ、そのまま下へ落ちていった。
「ああ……」
思わず、三人の口から同じ声が漏れた。
店主が少し笑った。
「今のは惜しかったですね〜!」
「今の……口には入ったんですよね」
「はい」
「でも、駄目」
「はい」
スタッフはもう一度盤面を見た。
「なるほど……」
そして、ハンドルを握り直した。
次の玉が羽根に拾われる。
今度は役物の中で大きく跳ね、カエルの口の奥へ転がっていく。
Vの手前で、くるりと向きを変えた。
「……!」
そのまますとん、とVへ入った。
店内から小さな歓声が上がる。
スタッフは驚いたように盤面を見つめ、それから撮影された光の軌跡を確認した。
「今の、きれいですね」
「そうですね」
「玉が、最後までどこへ行くか分からない」
店主は頷いた。
「そこが面白いところでしょうね」
次の台へ移った。
『がんばれ親方』では、相撲を題材にした役物が玉を受け止める。
羽根が開き、玉が中へ入る。
役物の中を転がる玉を、スタッフたちは黙って見守った。
「親方、頑張ってください」
誰が言ったのか分からなかった。
店主が振り返る。
スタッフ自身も、少し照れたように笑った。
玉は親方の周りを回り、惜しいところまで進んだ。
しかし、そのまま外れてしまった。
「……駄目でしたね」
「はい」
「親方、頑張ってくれませんでした」
店主は笑った。
「今日は、ちょっと厳しかったようですね」
それから何度か玉を打つうちに、いつの間にかスタッフの間で親方への声援が始まっていた。
羽根が開けば身を乗り出し、玉が役物へ入れば息を止める。
そして外れれば、揃って肩を落とす。
最初は撮影のためだったはずなのに、誰もそれを気にしていなかった。
最後の『ジャングル探検隊』では、さらに様子が変わった。
羽根から飛び込んだ玉が、ツタの役物に吸い付く。磁石に捕まった玉が、ゆっくりと動き始めた。
誰も声を上げない。ただ、玉の動きを追っている。
ツタはゆっくりと反対側へ伸びていく。
Vは、その先にある。
あと少し。あと少しで届く。ところが、玉がふっと外れた。
「ああっ!」
今度は三人とも声を上げた。
近くで見ていた常連客が笑う。
「惜しかったねぇ」
「今のは悔しいです」
ディレクターが本気で悔しそうに答えた。
店主は、その様子を見て微笑んだ。
「もう一度、やってみますか?」
「……お願いします」
すぐに返事が返ってきた。
従業員アンドロイドが、上皿へ玉を補充する。
「どうぞ」
再びハンドルが回った。
玉が盤面を流れる。羽根が開く。玉が入る。ツタが動く。今度は、さっきよりも少しだけ長く玉をつかまえていた。
反対側へ、ゆっくりと玉が進んでいく。
「……行け」
誰かが呟いた。
玉が、Vの手前まで届いた。
そして――コロン、と小さな音を立ててVへ入った。
「入った!」
一気に声が上がった。
カメラマンが慌てて撮影画面を確認する。
「撮れてます!」
「よかった……」
ディレクターは、しばらく盤面を見つめていた。
それから、ふっと笑った。
「面白いですね」
「はい」
店主が答える。
「一発台とは、また違うでしょう?」
「全然、違います」
ディレクターは三台を順番に眺めた。
「一発台は、とにかく入るまで待つ感じでしたけど、これは一球ごとに違う」
「そうですね」
「羽根が開くたびに、次はどこへ行くんだろうって思う」
店主は頷いた。
「玉は、思った通りには動いてくれませんからね」
「そこが面白いんですね」
いつの間にか、スタッフたちは撮影した映像の確認よりも、実際の盤面を見る時間のほうが長くなっていた。
カエルの口が開くたびに身を乗り出し。
親方が玉を受ければ声をかけ。
ツタが玉をつかめば、反対側へ届くまで黙って見守る。
客の小型ロボットまで、いつの間にか三台の間を行ったり来たりしていた。
「カエル、マタ ハイリマスカ?」
「どうでしょうね」
「オヤカタ、ガンバッテマス!」
「そうですね」
「ツタ、モウスコシデス〜!」
店主は、その様子をカウンターから眺めていた。
やがて時計を見る。そろそろ、いつもの時間だった。店主が古いマイクを取り出すと、従業員アンドロイドがすぐにカウンターへ戻ってくる。
店主がマイクを手に取る。
スピーカーに小さなノイズが走った。
そして、いつもの店内放送が始まった。
その声を聞いた撮影スタッフたちが、ふと顔を上げる。
しばらくして、店主がマイクを置いた。
「そろそろ、お時間ですね」
「あ……」
三人とも時計を見る。
「もう、こんな時間ですか?!」
「はい」
ディレクターが三台の羽根モノを振り返る。
「もっと撮るつもりだったんですけどね」
「十分撮れたと思いますよ」
店主が笑う。
スタッフたちは機材を片付け始めた。
従業員アンドロイドが手伝いながら、床に落ちた玉を拾っていく。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
入口まで見送りに出る店主に、ディレクターが振り返った。
「次の取材も、来てもいいですか?」
「もちろんです」
「まだ羽根モノ、たくさんありますよね」
「ええ」
店主は店内を振り返った。羽根モノの並ぶ一角には、古い台が静かに並んでいる。
「まだまだありますよ」
「……それは楽しみですね」
三人は笑いながら店を出ていった。
店内が静かになる。
店主は、しばらく羽根モノの並ぶ一角を眺めていた。
『カエルの大冒険』
『がんばれ親方』
『ジャングル探検隊』
三台とも、何事もなかったように静かに佇んでいる。
従業員アンドロイドが隣に立った。
「今日は、ずいぶん楽しそうでしたね」
「そうですね」
店主が微笑む。
「取材に来た人が、いつの間にか遊んでいました」
「はい」
少し間があった。
「でも、それも取材なのかもしれませんね」
店主はそう言って、羽根モノの並ぶ場所へ目を戻した。
静かな店内に、古い遊技機の音だけが残っていた。
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