【45番外】本日の主役
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
その日は、いつもと変わらない営業日のはずだった。開店前のホールで、店主はいつものように台の電源を確認していた。羽根モノの島を抜け、CRコーナーへ向かう。そのとき、一匹のホログラムメダカが店主の目の前を横切った。
銀色の身体。小さなヒレ。いつもと変わらないメダカ――のはずだった。
「……ん?」
店主が足を止める。
メダカの頭に、小さな王冠が乗っている。金色の王冠だった。
「これはまた……」
店主が顔を近づける。
メダカは気にする様子もなく、店主の周りを一周すると、そのままCRスターダストの上へ泳いでいった。
「君、いつの間にそんな機能を覚えたんですか?」
もちろん返事はない。
ただ、小さな王冠だけがホログラムの光を受けて、きらりと光った。
「……面白いですね」
店主は笑いながら、その後ろ姿を見送った。
やがて開店時間になった。いつものように客が入り、店内が少しずつ賑やかになっていく。
しばらくして、常連客の一人が声を上げた。
「あれ?」
店主が振り返る。
五匹のメダカが、いつの間にか一か所に集まっていた。王冠をかぶった一匹を中心に、銀色のメダカたちがくるくると泳いでいる。
すると、その身体から淡い光が広がった。
光が集まり、空中で形を変えていく。
現れたのは、小さなケーキだった。
白いクリーム。赤いイチゴ。何本ものろうそく。炎まで、ちゃんと揺れている。
「……おや!」
店主の顔がぱっと明るくなる。
「これはすごい」
店主はケーキの周りを歩きながら、興味津々に眺めた。
一匹のメダカがケーキの周りを泳ぐ。その動きに合わせて、ろうそくの炎が揺れる。
「ちゃんと連動している……」
店主が指を伸ばす。
指先がケーキをすり抜けた。
「ああ、触覚はありませんか」
少し残念そうに指を引っ込める。
「食べられないのは惜しいですね」
「そこですか?」
常連客が思わず突っ込んだ。
店主は楽しそうに笑った。そのときだった。
ジェットカウンターから、カタカタカタ……と小さな音がした。
店主が振り返る。
「ん?」
誰も触っていないジェッターが勝手に動いている。
「おやおや」
店主が近づく。
カタカタカタ……。
そして一枚のレシートが、するりと吐き出された。
近くにいた常連客が拾い上げる。そこには、いつもの謎めいた短い文章ではなく、はっきりとこう印字されていた。
『HAPPY BIRTHDAY🎂店主!!』
「……店主」
「はい?」
レシートを渡される。
店主は何気なく受け取った。
そして――目を見開いた。
「……!」
もう一度見る。
「HAPPY BIRTHDAY」その下に、「店主」
と書いてある。
「ジェッターが……?」
店主は思わずジェッターの前にしゃがみ込んだ。
「君がこれを?」
機械は何も答えない。ただ、内部から小さな作動音が聞こえる。
店主はレシートを両手で持ったまま、嬉しそうに笑った。
「覚えていてくれたんですね!」
声が少し弾んでいた。
「いやあ、これは嬉しいなあ」
その声を聞いた常連たちが、次々と集まってくる。
「ちょっと待ってください」
「店主、今日誕生日なんですか?」
「えっ、今日!?」
「知らなかった!」
「店主、言ってくださいよ!」
店主は振り返って、少し照れたように笑った。
「ああ……そうなんですよ。今日なんです」
「今日なんです、じゃないですよ!」
「今初めて知りましたよ!」
店内に笑い声が広がった。
店主はそんな様子を眺めながら、またジェッターへ目を戻した。
「でも、こうして祝ってもらえるとは思いませんでした」
そして、レシートをもう一度眺める。
「しかもジェッターからですよ」
店主は嬉しそうに笑った。
「これは記念に取っておきましょう」
「そんなに嬉しいんですか?」
「ええ!」
即答だった。
「こういうの、大好きなんです」
店主はレシートを大事そうに折りたたんだ。
その様子を見ていた常連たちは、顔を見合わせる。
「……じゃあ」
「うん」
「昼休みに行きますか」
小さな声が交わされた。
店主はまだ、その相談には気づいていなかった。その頭上を、王冠をかぶったメダカが、すいっと泳いでいく。
その日の昼休憩。店主が休憩室へ向かうと、従業員アンドロイドが何かを準備していた。
「店主」
「はい?」
「こちらをどうぞ」
差し出されたのは、透明なデータフードのプレートだった。
その上には、色とりどりの寿司が並んでいる。マグロ。サーモン。エビ。イクラ。玉子。それらがケーキのように丸く積み重ねられ、中央には小さなろうそくまで立っている。
店主は目を輝かせた。
「これは……!」
「特上お寿司ケーキです」
「お寿司でケーキを作ったんですか?」
店主がプレートを覗き込む。
「いいですねえ!」
嬉しそうに、あちこちの寿司を眺める。
「これは食べるのがもったいないくらいですね」
「もちろん、食べられます」
店主は笑った。
「今日は誕生日ってだけで、ずいぶん楽しいことが起きますね」
「本日のために用意しました」
「ありがとうございます。いただくのが楽しみです」
そして午後。
何事もなかったように戻ってきた常連たちは、少しずつ店主のところへやってきた。
「店主、これ」
「私からも」
「よかったらどうぞ」
小さな袋。おつまみ。菓子。そして最後に差し出されたケース。
店主が受け取る。
「……電気黒ビア!」
またしても、店主の顔がぱっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
「好きでしょう?」
「ええ、大好きですよ」
店主は嬉しそうにケースを眺めた。
「よく覚えていましたね」
「いつも飲んでるじゃないですか」
店主は笑った。
ホールの上では、相変わらずメダカたちが泳いでいる。王冠をかぶった一匹が、店主の肩のあたりを通り過ぎる。その後ろには、食べられないホログラムケーキ。カウンターには、食べられるお寿司ケーキ。そして店主の手には、電気黒ビア。店主はそれらを見回して、楽しそうに笑った。
「今日は、いったい何が起きるんでしょうね」
すると、ジェットカウンターがもう一度、小さく音を立てた。
店主が振り返る。
「……まさか」
レシートが一枚、ひらりと落ちた。
店主は駆け寄るように拾い上げた。
そこには――
『HAPPY BIRTHDAY』
とだけ印字されていた。
「ははっ!」
店主は思わず声を上げて笑った。
「二枚目ですか!」
王冠をかぶったメダカが、その横をすいっと泳いでいく。
店主はレシートを大事そうに胸元へしまった。
「今日は最高ですね」
その言葉に答えるように、店内のあちこちで、電子音が鳴り始めた。
「……?」
店主が振り返る。
CRコーナーの液晶が、いつもの演出とは違う画面になっている。
そこに大きく、『HAPPY BIRTHDAY』と表示された。
「えっ?」
店主が立ち止まる。
隣の台も表示が変わった。
『お誕生日おめでとうございます🎉』
さらにその隣。
『店主、おめでとう!』
「……君たちまで?」
店主は思わず笑った。
古い羽根モノの台まで、盤面の奥で小さな光を点滅させている。本来、そんな文字を表示する機能などないはずの台だった。
「これは……どういう仕組みなんでしょうね」
店主が一台ずつ眺めていく。
常連たちも、台の前で立ち止まっていた。
「すごいな……」
「この台、文字なんか出ましたっけ?」
「出ないですよね」
「ですよね?」
みんなが顔を見合わせる。
店主はそんな様子を見ながら、なんとも嬉しそうに笑った。
「いやあ……」
液晶に表示された文字を見上げる。
「みんなに祝ってもらえるとは思いませんでした」
そのとき、少し離れたところにある別の台の表示が変わった。
『おめでとうございます』
続いて、また一台。
『HAPPY BIRTHDAY 店主』
さらにもう一台。
『本日の主役』
「ははは!」
店主が声を上げて笑った。
「本日の主役ですか」
常連の一人が笑う。
「今日は本当に店主の日ですね」
「いやあ、これは困りましたね」
そう言いながらも、店主の顔は嬉しそうだった。
ホールのあちこちで、台たちがそれぞれの方法で祝福を続けている。
その上を、王冠をかぶったメダカがすいすいと泳いでいく。
まるで、この店全体が店主の誕生日を祝っているようだった。