❲ 狐の義兄 7 ❳
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
好きを詰め込みました。ただ、自分の好きを置いた作品集です。
本文
「ひ、一言、言っておくけど母さん! 俺はただ、妹が愛しすぎて、その、毛並みのコンディションを整えてもらおうと……!」
お兄ちゃんはソファの上で、文字通り狐のように身を縮めて弁明する。しかし、涼子さんの冷徹な笑顔は変わらない。
「あら、言い訳? 私の可愛い娘を『うっとうしい枠のセンター』などという怪しげなポジションに勝手に据えようとした罪、万死に値するわね」
ゴゴゴ、とリビングの空気が物理的に重くなる。
お母さんの白銀の尾が、リビングの天井に届かんばかりに膨れ上がっていく。
「さあ、覚悟しなさい、この駄狐(だきつね)」
「ぎゃあああ! 暴力反対! 妹の前で俺の威厳が損なわれるーーっ!」 ドカバキ、と少女漫画らしからぬ鈍い音が響き、お兄ちゃんがお約束のように部屋の隅へと吹き飛んでいった。
……うん、知ってた。 この家で一番強いのは、間違いなくお母さんだ。
「はぁ……。涼子さん、ありがとう。助かった」私が服についた白い毛をはたきながら溜息交じりに感謝すると、お母さんは一瞬で聖母のような微笑みに戻り、私の両手をそっと握った。
「いいのよ、私の可愛い天使ちゃん。変な虫(狐だけど)がついたら、いつでもお母さんを呼びなさいね。さあ、お夕飯はあなたの好きなオムライスよ。一緒にキッチンへ行きましょう?」
「うん。行く」私はお母さんに連れられて歩き出す。
その際、部屋の隅でズタボロになりながら倒れているお兄ちゃんを、チラリと、ゴミを見るような、あるいは哀れな虫けらを見るような目で一瞥した。
「……じゃあね、駄狐さん」その瞬間。床に転がっていたお兄ちゃんが、ビクンと激しく反応した。
「は、うあぁ……っ! 駄狐……っ! 今、俺のことをゴミを見る目で 『駄狐さん』 って……! しかもお母さんを味方につけて俺を完全排除するその冷徹なチームワーク……! ああ、ゾクゾクする、脳髄が痺れるほどに最高のご褒美だ……っ! 待って、置いていかないで、俺が最高のオムライスを作るからぁぁ!」
さっきまでのダメージはどこへやら、お兄ちゃんは頬を紅潮させ、嬉し涙を流しながら、ツヤツヤに輝く尾を激しく振って床を這いずり回っている。
(……やっぱり、このポジティブの化け物には何言っても無駄だわ)私はもう一度、今度は完全に「無」の視線を投げつけて、リビングを後にしたのだった。
(お兄ちゃんの………。バカ…)