【46番外】 台たちの間違い探し
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
その日の時環遊技場は、朝から少しだけおかしかった。
最初に気づいたのは、手打ち式の台に座っていた古くからの常連だった。
玉を上皿に入れ、ハンドルをリズミカルに弾く。
いつものように盤面を眺めていた男が、ふと手を止めた。
「……あれ?」
盤面を覗き込む。
もう一度見る。
釘の並びも、風車の位置も、昨日までと変わっていない。
「気のせいか……?」
そう呟いてから、男はもう一度、盤面をじっと見た。
「いや。違う」
隣で打っていた常連が顔を上げる。
「何が?」
「ここ」
男が指差した。
盤面の隅に描かれた小さな鳥。昨日まで、二羽だったはずだ。
「三羽……?」
男が首を傾げる。
「なあ、これ……鳥、一羽増えてないか?」
「え?」
二人で顔を寄せる。
そこには、枝に止まった鳥の絵が描かれていた。何故か一羽増えている。
「……本当だ」
男が店主を呼ぶ。
店主はカウンターから出てくると、盤面を覗き込んだ。
「おや」
「やっぱり違いますよね?」
「ええ。この台に描かれている鳥はニ羽のはずなんですが…」
店主がそう言った直後だった。
盤面の奥で玉が一つ、いつもとは違うコースを通った。
そして、チャッカーへ。台が小さく音を立てる。
「おっ!」
当たりだった。
男は目を丸くした。
「えっ、これ……見つけたら当たりなのか?」
店主も驚いたように台を見たあと、ふっと笑った。
「そういうことかもしれませんね」
その噂は、あっという間に店内へ広がった。
「違和感を見つけると当たるらしいぞ」
「何それ?」
「知らん。俺も今聞いた」
「じゃあ他の台にもあるか探してみようぜ」
それから、時環遊技場では妙な光景が始まった。
パチンコを打っている客たちが、いつものように盤面を見る。ただし、玉の動きだけではない。
絵を見る。役物を見る。ランプを見る。液晶を見る。
「……あれ?」
誰かが声を上げるたび、近くの客が集まってくる。
次に見つかったのは、107番台の羽根モノ「さくらんぼパラダイス」だった。
役物のさくらんぼを見ていた常連が、「一個、多くないか?」と言い出した。
「え?」
「ほら。ここ」
「……本当だ!」
中央に並んださくらんぼが、一つだけ増えていた。
「昨日までこんなにあったっけ?」
「なかったな」
「絶対なかった」
そう言った途端、役物が動いた。
「うわっ!」
見つけた本人が笑い出す。
「やっぱりだ!」
店内のあちこちから笑い声が聞こえた。
151番台の一発台「銀玉突撃」では、盤面に描かれた兵士が持っているものが、いつの間にかラッパになっていた。
「なんでラッパなんだよ!」
見つけた常連が腹を抱える。
「昨日まで武器だっただろ!」
その瞬間、台が当たりを出す。
「ほら来た!」
さらに161番台の権利物「花火小町」では、盤面に描かれた花火の中に、一つだけハート型の花火が混ざっていた。
「こんなの分かるか!」
と言いながらも、見つけた客は嬉しそうだった。
221番台の「CR虹色航路」では、液晶に映った虹の色が一色だけ違っていた。
「虹が……八色あるぞ」
「そんなわけないだろ」
「見てみろって」
何人かが集まる。
「……本当だ」
「よく気づいたな!」
見つけた客が胸を張った。
「毎日見てるからな」
そして、当たり。
「よっしゃ!」
店内がまた笑いに包まれる。
どうやら、違和感は一台につき一つではなかった。
「こっちの台、キャラクターの帽子が違う!」
「こっちは風車の色!」
「液晶の鳥が一羽増えてる!」
「あっちは何だ? 音が違うぞ!」
あちこちから声が飛び交う。常連たちはすっかり夢中になっていた。
「今日は打つより、探してる時間のほうが長いな!」
「でも見つけたら当たるんだから、探すだろ!」
店主はそんな様子をカウンターから眺めて、楽しそうに笑っていた。
「皆さん、よく台を見てくださっていますね」
その横で、従業員アンドロイドが店内を見回す。
「店主」
「はい」
「まだ見つかっていない台が、かなり残っています」
「そうですか」
「このままでは閉店までに……」
「それなら、皆さんに頑張っていただきましょう」
店主はそう言って、また笑った。
ところが。
午後になっても、どうしても見つからない台が一台あった。
何人もの常連が交代で眺めている。
「絶対どこか違うんだよ」
「そう言われてもなぁ」
「液晶のキャラクターも同じ」
「背景も同じ」
「装飾も……たぶん同じ」
「たぶん、って何だよ」
何度見ても分からない。とうとう一人が椅子から立ち上がった。
「もう無理だ!」
「降参?」
「降参!」
どっと笑いが起きた。
「これは人間には無理だな!」
すると、近くで見ていた常連ロボットが首を傾げた。
「では、私が確認しましょうか」
「おっ!」
「頼む!」
ロボットが台の前へ進む。目の部分が淡く光った。液晶全体をスキャンしていく。
従業員アンドロイドも隣に立った。
「私も比較します」
二人はしばらく無言で画面を見つめた。常連たちは後ろから覗き込む。
やがてロボットが言った。
「発見しました」
「どこだ?」
画面の一部分が拡大される。そこには、小さな花瓶が描かれていた。
「この花瓶です」
「花瓶?」
「通常位置から、3.2ミリ右に移動しています」
一同が沈黙した。
数秒後。
「……分かるかーーーっ!」
店内がどっと笑いに包まれた。
「三ミリって!」
「人間の目で分かるわけないだろ!」
「そりゃ降参するわ!」
「これ間違い探しじゃなくて測定だろ!」
ロボットは不思議そうに首を傾げる。
「ですが、明確な差異です」
「そういう問題じゃないんだよ!」
従業員アンドロイドまで液晶を覗き込んだ。
「確かに3.2ミリですね」
「お前も確認するな!」
また笑いが起こった。
すると、その台が当たりを出した。
「ほら、当たった!」
「もうロボットに探してもらうゲームになってるじゃねえか!」
笑い声が店内に広がる。
その後も、似たような騒ぎが何度か起きた。
「こっちはキャラクターの耳が0.8ミリ短いです」
「無理!」
「背景の窓の幅が1.4ミリ違います」
「もっと無理!」
「こちらはランプの点灯時間が0.03秒――」
「もういい!」
人間の常連たちは笑いながら、ロボットたちに任せるようになっていった。
それでも、最後まで自分の目で探そうとする者もいた。
そして閉店間際。
まだー台だけ、違和感が見つかっていなかった。店内に残った常連たちが、その台を囲む。
「絶対どこか違う」
「でも分からん」
「もうスキャンしてもらうか?」
その時、店主が静かに台の前へ歩いてきた。
しばらく盤面を見る。液晶を見る。装飾を見る。そして、少しだけ目を細めた。
「あ……」
「分かりました?」
従業員アンドロイドが尋ねる。
店主は液晶の端を指差した。
「ここですね」
「どこ?」
全員が身を乗り出す。
小さな絵の中に描かれた人物。その人物の持っている旗が、ほんの少しだけ傾いていた。
アンドロイドがスキャンする。
「……確認しました。通常より1.1ミリ傾いています」
「店主さん、分かるのかよ!」
「長く見ているものですから」
店主が照れたように笑う。
その瞬間。台が当たりを告げた。
「おおーっ!」
店内から歓声が上がった。
拍手まで起こる。店主は少し驚きながらも、嬉しそうに台を見つめていた。
やがて閉店の時間になった。蛍の光が店内に流れ始める。
今日一日、あれほど賑やかだった店内も、少しずつ静かになっていく
「結局、全部の台に違和感があったんですかね」
従業員アンドロイドが尋ねる。
「どうでしょう」
店主は店内を見渡した。
「でも、皆さん楽しそうでしたね」
「はい」
「台たちも、きっと楽しかったのでしょう」
その夜。
閉店した時環遊技場では、すべての台が静かに元の姿へ戻っていた。
釘も。絵も。役物も。液晶も。どこにも違和感はない。
翌朝になれば、いつもの時環遊技場がそこにある。
ただ。
一台の液晶の片隅にだけ、誰にも見つからないほど小さな文字が浮かんでいた。
「39/40 惜しい!あと一つはこの文章内のどこかにあるよ^ ^」