第二十七話「準決勝終了」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
『魔王るこ討伐記』あらすじ 剣士、魔法使い、弓使い、薬師―― 誰もがひとつの「スキル」を持って生きる世界。 冒険者たちは仲間とパーティを組み、ダンジョンを攻略し、魔物を討ち、日々さまざまな依頼をこなしていた。 そんな世界に君臨する、絶対的な敵。 魔王――るこ。 そして魔王に仕える、四人の強者――「四天」。 世界各地では、まだ互いの存在すら知らない者たちの物語が始まっていた。 一人で依頼をこなす剣士。 冒険者を夢見る弓使いの少女。 小さな薬草店で働く少女。 記憶を失った、異常なほど剣の強い謎の男。 そして――羊一匹にすら苦戦する、新米冒険者たち。 英雄だけが、この物語の主人公ではない。 冒険者も、商人も、ギルドの受付も、街で暮らす普通の人々も。 それぞれが出会い、別れ、時に敵となり、時に仲間となり―― やがて無関係だったはずの物語は、一つへと繋がっていく。 しかし彼らはまだ知らない。 なぜ魔王るこは世界を滅ぼそうとしているのか。 「魔王」とは、本当に世界の敵なのか。 そして―― この世界そのものに、誰も知らない秘密が眠っていることを。 これは、魔王を倒す英雄一人の物語ではない。 この世界に生きる、たくさんの人々の物語。 『魔王るこ討伐記』 ――魔王を倒したその先に、本当の答えがある。
本文
六十四人から始まったグラディア大闘技祭
その頂点まで、あと二つ
巨大な魔導掲示板には四人の名前だけが残されていた
ハイドラグーン
けい
yuki
すーだまん
maro『さああああああ!! ついにここまで来たァァァ!! グラディア大闘技祭――ベスト4!!』
「うおおおおおおおおお!!」
闘技場を揺らす歓声
準々決勝までとは明らかに空気が違う
ここから先は、あと二度勝てば優勝
残った四人の名前が掲示板に映し出されるだけで、観客席のあちこちから声が飛んでいた
カズキ「四人かぁ……」
ジェノス「最初六十四人いたんだよな」
ひっかるん「こうして見るとすごいね」
サイタマタマ「全員強そうだな!!」
ジェノス「実際強いんだよ」
サイタマタマ「じゃああぶらメンタル応援するか!!」
ジェノス「兄貴、そいつもうお前の次で負けた」
サイタマタマ「そうだった!!」
少し離れた席では、敗退した選手たちも掲示板を眺めている
五月雨「誰が優勝すると思う?」
いれ「分かんないなぁ」
かつとし「ここまで来ると全員おかしいだろ」
るいひろ「俺はけいかな」
いれ「Zに勝ったから?」
るいひろ「それもあるけど、あいつまだ何かありそうじゃん」
かつとし「それ言ったらすーだまんもだろ。あぶらメンタル相手でも結局余裕残してたぞ」
五月雨「ハイドラグーンもずっと安定してるし」
いれ「yukiなんて舞台全部凍らせたけど」
るいひろ「……やっぱ分かんねえな」
かつとし「最初に戻ったな」
別の一角では、たたたつがまだ少し寒そうに腕を擦っていた
たたたつ「俺はもうyukiの氷見たくない」
はに「でも次も見るでしょ?」
たたたつ「見るけど」
さくらもち「応援しよー!」
たたたつ「誰を?」
さくらもち「両方!」
たたたつ「平和だなぁ」
そんな声が飛び交う中
???「ベスト4のみんなーーーーー!! 頑張れよおおおおおおお!!」
ひときわ大きな声が、闘技場の上部から響いた
「うるさっ!?」
「誰だ!?」
「上だ!」
視線が一斉に向かう
一般観覧席とは区切られた特別観覧席
そこから身を乗り出し、両腕を大きく振っている男がいた
???「ここからだぞおおおお!! 全員本気でいけええええ!!」
きいこ「SHIN様」
???「おう!」
きいこ「少々お声が大きいかと」
???「応援は大きい方がいいだろ!」
きいこ「限度というものがございます」
???「そうか?」
きいこ「はい」
男の隣には黒を基調とした服に身を包んだ女性
落ち着いた様子で男をたしなめているが、その名前を聞いた周囲の観客がざわつき始めた
「……SHIN?」
「今、SHINって言ったか?」
「嘘だろ」
「マスターのSHIN!?」
カズキ「……有名な人?」
ジェノス「お前ほんと何も知らないな」
カズキ「そんなに?」
ひっかるん「僕でも名前くらいは知ってるよ」
冒険者には六つのランクがある
ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンド
そして、そのさらに上
最高位――マスター
そこへ到達した者の名は、冒険者でなくとも耳にすることがある
その男の名は――SHIN
SHIN「おお! なんかみんなこっち見てるぞ!」
きいこ「SHIN様が叫ばれたからです」
SHIN「じゃあもう一回――」
きいこ「お座りください」
SHIN「はい」
素直に座った
ジェノス「言うこと聞くんだ……」
カズキ「ちょっとイメージ変わった」
ひっかるん「どんなイメージ持ってたの?」
SHINはそんな視線など気にする様子もなく、四人の名前が並んだ掲示板を楽しそうに眺める
SHIN「いいなぁ」
きいこ「何がでしょう」
SHIN「強いやつが四人残った」
きいこ「そうですね」
SHIN「こういうのが一番面白いんだよ」
少年のように笑った
そして――準決勝第一試合
巨大な掲示板に二つの名前が表示される
ハイドラグーン
対
すーだまん
maro『準決勝第一試合ィィィ!! 戦島グラガスが誇るダイヤモンド級の槍使い!! ハイドラグゥゥゥン!!』
maro『対するは!! 未だ底が見えない大剣の男!! すーだまァァァァん!!』
「うおおおおおおおお!!」
先に舞台へ現れたハイドラグーンが槍を回し、石床へ穂先を向ける
その反対側から歩いてきたすーだまんは、今回は迷わず背中へ手を伸ばした
ギィン――!!
巨大な大剣が抜かれる
「最初から抜いた!!」
「マジか!」
「ハイドラグーン相手だからか!?」
ハイドラグーンの口元が僅かに上がった
ハイドラグーン「最初から使うんだな」
すーだまん「ああ」
ハイドラグーン「嬉しいね」
すーだまん「俺も楽しみにしてた」
ハイドラグーン「なら――遠慮はいらないな」
槍を構える
すーだまんも大剣を斜めに下げた
審判「両者――構え!」
静寂
審判「始め!!」
ダンッ!!
先に踏み込んだのはハイドラグーン
ヒュンッ!!
一直線の刺突がすーだまんの胸へ走る
大剣が下から跳ね上がった
ガキィィィン!!
穂先と大剣がぶつかり、金属音が闘技場へ響く
だがハイドラグーンは止まらない
弾かれた槍を引くのではなく、その反動で柄を回した
ブォンッ!!
石突が側頭部へ
すーだまんが首を沈める
頭上を柄が通り抜けた瞬間、大剣が横へ走った
ゴォッ!!
ハイドラグーン「っ!」
後ろへ跳ぶ
巨大な刃が服の先を掠め、その風圧だけで髪が大きく揺れた
着地と同時にもう一度踏み込む
ヒュッ!!
ヒュヒュッ!!
一撃目は顔
二撃目は肩
三撃目は腹
すーだまんは一歩も下がらない
顔への槍を大剣の腹で外へ流し、肩への一撃には身体を半身に
ガンッ!!
三撃目を大剣の柄で受け、そのまま押す
ハイドラグーン「――!」
槍ごと身体が浮きかける
ハイドラグーンは逆らわず後ろへ跳び、空中で槍を回して着地した
五月雨「速い……」
かつとし「どっちが?」
五月雨「両方」
いれ「大剣であの槍についていくのかよ……」
再び距離が縮まる
ガキンッ!!
ギィン!!
ガァン!!
槍と大剣が何度もぶつかる
ハイドラグーンは長い間合いを活かし、真正面だけでなく左右へ回りながら穂先を滑り込ませていく
すーだまんが弾けば、その反動で槍が回る
上から柄
下から穂先
途中で止まり、もう一度突き
ヒュンッ!!
すーだまんが顔を傾ける
穂先が頬のすぐ横を抜けた
ブォンッ!!
大剣が返る
ハイドラグーン「危なっ……!」
身体を反らす
刃が胸元を通過
しかしその瞬間、ハイドラグーンは槍を床へ突き立てた
ガッ!!
柄を支点に身体が浮く
大剣の二撃目が足元を薙ぐより早く、その上を飛び越えた
カズキ「うわっ!」
ジェノス「大剣の上飛んだぞ!」
空中で身体を捻り
ヒュッ!!
上から槍
すーだまんが大剣を持ち上げる
ガァァン!!
着地したハイドラグーンの腕に強烈な衝撃
だが離れない
ハイドラグーン「まだだ!」
槍を滑らせる
大剣の腹に沿って穂先が走り、すーだまんの肩へ
すーだまんが身体を捻る
シュッ
服が僅かに裂けた
「おおおおおおお!!」
maro『入ったァァァ!? いや浅い!! だがハイドラグーン!! すーだまんの懐へ槍を通したァァァ!!』
ハイドラグーンは追う
突き
かわす
横薙ぎ
槍の柄で受ける
ガァン!!
ハイドラグーン「ぐっ!」
受けた瞬間、ハイドラグーンの足が石床を滑った
ザザッ!!
すーだまんが踏み込み、大剣を振り下ろす
ドォン!!
ハイドラグーンは横へ転がるようにかわした
石床へ巨大な刃が叩きつけられ、その横を槍が走る
ヒュッ!!
すーだまんが大剣を引くより先に穂先が脇腹へ迫る
半歩
それだけ下がる
穂先が服を掠める
ハイドラグーン「逃がさない!」
さらに踏み込む
だが、すーだまんの右足が前へ出た
ハイドラグーン「――!」
大剣を振るには近すぎる
そう判断した瞬間
ドンッ!!
すーだまんの肩がハイドラグーンの胸へぶつかった
ハイドラグーン「っ……!」
身体が後ろへ飛ぶ
それでも槍を横にし、空中で大剣の追撃を受けた
ガァァァン!!
さらに吹き飛ぶ
ザザザザッ!!
着地した足が舞台を長く滑った
「うおおおおおおお!!」
カズキ「すご……」
ひっかるん「ハイドラグーンさん、押し返された」
ジェノス「でもまともには食らってないぞ」
ハイドラグーンは胸元を押さえ、一度だけ息を吐いた
ハイドラグーン「……重いな」
すーだまん「あんたは速い」
ハイドラグーン「それだけ?」
すーだまん「槍も上手い」
ハイドラグーン「なら良かった」
再び構える
今度はハイドラグーンが待った
すーだまんが踏み込む
ブォンッ!!
横薙ぎ
ハイドラグーンは下がらない
槍を斜めに当て
ギャリィィン!!
真正面から受けず、大剣を上へ滑らせた
すーだまん「……!」
その下へ潜る
槍を短く持ち替え
ドンッ!!
石突がすーだまんの腹へ
すーだまんの身体が初めて一歩下がった
「おおおおおおおお!!」
ハイドラグーン「やっと下がったな」
すーだまん「そうだな」
すーだまんが少し笑った
すーだまん「……強いな」
ハイドラグーン「今さらか?」
すーだまん「思ってたより、ずっと」
ハイドラグーン「なら――ここからだ」
ハイドラグーンの足が沈む
すーだまんも大剣を握り直した
次の瞬間
ダンッ!!
二人が同時に飛び出した
槍
大剣
ガァァァァン!!!
真正面から衝突
弾かれる
ハイドラグーンが槍を回し、すーだまんの首へ
すーだまんが上体を沈める
大剣が下から
ハイドラグーンが跳ぶ
空中から突き
すーだまんが弾く
着地するより早く石突
すーだまんが腕で逸らし、身体を回転させて大剣
ハイドラグーンが槍を両手で構える
ガァン!!
一歩下がる
もう一撃
ガァン!!
さらに一歩
だが三撃目
来ない
ハイドラグーン「――?」
すーだまんが止まっていた
視線が、舞台の外へ向いている
闘技場ではない
もっと遠く
ハイドラグーン「……おい」
返事がない
試合は続いている
ハイドラグーンが迷ったのは一瞬だった
ヒュンッ!!
槍を突く
すーだまんの顔へ
だが
スッ
すーだまんは視線を外へ向けたまま、僅かに首を動かしてかわした
ハイドラグーン「……!」
二撃目
ガンッ!!
大剣が止める
三撃目
身体をずらす
ハイドラグーン「俺との試合中に、どこ見てる?」
そこでようやく、すーだまんがハイドラグーンへ視線を戻した
すーだまん「……悪い」
ハイドラグーン「だったら続けよう」
すーだまん「いや」
大剣を下ろした
すーだまん「ここまでだ」
ハイドラグーン「……?」
すーだまんが審判を見る
すーだまん「棄権する」
歓声が消えた
審判「……棄権?」
すーだまん「ああ」
審判「負傷ではないな?」
すーだまん「ああ」
ハイドラグーンが眉を寄せる
ハイドラグーン「待て。どういうことだ?」
すーだまん「……」
すーだまんは少しだけ遠くを見る
そして、ハイドラグーンへ
すーだまん「こっちは君に任せる」
ハイドラグーン「……は?」
意味が分からない
ハイドラグーンの顔には、それがそのまま出ていた
ハイドラグーン「何を言ってる?」
すーだまん「そのうち分かる」
大剣を背中へ戻す
ハイドラグーン「俺との試合は?」
すーだまん「またやろう」
ハイドラグーン「……」
すーだまん「次は最後まで」
ハイドラグーンはしばらく何も言わなかった
納得したわけではない
それでも、すーだまんの表情が冗談を言っているものではないことだけは分かった
ハイドラグーン「……絶対だぞ」
すーだまん「ああ」
審判が状況を確認し、ゆっくり右腕を上げる
審判「すーだまん、棄権! よって勝者――ハイドラグーン!!」
遅れて歓声が起こる
だがハイドラグーンは槍を掲げなかった
去っていくすーだまんの背中を、ただ見ていた
ハイドラグーン「こっちは俺に任せる……?」
意味は、まだ分からない
特別観覧席
きいこ「……行かれましたね」
SHIN「ああ」
きいこ「よろしいのですか?」
SHIN「何が?」
きいこ「お気づきなのでしょう?」
SHINは答えず、すーだまんが消えた選手通路を見る
ほんの一瞬だけ
SHIN「まあ、あいつがそっち行くならいいだろ」
きいこ「では、SHIN様は?」
SHIN「俺?」
SHINは舞台へ視線を戻した
次に戦う二人の名前が、魔導掲示板へ浮かび上がり始める
けい
対
yuki
SHINの顔が一気に明るくなった
SHIN「俺はこっちの方が見たいしな」
きいこ「……左様でございますか」
SHIN「ここまで来たんだ。決勝まで見ないともったいないだろ」
きいこ「承知いたしました」
準決勝第一試合
勝者――ハイドラグーン
そして
決勝へ進むもう一人を決める戦いが始まる
準決勝第二試合
けい
対
yuki
maro『さああああああ!! 少々予想外の決着となった第一試合!! だが準決勝はまだ終わらない!!』
maro『雷を中心に複数の魔法を操り!! 細身の剣と共にここまで勝ち上がった――けい!!』
maro『対するは!! その氷で舞台すら丸ごと支配する!! yukiィィィィ!!』
「うおおおおおおおお!!」
けいが細身の剣を抜く
yukiはいつものように片手を僅かに前へ
けい「昨日の、見たよ」
yuki「?」
けい「舞台全部凍らせるやつ」
yuki「うん」
けい「あれはちょっと困る」
yuki「たたたつも困ってた」
たたたつ「困るどころじゃなかったよ!!」
観客席から声が飛び、周囲に笑いが起きる
yukiがほんの少しだけそちらを見る
けい「まあ――やらせなければいいか」
yuki「できる?」
けい「やってみる」
剣に雷が走った
バチッ!!
審判「両者――構え!」
yukiの足元から冷気
けいの身体を細い雷が走る
審判「始め!!」
バヂィッ!!
けいが消えた
正確には、消えたように見えた
雷によって一瞬だけ身体を加速させ、真正面からyukiへ迫る
パキッ
進路へ氷
ヒュンッ!!
剣が走る
ガキィン!!
斬らない
剣の腹を当て、氷の軌道だけを横へ弾いた
その横を抜ける
yuki「……」
次は左
パキッ
けいは頭を下げる
氷刃が髪の上を抜けた
右
剣で斬る
バキンッ!!
正面
身体を捻る
そのまま一歩
yukiまで、あと五メートル
けい「――!」
足元が白い
踏み込まない
バチッ!!
急停止
直後
ドンッ!!
踏み込むはずだった場所から氷が噴き上がった
yuki「……止まった」
けい「そこに出すと思ったから」
逆方向へ
バヂッ!!
加速
だが、yukiの指先も同時に動く
パキッ
けいの着地点
けい「っ!」
空中で身体を捻り、着地位置を僅かにずらす
ザッ!!
氷が靴の横を掠めた
五月雨「すご……」
いれ「速いのに全部合わせてるぞ」
かつとし「yukiの方もだ。適当に氷出してるんじゃない」
yukiはけいを追いかけて氷を出しているのではない
右へ動くなら右
踏み込むならその先
剣を振るなら、振り終わった場所
けいが次にいる場所へ、氷を置いていく
パキッ
ドドドドッ!!
前方三ヶ所
けいが右へ
そこにも氷
けい「……嫌なところに出すね」
yuki「そこに来るから」
けい「じゃあ――」
右へ踏み込む
yukiの指が動いた瞬間
バチッ!!
けいが逆へ切り返した
何もない場所から氷が噴き上がる
yuki「……!」
けい「行かなければいい」
一気に接近
残り三メートル
氷刃
ガキンッ!!
弾く
二本目
かわす
三本目
剣で砕く
残り一メートル
けいの剣がyukiへ伸びた
パキィン!!
けい「っ!」
目の前に厚い氷壁
剣が突き刺さる
バヂッ!!
剣を通して雷が走り、氷壁に亀裂が広がる
バキィィン!!
粉砕
しかし、その向こうにyukiはいない
けい「……!」
背後
yuki「こっち」
けい「いつの間に」
振り向く
氷
剣
ガキンッ!!
バキッ!!
ガァン!!
一本、二本、三本
けいは斬り、弾き、かわしながら走る
yukiは距離を保ちながら、その動きに合わせて氷を生み続ける
maro『止まらないィィィ!! けいが攻める!! yukiが止める!! だが止まらない!!』
バチッ!!
けいが加速
パキッ
足元
跳ぶ
空中へ氷
剣で弾く
着地
さらに加速
ヒュンッ!!
剣先がyukiの肩を狙う
氷壁
バキンッ!!
砕く
その破片の隙間から、さらに氷
けい「っ……!」
頬を掠める
細い血
yuki「当たった」
けい「ちょっとだけね」
息を吐く
額には、もう汗が浮かんでいた
耀平「……早くないか?」
カズキ「何が?」
耀平「疲れるのが」
けいは強い
雷だけでも相当な戦闘力を持ち、剣術まで組み合わせれば近距離にも対応できる
さらに火、水、風まで扱える
ただし、何でもできることと、何でも好きなだけできることは同じではない
けいの魔法は精密だ
脚へ必要な瞬間だけ雷を流し、剣へ必要な量だけ纏わせ、攻撃と移動を一つの流れに組み込む
その制御技術は高い
だが――魔力そのものが多いわけではない
耀平「長引くと、けいがきつい」
舞台のけい自身も分かっていた
けい(……このままはまずいな)
yukiはまだ大きく息を乱していない
なら、長期戦にする理由はない
バヂィッ!!
雷が一段強くなる
yuki「……来る」
けいが一直線に飛び込む
氷
斬る
氷
かわす
左右から同時
剣で一本を弾き、もう一本には身体を滑り込ませる
肩を掠める
止まらない
yuki「……速い」
けい「たたたつより?」
yuki「たたたつの方が速い」
けい「知ってる!」
観客席から笑い
だがyukiの目は笑っていなかった
右手がゆっくり下がる
たたたつ「……あ」
はに「何?」
たたたつ「これ、来る」
舞台の空気が変わった
冷たい
けいの足元が僅かに白くなる
けい「……やっぱり使うか」
yuki「うん」
指先が下へ
yuki「――フリージング」
パキン
次の瞬間
ドォォォォォォォォン!!!
白が爆発した
舞台中央だけではない
右も左も、前も後ろも
端から端まで、ほぼ同時に凍結が始まる
「来た!!」
「昨日のやつだ!!」
「逃げ場ないぞ!!」
たたたつ「そう!! それ!! それずるいやつ!!」
さくらもち「けいさーん!!」
けいは逃げなかった
剣を下げ、片手を前へ
けい「……なら」
魔力が集まる
炎は――出ない
それでも
ジュウウウウウウウウウウ!!!
凍結がけいへ届いた瞬間
真っ白な蒸気が爆発した
「――!?」
舞台が見えなくなる
冷気と熱
二つが正面からぶつかり、凄まじい量の蒸気が魔導障壁の内側を埋め尽くした
maro『な、なんだァァァァ!? 見えない!! 舞台が真っ白だァァァ!!』
たたたつ「え?」
はに「どうなったの!?」
るいひろ「……火?」
かつとし「でも炎見えなかったぞ」
いれ「じゃあ何したんだ?」
少しずつ蒸気が晴れる
白い世界の中央
一人の影
yuki「……」
けいが立っていた
凍っていない
服にも、剣にも氷はない
ほぼ無傷
「うおおおおおおおおおおお!!」
maro『立っているゥゥゥゥ!! けい!! あの舞台全域を凍らせた一撃を凌いだァァァァ!!』
けいが小さく息を吐く
けい「……危なかった」
たたたつ「どこが!?」
けい「結構ぎりぎり」
たたたつ「無傷じゃん!!」
yukiは足元を見る
けいの周囲だけ氷がない
焦げてもいない
燃えてもいない
yuki「……火?」
けい「うん」
yuki「炎、なかった」
けい「出さなかったから」
火を放つ必要はない
炎として外へ出す前の熱だけを、自分の周囲へ留めた
広すぎれば魔力を無駄にする
狭すぎれば身体が凍る
強すぎれば自分を焼き、弱すぎれば冷気に負ける
必要な場所へ、必要な瞬間、必要な熱だけをぶつける
それをフリージングが届く瞬間へ正確に合わせた
るいひろ「……器用ってレベルじゃないだろ」
五月雨「火魔法ってあんなことできるの?」
るいひろ「少なくとも俺はやらない」
いれ「できないじゃなくて?」
るいひろ「……やらない」
かつとし「できないんだな」
るいひろ「うるさい!」
yukiは少しだけ考える
yuki「……それ、ずるい」
けい「舞台全部凍らせる人には言われたくないかな」
yuki「……それもそう」
ほんの少し笑う
しかし次の瞬間
パキッ
yukiの隣に氷が盛り上がった
けい「……?」
氷は柱にならない
人の形へ変わっていく
頭
腕
脚
そして――yukiと同じ姿になった
けい「……え?」
もう一体
パキパキッ
さらに一体
yukiが四人
たたたつ「まだあるの!?」
はに「聞いてない!!」
さくらもち「私も知らないよー!」
たたたつ「誰も知らないよこれ!」
四人のyukiが同時に動いた
前
右
左
そして本物がどこにいるのか分からない
けい「……これは面倒だな」
右から氷
かわす
左からも氷
剣で弾く
正面のyukiへ踏み込む
ヒュンッ!!
剣が身体を斬り抜けた
バキィン!!
砕ける
けい「分身……!」
その背後から冷気
振り向く
氷刃
ガキンッ!!
弾く
さらに別方向
パキッ!!
けい「っ!」
跳ぶ
着地点にも氷
剣を突き立て、身体を強引に横へ
ザッ!!
立ち上がった瞬間、目の前にyuki
けい「――!」
斬る
バキンッ!!
また分身
yuki「こっち」
背後から声
けい「……ほんと嫌な戦い方するね」
yuki「ありがとう」
けい「褒めてないよ」
バチッ!!
雷
一体を斬る
バキンッ!!
二体目
弾く
三体目の氷をかわす
だが砕いた分身の破片が舞台へ散っていく
yukiはその全てを見ていた
けいの呼吸が少しずつ荒くなる
けい「はぁ……はぁ……」
雷を使い続けた
火も使った
フリージングを相殺するため、一気に魔力も削られた
残りは多くない
けい「……だったら」
剣を構える
今まで使っていなかった魔力が、静かに広がった
ヒュウ――
yuki「……風」
弱い風
攻撃するほどではない
舞台全体を薄く撫でるだけ
氷の分身の周囲を通る
一体
二体
三体
そして
四体目
僅かに空気が乱れた
呼吸
衣服の揺れ
生きている身体だけが作る、小さな流れ
けい「――見つけた」
yuki「……!」
バヂィィッ!!
一気に加速
分身を無視
一直線
氷が前へ
ガキンッ!!
弾く
二本目
身体を傾ける
三本目
斬る
分身が横から割り込む
バキィン!!
一閃
残り二歩
yuki「……!」
氷壁
けいの剣に雷
ガァァン!!
亀裂
もう一撃
バキィィン!!
破壊
残り一歩
けい「今度こそ――」
剣先がyukiへ
だが
パキッ
けいの右足が凍った
けい「っ!」
止まる
yukiが距離を取る
けいは剣を振り下ろし、自分の足を覆う氷を砕いた
そして追わない
yuki「……?」
けいはその場に立ったまま、大きく息を吐く
けい「……これ以上走るの、きついな」
yuki「疲れた?」
けい「かなり」
それでも剣を下ろさない
けい「だから――次で決める」
空気が変わった
けいが剣を正面へ向ける
切っ先
そこに、小さな火が灯る
ボッ
最初は拳ほど
赤い炎
そこへ
ヒュウウウウウ――!!
風が集まり始めた
yuki「……」
炎へ向かって、周囲の空気が吸い込まれていく
風魔法で空気を送り込み、燃焼を一気に加速させる
赤
橙
白
火球が眩しいほどの光を帯びる
るいひろ「……待って」
五月雨「何?」
るいひろ「あれ、やばい」
火球は大きくならない
逆
小さくなる
拳大から半分
さらに半分
けいが極限まで圧縮している
炎が消えていく
それでも熱だけは消えない
剣先の空気が歪む
小さな陽炎
ただそれだけ
なのに、離れた観客席まで魔導障壁越しに異様な圧迫感が伝わってくる
yuki「…………」
初めて
yukiの表情が明確に変わった
yuki「……かなり、やばいかも」
両手を前へ
ドドドドドドドドッ!!!
巨大な氷壁
一枚
二枚
三枚
さらに四枚
五枚
何重もの氷の盾がyukiの前へ展開される
けい「……これで最後」
剣先をyukiへ
そして
放った
音がなかった
一瞬だけ
けいとyukiの間の景色が揺れた
次の瞬間
ジュッ――
一枚目の氷壁が消えた
yuki「――!」
砕けたのではない
溶け落ちる時間すらない
触れた場所から一気に蒸気へ変わった
二枚目
ジュッ!!
消える
三枚目
白い蒸気
四枚目
消滅
五枚目
ジュワァァァァァァァ!!!
「な――」
誰かの声が止まった
全部
一瞬だった
yukiが張った何重もの氷壁が、触れた端から白い蒸気へ変わっていく
maro『な、なんだこれはァァァァァァ!?』
最後の氷壁が消える
その向こう
yuki「――っ!!」
熱が届いた
ドォォォォォォォン!!!
真っ白な蒸気が舞台を覆った
カズキ「yukiさん!!」
たたたつ「直撃した!?」
はに「見えない!!」
けいは剣を下ろした
その場で膝をつきかける
けい「はぁ……っ、はぁ……」
雷が消える
風もない
もう火すら出ない
残った魔力は、ほとんどなかった
それでも前を見る
蒸気が晴れていく
中央
人影
けい「……」
yukiが立っていた
服の一部が僅かに焦げ、髪も乱れている
だが
倒れていない
けい「……嘘でしょ」
yuki自身も驚いたように自分の身体を見る
yuki「……耐えた」
その身体を、薄い魔力の膜が包んでいた
yukiが意識して作った氷の盾ではない
普段から身体を覆っている魔力が、危険な攻撃を受けた瞬間に防御へ回る
威力が小さければ消費する魔力も僅か
だが強力な一撃を防げば、それだけ大量の魔力を奪われる
そして今の一撃は――桁が違った
yuki「…………」
自分の手を見る
僅かに震えている
あれほど巨大な舞台を凍らせても余裕を残していたyukiから、莫大な魔力が消えていた
まだ残っている
だが、大半を持っていかれた
yuki「……すごい」
けい「倒せなかったけどね」
yuki「私の魔力、ほとんどなくなった」
けい「…………」
yuki「けいは?」
けい「僕?」
けいが手を上げる
バチッ
小さな雷
それだけ
すぐ消えた
けい「……無理っぽいなぁ」
剣を鞘へ戻す
yuki「まだ剣あるよ」
けい「あるけど」
yukiを見る
まだ氷を出せる
こちらは魔力がほぼ空
身体も雷による加速を繰り返し、脚が重い
少し考えて
けい「うん。無理」
右手を上げた
けい「降参」
yuki「……あっさり」
けい「勝てないのに続けてもしょうがないでしょ」
yuki「剣で来るかと思った」
けい「今のyuki相手に?」
yuki「うん」
けい「嫌だよ」
yuki「そっか」
けい「そっかだね」
一瞬
二人とも笑った
審判が右腕を上げる
審判「そこまで!! けい、降参!! 勝者――yuki!!」
一拍遅れて
「うおおおおおおおおおおおおお!!」
闘技場が揺れた
maro『決まったァァァァァァァ!! 準決勝第二試合!! 勝者ァァァ――yukiィィィィィ!!』
maro『超広範囲凍結を破った!! 分身すら見破った!! 最後には氷壁をまとめて消し飛ばす一撃!! それでも!! 最後に立っていたのはyukiだァァァァ!!』
観客席
たたたつ「……俺の時と全然違うじゃん」
はに「どっちも化け物じゃん」
さくらもち「すごかったー!!」
五月雨「最後の何……?」
いれ「分かるわけないだろ」
かつとし「氷の盾、全部消えたぞ」
るいひろ「…………」
五月雨「るいひろ?」
るいひろ「俺、火使いなんだけど」
いれ「うん」
るいひろ「ちょっと自信なくした」
かつとし「頑張れ」
るいひろ「軽いな!」
舞台では、yukiがけいへ近づく
yuki「強かった」
けい「負けたけどね」
yuki「でも強かった」
けい「……じゃあ、ありがとう」
けいが手を差し出す
yukiも握る
けい「決勝、頑張って」
yuki「うん」
けい「……それだけ?」
yuki「?」
けい「いや、いいや」
苦笑しながら離れていく
その背中を見送ったyukiも、少し疲れたように息を吐いた
魔導掲示板が切り替わる
準決勝
終了
そして
最後に二つの名前だけが残った
FINAL
ハイドラグーン
VS
yuki
「うおおおおおおおおおおお!!」
maro『決まったァァァァァ!! 六十四人から残った最後の二人!!』
maro『決勝戦!! ハイドラグーン対yukiィィィィィ!!』
選手通路
ハイドラグーンは掲示板を見上げる
ハイドラグーン「yukiか」
先ほどまでの不可解な棄権
すーだまんの言葉
こっちは君に任せる
意味はまだ分からない
それでも今は槍を握る
ハイドラグーン「……まずは、こっちだな」
反対側
yukiも掲示板を見上げていた
yuki「ハイドラグーン……」
かなりの魔力を失っている
それでも、その目はもう次を見ている
特別観覧席
SHIN「決勝だああああああ!!」
きいこ「SHIN様、お静かに」
SHIN「決勝だぞ!?」
きいこ「存じております」
SHIN「楽しみだな!!」
きいこ「はい」
その頃
闘技場の外
すーだまんは一人、グラディアの街を離れていた
背中には大剣
振り返らない
遠くから聞こえる歓声だけが、僅かに耳へ届く
すーだまん「……こっちは任せた」
それだけ呟き
別の方角へ歩いていく
何を感じたのか
どこへ向かうのか
まだ誰も知らない
グラディア大闘技祭
六十四人から始まった戦いも、残すところあと一試合
ハイドラグーン
対
yuki
決勝戦が、始まる
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。