彼の過去
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
炎上系YouTuberのぬーいはある時不意に自分の過去を思い出す。それは残酷で、今の彼女に必要不可欠な過去だった。
本文
あの日、もも、いやももたが男であったことを告白してから、いじめの対象はぬーいではなく、ももたとなった。本人だってそれは承知の上だった。それでもぬーいといっしょにいたかったのだ。
放課後、ぬーいとももたはとあるビルの屋上にあるカフェテラスに来ていた。二人はソファを向かい合わせで座って、話をしていた。
「なんで!なんでももちゃんがいじめられなくちゃいけないの?ももちゃんはなんにも悪いことなんてしてないのに!ただ自分らしくいただけなのに!」
「落ち着いて、ぬーい。僕はこうなることなんてわかってたんだよ。どのみち秘密がバレていつかこうなっていたに違いない。それが少し早くなっただけなんだよ。」
「落ち着いてなんていられないよ!私のこと心から支えてくれたももちゃんがいじめられてるのに何にもできないなんて悔しくて悔しくてたまらないよ!」
「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ。」
ももたは相変わらず落ち着いて何もかも諦めたような表情をした。
「気持ちだけで十分とかそんなこと言わないでよ!ももちゃんは私がいじめられて一人ぼっちのときにいっつもいっつも私を庇ってくれて!私のために色々してくれたのに!そんな私がももちゃんのピンチに何もできないなんて私自身が許せないんだ!」
その言葉を聞いたももたは驚いた顔をした。つい、数週間前までいつも暗い表情をしていて城美に逆らうことのできなかった、いじめられていたときのぬーいとは全く違う、強い意志のある顔だった。そしてはにかむように笑った。
「ぬーい、本当に本当にありがとう。それからごめんね。ぼく、やっぱりぬーいに辛い思いなんてさせたくない。だから......。」
「ううん!私はももちゃんのためなら辛いなんて感じない!もう一回いじめを受けても良い!絶対にももちゃんを守るんだもん!」
「そう.....ありがとね。ぬーい。」
そう言ってももたはソファから立ち上がった。
「待って!どこ行くの!ももちゃん!」
叫ぶぬーいの声がまるで聞こえていないのかのようにももたは走り続けた。去り際に
「さよなら!」
と涙を流しながらつぶやいて....
(もともと、僕が女の子の格好をするようになったのは父さんと母さんが原因だった。 赤ん坊の頃や幼い頃は、男の子でも名前をちゃんづけしたりすることがある。 僕はそれで「ももちゃん、ももちゃん」と呼ばれていたから親戚の人が勘違いして、僕のことを女だと思い込んで、女の子もののおもちゃや服を送ってきたことが始まりだったんだ。 父さんと母さんは勝手に無料で何もかも譲ってくれるから助かるみたいなことを言ってたっけ。 父さんと母さんは僕に才能があったら金を稼げると言っていたからきっと子どもができたことも親戚に伝えていなかったんだろう。 だから親戚の人たちも僕の性別がわからなかったんだ。 幼稚園に入る前に料理を習わせられ、一食一食を完璧につくれるようになったときに、僕はお盆でも、お正月でも、旅行に連れて行ってもらえることはなかった。 きっと赤ん坊の頃は家においてきたら、「餓死して金を稼げる前に死んでしまう。」とでも思って旅行に連れて行ったんだろうが自炊ができるようになった今ではその必要もないとでも思ったんだろう。 そう、僕は好きで女の子のようにしていたわけじゃない、生まれたときから両親のせいで女の子もののおもちゃや服に囲まれていたせいで勝手に女の子らしくなっただけ。僕は本当はどんなふうに生きていたんだろう。)
そんな事を考えながら、ももたは池のある公園に向かっていった。
池の前についてスマホをポケットから取り出してぬーいに電話をかけた。
「ももちゃん?今どこにいるの?」
ももたはぬーいの問いには答えなかった。
「ぬーいは良いねえ。いじめられても先生やお父さん、お母さんが助けてくれる。自分で決められる勇気を持っている。いじめられてもずっと我慢できる。」
「ももちゃん?何いってるの?まさか.....」
「けどね僕はもう無理なんだ。はは、笑っちゃうよね。ぬーいのためならいじめられたって構わないなんて言ったけどいざ自分がいじめられたら、ちっとも耐えられやしない。」
そんな事を言いながら、ももたはゆっくりと池に近づいてゆく...
「待って!ももちゃん!」
電話の向こうのぬーいが叫んだ。
「ぬーい本当にごめんね。今までありがとう。」
ももたはそこで電話を切った。
「これで...良かったんだよね。」
そうつぶやいて池に身を投げた。
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