[3]負け続ける男が一度だけ勝った日
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
店主は、古いパチンコ台のハンドルに手を添えた。長い間、何人もの手が握ってきたハンドルだった。少し擦れた表面を指でなぞる。すると、どこからともなく、店の中に笑い声が聞こえた気がした。
「今日こそはな」
そんな声が聞こえた瞬間、過去の風景が流れてきた。
♢♢♢♢
その男は、店の中で有名だった。
悪い意味ではない。「また負けてるよ」と言われるくらい、いつも負けていた。
朝から来ても負ける。仕事帰りに寄っても負ける。新台に座っても負ける。
昔からの常連たちは、彼を見るたびに「今日は勝てそうか?」と声をかけた。
男はいつものように、「今日こそはな」と笑って答える。もちろん、次の日にはまた負けている。
それでも男は怒らなかった。台を叩くこともない。店員に文句を言うこともない。
ただ、「今日は台と相性が悪かったな」と言って帰る男だった。
店員たちは不思議に思っていた。
なぜ、そんなに負けても通うのか。
ある日、店員が「そんなに負けて、嫌にならないんですか?」と聞くと、男は少し考えてから笑った。
「勝つためだけに来てるんじゃないからな」
男には、昔よく一緒に来ていた友人がいた。仕事帰りに二人で店へ寄り、「今日はどっちが先に当てるか勝負だ」なんて言いながら打っていた。
でも、友人はもういない。
男は一人になってからも、その店へ通った。勝ちたいからではなかった。
友人と笑った時間を、もう一度感じたかったからだった。
ある冬の日、男はいつもの台に座った。
周りの常連から「またその台か」と言われると、「この台だけは、まだ俺を見捨ててないからな」と笑った。
玉を入れる。いつものように回らない。
いつものように静かな展開が続く。
男は苦笑し、「やっぱり今日も駄目か」と盤面を眺めていた。
その時だった。
盤面の奥で、小さな変化が起きた。
聞き慣れた音とともに数字が動き出す。
周りにいた客たちも振り向いた。
隣の常連が「おい……来たんじゃないか?」と声を上げる。
男は慌てずに画面を見つめた。
そして――大当たり。
店内に音が響いた。
男はしばらく動かなかった。
「……当たった」
小さく呟く。
周りの常連たちは笑った。
「お前、初めてじゃないか」
「何年越しだよ」
「今日は記念日だな」
口々に声をかける。
男は笑った。
まるで子供のような顔だった。
その日は珍しく連チャンした。箱が積まれ、玉が増えていく。
周りから見れば、そこそこ大きな勝ちだった。でも、男が一番嬉しかったのは別のことだった。
景品を受け取った時、男はふと隣を見た。昔、友人が座っていた場所だった。
男はそこを見つめながら、小さく「やっと勝ったぞ」と呟いた。
それから男は、少しだけ店へ来る回数が減った。
店員が「もう勝ったから満足したんですか?」と聞くと、男は笑って首を振った。
「違うよ。これで、いつでも思い出せるから」
数年後、その店は閉店した。
男が最後に座ったのは、もちろんあの台だった。
勝った日の記憶。友人と笑った日の記憶。負け続けた日々さえも、全部その台に残っていた。
パチンコで一度だけ勝った日。
それは、お金を手に入れた日ではなく、失った時間を少しだけ取り戻した日だった。