❖✦✙ 濃密なる至福の果てにある、ほろ苦き深淵 Ⅲ ✙✦❖
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
3人の完璧な調和(アンサンブル)に包まれながら、彼女は、もう二度と戻れない甘い深淵へと、静かに視線を落としながら深く満たされてゆく――。その幻想的な空間から、もう目が離せなかった。客席の四隅に嵌め込まれた黒鉄のスピーカー『四劫の共鳴器』から降り注ぐ旋律は、いつしか彼女の周囲を優しく包み込むような、深みのある重低音へと変貌していく。
本文
3人の完璧な調和(アンサンブル)に包まれながら、彼女は、もう二度と戻れない甘い深淵へと、静かに視線を落としながら深く満たされてゆく――。
その幻想的な空間から、もう目が離せなかった。
客席の四隅に嵌め込まれた黒鉄のスピーカー『四劫の共鳴器』から降り注ぐ旋律は、いつしか彼女の周囲を優しく包み込むような、深みのある重低音へと変貌していく。
じっとりと鼓膜を浸すその音律に、彼女は心を委ね、ただ静かに息を漏らすことしかできない。
昏い闇の底、音の檻に優しく包み込まれた彼女の前へ、エレーヌが足音もなく滑り寄った。
アンティーク人形のような白皙(はくせき)の手元に据えられているのは、雪のように白い皿『ネージュ・エテルネル』。
そこに恭しく捧げられていたのは、ただ一粒のショコラだった。
それは、この世のすべての光を吸い込み、代わりに神秘的な艶を放つ、完璧な漆黒の結晶。贅沢なカカオの芳香が、甘やかな魔法のように彼女の鼻腔を満たしていく。
純白の磁器の上で、その黒はあまりにも際立ち、そして神聖なほど美しく輝いていた。
彼女の瞳が、その底知れぬ黒に引き込まれ、ウットリと潤んでいく――。
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