019、海の恵み、海の警告
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
時空のゆがみ:あらゆる人や物を取り出すことができる空間。ある世界との間の空間。 時空の裂け目:ゆがみを使い過ぎて裂け目になった空間。マナが不安定になり危険。修復師が縫い合わせてゆがみになる。ある世界との交わり。 修復師:マナを糸状に操り裂け目を修復する者。修復中は無防備になる。 縫界衛士:無防備な修復師を裂け目の悪意から守る者。修復師1人に対し2人いるのが基本。 この物語は、時空のゆがみと対峙する人々が織りなす群像劇。 そこで繰り広げられるヒューマンドラマをお楽しみください。
本文
朝日が完全に昇る頃、海は穏やかな顔をしていた。
だが敬三は騙されない。
「道具がねえ漁は、漁じゃねえ。拾いもんだ」
そう言いながらも、もう浜を歩いている。
花子、恭一、丑三、萬月、君島、一重、明美。
漁師組が自然と集まる。
「網は無理だな」
「針もねえ」
「手掴みか、追い込みか…」
現実は厳しい。
そのとき明美がしゃがみ込んだ。
「これ見て」
波打ち際の岩場。
浅い潮だまりに、小さな影が動く。
魚だ。
指ほどの細い魚が、閉じ込められている。
「潮が引いて取り残されたか」
敬三の目が鋭くなる。
「素手でいける。だが滑るぞ」
萬月が剣を抜く代わりに、腰を落とした。
戦士の動きではない。獲物を狩る動きだ。
恭一と拓斗が両側から囲む。
「せーの!」
水が跳ねる。
一匹逃げる。
二匹逃げる。
だが花子の手が、水中から跳ね上がった。
ぴちぴちと暴れる魚。
「取った!」
空気が一気に変わる。
その後は早かった。
笑い声が混じる。
転ぶ音。
水しぶき。
大漁とは言えない。
だが十数匹の小魚が浜に並ぶ。
敬三はそれを見て、静かに頷いた。
「……食えるな」
その一言の重み。
生き延びる可能性が、数字じゃなく形になった瞬間。
だが、海はそれだけでは終わらなかった。
沖合で、急に水面がざわつく。
敬三の顔が変わる。
「離れろ!!」
全員が反射で下がる。
次の瞬間、波が強く打ち寄せる。
さっきまで立っていた岩場を水が飲み込む。
萬月が息を吐く。
「……急に来たな」
「これが海だ」
敬三の声は低い。
「取らせる時は取らせる。だが、取りすぎるなって時は、必ず来る」
教訓ではない。経験だ。
誰も軽口を叩かない。
だが浜には魚がある。
事実が、希望になる。
丑三が笑う。
「焼けるな」
その言葉に、全員の腹が鳴った。
敬三は海を見る。
敵でも味方でもない。
だが今日、彼らは一つ学んだ。
この世界には“生きる余地”がある。
それは祝福ではない。
試験の続きだ。
だが、確かに――
人は、最初の糧を得た。
後書き
初めての漁は、いわゆる目立つ作業でもなく、打ちあがった魚を取る話。
そして、海のやさしさ、怖さが描かれています。