【51番外】パチンコ・グラビディ
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
その日は、時環遊技場の定休日だった。
向かいにあるレトロゲームセンターは、今日も営業している。
古いアーケードゲームの電子音に、十円ゲームの小さな機械音。エレメカのモーターが回る音も混じって、店内には昔のゲームセンターらしい賑やかさが広がっていた。
その一角には、昔の遊技場をそのまま残したようなパチンコ島がある。
今日は、その島の前にいつもより人が多かった。
「これ、本当にあるのかよ……」
「写真で見たやつだ!」
「現存してたんだな……」
客たちの視線の先にあるのは、一台の羽根モノだった。
盤面には、古びた文字で『太陽系』と書かれている。
中央には透明なオレンジ色のカプセル。その周囲を、穴の開いた三重の円盤が囲んでいる。それぞれの円盤は違う速度で回転していた。
玉が羽根に拾われると、ころころと盤面を進み、外側の円盤の穴を抜けて、その内側へと入っていく。
さらに、その内側へ。玉が進むたびに、まるで小さな惑星が軌道を変えていくように見えた。
「すごいな、これ」
「こんな台、まだ残ってたのか」
「相当珍しいぞ」
写真を撮る者もいれば、盤面に顔を近づけて仕組みを眺める者もいる。
その様子を、少し離れたカウンターから店主が嬉しそうに見ていた。
この台を見つけた時、店主自身も驚いた。保存状態も悪くなかった。必要なところはきちんと修理し、昔の雰囲気を壊さないように手を入れた。そして、どうしてもこのゲームセンターに置きたくなった。
「いい台ですねえ」
店主が満足そうに呟く。
隣にいた従業員アンドロイドが、客たちの様子を確認しながら答えた。
「店主。こちらの台について、かなり問い合わせが来ています」
「そうですか」
「『実際に打てるのか』という質問が多いようです」
「もちろん打てますよ」
店主は笑った。
「せっかくですから、遊んでいただきましょう」
さっそく、一人の客が台の前に座った。玉を借り、ハンドルを握る。そして、最初の玉が盤面へ飛び出した。羽根に拾われた玉が、三重の円盤へ向かって転がっていく。
「おお……!」
周囲から声が上がった。玉は外側の円盤の穴を抜け、次の円盤へ入る。さらに、その内側へ。
「本当に惑星みたいだな」
「よくこんな仕組みにしたな」
「これ、見てるだけでも面白いぞ」
店主もカウンターの向こうから眺めていた。
その時だった。
床に落ちた玉が、ころ……と転がった。
「……?」
客が足元を見る。
玉の動きが、妙に遅い。ころころと転がったあと、ほんの少し跳ねる。そして、そのままふわりと浮いた。
「……あれ?」
客が立ち上がる。
その身体も、ふわっと浮いた。
「うわっ!」
店内にいた客たちが、一斉に振り返った。
「なんだ!?」
「ちょっと待て!」
誰かが試しに軽くジャンプする。いつもならすぐに着地するはずの身体が、ゆっくりと落ちてくる。
「うわ、長い!」
それを見た別の客が笑いながら飛び跳ねる。
今度は、別の場所でも同じことが起きた。
新聞を読んでいた客の手から紙がふわりと浮き、椅子の脚が床からわずかに離れる。
ゲームセンター全体の重力が、ほんの少しだけ軽くなっていた。
店主は目を丸くした。
「これは……」
従業員アンドロイドがすぐに計測を始める。
「重力加速度を測定します」
しばらくして、測定結果が表示された。
「……通常値の約六分の一です」
「六分の一?」
店主が聞き返す。
「はい」
近くにいた常連が天井を見上げた。
「……月と一緒じゃん」
一瞬、店内が静かになった。
そして、次の瞬間。
「なんでゲームセンターが月の重力になるんだよ!」
「しかもパチンコ打ってる最中だぞ!」
「『太陽系』だからか?」
「そんなわけあるか!」
あちこちから笑い声が起こった。
当の『太陽系』はというと、むしろ絶好調だった。玉がゆっくりと落ちる。三重の円盤を抜ける速度も変わり、外側から内側へと進む玉の姿が、普段よりずっと長く楽しめる。ころころと進み、円盤の穴を抜け、また次の円盤へ。
「……こっちのほうが太陽系らしいな」
誰かが呟いた。
「確かに」
店主も楽しそうに笑った。
「これは面白いですねぇ」
従業員アンドロイドが、まだ計測を続けている。
「店主、原因は分かりますか?」
「いえ」
店主はあっさり答えた。
「分かりません」
「ですよね」
原因が分からないまま、遊技は続いた。
月と同じくらいの重力になったゲームセンターで、客たちは妙に楽しそうにパチンコを打っている。普段なら床に落ちる玉が、ゆっくりと跳ねる。椅子に座る動作さえ、いつもより少しだけ大げさになる。そして『太陽系』の三重の円盤は、そんな環境をまるで気にする様子もなく回り続けていた。
やがて、遊技台から電子音が鳴る。規定数に達したことを知らせる表示が点灯した。
店主は、それを確認するとマイクを手に取った。
店内に、いつもの明るい声が響く。
『…番台羽根モノコーナーより「太陽系」予定数終了、お疲れ様でした!』
客たちが振り返る。
店主がガラス面に終了札を刺した、その瞬間だった。
ふわふわと浮いていた玉が、ジャラッ!と一斉に落ちた。椅子が、どすんと床へ戻る。浮いていた新聞が、ばさっと落ちる。さっきまでゆっくりと着地していた客も、「うわっ!」と声を上げながら、ようやく床に足をつけた。
店内が一瞬、静かになる。
従業員アンドロイドが計測結果を確認した。
「……重力、正常値に戻りました」
客たちは顔を見合わせる。
「……戻ったぞ」
「打ち止めした瞬間に?」
「本当に?」
店主はマイクを持ったまま、『太陽系』を眺めていた。
しばらく考えたあと、穏やかな笑みを浮かべる。
「なるほど……」
常連が聞いた。
「何か分かった?」
店主は少し考え、それから『太陽系』を見ながら言った。
「この台、打ち止めになると重力まで戻るんですねえ」
「そこは違うと思います、店主」
また店内に笑い声が起こった。
その後、『太陽系』は何事もなかったように、三つの円盤を回し始めた。毎回ではない。いつ起こるのかも分からない。何が条件なのかも分からない。ただ、一つだけ分かっていることがある。
『太陽系』を打っている時、稀にゲームセンターが月の重力と同じになる。
そして、打ち止めになると元に戻る。
次の日も誰かが台の前に座り、玉を借りてハンドルを握る。三重の円盤が回り始める。
「今日は月の重力になるかな」
そんな声が、店内のどこかから聞こえた。