第35話 目覚めるとの表紙画像

第35話 目覚めると

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/23 📚 シリーズ: 区役所のハズレ勇者は定時で帰りたい~能力が地味だと笑われた公務員、実は空間操作を駆使して世界を救ってしまう~ 📝 2,920文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう!  発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!?  コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」  オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。

本文

「……ん」

 鼻を突くツンとした消毒液の臭いで、僕の意識はゆっくりと覚醒へと向かった。

 ゆっくりと目を開けると、最初に目に飛び込んできたのは真っ白な天井、そして横から伸びる点滴のチューブ。

 どうやら僕は、崩壊する新宿ゲートから無事に生還し、病院のベッドへと収容されたらしい。

 全身を走る筋肉痛は凄まじく、指一本動かすのにも、まるでぬかるんだ泥の底から腕を引き上げるような労力を必要とした。

 最新鋭発電所から一千万人分の電気エネルギーを脳の一部分に経由させた代償は、そう簡単に消えてはくれないようだ。

 だが、幸いなことに頭痛はかなり引いている。脳細胞が完全に焼き切れる一歩手前で、アイリスが僕を抱えてあの特異空間を飛び出してくれたおかげだろう。

「あ、天野先輩、起きた」

 聞き慣れた軽い声に視線を巡らせると、パイプ椅子に腰掛け、サイドテーブルに突っ伏していた後輩の高橋が、眠そうな目をこすりながら顔を上げた。

「高橋……。僕はどれくらい寝ていたんだ?」

「丸一日ってところっすよ。まぁ、あの状況から五体満足で戻ってきただけでも奇跡だって、特務部の医療班が驚いてました。本当に無茶しちゃって……。あ、ちょっと待っててください、今、看護師さんを呼んできますから!」

 高橋は慌ただしく病室を飛び出していった。その足音が廊下に遠ざかっていくのを聞きながら、僕はゆっくりと身体を起こそうとして、すぐに諦めた。まだ腹筋に力が入らない。

 静かになった病室のテレビを見上げると、ニュース特番が新宿ゲート暴走事件の顛末を報じていた。

『――昨日、新宿ゲート中枢にて発生した大規模な空間暴走は、現在、完全に正常化へと向かっています。一時は両世界の衝突による消滅も懸念されましたが、危機は完全に回避されました。また、今回の暴走を意図的に引き起こしたとして、レイノス・インダストリーのグラハム・レイノス社長、および共謀関係にあったセレステリア王国のベルモント伯爵らが、国家安全保障局特務部、並びに一度は引退した勇者たちによって身柄を拘束されました――』

 画面には、かつて魔王を打ち倒した僕の親父――天野剛を筆頭とするオヤジたちが、武装した私兵たちを圧倒し、グラハムたちを芋蔓式に引きずり出していく様子が映し出されていた。

「相変わらず、親父たちの力技は容赦ないな……」

 思わず苦笑が漏れる。公務員としては、対応方法の決裁印がそろうのを待ってから、行動しなくちゃいけないのに。

 親父たちはそれとは真逆で、自分が正しいと思えば即行動し、理不尽なまでの圧倒的なパワーで解決してしまう。

 そんな親父たちが背中を支えてくれたからこそ、僕とアイリスは新宿ゲート中枢へと辿り着き、あの機甲戦闘人形を両断することができたのだ。

 これで、悪徳企業と異世界貴族の計画もすべて白日の下にさらされ、彼らの野望は完全に粉砕されるだろう。

 さらにニュースの解説によれば、これまで僕たちが遭遇してきた、式典を襲撃したノーブル・ウィルや、暗躍していたエクリプスといった各組織のテロ行動も、すべてはベルモント伯爵が裏で糸を引いていた計画だったことが判明したらしい。

 ガチャ、と静かにドアが開いた。

 入ってきたのは、大きな丸眼鏡を指で押し上げながら、いつも通り無造作に髪を縛った千代田だった。

「……生存確認。相変わらず、しぶとい男ね、天野」

「千代田か。お陰様で、なんとか生きてるよ」

 千代田の瞳には確かな安堵の光が宿っていた。彼女が裏でハッキングを行い、僕の空間接続をサポートしてくれなければ、あの一撃は絶対に完成していなかった。

「感謝してるよ、魔導ハッカー。君のサポートは完璧だった」

「べ、別に、あんたのためじゃないわよ。あ、それと、ドアの下にこれが置いてあったよ」

 それは親父の置手紙だった。

『よくやった、あとは俺たちの仕事だ』って書いてあった。 親父らしい、短い言葉だった。

「それで……アイリスは?」

 一番気になっていた名前を口にすると、千代田はニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて、部屋の入り口を親指で指し示した。

「ほら、入ってきなさいよ」

 ドアの隙間から、おずおずとした様子で銀髪が覗いた。

 現れたのは、聖騎士の重々しい軽鎧を脱ぎ捨て、ラフな私服に身を包んだアイリス・ラインハルトだった。その手には、コンビニのロゴが印刷された大きなビニール袋が握られていた。

「アマノ殿、本当に良かった……。一時は、その、貴殿の頭の回路が完全に焼き切れて、そのまま帰ってこないのではないかと、私は……」

 アイリスは透き通るようなブルーの瞳を少し潤ませながら、僕のベッドの脇に歩み寄った。

 エルフ特有の長い耳が、彼女の不安や安堵の感情に同期するように、小刻みにピコピコと揺れている。その表情は、普段の凛々しい聖騎士のそれではなく、ただひたすらに仲間を心配していた等身大の少女のようだった。

「心配をかけたみたいだね、アイリス」

「よかった……、よかった……、本当によかった……」

 アイリスは言葉を詰まらせながら、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちていた。

「天野! 一千万人分の電気エネルギーを、人間の脳を経由して空間接続するなんて、計算云々の前に生存確率が数パーセントのギャンブルよ。私が裏から魔導ハッキングで回避プログラムを展開できなかったら、今頃あんたの頭は、過充電された魔導バッテリーみたいに木っ端微塵だったんだから。少しは反省しなさい」

「……重ね重ね、お見それしました、千代田様。あなたのサポートがなければ、僕は今頃あの特異空間の藻屑でした」

 僕がベッドの上で神妙に頭を下げると、千代田は「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 しかし、その耳たぶがほんのりと赤くなっているのを、僕は見逃さなかった。彼女もまた、僕たちの無謀な戦いを裏から支えていた一人なのだ。

 そこへ、高橋が白衣を着た特務部の医師と、数人の看護師さんを伴って息を切らせながら戻ってきた。

「天野先輩! 先生をお連れしましたっす!」

 入ってきた医師は、僕のバイタルデータが並ぶモニターを鋭い目つきで確認すると、手際よく僕の瞳孔や反射を調べ始めた。

「……驚いたな。脳の波形に若干の乱れは見られるが、特に異常は確認できない。あんなエネルギーをまともに受けて、丸一日の睡眠だけでこれほど回復するとは、勇者の適応能力というべきか、それともただの頑丈さか」

「先生、僕の体調はいつ頃治りますかね? あと、年次休暇のための診断書をですね――」

 医師は苦笑を漏らしながら点滴の速度を調整した。

「まぁ、元気があるなら大丈夫でしょう。ですが、あと二、三日は絶対安静です。特務部の上からも、君の安全を最優先にするよう厳命されていますからね」

 医師と看護師さんたちが一通りの処置を終えて部屋を出ていくと、病室には再び、僕たち4人だけの時間が訪れた。

「ふぅ……」

 僕はベッドの背もたれに身体を預け、ようやく深い息を吐き出した。 全身の筋肉痛は依然として酷いが、こうして仲間たちの声を聴いていると、自分が本当に『あっちの世界』から戻ってきたのだという実感が、じわじわと身体の芯に染み渡ってくる。

ジャンル・タグ

, ,

作品統計

👁️ 閲覧数: 0 👍 いいね: 0 📚 本棚登録: 0

作者について

ふっせ

初めて小説を書いてみました。 文章を書くこと自体が初めてなので、拙いところや誤字脱字なども多々あるかと思います。 それでも、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

👥 フォロワー: 1人

作者ページを見る