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第36話 不穏な足音

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/23 📚 シリーズ: 区役所のハズレ勇者は定時で帰りたい~能力が地味だと笑われた公務員、実は空間操作を駆使して世界を救ってしまう~ 📝 2,710文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

異世界と東京が繋がって35年。区役所「異世界住民課」で働く天野勇は、定時退庁を愛する平凡な公務員。だがある日、テロ事件に巻き込まれ、うっかり「勇者」に選ばれてしまう!  発現した能力は、空間をつなぎ合わせるだけの地味なもの。世間からは「ハズレ勇者」と哂われるが……実は空間操作を駆使した常識破りの最強スキルだった!?  コンビニスイーツ中毒のエルフ聖騎士アイリスと共に、勇は世界の危機と“残業”に立ち向かう! 「僕はただ、定時で帰ってアニメを見たいだけなのに!」  オタク公務員が二つの世界を繋ぐ、現代×異世界ファンタジー! ※本作品は「カクヨム」「あいぺん」にて同時掲載しています。

本文

 あの新宿ゲート中枢での決戦。魔王の遺骸をサイバネティクス技術で弄び、両世界を衝突させようとしたグラハムたちの陰謀。

 それを打ち破ったのは、紛れもなく、僕たちの科学と魔法の融合だった。

「……なぁ、アイリス。あの時、君の精霊剣に僕の空間接続で電力をダイレクトチャージした瞬間、どんな感覚だった?」

 僕の問いかけに、アイリスはサイドテーブルのパイプ椅子に腰掛け、スプーンで濃厚カスタードプリンをすくい上げる手をピタリと止めた。 彼女は少し遠い目をして、窓の外の新宿の空を見つめた。

「そうだな……。私のラインハルト家に伝わる精霊剣は、本来、自然界の純粋な魔力や精霊の祈りを受け入れるための依り代だ。だがあの一瞬、アマノ殿のディバイド・ルーラーを通じて流れ込んできたのは、それとは全く異なる、荒々しくも緻密に制御された雷のようなものだった」

 彼女はプリンを一口食べ、その甘さに小さく目を細めてから続けた。

「科学という、人間の知性が生み出した電気のエネルギー。それが精霊の力と混ざり合った瞬間、私の剣はこれまでにないほど眩い光を放った。それは、私たちが生きるこの世界の象徴のような輝きだったように思う。今までの戦い方のように、ただ個人の武勇を競うのではなく、異なる世界が一つになって剣を振るうような……そんな、不思議な一体感があったのだ」

「……なるほどね。異世界の魔法陣という回路に、電圧をブーストとして直列に繋いだようなものか。僕の空間接続がその変圧器の役割を果たしたわけだ」

 僕がいつものオタク的な考察を始めると、千代田が、呆れたように僕の頭を小突いた。

「あんたのね、そういうロジックを一瞬で組み立てて実行に移すのが、どんだけすごいことかってことよ。相手の機甲戦闘人形だって、まさか発電所丸ごと一個分のエネルギーが、空間を越えて聖剣に直結されるなんて夢にも思わなかったでしょうね。それにあの瞬間、新宿全体がパニックになったのよ」

「まぁ、そのせいで僕の身体は今、全治数日の重度筋肉痛なわけだけどね。だから、アキバのアニメショップ巡りなんて、とてもじゃないけど無理だ」

 僕がアイリスの方をチラリと見ると、彼女はハッとしたように長い耳をピンと立てた。

「な、何を言うかアマノ殿! 私が買ってきたこの『プレミアムしっとりロールケーキ』と『濃厚カスタードプリン』は、ただのスイーツではないと言っただろう! ほら、この甘み、この濃厚なカラメル! これこそが頭の回路を急速に回復させる現代の特効薬なのだ! これを食べて、早くアキバへ行く体力をつけるのだ!」

 そう言って、アイリスは自分が食べていたものとは別の、もう一個のプリンを僕の目の前に突き出してきた。

「ほら、あーん、だ! 」

 羞恥心も忘れてスプーンを僕の口元に運んでくる。

「ちょ、アイリス、自分で食べられるから、腕が痛いだけで……」

「ダメだ! 患者は大人しく看病されるのが、アニメにおける『王道のイベント』だと、高橋殿から教わった!」

「高橋……お前、余計な知識をエルフの聖騎士に吹き込むなよ……」

「いやあ、アイリスさんがどうしても看病の作法を知りたいって言うから……」

 僕が睨みつけると、高橋はデレデレした顔で後頭部を掻いていた。

 千代田がそれを見て、特大の溜め息をつく。

「本当に、みんな無事でよかったわ」

 その一言に、病室の空気がじんわりと温かいものに変わる。

 僕たちは確かに、あの絶望的なゲートの暴走を生き延び、こうして普段通りの、少し騒がしくて心地よい日常に帰ってくることができたのだ。

 しかし、そんな穏やかな時間は、長続きしないのが僕の人生の常である。

「コンコン」

 病室のドアが控えめに叩かれた。

 入ってきたのは、黒いスーツをびしっと着こなした、見覚えのある特務部の職員だった。

「天野勇殿、およびアイリス・ラインハルト殿。国家安全保障局特務部の榊部長より、伝言をお持ちいたしました」

 その言葉を聞いた瞬間、僕の脳内で警報が最大音量で鳴り響いた。お堅い上層部からの直接の伝言。ろくな内容であるはずがない。

「あの、僕はまだ筋肉痛が酷くて、意識も混濁していて、労災の手続き以外の一切の思考が停止しているのですが……」

「天野先輩、現実逃避が早すぎますっす!」

 高橋のツッコミを無視して、スーツの職員は淡々とタブレット端末を取り出し、読み上げ始めた。

「今回の『新宿ゲート暴走事件』における、天野殿の空間接続能力を用いた戦闘、およびアイリス殿との共闘による魔王の完全消滅は、政府上層部、ならびにセレステリア王国においても、極めて高く評価されております。両世界の崩壊を未然に防いだその功績は、最大級のものであると――」

「ちょっと待ってくれ。僕たちはただ、状況に直面した公務員として動いただけで……。しかも、上司の許可や決裁もなく……」

「問題ありません。世論はすでに大変な盛り上がりを見せております。現在、特務部の前には各国のメディアが殺到しており、お二人の英雄的行為を讃えるための、臨時の閣議決定が行われている最中です」

 職員は、眼鏡の奥の目をギラリと光らせ、僕を見据えた。

「――おめでとうございます。天野勇殿。政府、およびセレステリア王国は、あなたに対して、勇者の最高位である『S級勇者』の称号を授与する方向で、最終調整に入りました」

「……は?」

 病室の時が、止まった。

「おお! アマノ殿、最高位の称号ではないか! 素晴らしい!」

 アイリスは純粋に喜んでいるが、僕の顔からは完全に血の気が引いていた。

 S級勇者。それは、かつて僕の親父たちが混乱の時代に命懸けで勝ち取った、伝説の称号だ。

 現在においては、国家的な広告塔、つまり政治的なパンダとして、あらゆるメディアに引っ張りだこになり、自由な時間など一秒も与えられない、超絶ブラックな『お飾り英雄職』を意味する。

「嫌だ……」

 僕の口から、魂の抜けたような声が漏れた。

「そんなものを貰ったら、定時退庁どころか、毎日どこかの式典でスピーチさせられて、有給なんて都市伝説の彼方に消え去ってしまう……。僕は、ただの異世界住民課の平職員として、静かにアニメを見て暮らしたいだけなんだ……!」

「天野、あんたのその徹底した安定志向、世界を救った大英雄が言うセリフじゃないわよ」

 千代田が半分呆れ、半分笑いながらプリンのカップをゴミ箱に捨てた。

 窓の外には、事件が解決してすっかり安定を取り戻した、新宿の美しい青空が広がっている。しかし、僕の心には、これから待ち受けているであろう英雄としての面倒な未来という、巨大な嵐の予兆が暗雲のように立ち込めていた。

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作者について

ふっせ

第2弾スタートです!

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