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1-21 偽りの犠牲者

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/27 📚 シリーズ: アストラリア大陸事変 📝 2,322文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

魔王亡き世界で、再び魔の時代が動き出す。 魔王ゼルヴァディスが討たれてから、六百二十八年。 平和を取り戻したアストラリア大陸では、三つの主要勢力が微妙な均衡を保ちながら共存していた。 しかし、今なお人の立ち入れない旧魔王領では、魔物たちが静かに活動範囲を広げ始めていた。 各地では怪しい薬が出回り、魔王を崇める新興宗教も勢力を増していく。 そんな異変をまだ知らず、自由交易都市に暮らす青年レオン・ヴェスタは、見知らぬ世界を求めて旅立つ。 やがて彼は、森の外へ憧れる若きエルフの癒し手フィリアと、その護衛リュシアに出会う。 三人の小さな旅立ちは、やがて国家、宗教、人間、魔物――大陸に生きる者すべてを巻き込む事変へ繋がっていく。 善と悪の境界が揺らぐ世界で、彼らは何を知り、何を選ぶのか。 これは、魔王亡き世界で再び動き始めた、魔の時代を巡る物語。

本文

新暦628年4月9日、昼頃。

エルフの里。

ノクティス教団の一団が滞在先として与えられていた建物の一室で、

サイラス・ヴェインは顔を歪めていた。

里の者たちの前で浮かべていた柔和な笑みは、

今はどこにもない。

「くそっ……!」

アルヴァン暗殺は失敗した。

それだけではない。

フィリア・エルフェリアの浄化を浴びたことで、

己の身に宿していたゼルヴァディスの加護まで削られた。

感覚としては、半分近くを失っている。

「あの光……」

サイラスは奥歯を噛み締めた。

アルヴァンが抵抗することは想定していた。

里の混乱に乗じ、護衛の薄いところを狙う準備もしていた。

だが、フィリアの力は想定を遥かに超えていた。

里全体へ浄化の光を降らせ、

黒脈薬〈ノクスヴェイン〉に侵された者たちを元へ戻す。

そればかりか、自分の加護にまで干渉した。

サイラスは近くの机を蹴りつけそうになり、

寸前で足を止めた。

ここはまだ、エルフの里の中だ。

怒りに任せて物音を立てるほど愚かではない。

その時、別の不安が胸をよぎった。

グラウスへの報告。

サイラスの額に、冷たい汗が滲む。

グラウスは、利用価値のある者を使う。

価値がなくなれば、切り捨てる。

少なくともサイラスは、そういう男だと考えていた。

主要任務に失敗し、与えられた加護まで半分近く失った。

このまま戻れば、どう判断されるか。

「……成果が必要だ」

サイラスは呼吸を整え、頭を切り替えた。

失敗を消すことはできない。

ならば、今回得たものを持ち帰るしかない。

「小型の動物と精霊のサンプルは?」

部屋の隅に控えていた教団員が、

びくりと肩を震わせた。

「はっ。すでに確保しております。

森の外へ運び出す準備も進めています」

「ならばいい」

ノクスヴェインは、人間だけでなく動物や精霊にも作用した。

暴走させ、攻撃性を高め、魔力を歪めることにも成功している。

サンプルを持ち帰れば、

薬の改良に役立つ可能性もある。

そして、もう一つ。

「フィリア・エルフェリア……」

忌々しい名だ……

間違いなく脅威となりえる。

だが、その能力を確認できたこと自体は、

教団にとって重要な情報になる。

それを報告すれば、今回の失敗が

完全な無駄ではなかったと示せるかもしれない。

サイラスが思考を巡らせていると、

別の教団員が近づいてきた。

「サイラス様」

「何ですか」

「死体の偽装が整いました」

その言葉に、サイラスは表情を戻した。

「分かりました」

奥の部屋へ向かう。

床には、一つの死体が横たえられていた。

黒装束。

見覚えのある顔。

騒動に巻き込まれ、命を落とした教団員。

そう見える。

だが、幻影魔法の下にあるのは、

エルフの里で薬師をしていた男の遺体だった。

森で暴走した獣に襲われ、命を落とした者だ。

サイラスは死体を見下ろす。

顔。

衣服。

傷の位置。

焦げ跡。

多少粗いが、混乱の直後なら十分だろう。

これなら、ノクティス教団も今回の騒動で

犠牲者を出したと言い張れる。

「まあ、これでいいでしょう……」

サイラスは死体から目を離した。

そして、すぐに眉を寄せる。

「しかし……一人では物足りませんね」

側にいた教団員が顔を上げた。

「ですが、今から準備するのは――」

言葉が途切れた。

サイラスがその教団員へ手を向けると、青白い魔法陣が一瞬で展開される。

「え」

閃光。乾いた破裂音。

「がっ――!」

教団員の身体が跳ね、

黒焦げになってその場へ崩れ落ちた。

焦げた匂いが部屋に広がる。

残された教団員たちは息を呑んだ。

誰も動かない。

サイラスは倒れた男を一瞥した。

「これでいいでしょう」

平坦な声だった。

「その死体も整えておきなさい。

騒動に巻き込まれて死亡した信徒として扱います」

「は……はい……!」

「急ぎなさい」

教団員たちは慌てて動き出した。

二つの死体を運び、

傷の見え方や周囲の血痕を整えていく。

不意に、扉を叩く音が響いた。

全員の動きが止まる。

「申し訳ないが、聞きたいことがある。

扉を開けてくれんか」

アルヴァンの声だった。

サイラスは目を細める。

「来たか……」

教団員たちへ視線を向ける。

「私が時間を稼ぎます。その間に、死体を整えておきなさい」

青ざめた顔が、一斉に頷いた。

サイラスは扉の前に立つ。

一度、深く息を吸った。

肩から力を抜き、

疲れを隠せないようにわずかに背を丸める。

目元にも、沈痛な色を作った。

「はい。今、開けます」

扉を開く。

その先にはアルヴァンがいた。

隣には見知らぬ若い男。

さらに、フィリア付きの侍女。

そして。

フィリア・エルフェリア。

その姿を見た瞬間、

サイラスの胸の奥で怒りが燃え上がった。

だが、表には出さない。

サイラスは憔悴した表情のまま、

弱々しく頭を下げた。

「どうなさいましたか、アルヴァン様……」

「実は、今回の騒動について

聞きたいことがあるのじゃ」

サイラスは一度だけ、

室内を気にするように振り返った。

「申し訳ありません。

実は、今回の騒動で私どもにも……犠牲者が出ておりまして」

フィリアの表情が揺れる。

レオンは黙ってサイラスを見ていた。

リュシアの目だけが、冷たい。

「できれば、日を改めていただきたいのですが……」

アルヴァンは静かに目を伏せた。

「犠牲者……。

それは、誠にお悔やみ申し上げます」

「ありがとうございます……」

サイラスは胸に手を当てる。

だが、アルヴァンは立ち去らなかった。

「ですが、どうしてもお聞きしたいことがあるのです」

サイラスは内心で舌打ちした。

このまま追い返すのは難しい。

「……分かりました」

沈痛な表情のまま頷く。

「それでは、少々お待ちください。

お客様を迎えられる状況か、一度確認いたします」

「構いませんとも」

サイラスは扉を閉めた。

室内へ振り返る。

教団員の一人が、青ざめた顔で小さく頷いた。

準備は整った。

サイラスも頷き返す。

それから、再び扉を開いた。

「……どうぞ」

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