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第六十九話:統合の予感

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/9/23 📚 シリーズ: 継承される百の違和感 ~お前に渡す百物語~ 📝 2,585文字 ✅ 全年齢

あらすじ

日常に潜む小さな違和感を記録し続けると、100個集めたとき、何かが起きるらしい。 逆行する時計、誰もいない部屋の足音、鏡の中の自分…… でも、最後に待っているのは「終わり」ではなく、君へのバトンだ。 7人の語り部が紡ぐ、永遠に終わらない百物語。 次はお前が観測者になるのか?

本文

これは私が記録した、六十九本目の違和感である。

今回も、語り部は、いない。

記録するのは、七人分の、夢のことだ。

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朝、目が覚めた。

布団の中は、まだ、温かかった。カーテンの隙間から、光が、差し込んでいた。朝でも、夕方でもない、薄い、黄色い光だった。

いつもの、朝のはずだった。

起き上がろうとして、動けなかった。

体が、重かった。一人分の、重さでは、なかった。手足の、位置を、確かめるのに、いつもより、時間が、かかった。どこまでが、自分の、輪郭なのか、指先で、布団の、端を、なぞりながら、確認するような、感覚だった。

しばらく、天井を、見ていた。頭の中に、夢の、余韻が、残っていた。一つでは、なかった。幾つも、重なっていた。数えようとして——七つ、だと、気づいた。

内容は、思い出せなかった。ただ、感触だけが、残っていた。静かな、部屋。誰も、喋らない。座っているのか、立っているのか、それさえ、分からなかった。目を、閉じて、記憶を、辿ろうとするたびに、七つの、余韻が、同時に、動いた。一つを、掴もうとすると、残りの、六つが、揺れた。

七つの、感触が、全部、同じ、静けさを、持っていた。

いつもなら、目覚めた直後に、夢は、崩れていく。輪郭から、色から、順に、薄れて、数分後には、何も、残らない。今朝は、違った。七つとも、崩れずに、同じ重さのまま、頭の中に、居座り続けていた。

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布団を、出た。

ノートを、開いた。今朝の欄に、まず、自分の分を、書いた。

「部屋。誰もいない、わけではない。誰も、話さない。光が、薄い、黄色」

書いてから、他の、六人にも、同じことが、起きていないか、確かめたく、なった。

スマートフォンを、取った。六人の名前を、選んだ。一人ずつ、同じ文面で。

「今朝、夢を見ましたか。見たなら、内容を、教えてください」

送信した。

送った直後から、画面を、伏せることが、できなかった。既読の数字が、一つずつ、増えていくのを、見ていた。増えるたびに、体の重さが、少しだけ、増した気が、した。

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最初に、返ってきたのは、千尋だった。

「あー、それ、見た気がする。誰も、しゃべんない部屋。なんか、変な、黄色い光の」

次に、凛。

「みんな、いた気がする。喋ってなかったけど。なんか、覚えてる」

桐生からは、短かった。

「静かな部屋だった。それだけだ」

由香。

「みんな、そこにいました。何も、言わずに。懐かしい、光でした」

美咲。

「同じ部屋にいた気がします。誰も、口を、開かなかった」

最後に、陸から、届いた。文面が、一番、長かった。

「言語化しづらいんですが……誰も話してない部屋、というのは共通してます。光の色まで、たぶん、同じです。あと——誰かが、何か、言った気がするんです。『そろそろだ』って」

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「そろそろだ」

その一文を、見た瞬間、自分の、夢の、記憶が、輪郭を、持った。

同じ、部屋。同じ、薄い、黄色の、光。誰も、話さない。ただ——確かに、誰かが、言った。「そろそろだ」と。

誰の声か、思い出せなかった。低くも、高くも、なかった。男の声とも、女の声とも、言い切れなかった。近くから、聞こえた気もするし、部屋全体から、聞こえた気もした。

だが、あの言葉を、聞いたのは、自分だけでは、ない。

六人に、同じ質問を、もう一度、送った。「その言葉、聞きましたか」。

返信が届くたびに、画面が、光り、短く、震えた。震えるたびに、部屋の中に、誰かが、一人ずつ、増えていくような、感覚が、あった。指先を、机の縁に、置いたまま、ただ、待ち続けていた。

美咲。凛。桐生。由香。千尋。

五回、震えて、五回とも、同じ答えが、返ってきた。「聞いた」。

七人全員が、同じ部屋にいて、同じ光の中で、誰も話さないまま、同じ、一言だけを、聞いていた。

その言葉を、誰が、口にしたのかは、七人の、誰にも、分からなかった。誰も、自分が言ったとは、言わなかった。誰も、他人が言ったとも、言わなかった。ただ、聞こえた、とだけ、七人とも、同じように、答えた。

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ノートに、七人分の、証言を、並べて、書いた。

言葉づかいは、それぞれ、違っていた。だが、書かれている光景は、一つとして、違わなかった。同じ部屋。同じ、薄い、黄色の光。誰も話さない。そして——「そろそろだ」。

これほど、細部まで、七人の体験が、一致したことは、これまで、なかった。六十七本目の夜、六人からの返信が句読点まで揃ったときとも、違う。あのときは、言葉が、同じだった。今回は、言葉は、違うのに、体験そのものが、同じだった。

ページを、めくった手が、止まった。

前のページに、「五年前」という、文字が、目に入った。何話分か、前に、自分で、書いた文字だった。次のページにも、あった。さらに、前のページにも。指で、ページの、端を、めくっていくたびに、同じ三文字が、あちこちから、顔を、出した。

いつから、こんなに、多かったのか、覚えていなかった。

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気づいているのは、今のうちだけかもしれない、と、思った。

以前にも、同じことを、思った気が、した。いつだったかは、思い出せなかった。ただ、その考え自体が、今朝の、七つの余韻と、同じ手触りを、持っていた。

窓の外は、もう、昼を、過ぎていた。薄い、黄色の光は、朝の、あの光とは、違う、ただの、日差しに、変わっていた。

ノートを、閉じた。

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六十九本目の蝋燭に、火を、灯した。

炎が、右に、揺れた。

三十二話、連続だった。

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残り、三十一本。

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その日の、夜だった。

由香から、電話が、来た。いつもの、落ち着いた声では、なかった。

「今、404号室に、います」

息が、荒かった。

「全員分の、気配がします。今すぐ、来てください」

「全員分、というのは——」

「七人分です。ここに、七人分、いるんです」

電話は、そこで、切れた。

窓の外は、暗かった。玄関で、靴を、履きながら、今朝の、ノートの一行を、思い出していた。「部屋。誰もいない、わけではない」。

ノートと、上着を、持って、部屋を、出た。階段を、下りる足音が、いつもより、多く、聞こえた気が、した。

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作者について

闇工房

闇工房

"正常"と"異常"の境界を、一話ずつ削り取る。 心理ホラー小説・TRPGシナリオを制作するソロクリエイター。 代表作は連作怪談「継承される百の違和感」—— 読み進めるうちに、あなたの"普通"...

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