黒曜石の檻 [5]
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ルベウス ――世界が真っ白に弾けた、その直後だった。気がつくと、頬を撫でる風は驚くほどに生温かった。崩壊していく大聖堂の轟音も、鼻を突く硝石の焦げ付いた匂いも、すべてが嘘のように消え失せている。「……あ?」呆然と見上げた空は、赤黒い終末の光ではなく、どんよりと濁った灰色だった。視線を落とせば、見たこともない無機質な巨大な建造物が、壁のように立ち並んでいる。
本文
ルベウス
――世界が真っ白に弾けた、その直後だった。 気がつくと、頬を撫でる風は驚くほどに生温かった。崩壊していく大聖堂の轟音も、鼻を突く硝石の焦げ付いた匂いも、すべてが嘘のように消え失せている。
「……あ?」 呆然と見上げた空は、赤黒い終末の光ではなく、どんよりと濁った灰色だった。 視線を落とせば、見たこともない無機質な巨大な建造物が、壁のように立ち並んでいる。
足元にあるのは、乾いた黒い泥ではなく、平坦に固められた不気味なアスファルトの路地だ。
俺の身体には傷一つなく、あれほど重かった聖剣もどこにも見当たらない。 世界は滅びを免れ、確かに新しい「未来」へと進んだ。
その事実を、この見知らぬ街の風景が残酷に物語っていた。 それなのに、俺の胸の奥は、凍りついたように冷たくて重い。 あの時、ヴァイオレットが噛みちぎっていった唇の熱だけが、今も皮膚の裏側で毒のように、狂おしく脈打っている。
静かすぎるこの世界には、彼女の気配も、彼女の美しい拒絶の言葉も存在しない。
「……ヴァイオレット、お前はどこにいるんだ」呟いた声は、誰もいない無機質な路地に虚しく吸い込まれていく。
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