黒曜石の檻 [6]
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
「……ヴァイオレット、お前はどこにいるんだ」呟いた声は、誰もいない無機質な路地に虚しく吸い込まれていく。その時――背後から、コツン、コツンと、静まり返った街に不釣り合いな靴音が響いた。『探したわよ、迷子のヒーローさん』脳裏に直接響くような幻聴に、弾かれたように振り返る。
本文
「……ヴァイオレット、お前はどこにいるんだ」 呟いた声は、誰もいない無機質な路地に虚しく吸い込まれていく。
その時――背後から、コツン、コツンと、静まり返った街に不釣り合いな靴音が響いた。
『探したわよ、迷子のヒーローさん』 脳裏に直接響くような幻聴に、弾かれたように振り返る。
だが、そこには乾いた灰色の風が吹き抜けるだけだった。 コツン、コツンと響いていたはずの靴音は、いつの間にか俺自身の激しい心音へと変わっている。 誰もいない。
彼女の冷酷で美しい微笑みさえ存在しない、空虚な未来。
世界が救われたのだとしたら、なぜ俺の胸はこれほどまでに引き裂かれそうなのだろう。
彼女が残したあの最初で最後の口づけが、消えない傷跡となって内側から身体を蝕んでいく。
彼女なしでは生きられない俺を、あえて生かすために、世界はこんな偽りの平穏を用意したのか。
惹かれ合う絶望に胸がギュッと締め付けられ、俺はその場にゆっくりと膝を突いた。
灰色の地面に触れた指先が、あの凄惨で美しかった大聖堂の冷たさを、彼女の頬の温度を求めて震える。 彼女を失ったこの未来こそが、俺に与えられた永遠の「罰」なのだと理解した。
作品統計
👁️ 閲覧数: 5
👍 いいね: 2
📚 本棚登録: 0