🧸ぬいぐるみ・エンドレス・ワールド🌏
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
誓いの指輪……のはずが、指輪を巡る4つのショート狂想曲。 誓いの指輪――。 それは愛の証である。 夏の日に紡がれる、運命のリングを取り巻く、男女の愛おしい4つのアンソロジー。 (ショートショート4編) 【収録エピソード】 💍舌・アンダー・ザ・トレジャー⛏️ 🎋愛・ハート・オン・ファイア🔥 🧸ぬいぐるみ・エンドレス・ワールド🌏 🎆爆音・イン・ザ・ダーク🌊
本文
夏祭りの熱気が、夜の境内に充満していた。
ソースの焦げる香ばしい匂い。
金魚すくいの水音。
色とりどりの提灯が揺れる参道を、私は彼と並んで歩いていた。
「あ、射的だ。懐かしいな」
彼が足を止めた。
屋台の棚には、お菓子や小さな玩具がずらりと並んでいる。
「俺、昔から射的は得意なんだよ」
自信満々に胸を張る彼を見て、私は少し可笑しくなって棚を指さした。
「じゃあ、あれが欲しい。あの小さいぬいぐるみ」
棚の隅で、ちょこんと座っている手のひらサイズのペンギンのぬいぐるみ。
「もちろん。……じゃあ、取ったら結婚しよう」
「えっ……?」
あまりの唐突さに私が目を丸くすると、彼はポケットから小さなパカッと開く箱を取り出した。
中には、夜店の大衆的な光の中でも確かに主張するように輝く、本物のダイヤモンドの指輪。
「取れたら、この指輪をはめて欲しい」
「嬉しい……!」
こんなところでプロポーズされるなんて思いもしなかったけれど――。
このお祭りの浮かれた空気。
彼の少し照れた笑顔が合わさって――。
これはこれで一生の思い出になるかもしれない。
私は胸を躍らせながら、彼が木製の銃を構える姿を見つめた。
店主からコルク弾を受け取り、彼は真剣な眼差しでペンギンに照準を合わせる。
『―― さあ始まった運命の一戦! 彼女の愛と指輪を賭けた第一発! 狙うはあのペンギンだーっ!』
バンッ!
『マトハズーレ!』
バンッ!
『マトハズーレ!』
バンッ!
『マトハズーレ!!』
「……おかしいな」
彼は首を傾げ、銃をトントンと叩いた。
(……うん、まあ、最初の一発は調子悪かったのかな?)
私は引きつった笑顔で見守る。
バンッ!
『マトハズーレ!』
バンッ!
『マトハズーレ!』
バンッ!
『カスーる!』
『うごかーず!』
バンッ!
『カスらーず!!』
バンッ!
『マトハズーレ!!』
バンッ!
『カスらーず!!』
一向に当たる気配がない。
ペンギンは微動だにせず、まるで「お前に我が撃てるか」とでも言いたげな顔でこちらを見つめている。
……嫌な予感がしてきた。
「もう一回! 店主、追加で!」
彼は千円札を叩きつけた。目の色が明らかに変わり始めている。
バンッ!
『マトハズーレ!』
バンッ!
『アタール!』
……カツン。
『数ミリうごーく!』
バンッ!
『カワラーズ!!』
弾は確かに当たった。
だが、ペンギンはその重厚な土台ゆえに、数ミリ揺れただけで平然と居座っている。
彼の目が、本気だった。
もう、そこにはプロポーズの余韻を楽しんでいた優しい彼の姿はない。
目の前の敵を倒すことしか頭にない、戦士の目だ。
彼はもう、私のいる世界にはいなかった。
バンッ!
『マトハズーレ!』
バンッ!
『アタール!』
グラリ、とペンギンが傾く。
「行ったか!?」
しかし次の瞬間、ねじり鉢巻きをした店主がサッと手を伸ばし、落ちかけていたペンギンを元の位置に綺麗にセットし直した。
『店主モドース!!』
「ああっ!? 今の落ちたでしょ!?」
「いやお客さん、完全に落ち切らなきゃダメよ」
焦りと怒りで彼の手元が狂い始める。
バンッ!
『マトハズーレ!』
カスッ!
『ジャグール! コルク地面にオチーる!』
焦るあまり、彼は銃にコルクを詰めるのが甘かった。
「くそっ!」
バンッ!
『マトハズーレ! 』
「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」
ドンッ!
『未発射のコルクぶちマケーる!!』
机を叩いた反動で、残りのコルク弾が虚空へ飛び散っていく。
無惨な静寂が、射的屋の前に訪れた――。
彼は肩で息をし、青ざめた顔で銃を握りしめたまま、微動だにしないペンギンを睨みつけている。
手元にはもう弾はない。
私は声をかけられなかった。
指輪の箱は、彼のポケットの中で虚しく眠っている。
すると、今まで憐れんだ目で見ていた店主が、黙って新しいコルクを目の前に補充する。
そして、パカリ、と静かに、追加の新しいコルクの箱を開けた。
無表情の店主の目が、暗闇の中で妖しく光る。
彼は呼応するように、ポケットから札束を取り出した。
『まだまだ、今宵の一戦は続いていくようです!――』
―― 彼は、どこに行ってしまうのだろう。
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