第17.2話 畑作り、アゲイン
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ゴーレムの正しい作り方 〜俺のゴーレム、絶対おかしいと言われるんですが、なにか?〜 - 第17.2話 畑作り、アゲイン
本文
「……近いな」
80mという距離は、今の自分にとっては数字通りの遠い距離には感じられない。
レベルアップによる身体能力の向上のおかげで、今の俺は100mを全力で走ればわずか3〜4秒で移動できてしまう。
「アカシャ、連携の確認をしておくか」
「承知しました。いつでもいけます」
足音を消し、ウサギから30mほどの位置まで回り込んだところで、俺はあえて『気配隠蔽』と『認識阻害』を同時に解除した。
以前の俺だったら、即死を確定する自殺行為だ。
突然、何もない空間から目の前に人間が現れたのだから、ウサギは当然激しく驚いた様子を見せた。
すぐさま額の角をモリモリと生やし、レールガンを放とうと臨戦態勢で身構える。
その瞬間、俺は『思考加速』を限界まで引き上げた。
引き伸ばされた一瞬の時間の中で、ウサギの真横に、瞬時にマッド・ゴーレムを生成する。
今度は一瞬でゴーレムが横に現れた事に動揺し、俺から目を離す。
横にジャンプしながらゴーレムに向けて空中からレールガンを発射し、俺の作ったゴーレムをまるで豆腐のように一撃で破壊した。
そのまま着地し、角を急速再生させて俺に向けて発射した――
俺はレールガンがゆっくりと飛んでくる軌道を把握しながら、首を右に傾ける。
レールガンが俺の左頬を通り抜けた瞬間。
――ドサッ
ウサギは紫色の目玉をクルリとひっくり返して、そのまま地面へ倒れ落ちた。
しばらくすると、俺の身体がスっと軽くなる。
レベルアップの瞬間だ。
この感覚のおかげで、日々の戦闘の疲労やある程度の傷はその場で回復してくれる。
「ふぅ……フォロー、サンクス」
「どういたしまして、マスター」
アカシャと短い言葉を交わす。
実は、ウサギの脇にゴーレムを出して注意を引いた瞬間、アカシャがウサギのジャンプの軌道と着地地点を完璧に演算していた。
俺はその予測位置に、あらかじめナイトロ・ゴーレムを設置。
ウサギの着地と同時にゴーレムの結合を解除したのだ。
もちろん、周囲の酸素を一瞬で奪われ、超高濃度の窒素を思いっきり吸い込んだウサギが、脳への酸素供給を断たれて気絶・死亡するまでの時間も、アカシャはすべて計算済みだった。
…はずだ。はずなのに。
「わざと違う演算結果教えただろ?」
少し怒りを含ませながらアカシャに尋ねた。
そう。あのレールガンが使われる前に倒せた演算のはずだったからだ。
「こういう事も起こる可能性は0ではありませんので。ですが何なく躱すとは、流石マスターですね。」
「はぁ?頭撃ち抜かれてたらどうするんだよ」
「対応策は、100パターン程考えてありましたので」
あーやだやだ。この子はどれだけ俺を強くしたいんだか。
「はぁ…」
俺は大きなため息をついた。
「誰かさんのせいで、戦闘に不安が残るな〜。」
「やはり、ゴーレムの防御壁を自身に纏う『アーマード』を掛け合わせた戦闘スタイルを構築した方がよろしいのでは?」
「それ、ずっと提案してくるよな。でもあれ、身に付けるゴーレムの防御力とか質量制御とかが難しいんだよ……」
「経験あるのみです、マスター」
「へいへい……。おっしゃる通りで」
そんな軽口を叩き合いながら、インベントリに倒したバイオレットホーン・ラビットを放り込み、俺はさらに先へと進んだ。
そして1時間程の探索でスタレーニを6つ程収穫し、帰路についた。
テントに帰り着く頃には、空が少し赤みがかってきて、すっかり夕方近くになっていた。
本日の収穫としては、スタレーニ6つのほかに、バイオレットホーン・ラビット2体、そして、ニードルアルマ・グリズリー1体だ。
このニードルアルマ・グリズリーは、レベル150を誇る、この界隈の正真正銘の化け物である。
以前、このグリズリー同士の縄張り争いらしき戦いを遠くから見たことがあったが、それはもう壮絶なものだった。
あの鋼のように硬い巨木も枯れ木みたいにバキバキとなぎ倒しながら大乱闘を繰り広げる、まさに怪獣決戦。
その時は、激闘の末に弱りきった個体を、俺がナイトロ・ゴーレムさんで漁夫の利を得る形でなんとか倒したという経緯があった。
だが今回は、五体満足な1頭のグリズリーに対し、いつものナイトロ・ゴーレム作戦を仕掛けて、見事に無傷で仕留めることに成功したのだ。
「いやぁ、こいつに搦め手じゃなくて正面から勝てるようになるのは、まだまだ先の話だろうな……」
「生き残るための戦闘において、勝ち方など手段に過ぎません。勝てば何でもよろしいかと」
「それはそうなんだけどさ……男の子としては、こう、気分的な問題っていうのがあるじゃない?」
「それなら、早く私無しでも強くなってくださいね、マスター」
「へ〜い……」
相変わらずアカシャ先生はスパルタだ。
早速、新しく作った畑にスタレーニの葉を埋めにかかる。
スタレーニは葉を埋める事で、その葉から株分けが出来るのは知っていた。
しかし、アカシャから待ったがかかった。
どうやら、普通にやるだけだと成功率は極端に低くなるらしい。
確かに、以前は全滅したし。
「成功率を上げるには、魔物の骨を細かく砕いたものを地面に混ぜると、土壌の魔力濃度が最適化されて良い影響を与えます」
「なるほど、骨粉が肥料になるわけか。ゲームでもそんな仕様あったな。じゃあ、丁度いいや」
というわけで、今日の晩ご飯はウサギに決定。
新しく狩ったウサギを料理用ゴーレムに美味しく調理してもらい、その際に出た骨を全部集めた。
そしてゴーレムの怪力を使って細かく粉砕し、畝の土へと満遍なくまいていく。
すべての骨粉をまき終えた頃にはすっかり暗くなっていたので、実際の植え付け作業は明日に回すことにした。
翌朝。
俺は昨日収穫してきた瑞々しいスタレーニの葉を丁寧にちぎり、『魔物の骨粉たっぷり入り畝』へと、等間隔に埋めていった。
記念すべき初めての作付けは、俺自身でやりたかったからだ。
「ふぅ。よし、これで植え付けは完了!」
心地よい疲労感。
「人が何故、年を取ると畑仕事をしたくなるのか分かる気がする」
「何わけの分からない事を言っているのですか、マスター」
「なぁアカシャ、これってどれくらいで芽が出てくるかな?」
「解析によれば、早ければ3日程で芽が出て、そこから1週間程で収穫できる状態にまで成長するかと」
「約10日であの大きさになるの!?。異世界のレタスってめちゃくちゃ成長が早いのね…」
「骨粉とこの地の高濃度な土壌の魔力を吸収するためです。通常はもっと時間がかかります。」
そんな会話を交わしつつも、どうか無事に、青々とした元気な芽が出てきますように、と畑に向かって小さく手を合わせた。
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