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フリーマーケット(一)

小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品

📅 公開日: 2026/10/12 📚 シリーズ: 明日のラブレター 📝 2,194文字 🤖 AI創作支援作品 ✅ 全年齢

あらすじ

長編&連作 作品集

本文

フリーマーケット(一)

【どこか行きたいな】

佐藤純は、朝、洗面所で顔を洗っていた。片手には水の入ったプラスチックのマグカップ。

代わり映えのしない、いつもの朝。

なのにその日は、なぜか唐突に「どこか行きたいな」と思う。

海外旅行とか、そんな大層なものではない。せいぜい「隣町のスーパーですら新鮮に感じる」くらいの、ささやかな願望。

純はマグカップを持ったまま、大きく伸びをして片手を上げた。

次の瞬間、景色がガラッと変わった。

気づけば純は、見知らぬ場所に立っていた。

「……えっ、どこここ」

テレビで見た秘境でもなければ、異世界ファンタジーの草原でもない。強いて言えば、少し内装のセンスが違うだけの、ごく普通の室内。

意識は完全に自分のまま。手足も普通に動く。誰かに操られている感覚は一切なし。

手元を見ると、さっきのマグカップをしっかり握っている。中の水もこぼれていない。

「持ち物まで一緒についてくるとか、律儀か」

そんな軽口を叩きつつ、まずは状況把握に努める純。

この不思議な世界で過ごしてみることにした。

宿もある。飯屋もある。財布の中身さえあれば、意外となんとかなる。

身体も意識も普通に動くので、純は思いのほかあっさり順応していく。

そのうち、「そろそろ帰りたいな」という気持ちが芽生える。

最初と同じように、片手を軽く上げてみた。

すると、あっさり元の世界へ戻った。

洗面所。

壁の時計を見て、純は固まった。

「……十秒?」

向こうでは何日も過ごしたのに、こちらの時計はほとんど進んでいない。

「タイムスリップの逆詐欺かよ」

思わずそんな独り言をこぼす純。

半信疑のまま、もう一度試してみることにした。

行って、しばらく過ごして、手を上げて、戻る。

また十秒程度しか経っていない。

何度か繰り返すうち、純はコツをつかむ。「向こうへ行きたいな」と念じて手を上げれば向こうへ、「帰りたいな」と念じて手を上げればこちらへ。まるで自動改札のような仕組みだった。

さらに気づく。最初に持っていたマグカップが、ちゃんと一緒についてきていたこと。

そこで純の、実験魂に火がついた。

手に持った物は、一緒に移動するのか。

小物で試す。やはり移る。

「これは……手に持ってる物だけがルール適用、ってことか?」

ここでようやく、純の中の商人スイッチが入った。

向こうの世界には、こちらでは珍しい物がある。

逆に、こちらでは当たり前の物が、向こうでは珍品扱い。

純の実家は、代々の商売屋。

物を見れば「これ、いくらで売れるか」と算段する癖が、骨の髄まで染みついている。

とはいえ、いきなり自分で店を出す度胸まではない。

そこで純は、たまたま向こうで見つけたフリーマーケットに、思い切って顔を出してみることにした。

会場の隅で、年季の入った露店を構えているおじさんに、声をかけてみる。

「あの、これ、ちょっと珍しい物なんですけど……置かせてもらえませんか」

おじさんは品物を手に取り、しげしげと眺めた。

「ほう、こりゃ見ない物だな。よし、売ってやるよ」

二つ返事で引き受けてくれるおじさん。

言われるがまま品物を預けて見ていると、すぐに、店の客が興味を示し始めた。

「これ何?」「珍しいね」と、次々に声がかかる。

そして、飛ぶように売れていく。

おじさんは笑いながら、純に売上を手渡した。

「お嬢ちゃん、この手の品なら、他の市でも喜ばれるぞ」

純は「……お嬢ちゃん?」と一瞬首を傾げたものの、深く気にせず笑顔で頷いた。

「ありがとうございます、また探してみます」

こちらの世界に戻ってからも、純はいろいろな場所のフリーマーケットを覗いてみるようになった。

考えてみれば、こちらの時間はほとんど進まない。

同じ会場ばかり通っていては、開催日と間隔が合わない。

だったら、あちこちの市を渡り歩けばいい。

そう気づいた純は、向こうの品を手に、日によって違う会場に足を運ぶようになった。

逆に、こちらの品を向こうへ持っていって、あちらの色々な市でも同じように試してみる。

どこへ持っていっても、驚くほどよく売れた。

純は思わずニヤリとした。

「これ、フリマの方が絶対早いな」

その場で現金が手に入るのも、純にとっては都合が良かった。あちこちの会場に顔を出すたび、ちょっとした立ち話ができる相手も増えていく。

まだ小遣い稼ぎレベルの小さな商い。

けれど、二つの世界の「当たり前」の差を使った、なかなか効率のいい商売だった。

純は楽しみながら、せっせと世界を行き来するようになっていく。

---

一方その頃。

もう一つの世界では、ミナにも似たようなことが起きていた。

ミナの実家も、代々の商売屋。

そして彼女もまた、二つの世界の「当たり前」の違いに気づき始める。

純とは違い、ミナは対面でのやり取りより、ネットの方が性に合っていた。

さっそくフリマアプリのIDを取得し、移動先で見つけた珍しい品を出品してみる。

商品写真を撮って、説明文をつける。

丁寧に、けれど手際よく。

すると、次々に「購入しました」の通知が届く。

「え、これもう売れたの?」

思わず声が漏れるミナ。

一つ売れれば、また次の品を探しに行く。

見つけては撮り、撮っては出品する。

その繰り返しだけで、面白いように売上が積み上がっていった。

顔も名前も知らない誰かに、画面越しで品物を届ける。

それがミナにとっては、性に合った心地よいペースだった。

この時点で、純もミナも、お互いの存在にはまだ気づいていない。

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JJ

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