小さな投資家
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
三歳児にして投資家デビュー
本文
――自宅の書斎。
俺は父親の膝の上にちょこんと乗りながら、ノートパソコンの画面をじっと見つめていた。2000年代初期のパソコンは、まだまだ分厚くて存在感がすごい。
流石にこの年齢でパソコンを自由に独占させてもらえるわけもないのだが、「少しでも早く自由に触りたい!」と必死のアピールを続けている最中だ。とはいえ、今はまだ親の監視のもと、タイピングゲームを触らせてもらって遊ぶ程度にとどまっている。
大人のように器用に手は動かないし、そもそも幼子の手はキーボードに対して小さすぎる。両手の指を総動員して、一本ずつ「ポチ……ポチ……」とキーを押す作業はなんとも焦ったいが、幼稚園児の動きとしては十分すぎるほど優秀なはずだ。
「蓮は本当に天才ねぇ〜、将来がとっても楽しみだわ!」
膝の上の俺を抱きかかえながら、父親もデレデレのベタ褒め状態である。
なんだかんだゲーム自体も楽しいのだが、もちろん俺の目的はタイピングで遊ぶことではない。
ゲームの時間が終わると、本題の「株価チェック」のスタートだ。
「株に興味がある」と伝えたところ、父親は大喜びで色々と教えてくれた。これも社長の息子に対する英才教育の一環なのだろうか。普通の家庭なら「3歳児に株!?」と突っ込まれるところだが、幸いにも我が家は金融リテラシーがズバ抜けて高い両親で、お金の余裕も山ほどある。
なんなら「気になる銘柄」を指定すれば、実際に買ってもらえたりもするのだ。
こうして俺は、わずか3歳にして華々しく(?)投資家デビューを果たしたのだった。
この世界の歴史は、概ね前世と同じような流れで進んでいる。
アメリカでの大規模なテロ事件などの世界情勢を見る限り、歴史的な大事件の発生時期はほぼ一致していると考えていい。となれば、当然ながら経済の動きも前世と似通ったものになるはずだ。
ITバブルが弾けて低迷していた株価も、そろそろ再び上昇に転じる絶好のタイミング。個別銘柄の細かな値動きなんて覚えているはずもないが、誰もが知る有名企業の株を押さえておけば手堅く儲けられるだろう。
ちなみに、前世で世界を席巻したあの超有名検索エンジンの会社は、まだ上場していないようだった。上場した瞬間に絶対買ってもらおうと心に誓う。
だがその前に、まずは少額(と言っても3歳児にしてはあり得ない大金だが)で実績を積み、両親に投資の才能を認めさせて、より大きな資金を動かせるようにしておきたい。
まあ、うちの両親からすれば、俺に持たせている資金なんて「ちょっとしたお小遣い」感覚なのだろう。子供にかける桁が最初から違いすぎる。現金で直接渡されているわけではないとはいえ、恐ろしい英才教育だ。
なぜ俺がここまで必死にお金を増やそうとしているのか。 それには、とある「将来の不安」があるからだ。
できる限り手元に潤沢な資金を準備しておきたい。 大好きな両親が悲しむ顔なんて見たくないし、万が一にも貧乏生活に転落するなんてごめんだ。会社の経営そのものは俺にはよく分からないけれど、お金があって困ることなんてこの世に一つもない。
自分にできる準備は、今からすべてやっておくつもりだ。
幼い手を伸ばしながら、俺は画面の株価チャートを見つめて密かに決意を新たにするのだった。
作品統計
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