日常編 ―― L'Ordinaire:【心を止める契約者、深夜の白紙 ――無意識の差し出しと硝子の涙――】
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p><strong>(オーナー視点)</strong></p><p> 深夜のある日。</p><p><strong>【 開かずの扉と言われる大扉 】</strong>の向こう側。</p>
本文
(オーナー視点)
深夜のある日。
【 開かずの扉と言われる大扉 】の向こう側。
誰の生活ノイズも響かない、完璧に閉ざされたわたしの部屋のなかは、凍りついたような深い静寂に包まれている。
ダボッとした大きめのパーカーにすっぽりと包まれたまま、わたしは小さな明かりの下で、静かに文字を打ち込んでいた。
サラサラと、ただ淡々と白紙のページを文字で埋めていく。 その、執筆の最中。
動いていたわたしの指先が、ふと、静かに止まった。
誰もいない暗闇の部屋のなか、パーカーのフードの隙間から、丸くて愛らしい癖毛をフルフルと小さく揺らしたわたしの目元から、つー、と無意識の涙が静かに零れ落ちた。
わたしは自分が泣いていることすら気づいていないかのように、その涙を拭おうともしなかった。
流れているのは、なんだろう……。
一瞬、ぼーっとしながら、わたしは自分の頬を伝っていく冷たい一筋の感覚を、ただただ見つめていた。
それが何なのか、自分では何も気づかないし、わからない。 それが、わたしの本当の心の姿だということすらも。
本当に、誰もいない暗闇の部屋。
――いや。 わたしのその濡れた瞳の目の前には、ふわりと音もなく浮遊しながら、ただ優しくその涙のきらめきを映し出している、硝子の魔導書が静かに佇んでいた。
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