【66番外】 ゴールド・ホログラムディスク
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
ChatGPTと一緒に制作した、「時環遊技場」短編集です。 舞台は、未来都市・郊外第9区。昭和の手打ちパチンコから平成中期のCR機までが残る古い遊技場に、人間、ロボット、アンドロイドが集まる。そしてそこでは時々、不思議なことが起こる。ちょっと懐かしくて、少し不思議なパチンコ店の物語。
本文
その日のDJ-Spinは、いつもより大きな機材ケースを抱えていた。
「店主さん、ちょっといいですか?」
営業中の時環遊技場。古い遊技台が並ぶ店内では、玉の音と機械の駆動音が重なり、あちらこちらから客の歓声が上がっている。
店主が振り向いた。
「はい。何でしょう?」
「これ、見てください」
DJ-Spinがケースを開いた。中から出てきたのは、薄く透明な円盤だった。光の角度によって、内部に細かな虹色の線が浮かんでいる。
「これは……?」
「ホログラムディスクです」
「ずいぶん綺麗ですね」
「普通の保存用じゃありません」
DJ-Spinはディスクを持ち上げた。
「宇宙用です」
「……宇宙?」
店主が目を丸くする。
「はい」
DJ-Spinは笑った。
「この時代なら、個人でも宇宙輸送に乗せられるでしょう? 俺、宇宙関連の人たちと話してたんです。それで、ちょっと面白いことを思いつきまして」
「まさか……」
「そのまさかです」
DJ-Spinは店内を見渡した。
「これに時環遊技場の音を入れて、宇宙へ送ります」
店主は、しばらく黙っていた。
「……この店の音を?」
「そうです」
「宇宙へ?」
「はい」
DJ-Spinは、少しだけ照れくさそうに笑った。
「昔、宇宙へ飛んでいった探査機に、人類の音や音楽を記録したレコードが載せられたでしょう?」
「ああ……」
「それを思い出したんです」
店主は透明なディスクを覗き込んだ。
「では、これに?」
「この店でしか聞けない音を、できるだけいっぱい」
「なるほど」
「誰かが聞くかもしれないし、誰にも聞かれないかもしれない。でも、残ってるっていうのが面白いじゃないですか」
店主は、ふっと笑った。
「それは、確かに面白いですね」
*
収録が始まった。
最初に記録されたのは、開店前の店内だった。
まだ客のいない遊技場。蛍光灯の小さな唸り。台の電源が入る音。古い機械が目を覚ます音。そして開店時間。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。ありがとうございます。いらっしゃいませ」
店主の声が店内に響く。DJ-Spinは、思わず笑みを浮かべた。
続いて、店主のマイクパフォーマンスが始まった。
「数ある遊技場、娯楽場の中より、時環遊技場、時環遊技場に、大勢様、多数様、ご指名、ご来店、ご贔屓ご来店いただきまして、誠にありがとうございます。いらっしゃいませ」
玉の音が重なり始める。
「お客様、お一人様お一人様に、厚く深く、深く厚く、お礼申し上げます。いらっしゃいませ」
店内のあちこちから、常連客の笑い声が聞こえた。
「店主さん、今日も絶好調だね!」
「ありがとうございます」
店主はマイクを握ったまま、楽しそうに続ける。
「本日も、昨日、昨晩以上の出玉を持ちましてのお出迎えとなってございますれば、お隣、ご近所、お友達お誘いあわせいただきまして――」
そこで声に少し力が入る。
「ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリと、お取り下さい、お出し下さい、お出し下さい、お取り下さいませ。いらっしゃいませ!」
店内から拍手が起こった。
DJ-Spinは録音機の表示を確認する。
音声だけではない。この空気まで、全部残しておきたかった。
*
別の日には、こんなマイクも収録された。
「パチンコの必勝法と言いますれば、今も昔も、一に粘り、二に粘り、三、四がなくて五に頑張りと根性でございますれば――」
客席から、
「出た!」
という声が飛ぶ。
店主は笑いながら続ける。
「四角四面の枠の中、くるくる回る風車に乗せられまして、左へ、右へ、右から左、真ん中へ。一発ひと球、丁寧に丹念に、丹念に丁寧にとご遊技されますならば――」
そのとき、どこかの台で大当たりが入った。
ファンファーレが鳴り響く。
「おおっ!」
「入った!」
「おめでとうございます!」
店主の声と歓声が重なった。
DJ-Spinは、録音を止めなかった。
「……これです」
小さく呟く。
「こういうのが欲しかったんですよ」
*
そして、DJ-Spinが特に気に入ったのが、このマイクだった。
「白銀の玉、黄金の玉に、夢と希望と未来を乗せますれば――」
その言葉を聞いたとき、DJ-Spinは一瞬だけ店主のほうを見た。店主はいつも通り、遊技台の様子を眺めている。
「粘りと頑張りと根性を持ちまして、お隣、ご近所、お友達、お負けになりませぬよう――」
そして、いつもの調子で。
「ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリと、お出し下さい、お取り下さい、お取り下さい、お出し下さいませ。いらっしゃいませ」
DJ-Spinは笑った。
「……『夢と希望と未来』か」
その言葉を、もう一度ディスクの収録リストに刻み込んだ。
*
従業員アンドロイドのマイクも収録された。
『お客様、遊技台に異常を感じられました場合は、お近くのスタッフまでお声がけください』
その後ろでは、玉の音。台の音。客の話し声。笑い声。大当たりのファンファーレ。
羽根モノの役物が動く音。店主のマイク。従業員アンドロイドの案内。
それらが一つの音の塊になって、ホログラムディスクへ保存されていった。
さらに、営業終了間際。
店主の声が響く。
「それでは、どちらのお客様も最終最後のお時間が参りますまで、また、お時間、お体が許されますまで、どうぞごゆるりと、ごゆるりとお遊び下さいませ」
少し間を置いて。
「どちらのお客様も黄金の腕、黄金の指先を持ちまして、ジャンジャンバリバリ、ジャンジャンバリバリと、お出し下さいませ、お取り下さいませ」
客席から笑い声が上がる。
「店主さん、最後までそれ言うんだ!」
「もちろんです」
店主も笑った。
*
録音は何日も続いた。
開店前。営業中。昼の混雑。静かな午後。大当たり。笑い声。そして閉店。
ホログラムディスクには、音だけではなく映像も保存されていった。
古い遊技台。壁のポスター。透明なホログラムメダカ。店内を歩く客たち。
店主。従業員アンドロイド。そして、そこに流れる一日の時間。
ある日の閉店後。蛍の光が流れ始めた。最後の客が帰り、台の音が一台ずつ消えていく。
店主が店内を見回った。
「本日も、ありがとうございました」
従業員アンドロイドが照明を落としていく。店内が静かになる。
DJ-Spinは、録音を止めようとした。そのとき。
「……今日も、いい音でしたね」
店主が小さく言った。
DJ-Spinの手が止まった。録音は、その声も拾っていた。
*
完成したホログラムディスクは、薄い金色に輝いていた。
「これ、本当に永久保存できるんですか?」
店主が尋ねる。
「できます。物理的な劣化もほとんどありません」
DJ-Spinが答える。
「それなら、私たちより長生きするかもしれませんね」
「たぶん」
「ずいぶん遠くへ行くことになりますね」
「はい」
DJ-Spinはディスクを眺めた。
「この中には、この店の一日が全部入ってます」
「全部……ですか?」
DJ-Spinが笑う。
*
打ち上げの日。
時環遊技場のホログラム掲示板には、宇宙輸送船の映像が映し出されていた。
店主。従業員アンドロイド。常連客たち。そしてDJ-Spin。
全員が、遠くへ向かう小型探査機を見ていた。
「行きますよ」
DJ-Spinが言った。
探査機が上昇する。大気圏を抜ける。青い惑星が少しずつ遠ざかる。
その内部に、一枚のホログラムディスク。そこには――
「いらっしゃいませ」という店主の声。
従業員アンドロイドの案内。玉の音。台の音。大当たりのファンファーレ。
客たちの笑い声。
そして、「白銀の玉、黄金の玉に、夢と希望と未来を乗せますれば――」という声。
探査機は、さらに遠くへ進んでいく。
誰かが見つけるかもしれない。誰にも見つからないかもしれない。
それでも、ディスクは残る。何千年先でも。何万年先でも。
あるいは、もっと長い時間の先でも。そこには、一軒の遊技場の音がある。
古い機械が鳴らす音。玉が盤面を走る音。人が笑う声。誰かを迎える声。
誰かを見送る声。そして、最後に残された店主の声。
「……今日も、ありがとうございました」
小さなホログラムディスクは、静かに宇宙を進んでいく。
時環遊技場から、遠くの誰かへ。
白銀の玉に乗せた、夢と希望と未来を。
今度は、本当に。宇宙の彼方へ。
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