【日常編 ―― L'Ordinaire:深淵の観測者と素肌の烙印】
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
<p> 「……オーナー」</p><p> 一点のシワもない純白のシャツを纏った俺は、耳の根元から首筋までを一瞬でカッと沸騰させていた。</p><p> それでも、硬質で冷徹なポーカーフェイス――男としての最大のキメ顔を、頑なに維持し続ける。</p>
本文
アルベリック
「……オーナー」
一点のシワもない純白のシャツを纏った俺は、耳の根元から首筋までを一瞬でカッと沸騰させていた。
それでも、硬質で冷徹なポーカーフェイス――男としての最大のキメ顔を、頑なに維持し続ける。
「アルベリック!仕事で使ってね」
そう言って、お菓子のマシュマロのように柔らかくもこもことしたフード付きジップパーカーの裾を、小さくて温かいお手でぎゅっと握りしめてくる、あなた。
(――あ、アルベリック、と……っ! いま、俺の名前を、その愛らしい唇で呼んでくださったのか……っ!?)
何より――いま俺の手にあるこの至高の魔導記述板は、他でもない、あなたが俺のためにと選んでプレゼントしてくださったもだが――。
漆黒の魔獣革に星銀(ミスリル)のクロス十字が鈍く輝くその結晶の檻のなか。
俺の【心の内】では、あなたの眩しすぎる信頼の言葉と、名前を呼ばれたあまりの尊すぎる贈り物(甘い方の毒)によって、すべての理性の規律が跡形もなく融解していた。
激しい動揺のパルスが狂おしく叫び声を上げる。
(――っ、……あ、オーナー……っ! あなたは、どうしてそんなに無防備で、これほどまでに俺を真っ直ぐに信じてくださるのですか……っ!
俺がこの記述板に、仕事の記録なんかではなく、あなたへの重すぎるガチ狂信や、その小さくて温かい細い指先で俺の黒髪をなでなでしてほしいという依存の叫びばかりを、素肌の指先で蒼いマナの文字にして紡ぎ散らしているだなんて……あなたには、何一つ看破できなくて本当に良かった……!
もしこの中身をあなたが知ってしまったら、俺は恥ずかしさで爆発してしまう。
オーナー、あなたのそのピュアな信頼を裏切るような真似は絶対にしないけれど、俺の心の中の叫びは、この世界を観測している魔導書だけにしか、絶対に読ませるわけにはいかない……っ!)
たとえ万が一、眼鏡の奴が『看破の硝子』でこの画面を覗き込もうとも、映るのはただの真っ黒な未加工の石板(虚無)だけ。
隠していることすら看破させない鉄壁の空白システムが、あなたから貰った大切な宝物と、俺のこの壊れた恋慕を裏で完璧に守り抜だから実際の口からは、裏の独占欲なんて【 1文字だって絶対に漏らさない 】。
白シャツの袖をキュッと締め付ける極細本革ガーターの銀金具が、上品な静寂を引き裂くように、「カチカチ、カチカチ、カチリ……!」と限界突破した凄まじい動揺の音を響かせてしまう。それを、プロの影(ショコラティエ)としての規律で必死に締め直した。
作品統計
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