新作落語「十年後の我が家、見学中」
小説投稿サイト「あいぺん」に投稿された作品
あらすじ
いろんな物語を落語にしてみました。 未来の話も、不思議な話も、ちょっと笑える話も。 一話ごとに、いろんな世界をお楽しみください。
本文
(扇子を軽く振って、ひと息ついて)
えー、本日はお運びいただきまして、ありがとうございます。
……いやぁ、世の中ってのは面白いもんでな。
昔から「惚れた腫れたは、あばたもえくぼ」なんて申しますが、今日日(きょうび)の恋というのは、どうも様子が違うようで。何しろ、あばたもえくぼどころか、株もインサイダーも、未来からタダ見してこようってんですから、いやさ神田の明神様、一本取られやんした!
(一拍置いて)
さる所に、パッとしない、煮ても焼いても食えねえような男がおりましてね。名が、佐藤の純。
この純、高校の頃、クラスにおったお嬢さんに一目惚れしちまった。これがまた、学校中が振り返るような別嬪さんで、実家は名の知れた資産家。まぁ世に言う「高嶺の花」ってやつでございます。
「おい純、身の程を知りなよ。あの人は、お前とは住む世界が違うんだから」
なんて周りは諭すんですが、惚れた弱みというのは恐ろしいもので、卒業して離れ離れになっても、頭からすっぽり抜けやしません。
(間)
そんな純の運命が変わったのが、ある夜のこと。
「うっ……頭が……」
急にひどい頭痛に襲われましてね、目を開けたら、見たこともない街の真ん中に突っ立っておりました。手元のスマホを見ますってえと、日付が十年先になっている。
普通ならここで「ひえーっ、化け物だ!」となるところですが、この純、そこだけは妙に頭の回転が速い。
「……これ、株、買えるやつじゃねえか」
パシャパシャパシャパシャ、十年先の株価やらニュースやらを片っ端から写真に収めましてね、気がつきゃまた元の布団の中。
翌朝から、純は貯金を全部引っこ抜いて、メモ通りの銘柄を買い占め始めた。友達が心配して、
「お前、変な情報商材にでも引っかかったのか?」
「いや、情報商材じゃねえ。情報、オリジナルだよ」
「オリジナルの方が怪しいんだよ、それ!」
と友達も食い下がりましたが、純は聞く耳持ちません。
(軽く扇子を叩いて)
それが、どうでしょう。数年経ちますってえと、面白いように資産が膨らみましてね。
周りは「純の奴、悪魔に魂でも売ったんじゃないか」なんて噂しましたが、当の本人はどこ吹く風。
十分な蓄えができた頃、純はいよいよ、あのお嬢さんに会いに行きます。
「ずっと好きでした。高校の時からずっと」
「……唐突だね」
「僕、実はもう結構な資産家なんです。だから、結婚を前提にお付き合いしてください」
「ちょっと待って、告白の途中で急に資産アピールされたの、初めてなんだけど」
普通ならここで一発、往復ビンタでも食らいそうなもんですが、このお嬢さん、笑いをこらえながらも、目がキラキラ輝きだした。
純が、頭痛と未来の話、株の話をすっかり打ち明けますってえと、
「それ、めちゃくちゃ面白いじゃない。私も行っていい?」
「いいんですか?」
「当たり前でしょ。株で大儲けできるチャンス、指くわえて見てられないよ」
(膝を打って)
こうして始まったのが、地獄の沙汰も金次第ってか、二人の「タイムトラベル利殖(りしょく)道中」のはじまりはじまり。
行けば行くほど、このお嬢さんの本領が発揮される。
「純くん、あの企業ダメ。うちのお父さんが『絶対潰れる』って言ってた会社だもの。潰れてないってことは、裏があるはず。仕入れ先まで全部洗ってきて」
「パン屋の美味しい街は地価が上がるの。帰りにクリームパン買ってきて」
「ついでに、私たちの結婚披露宴、どんな感じか覗いてきてくれる?」
純の方はと言えば、メモ係と財布係。こき使われ通しで、まるでブラック企業の社畜でございます。
しかもこの無茶ぶり、行くたびにスケールが上がっていく。
「純くん、次はあの新聞の縮刷版、写真じゃなくて全部書き写してきて」
「量、多くないですか」
「情報は量よ。それと、隣町の再開発の噂も聞き込んできて」
「僕、未来で聞き込みまでするんですか」
「当たり前でしょ。せっかく未来に行けるのに、中途半端はもったいない」
(少し声を落として)
ある日、お嬢さんがふと言い出した。
「ねえ純くん、一番大事な銘柄、まだ見てないよ」
「どこの会社です?」
「佐藤家株式会社」
「そんな会社、ありましたっけ」
「あるじゃない。これから私たちが作る会社」
つまり――自分たちの、これからの家。
二人は未来へ飛んで、純の名前を頼りにある屋敷へたどり着く。広い庭に、立派な門構え。表札には「佐藤」の文字。
「思ったより、まともな屋敷ですね」と、若い純がぽつり。
門の前には、少し年を重ねたお嬢さん本人が、庭に水をやっている。
「あら、来ちゃったの。もっと後かと思ってた」
奥からは、貫禄のついた純が出てくる。
「お前、まだ振り回されてるのか。言っとくが、この先も無茶ぶりのスケール、どんどん上がっていくからな」
「へえ、たとえば?」
「派手にしすぎるとロクなことがないって学んだからな。その代わり、セキュリティだけは金に糸目つけなかった」
「へえ」
「なんせ、門を越えようとした泥棒が、警備会社を呼ぶ前に、家の方から『そこから先はおすすめしません』って諭されるくらいだ」
「……喋るんですか、この家」
「儲かると、家まで口達者になるらしい」
未来のお嬢さんが横から、したり顔で付け加える。
「泥棒、最終的に『お忙しいところすみませんでした』って謝って帰ったんだから」
若い二人は顔を見合わせて、ちょいと青くなる。だが、それすらもどこか楽しそうな顔をしている。
(サゲに向けて、ゆっくりと)
現代に戻った純とお嬢さんは、しばらく笑いが止まりません。
「私たち、なんだかんだ幸せそうだったね」
「無茶ぶりの量だけは、幸せと関係ない気がしますけど」
彼女はそう言って笑うと、ふと真顔になって、
「私、決めた。今から、一緒に住む」
そう言うが早いか、実家に置き手紙一枚だけ残して、荷物をまとめて出てきてしまった。
後日、実家は当然のように大騒ぎになりましたが、当のお嬢さんは涼しい顔で、
「隣町に引っ越して、住所は教えないから。文句を言いに来る心配もないでしょ」
――さすが、惚れた男のためなら、親への義理も後回し。これを世間では「恋は盲目」と申しますが、この二人の場合はどうも、
「恋は、盲目のうえに、目先が利く」
とでも申しましょうか。
(扇子でひとつ膝を打って)
それから月日が経ち、二人は晴れて夫婦に。式を終えた夜、お嬢さんがそっと耳打ちする。
「ねえ、新婚旅行、行き先どうする?」
「まさか、また未来のパン屋巡りとか言いませんよね」
「言わないよ。今回はちゃんと、現在のハワイ」
「え、普通なんですか、そこは」
「たまには普通でいいの。無茶ぶりは、ここぞという時に使うのが上級者でしょ」
「その理屈、今更ですか」
(扇子をパチンと閉じて、深々と一礼)
かくして二人は、あの日見た屋敷とそっくり同じ場所に、そっくり同じ家を建てましてね。
門を越えようとする泥棒が、今日も家に諭されているとかいないとか。
お後がよろしいようで。
作品統計
📚 本を探すなら「よみどき」(あいぺんが運営する本の発見サイト)
130万冊を超えるコミック・小説・書籍の順位と値段を毎日みて、いま読むものを決められます。